半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】 作:神野あさぎ
No.148「未回収」
時はそれより少し遡る。
闇神である
その三人の背中を追って、ヒユが息を切らして駆け寄る。
「ま……待て!」
ヒユが声を上げ、真白が静かに振り向いた。
「お前、あの人の妹なんだろ? 兄貴と話してたみたいだが……」
ヒユは過去に、真白の姉である「あかね」と出会っている。
そして真白は屋敷を立つ直前、シロホンと言葉を交わしていた。ヒユは物陰からその光景を見ていたのだ。
「『自分が悪い』とただそれだけ」
真白は、シロホンとの会話の内容を感情を交えずに端的に答えた。
真白の前を歩いていた玄と翠も歩みを止め、振り返って二人のやり取りを見つめている。
……あいつ……。
ヒユは、自責の念を抱え込む不器用な兄・シロホンの性格を思い、奥歯を噛み締めた。
「あの……あれは……本当に悪い奴は、別に存在していて──……」
ヒユは、あかねを死へ追いやるよう唆した真の黒幕の存在を匂わせた。
「だから……」
さらに言葉を続けようとした、その刹那。
唐突に一条の光線が放たれ、間に割って入った玄が影の壁を形成してそれを防いだ。
「話はあとでお願いしますよって」
「!?」
展開した影の壁を背にして、玄が平然と言い放つ。
ヒユの額を、一筋の冷や汗が伝った。
光線を放った襲撃者が、ゆっくりと姿を現す。
神の刺客である手下の一人だ。
「闇神、玄──……」
手下は影の壁に向かって右手の人差し指を突きつけ、声を張り上げた。
「神の命令によりその『シン』を回収させてもらいます!」
明確な殺意と強奪の意志が告げられる。
◇
一方その頃、神の拠点を見つけるための独自調査に出ていたシロホン達。
「あの
シロホンが声を荒げて叫んだ。
同行していたアナナスからヒユの単独行動の報告を受け、シロホンは怒りに任せて拳を強く握りしめた。
アナナスはその傍らで大量の冷や汗をかいている。
「なんで勝手に動き回る!!」
シロホンは悪態をつき、即座に決断を下す。
「調査中止だ、行くぞティー」
「流石ブラコン! ってなんでオレまで!?」
近くにいたティーの首根っこを掴むように声をかけ、シロホンは踵を返した。
ティーは理不尽な巻き添えにすかさずツッコミを入れる。
◇
伍の国の街中。
鮫神の目の前に鍵神と竜神が立ち塞がり、
「う~ん」
「どうした?」
能力を行使し、遠方の状況を感知していた竜神リューが唸り声を上げた。
傍らの鍵神が訝しんで問う。
「先に行ってて。その箱、届けなきゃなんでしょ? ちょっと用事が出来たんで、鍵神は鮫神の監視ね」
リューは振り返り、悪びれる様子もなく告げた。
鮫神が背負う箱の運搬と監視を鍵神に押し付け、リューは単独で別の場所へと向けて跳躍した。
◇
再び、玄達の戦場。
神の手下が右手をかざし、次々と光線を放つ。
玄の操る影の壁が、それらの攻撃をいとも容易く防ぎ続けていた。
「狙いはオレ。キミ達は逃げて」
壁を背にしたまま、玄が背後の三人に指示を出す。
敵の標的は、離反した闇神のシンのみだ。
「しかし!」
翠が叫ぶ。
真白とヒユも冷や汗を流し、その場から動けずにいる。
「大丈夫。どうせ」
玄は余裕の表情を崩さず、右手を軽く振るう。
「やることないよ、的な」
言葉と共に影の壁の形態を鋭い槍へと変化させ、手下の胴体を一撃で貫いた。
手下は大量の血を撒き散らしながら、後方へと吹き飛ばされる。
あまりにもあっけない幕切れに、翠、真白、ヒユの三人は思考が追いつかず、ただ呆然と立ち尽くした。
「え……ええ、えええ!?」
翠とヒユの口から、間抜けな声が漏れる。
「まだ安心は出来ない」
玄は倒れた敵から視線を外し、三人へ向き直って言った。
「他に仲間が潜んでいるかも。まだ狙ってくる可能性がある、だから早く……」
いつもの緩く軽い態度は消え去り、真剣な眼差しで退避を促す。
「逃げ……」
玄が言葉を紡ごうとしたその瞬間。
彼の背中、腰の辺りに不可視の凶弾が撃ち込まれ、鮮血が宙を舞った。
「!!」
三人の眼が驚愕に見開かれる。
玄は顔を顰め、撃たれた傷口を塞ぐように手を当てて片膝をついた。
「流石に神相手に、一般の能力者じゃ……簡単に倒されちゃうよね」
玄の後方から、足音もなく歩み寄る影。
その足元には、先程玄が容易く倒した手下が血の海に沈んでいた。
「……!」
その影の正体を捉え、玄の全身から一気に冷や汗が噴き出す。
「だから大急ぎでやって来たよ」
無邪気な微笑みを浮かべながら現れたのは、竜神リューだった。
「竜神!!」
玄は危機感を露わにして叫んだ。
「う~ん。ま、負けるこいつが悪いんだけどね」
リューは事切れた味方をゴミのように見下ろし、平然と歩みを進める。
次の瞬間、上空の死角からリューの背後を強襲する影があった。シロホンだ。
蹴撃。
シロホンの左脚が、凄まじい速度でリューの首筋を捉える。
「ちっ」
しかし、シロホンは直後に舌打ちをした。
リューが瞬時に展開した「盾」の能力によって、必殺の一撃は完全に弾かれていた。
「相変わらず硬いな……」
シロホンは態勢を立て直し、リューから大きく距離を取る。
「吸血鬼か」
リューは横目でシロホンを一瞥し、興味なさそうに言った。
「げっ兄貴」
突如現れた兄の姿に、ヒユが思わず声を漏らす。
「ほら! 今のうちに逃げるぞ!」
「!?」
そこへ、管を咥えたティーがアナナスを連れて上空から降り立ち、四人へ向けて叫んだ。
「次から次へと……」
次々と現れる乱入者に、翠が頭を抱えてツッコミを入れる。
ヒユは肩をびくつかせ、事態の急変に狼狽していた。
「あんな能力デパートに勝てるわけないし、有効打は取れないし」
「でぱーと?!」
ティーがリューの異常な戦力を見据えて的確な評価を下す。
その横文字に、ヒユが思わず反応した。
ん……? 岩・氷・音・呪いに盾……そして撃ち抜く技──……シンの容量が異常に多いのか……?
ティーは、これまでにリューが見せてきた多彩すぎる能力を思い返し、論理的な思考を巡らせる。
神とはいえ、一人の人間が保有できるシンの容量には限界があるはずだ。
なんだこの違和感は──……。
ティーはリューの背中を見つめ、底知れぬ不気味さを感じ取っていた。
「……」
その時、リューの視線が不意にティーの方へと向けられた。
あの蝙蝠が口にしているのは……あれは──……。
リューの目に留まったのは、ティーが常に口に咥えている管だった。
何かを閃いたのか、リューの口角が不気味に釣り上がる。
「水神」
リューはシロホンたちを前にして、唐突にその名を口にした。
「どうせ暇してるんでしょ? おいでよ」
リューは前を見据え、遠く離れた
拾の国の一室。
入浴を終え、濡れた髪をタオルで拭いていた水神ウルは、遠隔から届いたその声に反応して薄く笑った。
「しょうがないですね、リュー君の頼みとあっては……行くしかないね」
ウルは水滴を滴らせたまま、最悪の戦場へ赴くことを楽しげに言い放った。