半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】 作:神野あさぎ
軍事力強化を推し進め、他国への侵攻を頻繁に行って来た歴史を持つ軍事国家。
その首都郊外。
一行は、モドキの召喚喚起の能力を駆使してその地に舞い降りた。
「此処に目当てがいるのは、本当?」
セーブルはしばし沈黙していた。
「丁度、来たみたいだ」
「!?」
セーブルは悪魔『死神』のマナを宿した人間であり、特化された優れた視覚機能を有している。
首都内の異変を感知し、そう告げた。
直後、街が巨大な音を立てて爆発した。
轟音が鳴り響き、大気を震わせて肌へと伝わる。
爆発は連鎖的に起きていく。
「な……何が……」
凪は何が起きているのか分からず、素直な疑問を口にする。
セーブルには、この一連の事件の元凶が
ゆえに、燦秋の傍にヴァートが居ることを確信していた。
「早く助け出さないと!」
セーブルはそう言い残し、地を蹴って街へと駆けて行った。
「あっちょっと!」
凪がすかさず反応する。
モドキの顔にも冷や汗が流れた。
「オレ達も急ぐぞ!」
シロホンが軽く振り返って指示を出す。
「は~~~~~~っ」
モドキは大きなため息をついた。
しかし直後、モドキの知覚が明確な脅威を捉える。
「ご主人様! 何か来ま……」
モドキが言葉を言い終えるより早く、アヴェルスの胸を、ポニーテールの少女の右腕が貫いていた。
アヴェルスはそのままの勢いで後方へと突き飛ばされる。
轟音と共に土煙が舞った。
「!!」
「ふふふ……」
アヴェルスを沈めた少女が、四人と一匹のもとへと悠然と歩み寄る。
少女の名はケイ。
「一人始末出来ました! エン様!!」
ケイの右手からは硬質化した爪が伸びており、そこにはアヴェルスの鮮血がべっとりと付着していた。
ケイは左手を額に当てて、何者かへ向けて報告の言葉を発した。
爪戯と辛は、眼前の少女が敵であることを明確に認識し、警戒を最大まで引き上げる。
「さて、残りも……」
ケイが低く呟く。
凪の背筋に冷たい汗が流れた。
再びモドキの知覚が反応する。
モドキは咄嗟にケイと爪戯の間にシャチの魔物を召喚し、肉の壁を作り出した。
ケイの右手の爪は、そのシャチの巨体を深々と貫いていた。
「ん!?」
ケイは微笑みを浮かべていたが、己の攻撃が阻まれたことに違和感を覚える。
「!!」
爪戯は一拍遅れて目を見開いた。
ケイは素早く後退し、一行との距離を取る。
一瞬で間合いを詰められたという事実を、爪戯は冷静な思考で分析する。
ケイと一行の間には、明確な距離が存在していた。
それにも関わらず、認識の隙を突くように眼前に現れた。
もしモドキが反応してシャチの壁を作らなければ、貫かれていたのは自分だったと、爪戯は正確に状況を理解した。
「みんなは先に行ってて」
モドキが口を開く。
「こいつの相手は、『おれ達』がする……」
モドキはケイと一行の間へと進み出て、そう宣言した。
「大丈夫なの!?」
凪が心配から声を上げる。
シロホンと辛は無言のまま、戦況の推移を冷徹に把握していた。
「大丈夫。この手の空間移動能力ってのはさ、こっちの専売特許だっての!!」
モドキは自信満々に言い放つ。
間合いを一瞬で詰めたケイの手法を、空間移動系の能力であると見抜いていた。
召喚喚起の能力を応用した空間移動は、モドキ自身も得意とする戦術である。
モドキは自らの能力で一瞬にして間合いを詰め、ケイへ体当たりを敢行した。
ケイは即座に反応し、両腕を交差させてその衝撃を受け止める。
「ここは任せて行くぞ」
その隙を突き、シロホンが踵を返す。
眼前の街へと向かうべく駆け出した。
「う、うん」
凪も頷き、その後を追う。爪戯と辛もそれに続いた。
「成程、貴方も移動系が使えるということですね?」
ケイは眼前のモドキを目掛けて右手を鋭く振るう。
硬質な爪が到達する瞬間、モドキは能力を発動させて空間を跳び、間合いを外した。
「まあ、似たようなもんかな」
距離を取ったモドキが冷静に応じる。
その直後、ケイの背後にアヴェルスが現れた。
その手には、金属生成の『シン』を用いて生み出された槍が握られている。
空を裂く一閃。
「かはっ」
ケイは反応を見せたが完全に避けきることは出来ず、薙ぎ払われた槍の穂先が背中を深くかすめた。
鮮血が宙を舞う。
「何故……!? 殺した筈……!」
ケイは振り返りながら後方へ跳び、アヴェルスとの距離を確保する。
「ああ……刺してくれて、ありがとうございます」
アヴェルスは貫かれた胸元に右手を当て、恍惚とした表情で言い放つ。
胸部の傷口からは血が流れ続け、アヴェルスの軍服とシャツをどす黒く染め上げていた。
「……!? どうして……!?」
ケイは驚愕に目を見開き、冷や汗を流す。
アヴェルスは悪魔『吸血鬼』のマナを宿した人間である。
その肉体は、定期的に他者の血液を摂取するという代償と引き換えに、致命傷すら修復する強靭な再生能力を獲得している。
決して不死なる超越者ではないが、並の物理攻撃では容易に機能停止しない。
しかし、その生物学的な特性の情報を、ケイは有していなかった。
◇
首都の中。
瓦礫が散乱し、土煙が舞う中に燦秋の姿があった。
人々が逃げ惑い、絶望の悲鳴を上げる。
その惨状の中、燦秋のもとへと歩み寄る長身の男がいた。
ケイが戦場で口にした、エンと呼ばれる男である。
「本当か? 復活させるというのは」
エンは右手を腰に当て、燦秋に問いかける。
「うん、任せてよ!」
燦秋はエンを見上げて答えた。
燦秋の傍らには、異様な存在感を放つ巨大な箱が置かれている。
「今から太陽神の封印を解く──……」
燦秋は不敵な微笑みを浮かべ、そう言い放った。
参の国の軍人達が動き出す。
燦秋とエンを危険分子と判断し、周囲から駆け寄って包囲陣を形成した。
燦秋が面倒そうにため息をつくと、エンは『シン』によって炎を現出させ、迫る軍人達を無慈悲に焼き払っていく。
断末魔の悲鳴と、肉の焼ける異臭が周囲に立ち込める。
「あはは、あははははは!」
狂気を孕んだ燦秋の笑い声が、崩壊する街に木霊した。