半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】 作:神野あさぎ
「成程~? 襲撃は
椅子に腰を下ろして凪が言った。
「蘇生って言っても中身だけ違う? みたいだったけど」
「で? あんたはこちら側についた、と?」
「そうですよ~」
凪が指差す先には、無防備に床へ転がる
彼は仰向けのまま、のんきな声を返す。
「いや……まあ……なんか
これまでの行動から、玄が辛との戦闘を避けたがっていることは凪も感じ取っていた。
しかし、神の陣営を捨てるという決断があまりにも軽すぎる。
「良いんじゃね!?」
玄は緩い表情で言い放った。
「オレはさーキミの母親殺しの犯人を告げて、それで仲違いしてくれても良かったんだけど~」
玄は上体を起こして胡座をかくと、悪びれもせずに本音をこぼす。
「そしたら辛君よりキミらを殺して、神への手土産に出来るかも~みたいな?」
「ええええ……」
その恐ろしい発想に、凪は思わず引いた声を漏らした。
「でもやっぱ、穏便に済むならそれが良いかなって思った。だからキミを王のところへもう一度連れて行って交渉してみたんだよね」
玄は「ダメもとで」と付け加えながら言った。
「我ながら甘いというか、神側の仲間で居るには不十分だったよ、オレは」
玄は笑顔で言い切った。
その飄々とした態度の裏にある底知れなさを、爪戯も凪も静かに受け止める。
「交渉ね……私の母親を連れて行こうとしたのもその為? 失敗して自害したみたいだけど」
凪が問う。
「そうだね。王を脅せれば良いからってことで、生死は問わないって指示を出したみたいだけど……脅しは効かなかったみたいだね」
玄が答える。
かつて凪の母親は、王である
結果として彼女が自害したことで、神側の目論見は外れた形になる。
「それで何で爪戯君のところに依頼が?」
凪が爪戯を横目で見ながら言う。
「襲撃候補が何か所かあったのと、神に対する結界が張ってある場所もあって……殺し屋に協力依頼したみたい」
玄が答える。
襲撃の候補地が複数あり、人員が不足していたこと。さらに、対神用の結界に阻まれない存在が必要だったこと。
その条件に合致した暗殺業の元へ依頼が渡り、当たりを引いたのが爪戯だったというわけだ。
「候補ね……そう言えばあの頃って、あの人が私達を傍に置いておけないって、あちこちに移動させてたのよね」
凪が天井を見ながら言った。
「なんで?」
爪戯は純粋に疑問を投げた。
「昔、私が母の顔に掛かってる布を見て……」
凪は静かに語りだした。
『その文字私が書いてあげる!』
幼い凪は母親に笑顔で言った。
しかし顔を覆う布に記された文字は、能力を発動するための媒介だった。
「少しの間だけなら良いかって、私の書いた文字入りの布を母がつけてくれたんだけど……それを見たあの人が激怒して」
幼い凪の記憶に残っているのは、床に額を擦りつけ、玖に対して必死に許しを請う母の姿だった。
『血のつながりはなくても家族』
だと言ってくれたのに──……。
『おいては置けん。出て行ってもらう』
家族だという言葉を自ら打ち消すような、あまりにも冷酷な態度の急変。
「それで転々とさせられてたんだけど、母は死んで……あの人は母の死を悼んでいないみたいだった」
母の死後も、仕事に明け暮れる玖の姿が凪の脳裏に焼き付いている。
結局、目の前の個人より、大勢の他人を優先する。あの温かい言葉はなんだったのか。嘘吐き。
かつての凪は、彼をそう憎んだ。
「頭では分かってるの。あの対応で良い、あの人の役目……役職を考えたら当然と言うか」
凪は視線を上げ、ぽつりとこぼす。
玄も爪戯も真剣に話を聞いた。
「でも気持ちはついていかなくて。反抗の意も込めて飛び出して、犯人捜しなんて始めちゃったのよ」
凪は腕を組んで言い放つ。
「なんかごめんなさい」
爪戯は思わず謝罪した。
「何故謝る。自害だったんでしょ?」
母の最期の場に居合わせたのは爪戯だが、根本的な責任の所在が別にあることは明白だった。
「悪いのは神っぽいし、まあ……家を出たことでみんなに会えたわけだし、前向きに考えるわ」
凪にとって、決して悪いことばかりではなかった。
「ん? あれ? 待てよ……神側につけば蘇らせてもらえる?」
凪は急に右手を顎に当てて、妙に真剣な顔つきで言った。
「いっぱい犠牲が出るけどね~」
「じゃあやめよっ!」
玄の軽い返しを受け、凪は即座にその考えを撤回する。
「その問題点をクリアできれば闇神だってこの世に戻ってこられるのに~」
「ね~」
玄と凪が軽く言いあう。
爪戯はそんな二人を見て「え……えええ?」と困惑の声を漏らした。
「そう言えば辛君は?」
凪が思い出したかのように、辛の様子を聞いた。
◇
別室。
「パパ! お兄ちゃん! おかえり~!!」
部屋の扉を勢いよく開け放ち、ルリが現れた。
「パパはやめろ!」
ベッドで伏せる辛の隣に腰を下ろしていた
「んで? 実際はどう思ってるのかな? 兄よ!」
ルリの言葉を受けて、デュオラスがルリの隣に立つ。
「内心少し喜んでるね」
「心を読むな!!」
デュオラスに心を読まれ、まんざらでもないことを暴露された北王が焦って叫ぶ。
「やはり隠し子を……!?」
その騒ぎを見に来た凪が、ルリの後ろから顔を出し言った。凪の隣には爪戯もいる。
「パパだよ☆」
「違う!! ある意味そうだけど違う!!」
ルリが軽く言うと、すかさず北王が突っ込む。
辛は冷や汗をかきながら、静かに眠っていた。
「辛君っ!?」
凪がその様子を見て歩み寄る。
「『火』の使い過ぎでな。相当無理をしてたみたいだ」
北王が言う。
自らを蝕む『火』の能力を限界まで使い続けた代償が、彼の身体を苛んでいた。
「治療を──……」
凪が言いかけ、北王が制した。
「今はこのまま、少し休ませてやってくれ」
「……!?」
北王の言葉に、凪の目が見開かれる。
肉体的な疲労だけではない。目の前で丁を奪われたという事実が、辛の精神を深く削り取っていたのだ。
弟君を助けられなかったんだもんね……。
凪もその痛みを察し、静かに部屋を後にした。
「でもまだ何か、方法はあるはずよ!」
廊下を歩きながら凪が思案する。
「あの玄って人は丁君を取り返そうって言ってたけど、神が何処にいるのかは知らないってさ……」
凪の後ろを歩く爪戯が、ため息交じりに言う。
「えっ?」
「能力で移動してたから分からないらしい……」
爪戯が補足した。
新参であった玄は鍵神の能力で移動していたため、神側の拠点の場所を知らされていないらしい。
「あれ……そういや、あの玄って人はどうやってあの場所を特定したんだろう?」
「?」
凪の発言に、爪戯が首を傾げる。
凪の記憶を闇の能力で読み取り、玖の居場所を特定した玄の手法。
「同じ方法で神の居場所も分からないかな? いや、確証はないんだけど……」
凪は振り返って言った。
「生きてたんだ」
凪の背後に、玖の分身体が立っていた。
不意の声に凪の眼が見開かれる。
「残念ながら」
凪は玖の方へ視線を移すと、憎まれ口を叩くように言い放つ。
玖は無言のまま踵を返した。
やっぱり私のことなんて、どうでも良いのよね。
凪は呆れたように心の中でため息をついた。
「なら、良かった」
玖は凪に背を向けたまま、ぽつりと呟いた。
凪の眼が再び見開かれる。
「えっ!?」
玖の方を思いっ切り見た。
「ってもう居ない!!」
振り返った先には、すでに分身体の姿はなかった。
凪は頭を抱え「調子狂う」と呟いた。
そんな彼女を見て、爪戯もなんと声をかけていいか分からず戸惑っている。
この後、玖は自身の国へと帰還することになる。