半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】 作:神野あさぎ
脳のリミッターも、成程……。
ウルに対峙する
だから強化されたオレの攻撃も、簡単に防げたのか。
かつて
これは確かに……。
玄が戦況を分析する間にも、ウルは容赦なく
翠の苦悶に満ちた悲鳴が戦場に響く。
「翠!!」
玄が叫ぶ。
地味に厄介……!
玄は内心で、物理法則すらねじ伏せる枷外しの能力を極めて厄介な代物だと再評価する。
状況を打破すべく、玄は強く地を蹴って踏み込んだ。
「やめろ!!」
玄がウルの暴挙を制止しようと叫ぶが、ウルは玄を一瞥しただけで、空いた右手で鋭利な氷を生成する。
「やめろ? やめるわけ──……」
ウルは口端を歪めながら、生成した氷を翠の右腕へと無慈悲に突き刺した。
「ぐああっ」
翠から悲痛な叫びが上がる。
さらにウルは、翠の腕に深々と刺さったその氷を支柱代わりにして、軽やかに跳躍した。
「ないですよ」
ウルは空中から、玄の腹部へ重い回し蹴りを叩き込む。
「っ……!」
玄は肺の空気を強制的に吐き出され、顔を歪めた。
その凄惨な光景を、少し離れた位置からティーが観察している。
茨に捕らわれ、物理的な身動きが一切取れない状況。
「!!」
オレもなんかしないと……!
ティーは拘束下でも可能な手立てを高速で思考する。
音で──……。
ティーはそう結論づけ、能力を発動させるべく口を動かした。
「!!」
出せない……?
ティーは背筋に凍るような悪寒を覚えた。
能力の要である歌が、声帯から全く出力されない。
「呪いか!!」
ティーは焦燥を滲ませ、声を荒げて事態の異常性を口にした。
彼の前に立ち塞がるリューが、静かに視線をティーの方へ向ける。
「正解。オレの呪いで君の能力は封じたよ」
リューの呪いの能力により、ティーの生命線である音の能力は完全に封殺されていた。
「ってか」
リューは不敵な笑みを浮かべ、淡々と口を開く。
「捕まる君が悪い」
いや……。
「複製物なんかにされた時点で──……売られたか捕まったかは知らないけど」
リューは再びティーに背を向け、冷徹な事実だけを突きつける。
「神の実験に使われるような君が悪い」
リューはため息交じりに吐き捨てた。
ティーは反論できず、無言でその言葉を受け止める。
「もっとも、そこに関しては
リューはふと空を見上げた。
その双眸には、哀愁が微かに混じっていた。
「……」
ティーは、予想外の感傷を見せたリューの横顔を静かに見つめる。
「……!!」
こいつ、もしかして──……。
ティーの脳内で、リューという存在に関する一つの仮説が立ち上がる。
だからあの能力量なのか──……!
散らばっていた情報が繋がり、ティーは戦慄した。
「う~ん。ただ待つのもなんだかなあ……」
リューは空気を変えるように、少し退屈そうな声音で呟く。
彼は振り返ると、ティーの右膝へ静かに拳を当てた。
乾いた音と共に、ティーの身体にヒビが入る。
「少し壊してしまおう」
リューは微かに微笑んで宣告した。
放っておいてもいずれ自壊する運命にある体。
だがリューは、暇潰しのように能動的な破壊を選択した。
「っ!!」
こいつ……!!
ティーは激痛に耐え、己の無力さを呪う。
その頃、ウルに蹴り飛ばされた玄は、砂埃を巻き上げながら地面を滑っていた。
「さてと……」
ウルは作業を再開するように呟き、翠の頭を無造作に掴んで持ち上げる。
そして、虫でも扱うかのように翠の身体を空中へと放り投げた。
空中に浮かんだ翠を囲むように、巨大な氷の立方体が急速に形成される。
立方体の内部には頭一つ分の空気の層だけが残され、それ以外の空間は冷たい水で完全に満たされていた。
翠は右腕から血を流しながら、呼吸を確保するために必死で空気の層へと顔を出す。
「しっかり立ってないと溺死しちゃうよ? その前に出血死かな?」
ウルは右手の人差し指を立てて頬に当て、楽しげに観測する。
「……っ、こいつ……!!」
水責めか!!
翠は水の中で必死に呼吸を繋ぎながら、敵の残虐な手口を認識する。
「翠!!」
腕を潰したのは札を貼らせない為でもあるのか──……!
玄が上体を起こし、敵の意図を瞬時に分析する。
片腕をへし折り、もう一方の腕に氷を刺して動きを封じたのは、閉じ込めた氷柱から脱出させないための理知的な布石。
呪いの媒介である札すら封じる、完璧な拘束だった。
「待ってろ! 今助ける!!」
玄は地を蹴り、深い焦燥と共に駆け出す。
「オレは追い込まれた方が、強くなる!!」
玄は影の刃を固く握り直し、ウルへと肉薄する。
「知ってるよ」
ウルは微笑みながら、迫る刃から逃げようともしない。
鮮血が舞った。
ウルの胸に玄の刃が深々と届く。
「ああ……ありがとうございます」
ウルは口の端から血を流しながらも、恍惚とした表情で言い放った。
「これはお礼ですよ」
そう呟くと同時に、ウルは玄の右腕に氷を数箇所生成し、容赦なく貫いた。
「ぐあっ」
玄の短い悲鳴が上がる。
「此処じゃ駄目ですよ」
ウルは自らの胸に刺さった玄の刃を素手で握り、無造作に引き抜いて捨てた。
「オレを殺すなら、即死狙いの頭でしょ」
ウルは胸の致命傷など微塵も気に留めていない。
むしろ、刻まれた痛覚に人間らしい喜びすら覚えているようだった。
彼は自らの左手の人差し指をこめかみへと向け、挑発的に微笑む。
玄は氷に貫かれた右腕を左手で押さえ、無念に塗れながら膝を地面についた。