半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】   作:神野あさぎ

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No.120「勢揃い」

 ヤナギたちを覆っていた黒い靄が晴れていく。

 一瞬の静寂が訪れる。

 

「三人とも居ないな」

 

 ティーが真っ先に口を開いた。

 リュー、ウル、花神の姿が完全に消えていた。

 シロホンは腕を組み、黙ったままその場に佇んでいる。

 

「逃げた?」

 

 爪戯(つまぎ)が口を開く。

 

「植物の奴には個人的に恨みがあるのに!! 殺し損ねた!」

 

 ウミリンゴが頭を抱えて悔しげに叫んだ。

 

「そう遠くへは行ってないっぽい」

 

 ティーは頭の羽で微かな音を拾いながら言う。

 

「どうする? 追う?」

「勝てないけど良い?」

 

 爪戯が問うと、ヤナギが間髪入れずに即答した。

 

「トマト少年、途中から奴に刃通せてたじゃん?」

 

 爪戯は、ヤナギの能力による攻撃がリューに通用したことを指摘した。

 

「でも耐久を削りすぎたからね。再設定したいけど、ちょっとね~」

 

 ヤナギは右手の人差し指を頬に当てて、困ったように言う。

 

「あのトマトを殺す方法は浮かんでるけど」

 

 ヤナギには、リューを倒す算段がある。

 けれど、それを実行するには時間が欲しかった。

 そんなヤナギの真意を知らない爪戯は首を傾げる。

 

「でも何かを企んでるんだろ? あいつら」

「……」

 

 ティーが低く言う。

 あいつら──神側が何か大規模なことを企んでいることは確かだ。

 黙っていたシロホンが、重い口を開く。

 

「何を企んでいるかは知らんが、奴が魂を回収していたな」

「奴?」

「……あ」

 

 シロホンの言葉にティーが反応を示すと、シロホンは『口が滑った』と言わんばかりに小さな声を漏らした。

 しばし沈黙。

 

「言えよ!!」

 

 ティーが思わず突っ込む。

 シロホンは一瞬躊躇したが、観念する。

 

元Z(ゼニス)の弟も来てたんだよ」

 

 奴とは、ゼニスの弟のことであり、その正体は『鍵神』。

 シロホンの言葉を聞いた瞬間、ヤナギが不気味に微笑んだ。

 

「それを早く言えよ、トマト飲み野郎」

 

 ヤナギの冷酷な発言に合わせ、精霊キルキーがシロホンを容赦なく殴り飛ばした。

 ヤナギとゼニスの間の深い因縁を知らない爪戯とウミリンゴは、突然の内輪揉めに首を傾げた。

 

「さ~て、行こうか!!」

 

 ヤナギは城の方を向き、殺意を隠さずに言った。

 

「あの裏切り者を、この手で殺さないと気が済まない」

 

 ◇

 

 ヤナギの言葉と重なるように、場面は城の下層の森の中──(かのと)達と対峙する鍵神へと移る。

 闇を纏った短剣と影の刃に捕らえられ、確かに空間ごと斬ったはず──しかし、鍵神は無傷だった。

 

 左眼を覆っていた布が取れ、隠されていた左眼があらわになる。

 右眼は異様な反転目だが、左眼は普通の眼のように見えた。

 

 切断できていない!?

 

 少し離れた位置から見守っていた北王(ほくおう)が、驚愕に目を見開く。

 対峙する辛と(くろ)も、警戒に目を細める。

 

「貴様らは生かしておけん」

 

 鍵神は殺意を剥き出しにし、右手を振ろうと構えを取る。

 

「ちょっと待ちな!」

 

 そう言いながら突如現れたのは、背の高い女──音神。

 

「後にしな!」

 

 そう言い放つなり、音神は鍵神の首の後ろを乱暴に掴むと、反論を許さずそのまま引きずって離脱した。

 

「!?」

 

 嵐のように現れ、嵐のように去って行った音神を見て、思わず北王が硬直する。

 

「待っ……」

 

 辛が後を追おうとするが、激しい眩暈に襲われ片膝をつく。

 

 無理をし過ぎた……。

 

 辛は自分の身体と相性の悪い「火」を全力で使い、さらにレインの妖操作という呪縛を精神力で強引に突破した。

 反動が来るのも無理はない。

 

「オレ先に行……」

「おい」

 

 玄が先行しようと立ち上がった瞬間、北王が低く呼び止める。

 

「奴らの目的はなんだ?」

 

 北王は辛の傍に行き、再び治癒を施しながら問う。

 

「…………奴らは──……」

 

 ◇

 

 城内。(きゅう)が鎮座していた広間。

 そこに、鮫神が立ちすくむ。

 

 闇神は離反か……オレも他人(ひと)のこと言えねえか……いや、違うな……。

 

 鮫神はそう考えながら、蝶神のことを思い出していた。

 

「…………」

 

 無言で考える鮫神の足元には、燦秋(さんしゅう)が座り、その横には縛られた(ひのと)が転がっていた。

 

 そういや、同じ模様──……。

 

 鮫神は、北王の顔にある奇妙な模様と、蝶神の顔にあった模様が同じことに気が付いた。

 その時、玄によって壊された壁の穴を越えて、城内に入ってくる影があった。

 

「なんとか逃げ出せた……」

 

 その影は膝をつき、息も絶え絶えに言う。雨神レインだ。

 

「本当に、全部折られるところだった……」

 

 レインは頭を抱えてうずくまる。

 アヴェルスと交戦していたが、あの狂った吸血鬼から命からがら逃げてきたようだ。

 

「わ~レイン君、頭抱えてどうしたんですか~?」

 

 入り口から水神ウルが両手を広げ、「癒して差し上げますよ~?」と嬉々として付け加えながら登場した。

 

「ウザっ!!」

 

 レインは怒気を強めて吐き捨てる。

 ウルの後ろに続くのは、リューと花神。

 

「良いから早く始めて帰ろうぜ!!」

 

 膝に手を置いて、息を切らしながら花神が言う。

 

「う~ん、耳、こんな感じ?」

 

 リューは能力で耳介を形成し、元の形を再現して遊んでいた。

 

「え~余力あったら遊びたい! シロホン来てるから!」

 

 壁を軽やかに乗り越え現れたのはゼニス。

 

「あいつら殺す」

「懲りないねぇ」

 

 そして、音神と、首根っこを引っ張られてきた鍵神。

 ゼニスの手には妖しい容器。

 中には、美しくも禍々しい『翅』が入っている。

 

「魂は?」

 

 鮫神が問うと、鍵神は腕にぶら下げていた鍵を手に持ち操作する。

 カチッと音が鳴り、空間から無数の魂が解放される。

 

「此処に」

 

 魂は霧散しないように、あらかじめ用意された結界の箱の中にとどまっていた。

 

「おら! 起きろ! 揃えたぞ!!」

「うにゃ~」

 

 花神は座る燦秋に近づくと、暢気に寝ているのを確認して乱暴に起こす。

 

「ってか本当にこんな奴が!?」

 

 花神は燦秋のあまりの覇気のなさから疑いを持ち、鮫神に問いかける。

 

撃神(うちがみ)が捕まえたことを隠蔽していたし、()()()()()()()()()()()していたぐらいだ。本物だろ」

 

 鮫神が確信を持って答える。

 撃神は『悲願』を達成するため、燦秋を捕え利用しようとしていた。

 だが、悪魔と辛達に阻まれたのだ。

 

 燦秋は目を覚ますと、天使のように無垢に微笑んだ。

 

「霊魂を呼び出すのに最適なこの場所。この世に繋ぎとめる対価には、戦死した魂数多──……」

 

 燦秋は立ち上がり、辺りの魂を見渡しながら歌うように言う。

 

「発動に必要な『シン』は、(キミ)達から徴収……」

 

 そして、地に転がる丁を見ながら口を開く。

 

「器と、器に足りない要素は、その翅が補う──……」

 

 器は半妖の丁。そしてゼニスの持つ翅が、器を完成させるための鍵。

 

「いいよ。材料を揃えた褒美に、願いを叶えてあげる」

 

 禁忌の儀式が、今まさに始まろうとしていた。

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