半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】 作:神野あさぎ
「頼ろうとしたオレが間違ってた」
巨大な氷の塊が頭上から迫る中、アヴェルスが面倒くさそうに言い放った。
モドキは空中の結界の中で「なにっ!?」と睨みをきかせ、叫ぶしかできなかった。
ウルの奴、舐めやがって……って、もう居ねーし!
アヴェルスの視線の先、ウルの姿も、彼らが入っていった空間の扉も、完全に消えてなくなっていた。
「撃ち落すか」
「待て。この程度なら」
それを制したのはアヴェルス。
オレが全て片付ける!!
アヴェルスは本領である『金属生成』の能力を使い、地面から無数の長槍を瞬時に生み出した。
槍は天に向かって鋭く伸びていき、落下してくる巨大な氷を次々と粉砕していく。
硬質な音と共に、氷が散り散りになって霧散した。
冷たい風の吹き荒れる中、アヴェルスは忌々しげに思考していた。
「居なければ、な!! なんであの野郎を未だに殺せないんだ!!
すぐさまアヴェルスは頭を抱え、ヒステリックに叫びだす。
『金属を水に換える』能力を持つウルが居る場では、アヴェルスの金属生成は完全に無効化されてしまうのだ。
「おかげであの妖、殺し損ねた!!」
「……」
アヴェルスの苛立ち混じりの言葉に、
殺すと言われて、気分のいいものではない。
入り口を塞いでいた岩が、音を立てて崩れ始めた。
能力使用者のリューが撤退し、維持できなくなったためだ。
「アヴェルス」
アヴェルスの名を呼び、背後から近寄ってきたのはシロホン。
「血を寄越せ」
「あ゛~~~? あ゛ぁあ~~~?」
シロホンは手短に言うと、有無を言わさず容赦なくアヴェルスの首元に噛みついた。
バキバキと、太い骨を砕く音が鳴る。
爪戯の眼が丸くなり、ティーが「すごい音がしたぞ!!」と目を見開いた。
「少ししか補給出来てないんだよ!!」
シロホンは
そのため、気兼ねなく吸えるアヴェルスへとかみついたのだ。
「ありがとうございます」
首を砕かれ、血を吸われているアヴェルスは、恍惚とした表情で呟いた。
「シリアス返せ! 馬鹿不死組!!」
すかさずティーが的確に突っ込む。
「にしても、まさか『妖』の復活が狙いだったとはね。てっきり『王』狙いの犯行かと思ってたよ」
ヤナギが珍しく真剣な顔で、騒ぎをよそに言う。
「……仕方ないとはいえ、殺し損ねちゃったな……次までに色々仕込んで──……」
ヤナギはそう独り言をこぼしながら、刃毀れしたキルキーの刃を愛おしそうに手に取った。
辛は無言で立ちすくんでいる。
「奴らの居場所見つけて、弟君を取り戻せばいいんだよ!」
「って……!」
その様子を見た爪戯が、今更ながらに声を上げる。
「なんであんたが居るんだよ!? 敵じゃ……」
「心境の変化的な~?」
闇神である玄が、当然のように辛側に居ることに疑問を感じた爪戯。
「元敵なら、神達の居場所ぐらい知ってるんじゃ?」
「え?」
ティーが続けて論理的な突っ込みを入れる。
玄は、間抜けな声を思わず出した。
「知らないですけど?」
「なんで!?」
玄は緩い顔で悪びれずに否定した。
即座にティーと爪戯が突っ込む。
「鍵神の能力で移動してた故~、色々と知らないでござる」
「使えないな!!」
玄は新参だったため、神の真の拠点を知らない。
ティーが即座に呆れて声を荒げた。
「何かヒントになるような、こう……何か無いの!?」
爪戯が問う。
「そうだなぁ~」
玄は一応考えるふりをして天井を見上げたが、何も思い当たらない。
城内は悪魔たちが入り乱れて謎に和気あいあいとしていたが、ウミリンゴだけは右手を顎に当てて無言で考えていた。
そして、ふと口を開く。
「何か、忘れている気がする」
忘れ去られた存在。それは凪である。
シロホンと共に行動して追いかけてきたが、途中で体力の限界を迎えてギブアップし、森の地べたに伏していた。
ヤナギの精霊ハクレイとスズノが、心配そうに凪の様子を見に来ていた。
遅れてモドキも、術者の鍵神が遠くへ去ったことで結界が解け、自由の身になっていた。
◇
「協力、感謝する」
棺ごとモドキの能力で移動してきた
玖の傍らでは、デュオラスが座って深く眉を顰めていた。
「どうかした?」
玖がデュオラスの並々ならない雰囲気を察し、問う。
「先にそちらを復活させてきたか……」
デュオラスが重い口調で答える。
「成程……
デュオラスは六年前に悪魔を裏切ったゼニスに、直接接触できていない。
接触できていれば、と内心悔やんだ。
「真っ先に『真の神』の方をと思っていたし……少しだけ、まずいことになったかも」
デュオラスは右手で頭をかきながら言う。
玖は右手で左手の掌をポンと叩いて、納得したように口を開く。
「『真の神』の復活に、オレの身体と国土、そして国民を使われるのは知ってたけど、ああいう風に能力を発動させてやるのか──……なるほどね~」
今回の儀式のロジックを思い出しながら、緩く玖が言った。
デュオラスは「軽いですね」と突っ込んだ。
「でも、流石に本物の神とあの妖じゃあ、
玖は確認するように言う。
「確かに、まだ要素が足りないと思う」
デュオラスが答える。
今回の儀式では蟲人の妖が復活した。けれどその魂の規模では、本物の神──真の神の完全な復活は行えないと踏んでいる。
「んー……『神』の復活方法がなんとなく分かったことよりも、『あの妖』が復活したことの方がまずいと……?」
玖が核心を問う。
復活させた蟲人の存在が、この事態において非常にマズかったのだ。
「あの妖、アヴェルスさんが過去に殺したあやかしで──……妖を弄って人型にした人物が、人型に改良した後、シンを与えたという──……」
デュオラスが冷や汗をかきながら答える。
この妖を弄った者は、丁の先祖だ。
『妖を人型にしたのは、人と交わる為。とある神が「あること」を
デュオラスの言葉を、玖の脳が反芻する。
「まさか……」
玖の頬にも、嫌な冷や汗が流れた。
「有する能力は『情報』。ありとあらゆる事柄を情報として脳が直接受信する」
デュオラスが答える。
これが、丁と復活した妖の持つ、共通の特異能力。
「それ……」
玖は言葉を詰まらせ、頭を抱えだす。
「その妖は長い間隠れて生きてきたんだけど、
デュオラスが続ける。
アヴェルスが過去に妖を殺したのは、単なる殺戮ではなく、世界の根幹に関わる『情報封じ』の為でもあったのだ。
「『本物』復活のための足りない要素を知りたいってのもあるだろうけど、あの妖を蘇生させてまで知りたい情報が、他にもあるんだろうね」
デュオラスの言葉に、玖は顔を上げた。
「はっきり言えよ。奴らの真の目的は『復活』と、『根絶』、そして……失われた『創造』の能力を再び手にすること──……その在処を知られるのも、時間の問題ってことだろ?」
玖は最悪のシナリオを明言する。
「うん。だから、ちょっとまずいかも」
デュオラスも冷や汗を拭いながら、切実に言った。