半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】   作:神野あさぎ

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No.121「生還る」

「復活だと……?」

 

 城へ向かう途中、北王(ほくおう)(くろ)から神の真の目的を聞き、思わず声に出した。

 

「そう! よくは分からないけど、なんか此処が現世に呼び戻すのに最適な場所らしい的な……」

 

 玄が早口で続けた。

 

 確かに此処は……(ヤツ)の身体を保つためにも使われている、霊脈の気場の一つだが……。

 

 北王は思考を巡らせた。

 北王の家も気場の上に建ててあり、その地の力を利用して、かつて(かのと)への封印術を補った経緯がある。

 

「じゃあなんで、人を操って戦わせたんだ?」

 

 北王の純粋な質問。

 

「捧げる魂を回収するためですよって」

「答えになってないぞ」

 

 玄が答えるが、北王が論理の穴を指摘して否定する。

 その指摘に気づき、玄が補足する。

 

「まあ……神達(オレら)が一斉に殺せば回収自体は簡単なんだけど……なんか『まだ生きたい』って言う強い願望とか、絶望を抱かせた方が良いとかなんとか……」

 

 神が直接手を下せば殺すのは簡単だが、無差別に殺すのではなく、同士討ちという絶望の「過程」にも意味があるようだった。

 

「未練って言うの? そういう強い想いが、理想を叶える助けになるらしい」

 

 玄が続けた。

 

(ひのと)は何故……」

 

 辛は攫われた丁のことを思い出しながら呟いた。

 丁もこの場に連れて来られていた。その理由が、嫌な予感となって胸をざわつかせた。

 

 すると、城の方から凄まじいエネルギーがあふれ出た。

 儀式が、始まった。

 

 天を衝く光の柱が現れ、それを取り囲むように神達が立ちすくむ。

 

 一人減った分、『シン』を持っていかれるね……消費が激しい。

 

 儀式に力を注ぐレインが、眉をひそめてそう思った。

 隣に立つ鍵神の眼が、侵入者を捉えた。

 

 此処で来るか。

 

 背後の破壊された城壁の穴を駆け上がる影。

 その影は上空で待機していたモドキを足場として強く踏み込み、方向転換。

 神達の真上へと鋭く降下する。

 

 長槍を構えたアヴェルスだ。

 ウルが嬉しそうに微笑み、儀式の最中にもかかわらず駆け出す。

 

 ウルは左腕でアヴェルスの強烈な槍の突きをいなす。

 

「アヴェルス君さぁ……」

 

 そう言いながら、一瞬でアヴェルスに急接近するウル。

 槍を背中で受け流すように動き、そのまま右脚を蹴り上げ、アヴェルスの顎を激しく蹴り飛ばす。

 宙に浮いたアヴェルスに対し、ウルは高く上げた右足をアヴェルスの首の後ろへと回した。

 

「もっと頑張りましょうね~~~」

 

 右脚を引き込み、左脚と右脚でアヴェルスの首を万力のように挟み込んだ形にして、空中で思いきり首をへし折った。

 バキリと嫌な音が響き、ウルは笑顔のまま床に華麗に着地する。

 

「首が折れたままじゃ、流石に身体動かせない?」

 

 右脚でアヴェルスの首を折った状態で地面に押さえつけたまま、無慈悲に言い放つ。

 ウルの右手には、奪い取ったアヴェルスの槍が握られていた。

 

「ご……ご主人様!!」

 

 上空を旋回するモドキが悲鳴のような声をかける。

 次の瞬間、空中のモドキが透明な結界に閉じ込められ、その結界に幾重もの鎖が巻き付いた。

 

「魔女は厄介だ」

 

 そう言いながら、鍵神が右手で能力の『鍵』を操作し、空間ごと施錠して魔女の能力を持つモドキを閉じ込めたのだ。

 

 あれ……この感じ……空間施錠(ロック)された!?

 

 モドキは転送能力が完全に封じられたことを悟り、大量の冷や汗をかいた。

 空間を移動するモドキを無力化した、鍵神の的確な一手。

 

「まだ来るよ」

 

 ゼニスがため息交じりに言う。

 手に持っていた美しい翅は、すでに儀式の光の柱に吸い込まれていた。

 

 影を足場に駆けやって来たのは玄。

 ウルの背後を取り、影の剣を全力で振り下ろそうとする。

 

 ウルは振り返ることもなく、奪ったアヴェルスの槍を背面に回し、玄の刃を正確に受け止めた。

 

 受け止め──……!?

 

 玄の目が見開かれる。

 病み使いの能力で負傷し、極限まで強化されている玄のスピードに、難なくついてきているからだ。

 

 ウルは立ち上がりながら槍を一回転させ、玄の影の刃をいなすと同時に、石突で玄を激しく打ち据えた。

 

 能力で強化しているオレの攻撃に、対応できるのか……。

 

 後頭部を強打され、崩れ落ちながら玄は絶望的に思った。

 ウルは足元のアヴェルスを踏みつけながら、奪った槍を軽やかに構え直す。

 

「裏切者には死を! な~んて言うつもりはないんだけどさ。玄君には、あの時の痛み(よろこび)のお礼をして差し上げます」

 

 ウルは微笑みながら、羽片(うかた)の戦いの後、玄に蹴られたことを思い返して言う。

 玄の脳天へと、冷酷に振り下ろされる槍。

 

 そこへ現れた辛が、玄が残した影の剣を拾い上げ、下から斬り上げる。

 ウルは玄へのトドメを中断し、辛の刃を槍で受け止める。

 辛が自前の金属の剣を使わないのは、ウルの『金生水(ごんしょうすい)』の能力で無効化されると学習しているためだ。

 

「いい加減、うちの子を返してもらえませんかね」

 

 直後、背後に駆けつけた北王が、ウルの腹に重い蹴りを入れる。

 ウルは微笑みを崩さないまま、後方へと吹き飛ばされる。

 後方には、儀式を続ける神達と光の柱。

 

 花神が「やばい、巻き込まれる」と反応する。

 

 が、リューが間に入り、吹き飛んできたウルの背中をガッチリと受け止めた。

 

「あーちょっと! 何受け止めてるんですか!! 味方を巻き込んで大惨事! になりたかったのに!!」

「流石に今は駄目」

 

 ウルは飛ばされた勢いのまま神達にぶつかり、巻き込んで転がりたかったという異常な願望を白状する。

 すかさずリューが冷たく拒否した。

 

「つーか良く動けるな!! 消耗してないのか!?」

 

 儀式で大量のシンを消耗しているはずなのに、機敏に動くウルとリューを見て、花神が思わず突っ込んだ。

 

「加虐対象に自分も含まれるもんで~、逆境は燃えます!」

 

 花神の言葉に、ウルは狂気じみた笑顔で返す。

 辛の頬に冷や汗が流れる。

 

「だから玄君の、傷つくほどに強くなる能力欲しかったんだよね。まあ……すぐ治っちゃうから無理なんだけど」

 

 ウルは体勢を立て直すと、嬉々として告げる。

 

 十分強いんですが。

 

 玄は痛みに顔を歪めながら、思わず心の中で突っ込んだ。

 

「それより、えっと……なんだっけ?」

 

 ウルが口を開くと、儀式の光の柱が急速に収束していく。

 

「うちの子返して、だっけ?」

 

 ウルは儀式の中心を見ながら、からかうように言った。

 辛、玄、北王の目が見開かれる。

 

「何処に居るの? お前の子」

 

 完全に収束した光の中、神達の中心に立つのは燦秋(さんしゅう)と、もう一人──……。

 

「ひの……」

 

 辛がその姿を目にし、安堵して名を呟こうとした。

 

「「誰だ。お前は」」

 

 辛と北王が、全く同時に、底冷えするような声を発した。

 中央に居る人物の姿は、確かに丁だった。だが、そこから発せられる『気配』が完全に別物になっていた。

 気配を正確に感知できる二人には、皮を被っただけの別人だと即座に理解できたのだ。

 

「ああ……なんとなく分かっちゃうんだっけ? まあ……復活の話を聞いたってのもあるだろうけど」

 

 ウルが楽しそうに言う。

 城の入り口の方からは、爪戯(つまぎ)たちが駆け寄ってくる。

 

「!! お前は──……」

 

 床に転がり、吸血鬼の能力で折れた首を治癒して蘇生したアヴェルスも、顔を上げて視線を移す。

 

「ボクは……」

 

 丁の身体をした『それ』は、ゆっくりと立ち上がると、聞き覚えのない声で口を開いた。

 その背中には、ゼニスが持ってきた美しい翅が生えていた。

 

蟲人(あやかし)だよ」

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