「うぅ……どうしよ……。」
宇宙船の窓に映った自分は鮭色の髪を束ね、青い瞳をしている。
見るからに夜兎族だ……。
そして今、推しの高杉様の船に乗っている。
「ま、まずは……なんとか事情を説明して、これから起こる悲劇を回避して……。」
まだ岡田似蔵による妖刀紅桜による襲撃は起こっていない。
「はぁ……よりにもよって……なんで夜兎なの……。」
私が転生者として目覚めてから、同族の神威による襲撃が2度ほどあった。
本当に怖くて、あの時は逃げるのに一杯一杯だったっけ。
三日月型の髪留め、鉄の重たい扇子、キーチェーンのような菱形の腰巻き。
こんなものでどうやって戦えばいいか分からないから、脱兎のごとく逃げてしまった。
「言わなくちゃ……今日こそ……。」
恐る恐る扉に手を掛けた。
「たっ……高杉様……。」
部屋の中から甘い刻み煙草の匂いが立ち籠めて、煙管から白い煙が煙々羅のように揺らめいている。
「何だァ?
心臓がバクバクと高鳴る。
低く艶っぽい声、色香を漂わせる所作。
一挙手一投足に見惚れてしまう。
「あの……私、妖刀紅桜を使うのに反対で」
「そうかい。」
目の前に血飛沫が火花のように散り舞った。
誰の血……もしかして、私の?
視界がガクッと揺れたと思うと、世界がひっくり返って宙が回転して地に身体が伏した。
「え……え……?高杉様……?」
振り向くと岡田似蔵が紅桜を振るって、ヒュンと血痕を飛ばした。
「折角の綺麗所だったのに……勿体ない……。」
妖しく輝く切っ先には振り切れなかった赤い液体が滴っている。
その液体が雫となってポタリポタリと落ちる音とリンクしてドクドクと肩から血が流れ出る音がする。
「お役御免だ。射干菟。闘えねぇ夜兎に用はない。」
そんな……私は……私……高杉様のために……。
「鬼兵隊にお人形さんは要らないみたい。じゃあね、射干菟ちゃん。」
まだ何も……してない……。
貴方の役に立ちたかった……。
私……。
「闘えねぇ夜兎だと誰が決めたんだ?なあ高杉よ。」
「うーんと?射干菟ちゃん。なんで剣先を向けてるのかな?」
鏢刀の髪留め、鉄扇、連なる鏢。
「私に牙を剥いたからだ。それ以外にない。」
ようやく取り戻した、自分の身体。
突如大量の知識が脳に入り込み、意識が朦朧としていたところに差し込んだ光。
その月明かりのような一筋の光の筋を私は掴み取った。
己の意志を。
「おっ!やるね。」
岡田の首に鏢を一本打ち込んで避けた瞬間に括り付けた紐を引き、体勢を崩した所に鉄扇で脇腹を叩こうとすると紅桜の刃がカチンと当たる。
「いきなりどうした。」
軌道を描くように鉄扇を高杉に向けて放った。
「高杉よ、お前に一言言いたいことが出来たんだった。」
躱された鉄扇は宙をかき、船の分厚い壁にめり込んだ。
「言ってみろ、射干菟。」
高杉の顔がニタリと歪んだ。
「私の嫌いな言葉だ。『すみなすことは心なりけり』……なあ?」
鏢を一本ずつ岡田と高杉に向けて打った。
「落とせますよ、これくらい。」
岡田に放った刃は払い落とされ、高杉に放った刃はヒュンと掴まれた。
「あれれ?射干菟、どうしたの?……眼が違う。」
紐を引こうとしても力が拮抗し、まるで綱引きをするかのようだ。
あたかも緊張の糸を現すようにピンと張り詰めている。
鏢を握るのはオレンジ色の髪を三つ編みに束ね、青い目をした飄々とした男。
「お前は神威か?何故此処にいる?」
以前、何度かちょっかいを出された記憶がある。
コイツも夜兎だと言っていたな。
「え?えーっと……射干菟、天然キャラになった?」
天然?記憶が一部ないのは確かだ。
「話の続きだ。『人の句につけ足す馬鹿者』が嫌いでなぁ。大嫌いでなぁ。」
床を蹴り上げて鉄扇が刺さった壁を蹴り上げて穴を開ける。
破壊された壁から鉄扇を抜き取って再度思い切り壁を蹴ると穴が空いて空気が外に流れ出した。
「射干菟……へぇ、人が変わったみたいだ。」
戦況は、ちと厳しいか。
私は肩を負傷したが誇り高き夜兎の血だ、回復する。
しかし夜兎の神威、人斬り似蔵、鬼兵隊を束ねる高杉となると、策は絞られる。
「人が人に成り代わるなぞ、あっちゃならないことだろう?」
新しい鏢を高杉に向けて放つ。
「見当違いも甚だしい。狙いが定まっちゃいねぇのは、鬼兵隊としての心残りか?」
ぬかせ。
思い切り壁を後蹴りで人一人が通る穴にして、鏢がついた紐を伝って外に出る。
「強いね、射干菟。」
神威が番傘で殴りかかろうとするのを血引き鞭のように紐を撓らせて衣服を刻んだ。
「弱いな、神威。」
思い切り爪先で足場を蹴ると空中にジャンプした。
その勢いでバウンドし、抜けた鏢を手元に寄せる。
銃を使うまた子はあの場にいない。
飛び道具を使う者は居なかった。
「射干菟、土産だ。」
高杉の声が掠れて最後に耳に入った瞬間、尺玉が目に飛び込んできくる。
「なっ!?砲を人に撃ち込むとは!!」
不味い、このままだと爆発に巻き込まれ、ただでは済まない。
「汚い花火だ……くそ……」
爆発音と共に閃光が走った。
「私は……夜兎……射干菟だ……。」