半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】   作:神野あさぎ

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No.118「竜喰人」

「ハクレイ!!」

 

 ヤナギが叫ぶ。シロホン達の前に、ヤナギのもう一体の精霊ハクレイが立ち塞がる。

 空中に可視の文字を書き連ねて防御結界を展開し、リューの砲撃を完全に防ぎ切った。

 

 『幽霊』は実体を無くすことで透過出来る。だけど……。

 

 リューは砲撃の反動を利用し、空中で一回転して着地する。

 即座に地を蹴り、ヤナギへと肉薄──そのまま重い蹴撃を放つ。

 

 透過したままでは、不都合が生じる。

 

 リューは確信を持って一撃を放つ。ヤナギは透過を使えず、両手でガードした。

 

『ヤナギさん!』

 

 キルキーが慌てて視線を主へと向ける。

 重い一撃を受け、ヤナギは後方へと吹き飛ばされた。

 

 何か撃って来たけど、この前戦った神と同じ攻撃……? それも出来るの!?

 

 結界の後ろで爪戯(つまぎ)が驚愕する。この前戦った神とは、遠距離から砲撃を放ってきた撃神(うちがみ)のことだ。

 周囲を白い煙が舞う。

 

「……」

 

 リューは沈黙し、吹き飛んだヤナギの方を静かに見ていた。

 

 透過をすれば攻撃を完全に無効化出来るけど、透過したままでは、自分も相手には触れられない。

 

 リューの思考は的を射ている。

 悪魔『幽霊』の能力は透過。あらゆる物理的・能力的な攻撃をも無効化出来る。

 しかしそれは同時に、自身が『現実』に干渉できなくなるということでもある。

 

 自分から攻撃を仕掛ける時は実体に戻る。また、結界を張る時も実体に戻っている。

 なぜなら呪い(結界)の発動には媒介が必要で、奴の媒介は文字。その「文字」は現実に存在していなければならないから──……。

 すべて、塩神戦の報告から得ている。

 

 リューの頭には、塩神と戦ったヤナギの情報が反芻されていた。

 リューはゆっくりと立ち上がると、再びキルキーへと肉薄する。

 キルキーの身体から伸びる凶刃を素手で掴み、そのまま地面へと叩き付けた。

 

 そして、今の蹴り(攻撃)で分かったのは、この生き物と彼の『透過』は連動しているということ──……。

 オレの蹴りを回避するために、彼だけでも透過すればいいものを出来なかったのが証拠。

 後方の結界を維持するために、彼自身も透過を使えなかったってところかな。

 

 もしヤナギが蹴りの回避のために透過を使えば、精霊が書いた文字は現実から消える。

 そうなれば結界も無くなり、砲撃は後ろに居た仲間に直撃していたのだ。

 

 次の瞬間、上空からヤナギの反撃の蹴りが迫る。

 

「う~ん……この生き物は『(うつつ)』で作った分身かな?」

 

 そう分析を口にしながら、リューは振り下ろされたヤナギの足を左手でガッチリと掴んだ。

 しかし、手に力を込めた瞬間、するりとヤナギの足が実体を無くし、手からすり抜ける。

 一瞬の透過。

 

 実体を取り戻したヤナギはリューの下を取ると、足を引っかけ強引に転ばせる。

 

 だが、リューには『盾』の能力がある為、全くの無傷だ。余裕の表情を崩さない。

 そこへ立ち上がったキルキーが、刃を向ける。

 

 怒り・憎しみを込め、思いきり刃を振るった。

 何度も何度も。

 

 しかし、耐久を犠牲にして防御貫通に特化させたキルキーの刃は、リューの異常な硬度に負け、ボロボロと刃毀れを起こしていく。

 攻撃が一時止み、ヤナギは目を細めた。

 

 ……こいつ──……。

 

「あ~お腹空いた~」

 

 キルキーの刃で傷つき血を流しながらも、笑顔で、余裕の表情でリューが上体を起こした。

 キルキーの目が見開かれる。

 

「効いてないじゃない」

 

 思わずウミリンゴが絶望の声を漏らす。

 爪戯とウミリンゴの頬を、一筋の冷や汗が伝う。

 ティーにも動揺が見られたが、シロホンだけは静観していた。

 

「キミ、人間やめたの? 品種改良トマトさん」

 

 ヤナギも動じることなく、皮肉を込めて問う。

 

「う~ん、()()()()()()()に言われたくはないかな~」

 

 笑顔のまま、その問いに軽薄に答えるリュー。

 ヤナギはリューの正体に気づいた様だった。

 

 さてどうするかな……キルキーの刃を再生させるには再設定が必要……それに今のままでは勝てそうにない。本当に使い勝手の悪い能力だよ。

 

 ヤナギは左手を腰に当てて、次の手を思考する。

 

「あ~お腹空いた~、完治させるには何か食べないと~、あ~お腹空いたってば~」

 

 リューは仰向けに倒れると、頭に手を当てて足をじたばたと動かし始めた。

 

 何故ボクはこんな奴を倒せないんだろう。

 

 ヤナギは駄々をこねる子供のようなリューを見て、冷静に心の中で突っ込んだ。

 花神も呆れた顔で見守っていた。

 

「まったく……『世話の焼ける奴だ』ってか!?」

 

 この声は──……。

 

 ウミリンゴが、森の奥から聞こえてきた声に反応し、目を見開く。

 

「やっと来やがったか、おせーぞ!!」

 

 花神が瓦礫の下から近づいてくる影に向けて叫ぶ。

 

「は~い、新しいご飯よ~」

 

 近づいてきた影──水神ウルが、片手で引きずっていたひん死の軍人を、無造作に思いっ切り投げた。

 間髪入れずにリューは獣のように口を大きく開け、飛んできたその軍人に食らいついた。

 

 ハクレイの後ろに立つ爪戯とウミリンゴは、ますます冷や汗を流す。

 

 本当に……人を食べてる……!?

 

 骨と肉が砕ける生々しい咀嚼音と共に、人一人が一瞬で消えた。

 

「う~んこれ持ってるやつだ~、あと本音を言うとパンが食べたかった」

 

 リューは何事もなかったかのように天を仰ぎ、口の周りの血を舐めとりながら呟く。

 

「ええ? せっかく持ってきたのに!」

 

 すかさずウルが突っ込む。

 

「ってか普段『やられる方が悪い』って言ってるくせに、オレに助けられちゃって~他人(ひと)のこと言えないじゃないですか、やだ~」

 

 ウルは右手の人差し指でリューを指さして小馬鹿にしたように言った。

 

「あーハイハイ。後で少しだけ付き合ってあげるよ拷問」

「言質取った!」

 

 リューは軽くため息をつきながら妥協案を出し、ウルは嬉しそうに目を輝かせた。

 

 ああ、アヴェルスの──……。

 

 狂った二人のやり取りを見ていたシロホンが、内心で冷静に分析していた。

 

「次から次へと……」

 

 ティーが思わず言葉にする。「そういや敵の目的がまだ見えてこないな」と小さく付け足しながら。

 

「わ~悪魔沢山いるじゃないですか」

 

 ウルはシロホン達の存在に気づき、楽しげに目線を送る。

 

「凄惨に殺そう……反撃開始と行こうか」

 

 二人の神が目を不気味に光らせ、口角を上げて言い放つ。

 

「と、言いたいところだけど……」

 

 リューは態度を急変させた。いつもの緩さに戻る。

 

『そうそう! 大事な大仕事が残ってるからね。そろそろ消費は抑えて』

 

 どこからか、女の声が届いた。

 その声を聞いたシロホンの表情が、一気に曇る。

 

「その声! 元Z(ゼニス)か!! 何処から……!」

 

 シロホンが叫ぶ。ゼニス。元・Zにして、悪魔の裏切り者。

 

『あはは? 六年ぶり? 再会うれしいよシロホン!』

 

 青い空に白い煙。その中を透き通る女の声が響く。

 

「お前まで来ているのか」

『あはは、そうよ。私は悪魔を裏切って神側についた──……』

 

 シロホンの怒気を孕んだ問いに、楽しげに答えるゼニス。

 

『ある女と取引をして得た物を交渉材料にして、今日は()()()持って来たの』

 

 ある女とは、(ひのと)の母である。

 シロホンの脳裏に、六年前の忌まわしい出来事が呼び起こされる。

 

「……あれか」

 

 汗が流れ、頬を伝う。

 

「あ~遊びたかったのに!」

 

 ウルは心底残念そうに踵を返す。

 

「君らを食い殺せないのは残念だけど」

 

 リューもウルに続いた。

 

「一応少し腹ごしらえ出来たし、向こうも到着したようだ。一時撤退するよ」

 

 そう言い、リューの足元から黒い靄のような物があふれ出て周囲を覆っていく。

 ヤナギが身構える。

 視界が急速に黒に覆われていく。

 

 ◇

 

 城の下の森の中。

 北王(ほくおう)と対峙していた鍵神。

 その間に現れたのは、燦秋(さんしゅう)を背負った鮫神だった。

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