半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】 作:神野あさぎ
『オレは幼い頃に拉致された悪魔の一人。連れてこられた先に居たのは、本物と呼ばれる存在だった』
これは鮫神の幼いころの記憶。
兄と共に神に拉致された悪魔。
しかし、兄は無残な姿に成り果て、鮫神の膝の上で血を流していた。
彼の目の前に立つのは真の神。
「どうしてこんなものが、作ってないんだが」
そう言いながら、真の神は幼い鮫神の頭に向けて巨大な十字架を振り下ろした。
『逃げることは考えた、でも──……』
鮫神は床に転がった。
「とりあえず」
真の神は十字架の先端を能力で鋭く尖らせる。
「教育すべきか……」
無機質な声とともに、真の神は鮫神の背に十字架の先端を突き立て、深く傷を刻み込んだ。
『次第に逆らうことさえ出来なくなった』
背中を切り裂かれる激痛に、幼い鮫神の悲鳴が上がる。
『だから命令なら従うしかない』
これが、彼を縛り続ける呪いの独白。
◇
「鮫神!!」
蝶神が叫び、右手で金属生成を行う。
「どうして」
蝶神は生成した金属の棒で鮫神の喉を突いた。
しかし、その一撃は鮫神の肌を貫通しない。
私の腕力じゃ通らないわよね……。
鮫神の身体は、能力による見えない表皮で守られていた。
「だから! お前が悪いんだって」
鮫神は宙に持ち上げていた
「流石にもう……見逃せねえ!!」
鮫神は左脚で鋭く踏み込み、右足で蝶神へ蹴撃を放つ。
金属の棒を粉砕しながらの一撃が、蝶神を大きく後退させた。
蝶神は体勢を崩し、よろめく。
「これでも一応『お前が被験体を逃したの』を報告しないどころか、隠蔽までしたんだぜ? まあ、竜神にはバレてたみたいだが……」
鮫神が口を開く。
蝶神はこの会話の隙を突き、「木」の能力を発動させた。
植物の蔓が鮫神の右腕に絡みつき、同時に横たわる凪の身体も捉える。
そして凪を強引に引き寄せ、鮫神から距離を取らせた。
ひとまず人質は退避させて……武器の破片を起点に再生成──……。
蝶神は破壊された金属片から新たな刃を再生成し、そこに「火」の能力を乗せて加速させた。
鋭い金属の刃が鮫神を襲う。
防御の上からでも、彼の腕や脚に赤い線が走った。
五行に基づく生成能力……金属片を火で加速させることでオレの『
鮫神は自身の皮膚から血を滲ませながら、冷静に相手の手口を分析する。
「貴方は能力で生成した『楯鱗』で防げるんだったわよね? でも竜神の『盾』ほどの強度はない!」
蝶神は言い放ち、さらなる追撃を仕掛ける。
天から金属の刃が雨のように降り注ぐ。
火と重力によって加速された刃が、次々と地面に突き刺さった。
『シン』だけじゃオレの方が不利か……。
鮫神は思考を巡らせながら、的確に攻撃を回避していく。
「安心して、命までは取らないわ」
火力を上げれば押し切れる……!
蝶神は自身の周囲に、無数の金属の刃を生成した。
「ちょっと痛い目にはあってもらうけど!!」
火による加速。先程よりもさらに速く。
刃の群れが鮫神へ向けて飛翔する。
その瞬間、眼帯の下で鮫神の右眼が能力を発動する。
鮫神は手刀を鋭く一振りした。
その一閃で、迫り来る金属の刃はすべて粉々に斬り裂かれた。
全て斬った……? 見切ったとでもいうの……? あの眼、悪魔とは聞いていたけれどやはり──……。
蝶神は驚愕しながらも思考を止めず、再度金属の刃を投下する。
『シン』だけでは不利なら『マナ』も利用する。
鮫神はそう判断し、手刀で次々と金属の刃を斬り落としていく。
その為にはシンを消費しておかねーとな。
鮫神は計算を走らせながら右脚を振るう。
地面からエナメル質の物質が生成され、巨大な鮫の顎の形を構成した。
それは蝶神を喰らわんと、獰猛に襲い掛かる。
しかし蝶神は華麗に地を蹴り、上空へと回避した。
空中に逃れた蝶神を捉え、鮫神が口を開く。
「空中じゃ回避できないだろ?」
言葉と同時に、眼帯の下で右眼が反応を示す。
鮫神は地面から巨大な鮫の牙を複数生成し、撃ち出した。
空中の蝶神へ向けて、無数の牙が貫く。
「……簡単にはいかないか」
貫かれた蝶神の姿を見て、鮫神が短く呟く。
牙が貫いたのは、蝶神の生成した分身体だった。
彼女の能力は、自身の型に物質を生成し、それを分身や身代わりとして自在に操ることが可能だ。
「物質なら割と何でも作れるのは、便利で良いよな」
本体は上か……。
鮫神は背後を振り返ることなく察知した。
背後の上空、蝶の形をした金属を足場にして、本物の蝶神が降り立っていた。
「どんなものでも造れてしまう『創造』の能力には勝てないわよ」
蝶神は周囲に無数の金属の蝶を生成する。
そして右手を力強く振り下ろした。
蝶の群れが火で加速し、鮫神へと一直線に殺到する。
その昔、鮫神は傷つき倒れていた。
どうしよう……まさかこんなところで……神と悪魔の争いに巻き込まれるなんて。
血を流し、地に伏しながら思考する。
右眼からは血が流れ、左頬にも深い傷を負っていた。
瓦礫が舞い、土煙が周囲を覆う。
そんな惨状の中、一人の男──セーブルが鮫神を見下ろしていた。
『あー……悪魔か。右眼が使い物にならなくなってるな』
セーブルは身をかがめ、鮫神に向けて言う。
『巻き込んだ俺の責任かね。仕方ない』
そう言うと、セーブルは自身の眼帯を外し、右眼に手をかけた。
『今回は特別に俺の眼をやろう……』
セーブルは無造作に自らの右眼を取り出した。
『悪魔の能力は基本的に一人一つ。マナは弱い方が強い方に喰われるからな』
そう語るセーブルの右眼窩は、すでに異常な速度で再生を始めていた。
『この右眼に宿る俺のマナが、お前の体内のマナを食うかもしれない』
セーブルは、鮫神の潰れた右眼に手を当てる。
『ただ、俺は一応「特殊」な方でな……もしかしたら』
取り出した自身の右眼を、鮫神の右眼窩へと移植する。
凄惨な戦いの最中、鮫神の脳裏にその記憶がよみがえっていた。
『共存するかもな──……』
現在。鮫神は上空へ振り返り、静かに口を開いた。
蝶神の放った必殺の攻撃が、虚空へと吸い込まれていく。
私の攻撃が消えた……!? いや……これは……。
上空の蝶神の眼が、驚愕に大きく見開かれた。