半妖の青年は“五つの異能”で理不尽を覆す。神と悪魔の運命に挑む【SIN】   作:神野あさぎ

53 / 61
No.53「青い珠」

 妖は人を喰らい、その力を補充するという。

 

 中でも塩神(しおがみ)──しおと呼ばれる個体は、彼らにとって極上の糧となる存在であった。

 本能に従い、妖は彼を求めて集まってくる。

 

 ゆえにその体質を、人々は『妖寄せ』と呼んだ。

 

 しおは常に、他者が作り出した結界の中で生きることを余儀なくされていた。

 そんな彼の前に、ある日「神」が現れる。

 

 しおは神から塩を操る能力を与えられ、己に群がる妖へ対抗する術を得た。

 だが、彼に力を与えた神は悪魔の手によって殺害される。

 

 庇護者を失ったしおの前に、すぐさま別の神が現れた。

 

「……なんとか『シン』は回収できた。死んだあの神のものだ」

 

 黒ずくめの神は、手にした結晶──シンを彼に差し出した。

 

「これをお前にやろう……これでより妖に対抗できる」

 

 渡されたのは、先代の塩神のシン。

 しおはその青い珠を受け取る。

 

 掌の上で、淡く青い光が反射していた。

 

「その能力で、悪魔を……お前の恩人を殺したあの害虫を殺せ」

 

 シンを託した神は告げる。

 悪魔を殺せ、と。

 

 それがしお──現・塩神の過去であり、起源だった。

 

 ◇

 

「キミの死因は何でしょう?」

「はあ?」

 

 ヤナギは微笑を絶やさずに問いかける。

 対する塩神は焦燥を滲ませながらも、精一杯の悪態をついた。

 

 こんな場所で、悪魔如きに後れを取るわけにはいかない。

 そう思考を巡らせる刹那、塩神を捕縛していた呪いの帯が強く引かれる。

 

 塩神の両足が地面を離れる。

 その身体は、無造作に空中へと放り出された。

 

「キミの体質を聞いて、最期はコレしかないと思ったんだ~」

 

 ヤナギは悪びれる様子もなく言った。

 

 現在の塩神は、ハクレイの呪縛により能力を行使できない。

 無防備な状態で空中に晒された『妖寄せ』。

 その結末は明白だった。

 

 餌の匂いを嗅ぎつけた妖たちが、一斉に彼へと群がる。

 

「妖……! 食わせる為だけに能力を封じたのか!」

 

 塩神の表情が絶望に染まる。

 

「妖寄せに……憐れみを感じないのか!」

 

 塩神は叫んだ。

 地上で見上げる幼い悪魔に向けて、悲痛な言葉を投げかける。

 

 だが、その叫びはヤナギには届かない。

 

「キミが何を言っているのかすら分からない」

 

 ヤナギは無邪気な笑顔のまま答えた。

 それは比喩でも挑発でもなく、言葉通りの意味だった。

 

 ヤナギは(かのと)と同じく、決定的に何かが欠落した存在だ。

 辛には笑みが欠けている。

 そしてヤナギには、他者を慈しむ憐れみが存在しない。

 

 ゆえに、命乞いも弾劾も彼には届かない。

 空中の塩神は成すすべなく、妖たちの牙にかかった。

 

 赤が散る。

 鉄錆のような血の臭いが、辺り一面へと広がっていく。

 

 その惨劇を、上空の結界内から爪戯(つまぎ)(なぎ)が目撃していた。

 

「キルキー」

 

 ヤナギは短く、精霊キルキーへ命令を下す。

 

『ハイ、ヤナギさん』

 

 キルキーは地上から、獲物に群がる空中の妖たちへ向けて刃を振るった。

 塩神を貪っていた無数の妖が、まとめて切り裂かれていく。

 

「妖を……!?」

 

 その光景に、凪は驚愕し目を見開く。

 

「!! ……アレ!」

 

 爪戯が指さした先。

 飛散する赤に混じり、異質な輝きがあった。

 青く光る珠が出現している。

 

「青い球形状の──……」

 

 凪は息をのむ。

 

 神の力の源──シンだ。

 神と呼ばれていようと、その実態が人間である以上、死ねば体内からシンを取り出すことができる。

 

 ヤナギは舞い降りてきたその青い珠を手に取った。

 

「うん、無事に回収できた」

 

 ヤナギは笑顔のまま、掌にある青い珠を見つめる。

 だがその内心では、こんなものがあるせいで、と冷ややかな思考を巡らせていた。

 

「さて、帰ろうか!」

 

 塩で白く染まった地面に、赤が滲んでいく。

 そこに立つのは、無邪気な幼い悪魔。

 

 その光景を、少し離れた場所から俯瞰する影があった。

 

「流石というべきか」

 

 (きゅう)──この国の王だ。

 その場にいるのは本体ではなく、幻術による分身体である。

 

 彼は木の上から、眼下の悪魔を冷静に評価していた。

 

「アレも、神殺し──……」

 

 ヤナギという存在をそう定義し、王の幻影は音もなく消え去った。

 

 ◇

 

 (じゅう)の国。

 神々が集う、洋風な城郭建築が立ち並ぶ場所。

 

「『ああ、神よ。死んでしまうとは情けない』ってか? 塩と石が死んだぞ~」

 

 青黒い髪の男が軽薄に言った。

 仲間の死など、路傍の石ほどにも気にしていない様子だ。

 

 男は軍服を纏い、その指先にある爪には十字架を模した意匠が施されている。

 

「いや、それよりは『奴は四天王の中で最弱』かな? 四天王じゃないけど~」

 

 絶えず軽口を叩く男。

 それに応答したのは竜神(りゅうがみ)──リューだ。

 

「うーん。相手が悪かったてのもあるけど、負けたあいつらが弱かっただけ。負けるのが悪い」

 

 機械の耳、首には十字架付きの首輪、額には逆五芒星。

 そしていつものように食パンを齧っている。

 こちらもまた、仲間の死になど一切の感慨を抱いていなかった。

 

「そう言うキミは何もしていない……他人の悪口を言える立場ではないよ」

 

 さらにこの場にはもう一人、小柄な神がいた。

 呆れたようにリューを咎める。

 

「明日から本気出す」

 

 リューはとりあえず言ったが、その言葉に本気の色はない。

 

「今すぐ働くべき、早く行って下さい」

 

 小柄な神に指を差され、促される。

 リューは気怠げに「えー」と返した。

 

「ま……いいけど」

 

 リューが言う。

 

「じゃあついでに」

「無いから」

 

 軍服の男が言いかけた要望を、リューは食い気味に否定した。

 

「え~じゃあ自分で調達しよ」

 

 軍服の男は十字架の爪を怪しく光らせ、笑いながら答えた。

 

「はあ……どいつもこいつも遊んでばかり」

 

 小柄な神が、深い溜息交じりに零す。

 

「自分が良ければ何でもいい! それがオレです!」

 

 軍服の男が高らかに宣言した。

 快楽主義。それが彼の行動原理の全てだ。

 

「うざっ」

 

 小柄な神から、短く冷淡な一言が返ってきた。

 次の敵は、この二人の神である。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。