半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】 作:神野あさぎ
「ハクレイ!!」
ヤナギが叫ぶ。シロホン達の前に、ヤナギのもう一体の精霊ハクレイが立ち塞がる。
空中に可視の文字を書き連ねて防御結界を展開し、リューの砲撃を完全に防ぎ切った。
『幽霊』は実体を無くすことで透過出来る。だけど……。
リューは砲撃の反動を利用し、空中で一回転して着地する。
即座に地を蹴り、ヤナギへと肉薄──そのまま重い蹴撃を放つ。
透過したままでは、不都合が生じる。
リューは確信を持って一撃を放つ。ヤナギは透過を使えず、両手でガードした。
『ヤナギさん!』
キルキーが慌てて視線を主へと向ける。
重い一撃を受け、ヤナギは後方へと吹き飛ばされた。
何か撃って来たけど、この前戦った神と同じ攻撃……? それも出来るの!?
結界の後ろで
周囲を白い煙が舞う。
「……」
リューは沈黙し、吹き飛んだヤナギの方を静かに見ていた。
透過をすれば攻撃を完全に無効化出来るけど、透過したままでは、自分も相手には触れられない。
リューの思考は的を射ている。
悪魔『幽霊』の能力は透過。あらゆる物理的・能力的な攻撃をも無効化出来る。
しかしそれは同時に、自身が『現実』に干渉できなくなるということでもある。
自分から攻撃を仕掛ける時は実体に戻る。また、結界を張る時も実体に戻っている。
なぜなら呪い(結界)の発動には媒介が必要で、奴の媒介は文字。その「文字」は現実に存在していなければならないから──……。
すべて、塩神戦の報告から得ている。
リューの頭には、塩神と戦ったヤナギの情報が反芻されていた。
リューはゆっくりと立ち上がると、再びキルキーへと肉薄する。
キルキーの身体から伸びる凶刃を素手で掴み、そのまま地面へと叩き付けた。
そして、今の
オレの蹴りを回避するために、彼だけでも透過すればいいものを出来なかったのが証拠。
後方の結界を維持するために、彼自身も透過を使えなかったってところかな。
もしヤナギが蹴りの回避のために透過を使えば、精霊が書いた文字は現実から消える。
そうなれば結界も無くなり、砲撃は後ろに居た仲間に直撃していたのだ。
次の瞬間、上空からヤナギの反撃の蹴りが迫る。
「う~ん……この生き物は『
そう分析を口にしながら、リューは振り下ろされたヤナギの足を左手でガッチリと掴んだ。
しかし、手に力を込めた瞬間、するりとヤナギの足が実体を無くし、手からすり抜ける。
一瞬の透過。
実体を取り戻したヤナギはリューの下を取ると、足を引っかけ強引に転ばせる。
だが、リューには『盾』の能力がある為、全くの無傷だ。余裕の表情を崩さない。
そこへ立ち上がったキルキーが、刃を向ける。
怒り・憎しみを込め、思いきり刃を振るった。
何度も何度も。
しかし、耐久を犠牲にして防御貫通に特化させたキルキーの刃は、リューの異常な硬度に負け、ボロボロと刃毀れを起こしていく。
攻撃が一時止み、ヤナギは目を細めた。
……こいつ──……。
「あ~お腹空いた~」
キルキーの刃で傷つき血を流しながらも、笑顔で、余裕の表情でリューが上体を起こした。
キルキーの目が見開かれる。
「効いてないじゃない」
思わずウミリンゴが絶望の声を漏らす。
爪戯とウミリンゴの頬を、一筋の冷や汗が伝う。
ティーにも動揺が見られたが、シロホンだけは静観していた。
「キミ、人間やめたの? 品種改良トマトさん」
ヤナギも動じることなく、皮肉を込めて問う。
「う~ん、
笑顔のまま、その問いに軽薄に答えるリュー。
ヤナギはリューの正体に気づいた様だった。
さてどうするかな……キルキーの刃を再生させるには再設定が必要……それに今のままでは勝てそうにない。本当に使い勝手の悪い能力だよ。
ヤナギは左手を腰に当てて、次の手を思考する。
「あ~お腹空いた~、完治させるには何か食べないと~、あ~お腹空いたってば~」
リューは仰向けに倒れると、頭に手を当てて足をじたばたと動かし始めた。
何故ボクはこんな奴を倒せないんだろう。
ヤナギは駄々をこねる子供のようなリューを見て、冷静に心の中で突っ込んだ。
花神も呆れた顔で見守っていた。
「まったく……『世話の焼ける奴だ』ってか!?」
この声は──……。
ウミリンゴが、森の奥から聞こえてきた声に反応し、目を見開く。
「やっと来やがったか、おせーぞ!!」
花神が瓦礫の下から近づいてくる影に向けて叫ぶ。
「は~い、新しいご飯よ~」
近づいてきた影──水神ウルが、片手で引きずっていたひん死の軍人を、無造作に思いっ切り投げた。
間髪入れずにリューは獣のように口を大きく開け、飛んできたその軍人に食らいついた。
ハクレイの後ろに立つ爪戯とウミリンゴは、ますます冷や汗を流す。
本当に……人を食べてる……!?
骨と肉が砕ける生々しい咀嚼音と共に、人一人が一瞬で消えた。
「う~んこれ持ってるやつだ~、あと本音を言うとパンが食べたかった」
リューは何事もなかったかのように天を仰ぎ、口の周りの血を舐めとりながら呟く。
「ええ? せっかく持ってきたのに!」
すかさずウルが突っ込む。
「ってか普段『やられる方が悪い』って言ってるくせに、オレに助けられちゃって~
ウルは右手の人差し指でリューを指さして小馬鹿にしたように言った。
「あーハイハイ。後で少しだけ付き合ってあげるよ拷問」
「言質取った!」
リューは軽くため息をつきながら妥協案を出し、ウルは嬉しそうに目を輝かせた。
ああ、アヴェルスの──……。
狂った二人のやり取りを見ていたシロホンが、内心で冷静に分析していた。
「次から次へと……」
ティーが思わず言葉にする。「そういや敵の目的がまだ見えてこないな」と小さく付け足しながら。
「わ~悪魔沢山いるじゃないですか」
ウルはシロホン達の存在に気づき、楽しげに目線を送る。
「凄惨に殺そう……反撃開始と行こうか」
二人の神が目を不気味に光らせ、口角を上げて言い放つ。
「と、言いたいところだけど……」
リューは態度を急変させた。いつもの緩さに戻る。
『そうそう! 大事な大仕事が残ってるからね。そろそろ消費は抑えて』
どこからか、女の声が届いた。
その声を聞いたシロホンの表情が、一気に曇る。
「その声!
シロホンが叫ぶ。ゼニス。元・Zにして、悪魔の裏切り者。
『あはは? 六年ぶり? 再会うれしいよシロホン!』
青い空に白い煙。その中を透き通る女の声が響く。
「お前まで来ているのか」
『あはは、そうよ。私は悪魔を裏切って神側についた──……』
シロホンの怒気を孕んだ問いに、楽しげに答えるゼニス。
『ある女と取引をして得た物を交渉材料にして、今日は
ある女とは、
シロホンの脳裏に、六年前の忌まわしい出来事が呼び起こされる。
「……あれか」
汗が流れ、頬を伝う。
「あ~遊びたかったのに!」
ウルは心底残念そうに踵を返す。
「君らを食い殺せないのは残念だけど」
リューもウルに続いた。
「一応少し腹ごしらえ出来たし、向こうも到着したようだ。一時撤退するよ」
そう言い、リューの足元から黒い靄のような物があふれ出て周囲を覆っていく。
ヤナギが身構える。
視界が急速に黒に覆われていく。
◇
城の下の森の中。
その間に現れたのは、