半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】   作:神野あさぎ

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No.161「道のり」

「さあ……キミ達は、悪魔の相手でもしておいで──……」

 

 参(さん)の国の首都内で、哄笑(こうしょう)を終えた燦秋(さんしゅう)はエンに向けて指示を出す。

 戦力を二手に分け、悪魔のマナを持つ者達の迎撃と、太陽の能力──『シン』を持つ人間の解放を並行して進める腹積もりのようだ。

 

 一方、凪(なぎ)達の視点。

 爆発によって建造物は無残に崩れ去り、一行は瓦礫が散乱する悪路の中を先へと進んでいた。

 

「にしても、なんで爆破を?」

 

 凪は首を傾げながら駆ける。

 

「さあ……?」

 

 爪戯(つまぎ)も凪と並走しながら、敵の真意を図りかねて首を振る。

 前衛をシロホンが担い、後衛として辛(かのと)が続く陣形をとっていた。

 

「恨みでもあるんじゃね?」

「ふーん」

 

 爪戯が推測を口にし、凪は気乗りしない返事を返す。

 燦秋が参の国を標的にしているという情報は得ていたが、彼がこの地に固執する論理的な理由までは判明していなかった。

 

 突如、上空から一人の男が拳を振り下ろしつつ急降下してきた。

 シロホンは咄嗟に凪を抱え上げてその一撃を躱す。

 爪戯と辛も即座に後方へと跳び、距離を確保した。

 

 舞い降りた男の顔は、黒い仮面に覆い隠されている。

 

「ぼさっとすんな!」

 

 シロホンが振り向き辛と爪戯に向かって叫んだ。

 粉塵が舞う中、仮面の男がゆっくりと姿勢を正す。

 

 その瞬間、辛の鋭敏な感覚が空気中に混じる毒物の存在を感知した。

 

「毒だ!!」

 

 辛は短く警告を発する。

 

 妖の因子を持つ辛自身には通用しないが、同伴する凪や爪戯といった人間には致命的な脅威となる。

 もっとも、シロホンは悪魔『吸血鬼』のマナを宿した人間であり、細胞を急速に再生させる強靭な肉体機能を有しているため、毒物によって絶命することはない。

 

「チッ」

 

 シロホンが鋭く舌打ちを鳴らす。

 抱えていた凪を安全な場所へ下ろすと同時に仮面の男へと肉薄し、重い右蹴りを叩き込んだ。

 

「こいつの相手は、オレがする!!」

 

 シロホンが声を張り上げる。

 

 この局面に置いて、毒の中での戦闘を継続できる者は辛かシロホンしか存在しない。

 論理的な帰結として、シロホンは自らが殿(しんがり)を務める選択を下した。

 

「お前らはあの眼帯と合流しろ!」

 

 シロホンは叫びながら地面を思いきり蹴った。

 大量の土煙が舞い視界を覆う。

 

「!!」

 

 その隙を突き、凪たちは直ちにその場から離脱し、セーブルとの合流を目指して駆け出した。

 

 立ち込めていた粉塵が徐々に晴れ、視界が明瞭になる。

 シロホンと対峙したまま、仮面の男は静かにため息をついた。

 

「ふーん……悪魔が相手になってくれるとは……好都合──……」

 

 毒性を帯びた大気の中、仮面の男がシロホンを見据えて呟く。

 シロホンもまた、眼前の敵から視線を外さず臨戦態勢を維持していた。

 

 同じ頃、アヴェルスとモドキの戦域。

 

 彼らと対峙するケイは、致命傷を与えたはずのアヴェルスが生存しているという事実に疑問を抱いていた。

 

「どうして……まあ、良いです」

 

 ケイは思考の片隅に湧いた疑念を切り捨てる。

 地を蹴り、一気に間合いを詰めようと動いた。

 

「もう一度殺すまで!!」

 

 ケイは叫びと共に右手の爪を硬化させ、鋭く伸ばす。

 その凶刃で対象の急所を貫く算段であった。

 しかし、アヴェルスは不敵な微笑を崩さない。

 

 ケイはアヴェルスの挙動を察知した。

 

「ありがとうございます!」

 

 アヴェルスは生成した金属の槍を鋭く突き出し、接近するケイを迎撃する。

 

 しかし、冷たい金属の穂先は空を突いた。

 眼前にいたはずのケイの姿が、瞬時に掻き消えたのだ。

 

「!! 消えた……何処に……」

 

 アヴェルスは辺りを見渡しケイを探す。

 

「後ろです! ご主人様!!」

 

 後方で待機していたモドキが声を張り上げる。

 

 アヴェルスが振り返るより早く、ケイの右手が振り下ろされ、アヴェルスの左肩から斜め下へと深い裂傷を刻み込んだ。

 

 大量の鮮血が宙を舞う。

 

「って言わなくても、大丈夫か」

 

 モドキは自らの警告が不要であったと悟り、楽観的な口調で独りごちた。

 

 アヴェルスはマナによる超常的な細胞再生能力を獲得した悪魔である。

 それに加えて、自らの肉体が損なわれる感覚すらも悦びへと変換する異常な精神構造を持っていた。

 

「ははは……」

 

 アヴェルスは左手を傷口に当てて笑う。

 思わずケイは一歩後ずさる。

 

「残念。オレは不死だ」

 

 アヴェルスはケイを見下ろしながら言い放つ。

 刻まれた傷口は既に細胞の結合を始めており、攻撃を受けるという被虐の事象そのものが彼にとっての快楽として機能していた。

 

「でもまあ、良いね! こんなにも攻撃をくれるなんて。嬉しくて嬉しくて、拷問にかけたくなっちゃうな」

 

 アヴェルスは狂気を孕んだ笑みを浮かべ、右手の槍を掲げながら、左手で自身の傷口を愛おしむように撫でる。

 

 怪我を享受することも好むが、他者の肉体を破壊し苦痛を与える行為をそれ以上に好む。

 それがアヴェルスという人間の本質であった。

 

「…………」

 

 ケイは一瞬硬直し沈黙していた。

 

「ってな訳で行くぜ!? ってか」

「!!」

 

 アヴェルスは右手の槍を構えケイに肉薄しようとした。

 

「残念ですけど~」

「!!」

 

 ケイは不敵に微笑みながら言葉を紡いだ。

 アヴェルスは目を見開いた。

 

「届きませんよ?」

「!!」

 

 ケイが冷酷に言い放つ。

 アヴェルスはケイを目掛けて疾駆するが、直後、己の視覚情報と肉体感覚の齟齬に気が付いた。

 

 ……なんだ? 距離が縮まらない──……!?

 

 いかに脚力を振り絞り前進しようとも、標的であるケイへの物理的な距離が一切縮まらない。

 

 眼前に立つケイは、『道の能力』を与えられた道の神。

 そしてその能力は、空間上の距離や道のりを自在に操作する事象改変の力を有している。

 一瞬で間合いを詰めることも、逆に相対する者との間に無限の距離を錯覚させることも可能であった。

 

「……」

 

 その様子をモドキが後方でじっと見ていた。

 

「ご主人様を、奴のもとへ──……召喚」

 

 ケイの能力によって進行を阻まれるアヴェルスに対し、モドキが自らの能力を行使する。

 

 空間上の距離という概念そのものを無視し、アヴェルスの肉体を直接ケイの背後へと召喚喚起した。

 現出と同時、アヴェルスが握る槍の石突が、死角からケイの背中を強烈に突き飛ばす。

 

「!? どうして後ろに!?」

 

 ケイの眼が驚愕に見開かれ、苦悶の息が口から漏れた。

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