半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】   作:神野あさぎ

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No.122「妨げる」

蟲人(あやかし)だよ」

 

 (ひのと)の身体を乗っ取り、背に妖の翅を生やしたその存在は、聞き覚えのない声で言った。

 

 城内、崩れた入り口の方から爪戯(つまぎ)たちが到着した。

 爪戯には、中で何が起きているのか状況が分からず首を傾げる。

 

「何が起きて……?」

 

 その言葉に口を開いたのは、爪戯の後ろに立つヤナギだった。

 

「この感じ……『(うつつ)』の能力で、現実を歪めたみたいだよ」

 

 ヤナギは自身の持つ『現』と全く同じ波長の力が発動したことを感じ取り、忌々しげに言った。

 

「ボクと違って、対象は『他人』ってところかな?」

 

 ヤナギが言葉を続けた。

 その言葉を受け、神々の中心に立つ燦秋(さんしゅう)は、拘束されたまま無邪気に微笑んだ。

 

「自分に使えるなら、拘束なんてされてないからね」

 

 燦秋の着ている服は、厳重な拘束服だった。

 両手の自由が完全に奪われている。

 

「そう……()()()望みや理想を、現実として叶えることが出来る。でも叶えるには、それ相応の『代償』が必要だけどね」

 

 ヤナギが対象を「自分自身」とするのならば、燦秋の能力は「他人」の現実を歪めるものだ。

 

「それで、妖を蘇生させたのか。でも何故、妖を丁に……」

 

 北王(ほくおう)が純粋に問う。

 何故、器に丁が選ばれたのか。その答えが聞きたかった。

 

「人型に改良された妖──……その中でもボクは、妖で唯一『シン』を得た存在──……この子は、ボクと全く同じ能力(シン)を持っていたから利用された」

 

 蟲人は、丁の身体の胸に右手を当てて淡々と説明した。

 

「同じ能力(シン)……?」

 

 (かのと)が痛みに耐えながら、首を傾げて問う。

 

「知らないのも無理はないかな。この子の親は持ってなかったみたいだし、シンの遺伝は必ず親から子へとは限らない……」

 

 丁の父・北王にも、母親にもない能力が、丁には発現していた。

 そして隔世遺伝などと言った例がある為、シンの遺伝は必ずしも直系とは限らない。

 

 確かに、オレの母親は水使いじゃない……。

 

 爪戯は自身のルーツを思考していた。

 爪戯の水の能力は祖母からの隔世遺伝であり、母親の爪炎(そうえん)は炎使いだ。

 

 すると、爪戯の目線は自然と鮫神に留まる。

 

 あれ……あの人は──……。

 

「するとなんだ? あの一族も、過去に妖と混ざったとでも言うのか?」

 

 北王がさらに鋭く問う。

 妖と同じ能力を持つということは、一族が過去に妖と交わった可能性を考慮したからだ。

 

「違う。ボクのシンは、人間が妖を弄って人型に改造した後に、後天的に手に入れた物──……」

 

 蟲人が口を開く。そして残酷な真実を続ける。

 

「この子の先祖は、元々このシンを持っていたよ。それが、偶然一致したから利用されただけ──……」

 

 元々、丁の先祖が持っていた特異なシン。それが隔世で丁に発現した。

 そしてこの妖は、人に改良された後にそのシンを得た。

 

「はは……どうもこの子の先祖が、妖を人型に弄った張本人らしくて。蟲人の『翅』を持ってたの」

 

 蟲人の肩に手を置きながら、ゼニスが楽しそうに微笑んで言う。

 

「お前は、あの時の……!」

 

 北王が、その女の姿に気が付く。

 

「そう……私はあの時の協力者」

 

 ゼニスは芝居がかった動作で両手を広げて言う。

 

「協力の見返りとして『翅』を貰ったの」

 

 北王の脳裏に、忌々しい記憶がよみがえる。

 丁の母とゼニスが、密約を交わし微笑む光景。

 

「最初は貴重品だから貰ったんだけど──……神側につく時の、土産になって助かった」

 

 ゼニスの言葉を聞くシロホンの脳裏にもまた、凄惨な過去が反芻される。

 六年前、ゼニスに凌辱されたあの地獄の日。

 

「翅は、妖であるボクを、人間の身体に馴染ませる為の物」

 

 蟲人が無機質に補足した。

 

「お前を、生かしておくわけにはいかない!!」

 

 アヴェルスが己の槍を拾い上げ、地を蹴り蟲人へと肉薄する。

 だが、すかさずウルが笑いながら割って入り、鋭い蹴りを入れる。

 

「駄目です!」

 

 満面の笑顔でウルは言うと、空中に無数の氷の槍を形成し、アヴェルスの腹を容赦なく貫いた。

 

 武器はまだ完成していない……せめて金属が使えれば──……。

 

 アヴェルスは大量に吐血しながら忌々しく思う。

 今手にしている槍は魔女のマナで作った特別製だ。

 ウルの「金生水(ごんしょうすい)」がある以上、アヴェルスの金属生成が封じられているのが痛手だった。

 

「!」

 

 入り口のヤナギが、戦局の硬直に反応する。

 

 殺したい奴はいるけど……この人数、どうすべきか……。

 

 ヤナギが思考を巡らせた瞬間、背後でキルキーが目を見開く。

 リューが振り返り、能力で床を隆起させ、巨大な岩盤を出現させて入り口を完全に塞いだのだ。

 

「!!」

 

 爪戯、ヤナギ、ウミリンゴ、シロホン、ティー、そしてキルキー。彼らの城内への侵入を、絶対の質量で防ぐ。

 蟲人も振り返り、入り口をふさいだ岩を無感情に見た。

 

 自分でやるしかないか……。

 

 蟲人は、これ以上神達に利用されることを拒絶し、己の消滅を決心する。

 丁の身体の舌を噛み切ろうと口を開いた瞬間──鍵神が目にもとまらぬ速さで蟲人の口の中に『鍵』を差し込み、顎の動きを物理的に防いだ。

 

「これだけ手間をかけて蘇生させたんだ。『自殺』は困るな」

 

 鍵神には、その行動が完全に見抜かれていた。

 

「舌を噛み切るつもりだったのかい?」

 

 音神が呆れたように言う。

 

「大人しくしてな!!」

 

 花神が能力で植物を生み出し、蟲人の身体を茨で何重にも拘束した。

 

「ひのっ……」

 

 駄目だ、『火』の使い過ぎで身体が……。

 

 辛が丁の身体を取り戻すべく駆けつけようとするが、北王の治療を受けたといっても、自身の身体と相性の合わない『火』を酷使しすぎた反動は、限界を超えていた。

 膝の力が抜け、ふらつく。

 

 あははっ、とウルは狂ったように笑いながら、辛達へ向けて無数の氷の礫を一斉に放った。

 北王が辛を抱えて飛び退き、玄も痛みに顔を歪めながら立ち上がって避ける。

 

「つーか、お前らの能力であいつら操れよ!」

 

 花神が右手で拳を作り、左手で北王たちを指さしながら音神たちに文句を言った。

 

「そう都合よくはいかないねぇ……大人数操作には演奏時間もかかるし、軍人を操った時だって闇神と協力してやっとだったからねぇ……」

 

 音神が右手で頭をかきながら、能力の限界を答える。

 

「私のは、対象が一人なの」

 

「はあ!?」

 

 ゼニスの洗脳能力の条件も聞き、花神は理不尽だと声を荒げた。

 

「ボクは妖専門……」

 

 レインも、自身の妖操作の限界をぼやく。

 

 そう言えば、あの半妖……どうやってボクの能力を自力で打ち破った?

 

 レインは、辛が自身の絶対であるはずの妖操作の呪縛をどう乗り切ったのか、そこがひどく気になっていた。

 

「どのみち、蘇生のせいで『シン』の消費が激しいからなあ……」

 

 鮫神が現実的な状況を呟く。

 隣に居た鍵神が、虚空で鍵を取り出し操作する。

 

「此処は一旦、退く」

 

 その言葉と同時に、空間が歪み、空間移動のための『扉』が現れた。

 

「え!? 帰るの!?」

 

 辛達の方を見ていたウルが振り返り、心底不満そうに叫ぶ。

 

「キミ、余裕そうだね。そんなに元気あるなら、置き土産でもしていけば?」

 

 扉をくぐる神達をよそに、ウルと目の合ったリューが適当に提案した。

 花神は器用に植物を操作し、拘束した蟲人を扉の中へ運んでいく。

 

「成程~~~~~」

 

 ウルは、リューの素晴らしい置き土産案に乗ることにした。

 

「じゃあ、適当に氷、降らせておこう」

 

 ウルの楽しげな言葉と同時に、城の天井部から、家屋ほどもある巨大な氷の塊が、彼らの頭上へと落下してきた。

 北王、辛、玄の眼が絶望に見開かれる。

 

「こんなの」

 

 腹に氷の槍を刺したまま倒れていたアヴェルスが、上を見上げながら面倒くさそうに口を開いた。

 

「モドキの能力で楽に──……」

 

 そう言い、空中の結界に閉じ込められているモドキの方へと視線を移す。

 

「無理」

 

 モドキの一言。

 モドキは鍵神に空間を完全に施錠され、能力が一切使えない。

 

 アヴェルスは内心ひたすらに「めんどくさ~」と思った。

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