半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】 作:神野あさぎ
「驚いても分からない」ということは……突発的な状況に対応が出来ない・遅れるということ……。
デュオラスは一人、歩を進めながら思考を巡らせる。
爆発なんて起きれば、守りに入るのは必然的にもう一人(
一片の能力は鮫神のと同じ──……言うほどの耐久力がないのは蝶神戦で確認済み。
仮に能力で防げていたら
デュオラスは絶え間なく計算を続けながら歩く。
「あとは……」
そう呟き、彼は虚空を見据えた。
怒った
デュオラスの脳裏に、覗き見た禄の記憶の一部が再生される。
幼い禄は、一片が刺されたことに激しく怒り、妖の毒を発現させた。
半分が妖の
その推論と共に、場面は禄と辛の戦いの場へと移る。
一片が倒れ、怒りに駆られた禄は毒を隆起させた。
そしてそれを操り、辛へと勢いよく放つ。
辛の全身に猛毒が降り注ぐ。だが──……。
無効だよ。
デュオラスの確信と重なるように、辛は致死の毒を浴びても表情一つ変えず、静かに立ち尽くしていた。
『で?』
デュオラスの脳内に声が響いた。
爪戯からの念話だ。
『毒に巻き込まれない為に退避したけど、オレはこれからどうすれば良い?』
爪戯は辛をその場に残し、安全圏へと走って退避していた。
その言葉を聞き、デュオラスは次なる指示を出す。
「凪さんの方に向かって欲しいかな」
『!!』
デュオラスの指示に、爪戯が反応する。
「敵三人……正確には二人の記憶を視させてもらったんだけど……」
『ん? 二人?』
デュオラスの言葉に爪戯が首を傾げる。
「一人は覗こうとしたら阻まれたんだよ。『呪い』に」
『!?』
デュオラスが告げた事実に、爪戯の眼が大きく見開かれる。
あの神の部下二人の戦う理由が「それ」なら、やっぱ取るべき行動は──……。
デュオラスは盤面を動かしながら歩き続ける。
◇
一方、辛。
「オレの毒が効いていない?」
禄は目の前の事象を冷静に分析し、声に出した。
「悪いがオレの半分は、
辛は両手に金属を生成し、二振りの刀を創り出す。
そして地を強く蹴り、禄へと肉薄した。
「そうか……お前が
相手の金属を変換──……!
禄は言葉を発すると同時に、辛の金属を対象に能力を行使した。
辛の握る刀身が、急速にサラサラの粉状へと変わっていく。
「……」
辛は表情を変えず、左足で力強く地面を踏みしめた。
「土」の能力を発動させ、自身の足元からひび割れを発生させる。
轟音が響き、大地に深い亀裂が走る。
禄は足場を崩され、宙へと投げ出された。
……自身の毒を変換し、固体へ──……!!
禄は宙で右手を振り、空中に漂う自身の毒を操って強制的に固体化させた。
そして亀裂の走る空中に、毒で構成された足場を瞬時に形成する。
着地した瞬間、辛の容赦ない一閃が放たれる。
立て続けに、二振り目。
「お前の変換対象は一つのみ。一度金属を換えても、別の物を換えてしまえば元に戻る」
辛が冷徹に理を突いた。
禄の身体に、深い二筋の斬り傷が刻まれていた。
彼女は痛みに顔を歪めず、固体化した毒を操って辛との間に盾として滑り込ませた。
固体化した毒で防御を!?
辛の追撃は強固な盾に阻まれ、彼は僅かに目を見張った。
確かこいつ、「木」やら「火」やらも使ってたな……。
禄は被弾しながらも、極めて冷静に戦況を分析し続ける。
能力相性が良くない……いや。
禄の脳裏に、一つの冷酷な戦術が浮かんだ。
「『自分の毒』に少々頼り過ぎていたようだ……」
禄は盾としていた毒の固体化を解除し、自身の周囲に浮遊させた。
「お前も生物である以上、呼吸は必要だろう?」
言い放つと同時に、禄は変換の能力を発動させた。
辛と禄の周囲を包む大気の性質が、急速に変わっていく。
倒れている一片にも、勿論オレにも悪影響が出る……。だからこそ、短期で迅速に決める……!!
「この場の空気を二酸化炭素へ──……!!」
禄は決死の覚悟で言い放ち、息を止めて辛へと肉薄する。
辛は即座に反応し、禄の鋭い蹴りを紙一重で躱した。
二酸化炭素も濃度が高まれば、致死の『毒』となる。相手から呼吸を奪う。
さらに、火を燃やすための助燃性もない!!
禄は計算通りに戦局が傾いたと確信し、蹴り出した右足を軸にして鋭い回し蹴りへと移行する。
辛は冷静にその一撃も躱す。
辛は左手で新たな金属を生成した。
「マグネシウムは……二酸化炭素中でも燃焼する」
辛は静かに告げると、歯を打ち合わせ、口元から「火」の能力を行使した。
生成されたマグネシウムに火が引火する。
二酸化炭素を還元しながら激しい燃焼反応が起き、凄まじい閃光と共に轟音が鳴り響いた。
爆発の衝撃で、禄は後方へと吹き飛ばされる。
酸素を絶たれた空間での戦闘に、辛の額にも僅かに汗が滲む。
オレは……負けるわけには……。
地面に倒れ伏し、霞む視界で空を見上げながら、禄は思考する。
彼女の脳裏に、此処へ来るよりも前の過去がフラッシュバックした。
◇
「呪い、解いてやろうか?」
冷たい風が吹き抜ける渡り廊下で、鍵神が言い放った。
一片は驚愕に目を見開き、傍らにいた禄は無言で立ち尽くしていた。
「の、呪われてなんかいません!」
一片は必死に否定する。
「そうやって周りには隠しているみたいだが、オレは視ればわかる。一応オレも『死神』だからな、眼は良い方だ。それに鮫神と違って呪いを解除する能力も持っている」
鍵神は、かつて裏切った死神の一人だ。
一片の身に刻まれた呪いなど、その魔眼の前では隠し通すことはできない。
「要求は? まさかタダな訳ないだろう?」
禄が警戒心を露わにして問う。
「……まあな。いつか会ったらで良い。殺して欲しい奴がいる」
鍵神が、底知れぬ暗い瞳で告げた。
「殺すんですか?」
「ああ」
一片が冷や汗を流しながら問い返す。
「半人半妖の存在を……な」
鍵神は、辛を殺すよう要求した。
◇
そして現在。
朦朧とする禄の目の前に立つのは、辛。
目の前のこいつが、
禄は激しいダメージにふらつきながらも、必死に身体を起こす。
オレはこいつを殺し……一片の呪いを解いてもらう──……。
禄は自身の能力を解除した。周囲を満たしていた二酸化炭素が散り、空気が元の状態へと戻っていく。
その為にも……負けるわけにはいかない──……!!
一片の未来を背負う禄は、眼前の半妖を鋭く見据え、死闘を継続する決意を固めた。