半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】   作:神野あさぎ

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No.140「閃光弾」

 一片(ひとひら)は一族ごと「呪い」を受けていた。

 それは家柄的に、一族の者を「外」へ行かせないための、呪いという名の縛りだった。

 

 一片の両親は、せめて末っ子の一片だけでも外の世界へ行かせてやりたいと願い、秘術を用いてその呪いを軽減した。

 こうして一片を縛る家への枷は、わずかに緩んだ。

 

 しかし、これらの事実を知って不都合を被る者がいるらしく、両親は仕方なく一片が亡くなったと偽装し、外の世界へと逃がした。

 

 そして外へ出た一片が、子供一人で生きていけるはずもなく、(ろく)の父である蛇神に引き取らせたのだ。

 

 蛇神は一片の抱える複雑な事情を詳しくは知らなかったが、即座に彼を受け入れた。

 

「近づくな、おれは化け物……」

 

 幼い禄は、一片を遠ざけるために言い放った。

 

「ろろろ禄は化け物じゃありません!」

 

 一片は禄を拒絶しなかった。

 やがて二人は、確かな友人関係を築いていく。

 

 しかし、一片の呪いは軽減されたとはいえ、完全に消え去ったわけではない。

 

 いつか「家」へ強制送還される日が来るかもしれない。ならばこの呪いを、完全に解いてやりたい。

 

 禄は、信念をもってそう思うようになっていった。

 

 ◇

 

 爪戯(つまぎ)が歩みを進めると、血を流して無残に横たわる蝶神の遺体が目に入った。

 

「蝶神さん……」

 

 爪戯は思わず呟いた。

 そして、そのすぐ近くで倒れている(なぎ)へと視線を移す。

 

 これか……毒の元ってのは……。

 

 爪戯は凪の腹部に噛みついている蛇を引き剥がすと、自身の能力で凍結させて投げ捨てた。

 

「おい女! これで治癒が使えるだろ!?」

「う……う~ん……」

「なるべく急いで欲しいんだけど!!」

 

 爪戯は凪の肩を掴み、乱暴に揺さぶる。

 凪は目を回していたが、徐々に気を取り戻していく。

 

「あれっ毒の注入がなくなってる? 治癒できる!」

 

 凪は自らの腹部に手を当て、能力を発動させて傷を癒していく。

 

「早く治して! 頼む!」

「ん?」

 

 爪戯が焦燥を滲ませて急かす。

 凪は不思議に思い、視線を近くの蝶神へと向けた。

 

「蝶神さん!?」

 

 凪は驚愕に叫ぶ。

 

「もう手遅れ」

「そんな……!」

 

 爪戯は凪の肩に右手を置き、冷や汗を流しながら非情な事実を告げた。

 凪の頬にも、一筋の汗が伝う。

 

「今は(かのと)の方……!!」

「!!?」

 

 爪戯は、死闘を繰り広げている辛のもとへ向かうよう促した。

 

 ◇

 

 一方、辛。

 

 負けるわけにはいかない──……!!

 

 立ち上がった禄は、周囲に漂わせていた毒を操り、自らの背中へと深く突き刺した。

 

 毒を自分に!?

 

 辛は警戒を強める。

 次の瞬間、異常な速度で肉薄した禄が、辛の腹部に重い拳を叩き込んだ。

 強烈な衝撃が走り、辛の身体は後方の崖へと激しく吹き飛ばされる。

 

 轟音。

 崖の表面に亀裂が走り、岩の破片が飛び散る。

 

 禄は追撃をかけるべく、逆の拳を振り上げて一撃を放つ。

 辛は間一髪のところでそれを躱した。

 

 急に動きが──……!! 毒を薬に変換してドーピングか……。

 

 辛は自身の頬に一筋の赤い線を作りながら、相手の能力の理を分析していた。

 間髪入れず、禄の追撃が迫る。

 右膝が辛の胴体へ向けて突き出された。

 

 辛の身体が再び弾き飛ばされる。

 

 少ししか使っていないのに「火」の影響で対応が遅れる……。

 

 辛は空中を舞いながら苦悶した。

 彼の身体には半分妖の血が流れており、「火」の能力を行使すると自傷ダメージが発生する。その反動が、確実に肉体を蝕んでいた。

 

 すると、精神世界にて、妖である母が不意に語りかけてきた。

 

『私を頼りなさい辛』

「……!」

 

 辛の頬を冷たい汗が流れる。

 

『私が全部殺してあげる。それに言われたでしょ? 利用出来るものは使えって。だから、ね?』

 

 母は優しく、ひどく蠱惑的に微笑んで言った。

 辛の表情が険しく強張る。

 

「……オレは、お前の能力(チカラ)だけは使わない!!」

 

 辛は内なる母──妖の血に対し、明確な拒絶を突きつけた。

 意識を現実へと引き戻す。

 

 一瞬で良い……。

 

 辛は左手をかざし、金属生成を試みる。

 禄が地を蹴り、再び肉薄してくる。

 辛は自分と禄の間に、分厚い金属の壁を急造した。

 

 隙を作ることが出来れば……。

 

 辛の意図をよそに、禄は強化された拳で金属の壁を容赦なく粉砕していく。

 辛は後退しながら、次々と金属の壁を複数形成する。

 

「無駄だ。全部壊すのみ!!」

 

 それでも禄の猛攻は止まらない。

 立ちはだかる全ての金属を、暴力的に破壊し尽くした。

 

 しかしその直後、禄の動きが一瞬だけ不自然に硬直した。

 

「……?」

 

 禄が怪訝そうに首を傾げる。

 その瞬間を見逃さず、辛は目を細めた。

 

 ドーピングによる身体への負荷が、ようやくここにきて出て来たな……。

 

 辛は左手を前へと突き出す。

 

「暴れすぎて身体がついて来なくなったようだな」

 

 破壊された金属の中には、マグネシウムを混ぜてある──……。

 

 辛は、粉々になって空中に舞い散る金属粉に向けて「火」の能力を発動させる。

 マグネシウムが瞬時に引火し、強烈な閃光弾となった。

 

 視界を奪うほどの巨大な光が、禄を包み込む。

 

「……?」

 

 禄の動きが完全に停止した。

 彼女は「驚き」という感情の概念を理解できない。閃光弾による突発的な異常事態に対し、脳の処理が追いつかず反応できなかったのだ。

 

 辛は鋭く踏み込み、左脚で禄の胴体を刈り取るように蹴り抜いた。

 

 蹴撃。

 

「かっ」

 

 腹部に重い一撃を受けた禄が、短い苦悶の声を漏らす。

 そのまま地面へと叩きつけられ、倒れ伏した。

 辛は金属で鋭い刀を生成し、転がる禄の首筋に冷たい刃を突きつけた。

 

「隙さえ出来ればこの身体でも対応できる……驚かせる隙が欲しかっただけだがな」

「?」

 

 辛の理屈が理解できず、禄は首を傾げる。

 

驚けば(そうなれば)お前は硬直するからな」

 

 辛は左手に刀を構えたまま、静かに告げた。

 

「ちなみに……さっきのにもマグネシウムを混ぜておいた。燃焼させて閃光弾の代わりに使わせてもらった」

 

 辛の種明かしに、禄は無言で応じた。

 

 ドーピングの効果も切れた……使っても勝てなかった……能力相性も悪い。鮫神と鍵神の命令はこなせそうにないな……。

 

 論理的に自らの敗北を悟り、禄は口を開く。

 

「……殺せ」

 

 禄は残された力を振り絞り、死を求めた。

 

「待った!!」

 

 そこへ、爪戯が凪を引き連れて駆け寄ってくる。

 

「連れてきたよ!!」

 

 爪戯が凪を指差して言った。

 

「はぁ~病み上がりに無理させよってからに~」

 

 凪は大量の汗をかきながら、疲労困憊の様子で文句を垂れる。

 その騒がしい光景を、刃を突きつけられた禄が不思議そうに見上げていた。

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