半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】   作:神野あさぎ

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No.160「襲撃者」

 参(さん)の国。

 軍事力強化を推し進め、他国への侵攻を頻繁に行って来た歴史を持つ軍事国家。

 その首都郊外。

 

 一行は、モドキの召喚喚起の能力を駆使してその地に舞い降りた。

 

「此処に目当てがいるのは、本当?」

 

 凪(なぎ)は隣に立つセーブルに問う。

 セーブルはしばし沈黙していた。

 

「丁度、来たみたいだ」

「!?」

 

 セーブルは悪魔『死神』のマナを宿した人間であり、特化された優れた視覚機能を有している。

 首都内の異変を感知し、そう告げた。

 

 直後、街が巨大な音を立てて爆発した。

 

 轟音が鳴り響き、大気を震わせて肌へと伝わる。

 

 爆発は連鎖的に起きていく。

 

「な……何が……」

 

 凪は何が起きているのか分からず、素直な疑問を口にする。

 セーブルには、この一連の事件の元凶が燦秋(さんしゅう)であることが分かっていた。

 ゆえに、燦秋の傍にヴァートが居ることを確信していた。

 

「早く助け出さないと!」

 

 セーブルはそう言い残し、地を蹴って街へと駆けて行った。

 

「あっちょっと!」

 

 凪がすかさず反応する。

 モドキの顔にも冷や汗が流れた。

 

「オレ達も急ぐぞ!」

 

 シロホンが軽く振り返って指示を出す。

 

「は~~~~~~っ」

 

 モドキは大きなため息をついた。

 しかし直後、モドキの知覚が明確な脅威を捉える。

 

「ご主人様! 何か来ま……」

 

 モドキが言葉を言い終えるより早く、アヴェルスの胸を、ポニーテールの少女の右腕が貫いていた。

 アヴェルスはそのままの勢いで後方へと突き飛ばされる。

 

 轟音と共に土煙が舞った。

 

「!!」

 

 辛(かのと)、爪戯(つまぎ)、凪、シロホン、そしてモドキは、一斉にアヴェルスの吹き飛んだ方向を向いた。

 

「ふふふ……」

 

 アヴェルスを沈めた少女が、四人と一匹のもとへと悠然と歩み寄る。

 少女の名はケイ。

 

「一人始末出来ました! エン様!!」

 

 ケイの右手からは硬質化した爪が伸びており、そこにはアヴェルスの鮮血がべっとりと付着していた。

 ケイは左手を額に当てて、何者かへ向けて報告の言葉を発した。

 

 爪戯と辛は、眼前の少女が敵であることを明確に認識し、警戒を最大まで引き上げる。

 

「さて、残りも……」

 

 ケイが低く呟く。

 凪の背筋に冷たい汗が流れた。

 再びモドキの知覚が反応する。

 

 モドキは咄嗟にケイと爪戯の間にシャチの魔物を召喚し、肉の壁を作り出した。

 ケイの右手の爪は、そのシャチの巨体を深々と貫いていた。

 

「ん!?」

 

 ケイは微笑みを浮かべていたが、己の攻撃が阻まれたことに違和感を覚える。

 

「!!」

 

 爪戯は一拍遅れて目を見開いた。

 ケイは素早く後退し、一行との距離を取る。

 

 一瞬で間合いを詰められたという事実を、爪戯は冷静な思考で分析する。

 ケイと一行の間には、明確な距離が存在していた。

 それにも関わらず、認識の隙を突くように眼前に現れた。

 

 もしモドキが反応してシャチの壁を作らなければ、貫かれていたのは自分だったと、爪戯は正確に状況を理解した。

 

「みんなは先に行ってて」

 

 モドキが口を開く。

 

「こいつの相手は、『おれ達』がする……」

 

 モドキはケイと一行の間へと進み出て、そう宣言した。

 

「大丈夫なの!?」

 

 凪が心配から声を上げる。

 シロホンと辛は無言のまま、戦況の推移を冷徹に把握していた。

 

「大丈夫。この手の空間移動能力ってのはさ、こっちの専売特許だっての!!」

 

 モドキは自信満々に言い放つ。

 間合いを一瞬で詰めたケイの手法を、空間移動系の能力であると見抜いていた。

 召喚喚起の能力を応用した空間移動は、モドキ自身も得意とする戦術である。

 

 モドキは自らの能力で一瞬にして間合いを詰め、ケイへ体当たりを敢行した。

 ケイは即座に反応し、両腕を交差させてその衝撃を受け止める。

 

「ここは任せて行くぞ」

 

 その隙を突き、シロホンが踵を返す。

 眼前の街へと向かうべく駆け出した。

 

「う、うん」

 

 凪も頷き、その後を追う。爪戯と辛もそれに続いた。

 

「成程、貴方も移動系が使えるということですね?」

 

 ケイは眼前のモドキを目掛けて右手を鋭く振るう。

 硬質な爪が到達する瞬間、モドキは能力を発動させて空間を跳び、間合いを外した。

 

「まあ、似たようなもんかな」

 

 距離を取ったモドキが冷静に応じる。

 その直後、ケイの背後にアヴェルスが現れた。

 その手には、金属生成の『シン』を用いて生み出された槍が握られている。

 

 空を裂く一閃。

 

「かはっ」

 

 ケイは反応を見せたが完全に避けきることは出来ず、薙ぎ払われた槍の穂先が背中を深くかすめた。

 鮮血が宙を舞う。

 

「何故……!? 殺した筈……!」

 

 ケイは振り返りながら後方へ跳び、アヴェルスとの距離を確保する。

 

「ああ……刺してくれて、ありがとうございます」

 

 アヴェルスは貫かれた胸元に右手を当て、恍惚とした表情で言い放つ。

 胸部の傷口からは血が流れ続け、アヴェルスの軍服とシャツをどす黒く染め上げていた。

 

「……!? どうして……!?」

 

 ケイは驚愕に目を見開き、冷や汗を流す。

 アヴェルスは悪魔『吸血鬼』のマナを宿した人間である。

 その肉体は、定期的に他者の血液を摂取するという代償と引き換えに、致命傷すら修復する強靭な再生能力を獲得している。

 

 決して不死なる超越者ではないが、並の物理攻撃では容易に機能停止しない。

 しかし、その生物学的な特性の情報を、ケイは有していなかった。

 

 ◇

 

 首都の中。

 瓦礫が散乱し、土煙が舞う中に燦秋の姿があった。

 人々が逃げ惑い、絶望の悲鳴を上げる。

 その惨状の中、燦秋のもとへと歩み寄る長身の男がいた。

 ケイが戦場で口にした、エンと呼ばれる男である。

 

「本当か? 復活させるというのは」

 

 エンは右手を腰に当て、燦秋に問いかける。

 

「うん、任せてよ!」

 

 燦秋はエンを見上げて答えた。

 燦秋の傍らには、異様な存在感を放つ巨大な箱が置かれている。

 

「今から太陽神の封印を解く──……」

 

 燦秋は不敵な微笑みを浮かべ、そう言い放った。

 

 参の国の軍人達が動き出す。

 燦秋とエンを危険分子と判断し、周囲から駆け寄って包囲陣を形成した。

 

 燦秋が面倒そうにため息をつくと、エンは『シン』によって炎を現出させ、迫る軍人達を無慈悲に焼き払っていく。

 

 断末魔の悲鳴と、肉の焼ける異臭が周囲に立ち込める。

 

「あはは、あははははは!」

 

 狂気を孕んだ燦秋の笑い声が、崩壊する街に木霊した。

 

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