半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】   作:神野あさぎ

123 / 125
No.123「手落ち」

「頼ろうとしたオレが間違ってた」

 

 巨大な氷の塊が頭上から迫る中、アヴェルスが面倒くさそうに言い放った。

 モドキは空中の結界の中で「なにっ!?」と睨みをきかせ、叫ぶしかできなかった。

 

 ウルの奴、舐めやがって……って、もう居ねーし!

 

 アヴェルスの視線の先、ウルの姿も、彼らが入っていった空間の扉も、完全に消えてなくなっていた。

 

「撃ち落すか」

 

 北王(ほくおう)が刀を構え、能力を発動させようとする。

 

「待て。この程度なら」

 

 それを制したのはアヴェルス。

 

 オレが全て片付ける!!

 

 アヴェルスは本領である『金属生成』の能力を使い、地面から無数の長槍を瞬時に生み出した。

 槍は天に向かって鋭く伸びていき、落下してくる巨大な氷を次々と粉砕していく。

 

 硬質な音と共に、氷が散り散りになって霧散した。

 

 (ウル)が近くに居なければ、金属が使える……。

 

 冷たい風の吹き荒れる中、アヴェルスは忌々しげに思考していた。

 

「居なければ、な!! なんであの野郎を未だに殺せないんだ!! 金生水(ごんしょうすい)って頭おかしいだろ!!」

 

 すぐさまアヴェルスは頭を抱え、ヒステリックに叫びだす。

 『金属を水に換える』能力を持つウルが居る場では、アヴェルスの金属生成は完全に無効化されてしまうのだ。

 

「おかげであの妖、殺し損ねた!!」

「……」

 

 アヴェルスの苛立ち混じりの言葉に、(かのと)が眉を顰める。

 蟲人(ちゅうじん)に身体を乗っ取られたとは言え、その器は辛にとって弟の(ひのと)だ。

 殺すと言われて、気分のいいものではない。

 

 入り口を塞いでいた岩が、音を立てて崩れ始めた。

 能力使用者のリューが撤退し、維持できなくなったためだ。

 

 爪戯(つまぎ)は「岩が解除された」と、砂となって消えていく岩を見ていた。

 

「アヴェルス」

 

 アヴェルスの名を呼び、背後から近寄ってきたのはシロホン。

 

「血を寄越せ」

「あ゛~~~? あ゛ぁあ~~~?」

 

 シロホンは手短に言うと、有無を言わさず容赦なくアヴェルスの首元に噛みついた。

 バキバキと、太い骨を砕く音が鳴る。

 爪戯の眼が丸くなり、ティーが「すごい音がしたぞ!!」と目を見開いた。

 

「少ししか補給出来てないんだよ!!」

 

 シロホンは(なぎ)から血を貰って正気を保ったが、彼女を気遣ってかなり少量しかもらわなかった。

 そのため、気兼ねなく吸えるアヴェルスへとかみついたのだ。

 

「ありがとうございます」

 

 首を砕かれ、血を吸われているアヴェルスは、恍惚とした表情で呟いた。

 

「シリアス返せ! 馬鹿不死組!!」

 

 すかさずティーが的確に突っ込む。

 

「にしても、まさか『妖』の復活が狙いだったとはね。てっきり『王』狙いの犯行かと思ってたよ」

 

 ヤナギが珍しく真剣な顔で、騒ぎをよそに言う。

 

「……仕方ないとはいえ、殺し損ねちゃったな……次までに色々仕込んで──……」

 

 ヤナギはそう独り言をこぼしながら、刃毀れしたキルキーの刃を愛おしそうに手に取った。

 辛は無言で立ちすくんでいる。

 

「奴らの居場所見つけて、弟君を取り戻せばいいんだよ!」

 

 (くろ)が辛の沈痛な顔を見て察し、明るく言った。

 

「って……!」

 

 その様子を見た爪戯が、今更ながらに声を上げる。

 

「なんであんたが居るんだよ!? 敵じゃ……」

「心境の変化的な~?」

 

 闇神である玄が、当然のように辛側に居ることに疑問を感じた爪戯。

 

「元敵なら、神達の居場所ぐらい知ってるんじゃ?」

「え?」

 

 ティーが続けて論理的な突っ込みを入れる。

 玄は、間抜けな声を思わず出した。

 

「知らないですけど?」

「なんで!?」

 

 玄は緩い顔で悪びれずに否定した。

 即座にティーと爪戯が突っ込む。

 

「鍵神の能力で移動してた故~、色々と知らないでござる」

「使えないな!!」

 

 玄は新参だったため、神の真の拠点を知らない。

 ティーが即座に呆れて声を荒げた。

 

「何かヒントになるような、こう……何か無いの!?」

 

 爪戯が問う。

 

「そうだなぁ~」

 

 玄は一応考えるふりをして天井を見上げたが、何も思い当たらない。

 

 城内は悪魔たちが入り乱れて謎に和気あいあいとしていたが、ウミリンゴだけは右手を顎に当てて無言で考えていた。

 そして、ふと口を開く。

 

「何か、忘れている気がする」

 

 忘れ去られた存在。それは凪である。

 シロホンと共に行動して追いかけてきたが、途中で体力の限界を迎えてギブアップし、森の地べたに伏していた。

 ヤナギの精霊ハクレイとスズノが、心配そうに凪の様子を見に来ていた。

 

 遅れてモドキも、術者の鍵神が遠くへ去ったことで結界が解け、自由の身になっていた。

 

 ◇

 

 ()の国。デュオラスのいる屋敷内。

 

「協力、感謝する」

 

 棺ごとモドキの能力で移動してきた(きゅう)が、分身体を棺の外に出して椅子に座り、言う。

 玖の傍らでは、デュオラスが座って深く眉を顰めていた。

 

「どうかした?」

 

 玖がデュオラスの並々ならない雰囲気を察し、問う。

 

「先にそちらを復活させてきたか……」

 

 デュオラスが重い口調で答える。

 

「成程……元Z(ゼニス)に会えていれば、『翅』を見落とすこともなかった──……」

 

 デュオラスは六年前に悪魔を裏切ったゼニスに、直接接触できていない。

 接触できていれば、と内心悔やんだ。

 

「真っ先に『真の神』の方をと思っていたし……少しだけ、まずいことになったかも」

 

 デュオラスは右手で頭をかきながら言う。

 

 玖は右手で左手の掌をポンと叩いて、納得したように口を開く。

 

「『真の神』の復活に、オレの身体と国土、そして国民を使われるのは知ってたけど、ああいう風に能力を発動させてやるのか──……なるほどね~」

 

 今回の儀式のロジックを思い出しながら、緩く玖が言った。

 デュオラスは「軽いですね」と突っ込んだ。

 

「でも、流石に本物の神とあの妖じゃあ、()()()()ってわけにはいかなそうだけど……?」

 

 玖は確認するように言う。

 

「確かに、まだ要素が足りないと思う」

 

 デュオラスが答える。

 今回の儀式では蟲人の妖が復活した。けれどその魂の規模では、本物の神──真の神の完全な復活は行えないと踏んでいる。

 

「んー……『神』の復活方法がなんとなく分かったことよりも、『あの妖』が復活したことの方がまずいと……?」

 

 玖が核心を問う。

 復活させた蟲人の存在が、この事態において非常にマズかったのだ。

 

「あの妖、アヴェルスさんが過去に殺したあやかしで──……妖を弄って人型にした人物が、人型に改良した後、シンを与えたという──……」

 

 デュオラスが冷や汗をかきながら答える。

 この妖を弄った者は、丁の先祖だ。

 

『妖を人型にしたのは、人と交わる為。とある神が「あること」を()()()()()()()()()、妖を改造したと言われている』

 

 デュオラスの言葉を、玖の脳が反芻する。

 

「まさか……」

 

 玖の頬にも、嫌な冷や汗が流れた。

 

「有する能力は『情報』。ありとあらゆる事柄を情報として脳が直接受信する」

 

 デュオラスが答える。

 これが、丁と復活した妖の持つ、共通の特異能力。

 

「それ……」

 

 玖は言葉を詰まらせ、頭を抱えだす。

 

「その妖は長い間隠れて生きてきたんだけど、神達(やつら)に目をつけられる前に、アヴェルスさんが──……」

 

 デュオラスが続ける。

 アヴェルスが過去に妖を殺したのは、単なる殺戮ではなく、世界の根幹に関わる『情報封じ』の為でもあったのだ。

 

「『本物』復活のための足りない要素を知りたいってのもあるだろうけど、あの妖を蘇生させてまで知りたい情報が、他にもあるんだろうね」

 

 デュオラスの言葉に、玖は顔を上げた。

 

「はっきり言えよ。奴らの真の目的は『復活』と、『根絶』、そして……失われた『創造』の能力を再び手にすること──……その在処を知られるのも、時間の問題ってことだろ?」

 

 玖は最悪のシナリオを明言する。

 

「うん。だから、ちょっとまずいかも」

 

 デュオラスも冷や汗を拭いながら、切実に言った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。