半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】 作:神野あさぎ
土煙が舞い、青い空を白く染め上げる中。
急降下から地に降り立ったシロホンが、ゆっくりと一歩踏み込む。
「硬いな」
シロホンが忌々しげに低く言った。
後ろには爪戯とウミリンゴ。二人は息を呑み、黙ったまま事態を観察していた。
「
シロホンは煙の奥を見据えて言う。
「ちょっと! 破壊出来なかったって!! 呪いを解くには奴(媒介)を破壊しなきゃいけないんでしょ!?」
すかさずウミリンゴが叫びながら、シロホンへと駆けよる。
シロホンは「うるせぇ……」と呟く。
「破壊出来なくても、印付けて上書き出来れば良いだろ!」
シロホンはウミリンゴの言葉にいら立ちを隠すことなく言い放つ。
呪いを呪いで上書きし、効果を一時的に相殺すればいいだけの話だ。
そこへ空からティーが下りてきて口を開く。
「分かってんじゃん。なら、ちゃんと出来たよな?」
ティーはシロホンの結果を試すように、挑発的に言う。
「うるせぇ! 頭の毟るぞ!!」
シロホンが怒気を強め、ティーの頭に生えている蝙蝠の羽を指さして吠えた。
やがて、煙が完全に晴れていく。
「印はつけたが──……すぐに消された」
クレーターの中心で、竜神リューが無言で立ちすくんでいた。
頭頂部から微かに血が滲んでいたが、ほぼ無傷。
ただし、特徴的だった頭部の機械耳は、粉々に壊れていた。
リューの後方では、花神が瓦礫に埋まって咳き込んでいた。
「……う~ん、この耳介気に入ってたのにな~」
リューは何事もなかったかのように緩い表情を作ると、軽くこぼした。
爪戯は「ってかあの耳取れるんだ!?」と目を丸くしていた。
「いや、そうでも無いな」
リューは壊れた人工的な耳介を、ただの装飾として惜しんでいるわけではない。
花神が瓦礫から顔を出しながら、化け物を見るような呆れた表情を作った。
あいつ全然平気そうじゃない……それに印を消したって……。結局あいつの能力って一体……。
ウミリンゴは冷や汗をかきながら思考していた。
岩、氷、音、そして呪い──リューの見せた能力が多すぎて、どれが奴の本質なのか分からないからだ。
こんな奴相手に、どうすればいいのよ。
無傷で対峙するリューを前に、ウミリンゴには勝ち筋が見えなかった。
う~ん、大分消耗したから益々お腹が空いて来たけど……。
「食料は増えた」
リューは目の前に集まった悪魔たちを見て、残酷な一言をこぼした。
「どうすんの!?」
ウミリンゴはシロホンの背に隠れ、その腕をつかんで震える声で言う。
「どうするってお前……」
シロホンはどこか余裕を含んだ声で冷静に返す。
「……!!」
瞬間。
リューの足元の地面から突如現れた凶刃が、リューを背中から一突きにした。
リューの目が見開かれ、信じられないというように視線を背後へと移す。
「一瞬無効化出来れば十分だろ。つーか、もっと早く設定変えろよな」
シロホンは腕を組みながら、目の前の影に向かって言った。
ウミリンゴと爪戯は目を丸くし、ティーは「お前はもっと早く来いよ」とシロホンへ突っ込んでいた。
リューの背を貫いた刃が、硬質な音を立てて欠ける。
「もう! 何言ってんの? この能力、結構使い勝手が悪いんだよ?」
地面からぬっと出るようにして現れたのは、ヤナギの精霊キルキー。
そして、その巨大な刃の上に立つのは、声の主──ヤナギだった。
シロホンの一撃による呪いの上書きで、岩の封印から脱出したのだ。
何故……?
リューは背中の痛みに顔をしかめながら思考する。
「おはよう! 朝食トマトの時間だね!」
そう言い、ヤナギが右手をかざす。
それに合わせ、キルキーが刃をさらに伸ばす。
攻撃が通るようになった……?
リューは自身の『盾』の能力によって、絶対に傷をつけられない存在だったはずだ。
それがどうしてか、刃が肉を裂き、通るようになった。
その不可解な現象を考えながら、続く刃を首の皮一枚で避ける。
無敵のはずの頬に、赤い線が走った。
同時に、キルキーの刃に大きな刃毀れが生じた。
……!? 刃が壊れた……?
リューは避けながらも、その奇妙な現象をきちんと認識した。
左手をかざし、リューは無数の石礫をヤナギへとぶつける。
「効かないって」
ヤナギは退屈そうに答える。
石礫はヤナギとキルキーの身体を、幻影のように素通りしていく。
「う~ん」
リューは瞬時に分析しながら呟く。
『すみません、通るようにはなりましたが……』
「ううん、ボクの方こそごめんね? 痛くない?」
『大丈夫です!』
キルキーはボロボロになった刃を自身の手元に引き寄せ、忠誠を示す。
ヤナギは刃毀れをしたキルキーの刃を労わるように声をかける。
塩神戦の時、触れても塩にはならなかったらしいし……初めにオレに刃を突き立てた時も、刃毀れしていなかった。
リューは事前に、ヤナギと塩神の戦いの情報を得ていた。
そして自身との初戦で、キルキーの刃が刃毀れ一つ起こしていなかった事実を思い返す。
『設定』……自身の刃の耐久を削るという代償を払って、防御貫通に極振りしたってところかな。そういえばこいつ……。
リューの思考は、ある一つの真実へと至った。
「……本当に、厄介なものを残してくれたね。
リューは首輪の十字架を揺らしながら忌々しげに言った。
ヤナギは一瞬だけ不愉快だと言わんばかりの顔をした後、すぐにいつもの笑顔を作る。
「なんのことか分からないな~♪」
右手の人差し指を立てて、おどけてみせる。
「とぼけないでよ~」
「キミは悪いトマトだね!」
リューに核心を突かれるが、ヤナギは話をかわそうとする。
「う~ん、その透過能力は悪魔『幽霊』のもの……もう一つ、シンの方の能力は『
リューは自身の結論を披露する。
「それらは
あの神──かつて存在した夜神達のことだ。
「……? トマト少年、『幽霊』なんだ?」
爪戯は首を傾げながら、素朴な疑問を口にした。
「冷凍トマトさん、知らないの?」
「?」
ヤナギの返しに、爪戯はさらに首を傾げる。
「柳の木の下には、幽霊が居るんだよ?」
ヤナギの回答──ヤナギという名前の由来である。
「あれって女性の幽霊じゃなかったか?」
そうティーが突っ込めば、「それ以上言うな」とシロホンが口を塞ぐ。
「ってか、私らも攻撃しなくて良いの?」
ウミリンゴは、敵を前にして悠長にしているこの光景に焦りから突っ込んだ。
「攻撃しても通らないよ」
爪戯がすかさず止める。リューの盾で防がれる以上、今この場にはヤナギの『設定変更』以外、リューに攻撃を通すことは叶わないのだ。
「んあ!? どういう意味だ!? あいつの能力なんだよ!」
瓦礫を押しのけながら、花神が訳が分からないと叫ぶ。
「う~ん、ざっくり言うと、『設定』をいじれるって感じかな?」
「なんだよ! そのメタっぽい発言は!」
リューの身も蓋もない説明に、思わず突っ込む花神。
「……」
ヤナギは黙ったまま、リューの言葉を聞いていた。
「現実歪めてんだよね? でも、効果範囲は相当狭そうだけどね」
リューはヤナギの弱点を見抜き、どこか余裕の表情で言い放った。
ヤナギの眼が、微かに細まった。
キルキーが頭上を取り、上から刃を力任せに振り下ろした。
リューは前へ大きく倒れこむ。
一瞬の出来事に花神の目が見開かれる。
しかし、倒れこむリューは微笑んでいた。
異能の強烈な気配。
ヤナギはそれを瞬時に察知した。
リューはうつ伏せに倒れながらにして、口から凄まじい威力の砲撃を放った。
!? あの態勢のまま……狙いは──……!
キルキーに一筋の冷や汗が流れる。
リューの砲撃の狙いは、ヤナギではない。自身の背後に居た存在、爪戯たちだ。
「ハクレイ!!」
ヤナギがその名を叫ぶと、砲撃の直前、爪戯たちの目の前にもう一体の精霊──ハクレイが現れた。
右手をかざし、空中に不可視の文字を高速で書き連ねる。
◇
轟音が響く森の中。
「おお! やってるやってる~」
木々の間から青い空を見上げる影があった。
「この方角で合ってそうですね」
そう言いながら軍帽を被り、血まみれになった誰かの身体を片手で引きずって歩くのは──水神ウル。