半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】   作:神野あさぎ

47 / 62
No.47「塩石化」

 塩神(しおがみ)(かのと)を見下ろし、口を開く。

 

「半人半妖の……どうにも妖に縁があるなあ……あ~やだやだ」

 

 塩神は大きくため息をついた。

 かつて茶屋で遭遇した時と同じ、気だるげで、しかし底知れぬ圧力を秘めた吐息だった。

 

「どうする? しおにい~あの王様には人質は利かなかったけど、あのお兄さん達には利くんじゃない?」

 

 石神(いしがみ)が微笑みながら言い放った。

 無邪気な笑顔の裏には、人を人とも思わない神特有の傲慢さが透けて見える。

 

「人質にする必要性がない。全員此処で始末する」

 

 冷淡に告げ、塩神が右手を掲げかけた時だ。

 石神が何気なく振り返り、(なぎ)を捕らえていたはずの岩の手を見た。

 

「あ。居ない」

 

 拘束していたはずの凪が消えている。

 直後、辛と爪戯(つまぎ)の背後で土煙が上がった。

 凪だ。

 

「痛っ~」

 

 凪は尻餅をついていた。

 その様子を(きゅう)は黙って横目で見ている。

 玖の文字が書かれた布で顔を覆っている為、表情は相変わらず見えないが、その瞳は事の成り行きを冷静に観察しているようだった。

 

『うん、なんとか救出出来たぜ』

「ナンナノ、コイツハ」

 

 凪を救出したのはスズノだった。

 隙を突き、一瞬で移動させたのだ。神の認識速度すら上回る早業だった。

 

「!!」

 

 塩神(しおがみ)の目が見開かれる。

 

「任せて! うちが()る」

 

 石神が右手を前に突き出し、無数の『石』を射出する。

 (つぶて)となった殺意の塊が襲い掛かるが、辛は金属生成で剣を生み出し、一閃した。

 硬質な音が響き、弾かれた石片が床に散らばる。

 辛が踏み出す。

 神々へ向かい、間合いを詰めようとした、その時──。

 

「しょーがないね」

 

 石神は短く放ち、額へと手を伸ばす。

 貼られていた絆創膏が剥がされ、そこには異様な輝きを放つ第三の眼が露わになっていた。

 

 視線が交錯し、辛は動きを止めた。

 脚の方から『石化』が始まる。

 皮膚が灰色に変色し、生体組織が急速に鉱物へと置換されていく。

 爪戯が愕然と目を見開く。

 絶体絶命の危機。しかし、辛は冷静に一言だけを発した。

 

「……眼」

 

 たった一言。

 だがそれを爪戯が受け取った。

 その言葉の意味を、意図を、瞬時に理解する。

 

 辛の石化が進み、残りは頭部だけになった。

 完全に動きを封じられた彫像と化す寸前。

 石神が歩み寄る。

 

「さて……残りは後ろ」

 

 石神の額の第三の眼が、ぎょろりと動く。

 

「皆石になって終わりだよ!」

 

 石神は哄笑と共に、対象を石に変える呪いの魔眼を爪戯たちへ向けた。

 ──瞬間。

 何故か石神の身体が石化し始めた。

 

「!? 何でこっちが石化を!?」

 

 石神が悲鳴を上げる。

 脚の方から這い上がる石化の波。

 自らの能力が我が身を蝕む異常事態。

 爪戯はフッと笑った。

 

「初見殺しはお互い様? ってわけで!」

 

 爪戯は顔を上げていた。

 普段は閉じている右眼が、今は開かれている。

 そこにあるのは、受けた干渉をそのまま相手に返す反射の魔眼。

 

 爪戯は辛の言葉を聞き逃さず、右眼による攻撃の反射を行ったのだ。本来爪戯が受けるはずの呪いは、鏡写しのように石神へと跳ね返った。

 

「その右眼……なるほどね~」

 

 石神は余裕の表情を崩さない。

 胸元まで石化していたが、能力を解き、石化を解除した。

 自身の能力であるが故に、解除もまた自在ということか。

 

「ま! 能力をかけたのはこっちだし。解除しちゃえば問題なし!」

 

 石神は両手を広げ得意げに言った。

 爪戯は少し驚いた表情を見せる。

 

「待て! 今解除したら!」

 

 後ろから叫んだのは塩神だ。

 彼だけが気づいていた。

 石化の解除は、自分自身だけでなく、辛の解放をも意味するということに。

 灰色の彫像だった辛の体に色が戻る。

 

 辛は背後から石神の第三の眼を狙い、生成した刀を突き立てた。

 肉を潰す不快な感触と共に、石神の第三の眼が破壊される。

 

「チッ」

 

 塩神は舌打ちをしながら、石神の生成した岩の手に右手を当てた。

 人間ごときに後れを取るとは、と内心で毒づく。

 

「こいし、さがってろ」

 

 塩神は叫び、岩の手を塩に換えた。

 辛が刃を振り抜くと、石神は額を抑えながら塩神の方へ退避する。

 眼を潰された痛みよりも、兄に助けられた不甲斐なさが勝っているのか。

 

「ごめんね、しおにい~」

「別に」

 

 塩神は右手で生成した塩を操った。

 白い結晶が波のようにうねり、辛へと殺到する。

 

「辛君! その人には触れちゃダメ!」

 

 凪が叫ぶ。

 刹那。

 塩神の塩が四方から襲い掛かる。

 辛は反射的に振り向きながら金属の盾を展開した。

 防御壁が塩の波を受け止める。

 

 だが──。

 塩に触れた金属の盾が、端から塩へと変換されていく。

 強固なはずの金属が、脆い結晶となって崩れ落ちていくのだ。

 辛はとっさに後ろへ飛びのいた。

 

「……! 塩になった!?」

 

 爪戯が目を丸くして叫んだ。

 物質の構成元素を無視した、強制的な変換。

 凪は戦慄する。

 塩神の作り出した塩も、触れれば塩になるというのか。

 その思考を読んだかのようにスズノが口を開く。

 

「まずいな……」

 

 一言。

 けれど確信を持って。

 

「触れれば塩に換えられる。塩が増えれば、キミ達は不利になる」

 

 塩神が不敵な笑みを浮かべた。

 塩を自在に操りながら言い放つ。

 

「キミ達の後ろに道はない」

 

 塩神の言う通り、袋小路だ。

 逃げ場のない室内で、触れれば即死の塩が増殖していく。

 

「詰みだ」

 

 塩神は右手を前に出しながら宣告した。

 

「爪戯水をくれ、オレは無からは作れない」

「え?」

 

 辛が爪戯に短く指示をした。

 

「よく分からないけど了解!」

 

 爪戯は水を生成し放つ。

 水塊が塩神たち目掛けて飛翔する。

 

「水?」

 

 塩神は鼻で笑う。

 水だろうが触れれば塩に換えられる。

 変えてしまえばいい。所詮は悪あがきに過ぎない。

 そう高を括っていた。

 

 辛は左手を前に出し金属生成を始める。

 

 生成する金属は──アルカリ金属。

 

 リチウム、ナトリウム、カリウム。水と触れれば激しく反応し、爆発的な熱と水素を生み出す危険物質。

 アルカリ金属が、水の中へと投じられる。

 

「まさか……」

 

 それを見た塩神の目が見開かれた。

 ただの水ではない。それは爆弾の起爆剤だ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。