半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】 作:神野あさぎ
必殺の意志を込めた鮫神の刃と、デュオラスの創り出した鉄の刀が、激しい火花を散らして交叉した。
鮫神の放つ死神の能力によって、デュオラスの持つ鉄の刀が硬質な音を立てて両断される。
「……!」
死神の能力を乗せてきたか──……。
目前で起きた事象を、デュオラスは冷静に受け止める。
いける……!
鮫神は確かな手応えを感じ、再び刃を構え、深く切り込む。
デュオラスは即座に新たな鉄を生成し、迫る刃を受ける。
しかし、鮫神の刃が次々と鉄の刀を斬り裂いていく。
数度の斬り合いの末、鮫神の口元に微かな笑みが浮かんだ。
対するデュオラスの眼が、僅かに見開かれる。
「!!」
鉄が、生成できなくなった!
デュオラスの手から、突如として鉄が創り出されなくなる。
「金属生成の能力の方も斬らせてもらったぜ!」
鮫神が勝ち誇ったように種明かしをする。
死神の眼で対象の能力の繋がり──リンクを視認し、デュオラスの「金属生成」そのものを斬り裂いたのだ。
読心同様、一時的に使用不可ってことか──……。
デュオラスは焦る様子もなく、冷徹に事態を分析する。
これで……。
勝利を確信し、鮫神が刃を横に振り抜こうとする。
だが、デュオラスはその一撃を、鋭い蹴り上げで真っ向から迎撃した。
乾いた硬質な音が響き、鮫神の刃が砕け散る。
「うん! 頑張れば素手でもいけそうだね」
デュオラスは余裕の表情を崩さず、淡々と言い放った。
鮫神の生成する刃は所謂硬骨である。物理的な絶対強者の前では、容易に折れる性質を持っていた。
「はあ!?」
思わず声を上げ、鮫神は大きく距離を取る。
「なんでその細身で、そんな力が出るんだよ!!」
鮫神は理解の及ばない現象に叫ぶ。
デュオラスの華奢な体躯から放たれた、常軌を逸した筋力の出どころを問う。
「まあ、オレが『人』じゃないからかなあ……」
デュオラスが静かに答える。
鮫神の頬を、一筋の冷たい汗が伝った。
「化け物かよ……」
どうするかね、この状況……素手でも破壊されるんじゃ……。
鮫神は警戒しながら後退し、思考を走らせる。
視界の端で、デュオラスから奪い取った刀が地面に転がっているのを捉えた。
「仕方ねえ!! この刀、使わせてもらうぜ」
地に転がった鞘付きの刀を、鮫神は拾い上げる。
「流石にお前が、それを直接持つのは──……」
デュオラスは冷や汗を流し、珍しく必死な様子で止めようとした。
「あ?」
鮫神から怪訝な声が漏れる。
刀を持ち上げた瞬間、鮫神の背筋に強烈な悪寒が走ったのだ。
圧倒的な恐怖が精神を支配する。
その刀から、理不尽な暴力を振るう真の神の気配を感じ取った。
「うわっ! な、なんだよこれ!!」
今一瞬、
鮫神は尋常ではない汗を吹き出しながら、反射的に刀を地面へと放り投げた。
「本当になんなんだ! 気味が悪い!! お前もこの刀も!!」
仕方ねえ、こうなったら物量で攻める……!!
鮫神は眼前の男と謎の刀に対する恐怖を振り払うため、無数のエナメル質を形成していく。
デュオラスの頭上から、巨大な鮫の顎が落下してくる。
足元からは無数の鋭い牙が突き出した。
対処するならしろ! その隙に直接切り刻みに行ってやる!!
物量で相手の身動きを封じ、対応に追われる隙に死神の力で直接斬り伏せる算段だ。
『……来い!』
デュオラスが短く命じた。
すると、地面に転がっていた刀が、見えない力に引かれるようにデュオラスの手元へと飛来する。
デュオラスは迷わずその柄を握りしめた。
無駄だ。この歯にも死神の能力を適用させる。鉄同様にその刀も斬って──……。
鮫神はデュオラスへ迫る牙に死神の能力を乗せ、鉄の刀と同じように両断する構えをとる。
いや、待て。心を読む能力を斬った時、身体も狙ったがあの刀で防がれて──……。
突如、鮫神の脳裏に先ほどの攻防が蘇る。
デュオラスの読心を斬った際、肉体への攻撃はあの鞘付きの刀によって完全に防がれていた。
鉄の刀は斬れたが、あの刀は斬れない……?
鮫神の胸中に、決定的な敗北の予感がよぎる。
「まあ……やっぱこうなるか」
デュオラスは静かに呟き、鞘に納まったままの刀を無造作に振るった。
迫り来る巨大な牙を、次々と粉砕していく。
その衝撃で鞘にひびが入り、亀裂が急速に広がっていく。
次の瞬間、鞘が完全に砕け散り、中から透き通るような青い刀身が姿を現した。
「あ……鞘が……」
デュオラスが緩い口調で零す。
直後、砕けた牙の間を縫って、目にも止まらぬ斬撃が飛翔した。
不可視の一撃が鮫神の右肩を深く捉え、鮮血が宙に舞う。
なっ……斬撃が飛んできた!? ……!! 蝶神のシンが──……。
激痛に体勢を崩した鮫神の懐から、奪い取った蝶神のシンが零れ落ちる。
地面を転がるそれを、デュオラスが静かに拾い上げた。
「ってか……青い刀だと……!?」
鮫神が痛みを忘れて驚愕の声を上げた。
その刀身は、能力の発動源であるシンと全く同じ青い色をしていた。
「鉄生成も封じられたら、こっちを使おうとは思っててね。素手でもいけそうだったけど……鞘から抜く気はなかったけど……」
デュオラスは拾い上げたシンを掲げながら、淡々と語る。
「オレの手元からこの刀が無く、鉄も作れなくなったとなれば……お前の攻撃は単調になるだろうと分かってたからね。記憶を読んだから、お前のことは大体把握してるし」
刀を手放し、鉄の生成も封じられれば、デュオラスは素手での対応を余儀なくされる。
鮫神が確実にそこを狙ってくることまで、彼は完全に盤面を読み切っていたのだ。
「まさか刀を呼び寄せられるとは思わなかっただろ? おかげで隙をつくことが出来たよ。刀を奪われなかったら、そのまま使うだけだけど」
デュオラスの冷徹な種明かしに、鮫神は右手を顔に当てて戦慄する。
「なんなんだよ、その刀……意味が分からない。さっきまでの金属と違って斬れねーし!!」
鮫神は、自らの持つ死神の理を超越した事象を前に、混乱を隠せず叫ぶ。
「知らないのかい?
デュオラスの右手に握られた、青く輝く刀。
彼はそれを真っ直ぐに持ち上げ、静かに真実を告げる。
「まさか……その刀……」
鮫神は絶望的な冷や汗を流し、後ずさる。
「作成者はアヴェルス・クロノワール。そしてこの刀の材料は──……『シン』だよ」
デュオラスは青い刀を静かに右へと振りかざし、宣言した。