「おーい!米屋!出水!緑川!」
ロビーでいつものメンツで駄弁っているとゴンちゃんさんが手を振りながら走り寄ってきた。
「お?今話題の太刀川さんに大金星を上げたゴンちゃんじゃん。」
米屋がイジると顔を真っ赤にして『戦闘訓練するぞ』とは言わずに照れくさそうに頬をかいた。
「それなんだが……あれ、ズルしてたんだ。」
突然の告白にギョッとして顔を見ると緑川が眉間にしわを寄せてゴンちゃんさんに詰め寄った。
「ズルって何?」
ゴンちゃんさんは床に正座をすると頭を下げた。
「私は今、とある事情でトリオン体で活動を余儀なくされているんだが……。」
……知ってるよ。
A級とB級部隊にだけは知らされたから。
ゴンちゃんさんが先の麓台町への近界民の侵攻を雷蔵さんと二人だけで制圧し退けたこと。
通信妨害と透明迷彩の壁が張り巡らされており、内側から2体のラッドが破壊されるまで応援が侵入し加勢できなかったこと。
そしてベイルアウトが不能になっていたこと。
結果、生身のゴンちゃんさんが今も意識不明の重体であるままであること。
「脳波を自作した処理機械で擬似処理をすることでトリオン体に対する脳の伝達信号を電磁的に媒介し変換しているんだ。つまり、直接脳が考えているのではなくマシンが考えを代行してトリオン体を動かしている感じかな。今は外部ハードウェアに依存している。」
……よかった、脳死ではないんだ。
「はぁー?それってマシンパワーでゴリ押ししてるってこと!?チートじゃんチート!!ズルだ!!」
緑川が跳ねながらゴンちゃんさんを叩いた。
「それってゴンちゃんはAI、アンドロイドになってこと?機械娘じゃん。」
米屋は意図を理解したのか寂しげに呟いた。
「いや、アーティフィシャル・インテリジェンスのように外部の知識を脳内に取り込んだり機械に計算などの処理をさせられるわけではないんだ。ただ、マシンに脳の処理を任せているデュアルシステムが脳を休ませ、デュプレックスシステムでマシンだけが動いている。またはデュアルブート方がイメージに近い。」
緑川はゴンちゃんさんの腕を引っ張りながら叫んだ。
「ズル!!チート!!なろう系!!最強無双!!」
ゴンちゃんさんは正座したままだ。
「そうなんだ。ズルしている。下駄を履かせて貰っていただけなんだ。だから太刀川に1勝出来た。本来の実力ではないんだよ。そう他の隊員達に言ってくれないか?太刀川の名誉に傷がつく。」
「……って、ゴンちゃんさんが言ってました。」
太刀川さんにその旨を伝えるとフゥとため息をついた。
「ゴンは昔からヒートアップすると知恵熱を出して失神してたからな。俺達みたいな実力の人間とやり合うときだけ。」
知らなかった。
ゴンちゃんさんはハイテンションとローテンションの間ををくるくる回る人だとは思っていたけど。
「機密事項なんじゃないですか?」
そう尋ねると太刀川さんは一瞬考えて、また話し始めた。
「出水はペラペラ人に話さないだろ。上層部もこの件については黙ってるし公然の秘密なんじゃないか?」
公然の秘密なら出どころはどこなんだ?
「俺はたまたまアイツと対戦した後、待機室から全然出てこなかったから不安になって扉を蹴破ったら中で失神したのを見て知っただけだ。」
女子の部屋を蹴破ったのか……。
「チートってやつなんですかね。」
その言葉を吐くと太刀川さんはピクリと眉を動かした。
「アイツはマシンで処理を肩代わりさせることで脳に対するダメージを減らし知恵熱を回避しただけだろ。」
それって、つまり……。
「那須隊長は病弱でトリオン体で活発に戦っているが、チートと言えるか?アイツも同じでベストコンディションで戦えるように確かに下駄を履かせられた。ただし、下駄を履かせても訓練された者でなければ履きこなすことはできない。」
……太刀川さんは、よく見ている。
「そうですね。とりあえず言われた通りにチート無双してるって吹聴しときます。」
、、、
「あ!迅!!ようやく見つけた!!」
手を振りながらゴンが駆け寄ってきた。
おれを憎んでるだろ。
役者を雇い、公衆の面前で侮辱し、退職願まで書かせた挙句、昏睡状態にさせたんだから。
「聞けよ!!私、太刀川から一本だったんだ!!」
……知ってるよ。
「どうせまぐれでしょ?たまたま、偶然。」
正しい実力の結果だった。
だからゴンを茶番狂言で嵌めて、折った心から爆発的に最大限能力が振り切れる形で発揮させ……人柱にした。
ゴンの実力でなかったら麓台町は今頃……。
「そうなんだよな……冷却効果というか、戦いが苛烈を極めても眠くならないんだ。ズルだよなコレ……。」
そんなわけ無いだろ、実力だよ。
「……で、根付さんとはどう?新婚生活の方はさ……。」
耳元で囁くとみるみるうちに真っ赤になって腕を引いた。
「……迅、戦闘訓練だ。」
はは、変わらないな。
「あ、人妻のゴンだ。人妻って響き、なんかやらしいよな。」
後ろを振り向くと太刀川が真顔で立っていた。
「……太刀川、戦闘訓練だ。」
ゴンは今にもキレて失神しそうなくらい赤面して太刀川の腕も引いて、両腕で二人の腕と自分の腕を組んだ。
すると前から木虎と修が議論しながら歩いてきて、おれたちを見て呟いた。
「はは……ゴンさん、両手に花ですね。」
「太刀川!!おしてまいる!!」
結局、俺がゴンと一本勝負することになった。
「ゴン、トリオン体の時に侍口調になるのはなんなんだ。」
ゴンと距離は3kmほど離れて転送されたのを目視したが、ただ斬ればいい。
あいつはスパイダーとスイッチボックスによる『見えない置きメテオラ』という小細工、搦手を使う。
「戦地で私は強くないといけないからだ!!」
声は同じ場所から聞こえてくる。
走り寄って鞘から刀身を抜いた。
「旋空孤月」
声のする方を建物ごと横に叩き切る。
瓦礫が崩れ土埃が舞う住宅地に立ち入ると姿が無い。
カメレオンで身を隠したか。
ならば、耳を澄ませて崩れた壁や床を踏む音を聴けば居場所がわかる。
「太刀川は一度私に敗北を喫したな。」
……おかしい。
声は近くでしたが、足音や隊服の擦れる音が一切しない。
声を無視して近くの一番高いビルに向かった。
「ゴン、お前スイッチボックスでカセットテープを流したのか。」
声はダミーで本体は見晴らしのいい場所に移動している。
「アハハ!!少し違うぞ太刀川!!」
屋根を飛び越えてビルに渡ろうとするとワイヤーに真横に張られた足を取られた。
「おっと、『見えない置きメテオラ』は無しか。」
体勢を崩し立て直すと絶叫が響いた。
「上から来るぞ!!気をつけろ!!」
ブラフだ。
「旋空孤月」
自身の横に向かって円を描くように刀身を伸ばして斬りつけたが、なににも当たらない。
「気をつけろと言ったろうが!!」
上を見るとゴンが屋上から飛び上がり助走をつけて孤月で切りかかってきた。
「……レイガストはどうした。」
ゴンはニタリと笑って背後に出したグラスホッパーの背面にメテオラを撃って爆発を推進力に変えて刀の切っ先をキリキリと交えた。
「……レイガストで一本取った、次は孤月で一本だ。」
「斬り合いなら、お前は力負けするぞ。」
ゴンを孤月で払うと互いに後退りした。
「なら別のやり方にする。」
そう言ってゴンはグラスホッパーで屋上に駆け上がった。
「させない。」
この策は空閑との戦いで見た。
グラスホッパー配下に『見えない置きメテオラ』かグラスホッパーをスイッチボックスで『ショートワープ』させるつもりだ。
ただ、一歩目にトラップは仕掛けない。
それがお前の癖だ。
ゴンが踏んだグラスホッパーの1段目を踏んだ。
「……跳ねないグラスホッパーか。」
跳ねることを見越して足を踏み抜いたため体勢を崩すと至近距離からアステロイドが飛び脚を貫通した。
さっきグラスホッパーで飛び上がったあと、スイッチボックスでワープしてきたのか。
なら警戒するのは背後だ。
強化スパイダーで身が裂ける可能性がある。
「旋空孤月」
自身の周囲を刀身で斬ると爆発が連鎖するように発生しビルが崩れ落ちてきた。
「これが『見えない置きメテオラ』の真骨頂だ!!」
お前は声がデカいから場所が直ぐ分かる。
「討ち取るぞ、ゴン。」
右斜め上を斬り上げると感触がない。
そして背後からアステロイドが近距離で放たれて腕を貫通した。
そういうことか。
崩れ落ちて生き埋めになりそうになるのを瓦礫を足場にして這い出ると、孤月を振り上げたゴンが天から現れた。
ゴンのトリオン量は少ない。
カメレオンとショートワープを幾度も使うのは難しい。
……それは本体を丸ごと扱う場合の話だ。
「気づいたか太刀川!!そうだ!!私は声とアステロイドをショートワープさせていたのだ!!『見えない置きメテオラ』を『スーパーノヴァ』、『アステロイドのショートワープ』を『スピードスター』、『声のショートワープ』を『インターフォン』とでも名付けるか!!」
トリオン体をショートワープ出来るなら理論上、トリオンで出来たアステロイドも移動出来るからな。
その前に名付けのセンスないな。
「旋空孤月」
ゴンはそのまま斬り掛かってくる。
目視できている時点でショートワープで逃げるかグラスホッパーで跳ねて逃げるしかない。
ただ、俺は逃がしてやるほどお前を甘やかしはしない。
「斬ったぞ!!太刀川!!名付けて『コブラ』だ!!」
居合いを抜いた俺の首にはショートワープで現れたスコーピオンにより傷がついている。
「胴体真っ二つなのはお前だけど。」
身体が二つに分かれたゴンはニコっと笑った。
「アハハ!!太刀川に孤月で勝てるわけなかったな!!」
『戦闘体活動限界ベイルアウト』
『戦闘体活動限界ベイルアウト』
「知ってるか?エンジニアの女が太刀川さんと2戦したって!」
「あ〜なんか姫ポジの人でしょ?」
「重役の娘らしいから接待だよ接待!」
「エンジニアが太刀川さんと戦えるわけないからなー!」
「おかしいと思った!」
「変にチヤホヤされてるらしいよ。」
「可愛い?」
「え、ただのオタク女だったよ!」
「なんかトリガー弄ってズルしたとかいってた!」
「チートじゃん!!」
「そっか〜いいな〜私もチートしたい!」
「案外、実力派なのかもしれないよ。」