半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】   作:神野あさぎ

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No.147「逸脱者」

「だ……代償!?」

 

 デュオラスの告げた言葉に、凪(なぎ)が思わず声を上げた。

 

「オ(・)レ(・)達(・)はこの世界の理(ことわり)から、逸脱した存在……だから、この世界に存在する為には何かを捧げ欠ける必要がある──……」

 

 伍(ご)の国、辛(かのと)たちが身を寄せる屋敷の一室。

 デュオラスが、この世界に隠された冷酷なシステムについて解き明かしていく。

 それは、特殊な出自を持つ者たちに必ず現れる「欠落」という現象の真実だった。

 

「そうやって帳尻を合わせてくるんだ……それでちゃんと合っているのかは不明だけど……」

「……!」

 

 デュオラスの言葉を聞き、凪の額を冷たい汗が伝い、爪戯(つまぎ)は理解が追いつかず瞬きを繰り返した。

 

「オレ達ってことは……あんたも(・)?」

 

 爪戯が右手でデュオラスを指し示して問う。

 

「オレ? オレは──……」

 

 デュオラスは乾いた咳を一つこぼす。

 

「昔は確かに──……でも今は……」

「兄っ!!」

 

 デュオラスが核心に触れようとした瞬間、傍らのルリが鋭い声を上げてそれを遮った。

 

「それ以上は、まーた父の相手が面倒になるよ!?」

 

 ルリは大げさに頭を抱えながら叫ぶ。

 

「ああ……」

 

 デュオラスは気まずそうに冷や汗を流し、苦笑を浮かべる。

 

「ま、まあ……詳しくは言えないけど、オレも辛君達と同様で代償の対象者に入ってるよ」

 

 デュオラスは右手の人差し指を口元に当て、それ以上の言及を避けた。

 

「さっきから『達』って……辛君や兄さま以外にもいるってこと?」

 

 凪が違和感を逃さず、鋭く指摘する。

 

「そうだよ」

 

 デュオラスがあっさりと肯定する。

 

「アヴェルスさんヤナギ君、ルリとオレ、辛君に蛇神──……そして蛇神の娘禄(ろく)……」

「!!」

 

 並べられた名前に、辛、凪、爪戯の三人は驚愕に目を見張った。

 彼ら全員に、精神的あるいは肉体的な「何かが欠けている」という共通点が存在するのだ。

 

「その人達が逸脱者? というか逸脱って? 理? 結局どういうことなの?」

 

 情報の波に呑まれ、凪が混乱したように問い詰める。

 

「どうして辛君やトマト少年達は──……」

 

 凪の脳裏に、凄惨な欠落を抱えていたヤナギの姿がよぎる。

 辛は沈黙を保ち、自らの存在意義に関わる話を冷静に咀嚼しようとしていた。

 

 デュオラスはどこまで情報を開示するべきか、思考を巡らせながら言葉を選ぶ。

 

「アヴェルスさんとヤナギ君は同類……両親が神……」

 

 デュオラスが導き出した結論を口にする。

 

 神……!! そういや水神が親って言ってたね。

 

 爪戯は、かつてアヴェルスが水神ウルの子であると明かされた事実を思い出し、戦慄する。

 

 トマト少年も!?

 

 凪もまた、あの狂気的な少年が神の血を引いていた事実に驚愕し、思わず身を乗り出す。

 

 確かあの時……神は子供を作っちゃダメだって──……。

 

 凪は以前聞いた掟を思い返す。

 神は子を成してはならないという絶対のルールがある。だが、アヴェルスとヤナギはその禁忌を破って生まれた存在だ。

 

「辛君と蛇神は片親が妖……そして今回、敵だった禄は蛇神の娘……」

 

 デュオラスが淡々と事実を積み上げる。

 

「四分の一が妖で片親が神……その子供か」

「そうなるね」

 

 辛が論理的に整理し、デュオラスが肯定する。

 しかし、刀との共鳴の余波か、デュオラスの体調は徐々に悪化の一途を辿っていた。

 

「神は子を作ってはならないそれと同様に、人と妖の間にも子を作ることは許されていない」

 

 デュオラスは苦しげな呼吸を隠しながら、世界のルールを説明し続ける。

 

「……なるほど!」

 

 ここで爪戯が一本指を立て、腑に落ちたような表情を見せた。

 一方の凪は、いまだ要領を得ない様子だ。

 

「産まれてくる子供が、理ってのから外れるからってことか……!?」

「そう……」

 

 爪戯の推論に、デュオラスが頷く。

 神同士の子、あるいは人と妖の子。本来存在してはならない禁忌の存在がこの世界に留まるためには、代償として心身の「何か」を欠落させる必要があるのだ。

 

「あれ……? あんた達は?」

 

 爪戯が鋭く核心を突く。

 ここまで、デュオラスとルリ自身のルーツについては一切語られていない。

 

「オレ達は──……」

 

 デュオラスが言葉を紡ごうとした時。

 

「お兄ちゃん!!」

 

 ルリが、普段の彼女からは想像できないほど強い語気で叫び、その言葉を遮った。

 

「あ、違った! 今は兄って呼んでるんだった♪」

 

 ルリはわざとらしく舌を出し、右手を頭に当てておどけてみせた。

 彼女は現在、デュオラスを「兄」と呼び、辛のことを「お兄ちゃん」と呼んで区別している。

 

「ややこしいな」

 

 凪がすかさずツッコミを入れる。

 

「兄二人だもんな」

 

 爪戯もそれに同調する。

 

「あ……ああ……ごめん、つい」

 

 デュオラスは気まずそうに頬を掻いた。発熱による汗が額から止まらない。

 

「今はまだ駄目だよね……」

 

 デュオラスは、ルリの制止を受け入れ、申し訳なさそうに言葉を濁した。

 

「ちょっと!! 気になるんですけど!?」

 

 情報の寸止めを食らい、凪が勢いよく食って掛かる。

 

「ごめんね~こればかりは無理☆」

 

 ルリが軽い調子でかわす。

 

「そこをなんとか!」

「駄目♪」

 

 凪の懇願を、ルリが即座に笑顔で拒絶する。

 デュオラスは騒がしいやり取りを眺めながら、再び重い咳を漏らした。

 

「ほら、そろそろ兄を休ませないと!」

 

 ルリはそう言いながら凪の背中を押し、半ば強引に部屋から退出させようとする。

 爪戯と辛も、デュオラスの体調を察して静かに部屋を後にした。

 

「はい、終わり! みんな出て行くよ~」

「ちょっ」

 

 凪が抗議の声を上げるも虚しく、全員が廊下へと追い出され、ピシャリと扉が閉められた。

 一人残されたデュオラスは、咳き込みながらベッドに倒れ込む。

 

 確かに、うかつに話す内容じゃ……無かったね……。

 

 デュオラスは、高熱に侵される自らの特殊な身体構造を疎ましく思いながら、静かに思考を沈めていった。

 

 一方、部屋を追い出され、リビングへと移動した四人。

 

「ちょっとー!! 何よ! さっきのは!!」

 

 凪がいまだ納得いかない様子で声を上げる。

 

「洗いざらい吐いちまいな、楽になるぜ? かつ丼は自腹な。私は奢らんぞ」

 

 凪は刑事ドラマのような口調で、ルリに対する取り調べを開始した。

 当のルリは、悪びれる様子もなく笑顔でソファーに座っている。

 

「アップルパイが良いです!」

 

「デザート系ならあんみつだろ!」

 

 ルリの無邪気な要求に対し、凪がさらに食って掛かる。

 爪戯は傍らで二人の不毛なやり取りを眺め、困惑した表情を浮かべていた。

 

「そもそも、うち……難しいことよく分かってないの☆」

 

 ルリはわざとらしくウインクを決め、右手の拳をコツンと頭に当てる。

 

「こいつは極刑ものだわ」

 

 凪は右手の人差し指をルリに突きつけ、冷酷に言い放つ。

 

「いや~お父さま(ゴ―さま)にバレると相手にするのが面倒なのよ、口止めされてるし~」

 

 ルリはあっけらかんとした態度で、ゴータスからの口止めであることを明かした。

 

 そんな騒ぎを他所に、辛は椅子に深く腰掛け、静かに紅茶を飲みながら「あのアップルパイはまだ残っていないだろうか。また食べたい」と、ひどく場違いなことを考えていた。

 

「だから勘弁して、あんみつ奢るからさ~」

「なら許す」

 

 ルリが「あんみつ」という強力なカードを切ると、凪はあっさりと鉾を収めた。

 

「おい……」

 

 甘味に屈した凪の姿に、爪戯が思わず呆れ声を漏らす。

 

「それにさ、こーいうのは連載が続けばいずれ分かるって。連載が続けばな」

 

 ルリは、ふと虚空を見つめて意味深な言葉を口にした。

 

「やめろ! メタ発言!!」

 

 すかさず爪戯がツッコミを入れる。

 

「あー結局、謎が増えただけ~!」

 

 凪は床に崩れ落ちて嘆きの声を上げる。その傍らで、ルリは腹を抱えて笑っていた。

 

「辛は何か分かる?」

 

 騒ぎが落ち着いた頃合いを見計らい、爪戯が辛へと話題を振る。

 

「……いや」

 

 辛は短く否定の言葉を返す。

 それからしばらくの時間が経った後、辛はふと窓の外へと視線を向けた。

 彼の研ぎ澄まされた感覚が、屋敷へと近づく未知の気配を捉えたのだ。

 

 建物の外。夕闇に紛れて屋敷に近づいてくる一つの影。

 それは、ヒユとアナナスを抱えたシロホンの姿だった。

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