「不束者ですが、ご贔屓に……。」
頭を下げると怒号が飛んだ。
「だから嫁ぎ先じゃねーからああああ!!」
そして脇腹を白い手でチョップされる。
「小姑見参!!お辞儀の角度が15度足りないアル!!」
キラキラと光る青い瞳がコチラを覗き込んだ。
「初日の勤務態度がなってません!!というか家事の分担をちゃんと決めましょうよ!!」
眼鏡がスケジュール表とやることリストを高らかに掲げた。
「だから眼鏡じゃねーから!!僕はヒューマン!!」
神楽ちゃんがジャンプして両手を叩いた。
「パーフェクトヒューマン新八with眼鏡ネ!!」
新八は眼鏡をスッと外して、また掛けた。
「いやつまらないですよ。眼鏡ネタの天丼はつまらない。」
銀さんも欠伸をして再び新聞を読み始めた。
「
働く。働く事はできる。
武力による暗殺と襲撃……これは使わないかな。
炊事、洗濯、掃除、ゴミ出し、片付け……。
「それでは新八から言いつけられた家事をします。」
新八は紙を見せると丁寧に説明を始めた。
余計なことまで連連話すイルカのように。
「オイイイイ!!誰が『お前を消す方法』だ!!mイクロソフト社製のソフトの中で泳いでないから!!」
そんなこんなで家事を任された。
「神楽のアネゴ、洗濯機を回していいですか?」
洗濯機に洗剤、柔軟剤、よごれもの、ケミカルXを入れて蓋をしてスイッチを押した。
「待ってええ!!パワーでパフな女の子三人組が出来ちゃうから!!やめてエエエ!!」
その間にゴミの袋を縛って集積所に持って行かないと。
「ちょっと!!銀さんを担いで行かないでくださいよ!!」
気づくと肩に銀さんを担いでいた。
「オイオイ……雇い主と粗大ゴミも分からねえのかコノヤロー……」
銀さんを降ろしてゴミ袋を集積所に置いて買い物に向かった。
「向かわせるわけないだろおお!!何を買うか決めてないんだから!!勝手な行動しないでくださいよ!!」
万事屋に戻って洗濯が終わった衣服を取り出してパンッとはたくとビリビリっと音がして誰かの肌着が破れてしまった。
「シャガトさん!!力をセーブ出来ないなら早く言ってエエエ!!」
「神楽ちゃん、髪の毛サラサラだね。」
お風呂上がりの水滴がついたピンク色の髪をタオルで撫でとる。
「あったりまえアル!!こちとら千年に一人の美少女ヨ!!」
柔らかい生地で細く繊細な髪の毛と絹のような肌を傷めないようにゆっくりと滑らせる。
「そうだね、色白でふわふわな兎みたい。」
水滴を吸い取るようにポンポンと頭を撫でると鈴のような笑い声が転がり落ちる。
「私も夜兎アル!!同族なのに分からなかったか?」
夜兎……神楽ちゃんが?
「そうなの?なら親は葬った?まだ?」
古の風習『親殺し』をしてこそ夜兎は一人前の誇り高き修羅となり、生態系の頂に立つのだから。
「……冗談でも言っていいことと悪いことがあるネ。」
神楽ちゃんの産毛が逆立ち、瞳に阿鼻の炎が灯ろうとしている。
どうして?夜兎なら当然のことなのに。
ポタリポタリと水滴が華奢な首筋に落ちていく。
「……そっか、気に触ったならごめんね。」
今は万事屋に居候させてもらっている身の上。
それに記憶も曖昧なままで、思考も上手く回っていない。
だからこそ環境に適応しないといけない。
毎日、お腹いっぱいご飯を食べるために。
「シャガトは夜兎族の古い慣習を重んじるタイプか?座右の銘は『革故鼎新』とか言ってたのに。」
言ったね。
「『温故知新』が好きな言葉なんだ。やっぱり風習は有るべくして成されていたものだから。」
タオルをかける手がパシッと弾かれた。
「なんか思ってたのと違うアル。」
どうして怒らせちゃったのかな。
「ごめんなさい。神楽ちゃん、ごめんなさい。」
頭を何度も下げた。
「……言い過ぎたネ。……早くドライヤー!!ドライヤー!!」
神楽ちゃんはうってかわってパアッと笑顔になった。
「うん、ドライヤーして早く乾かそうね。風引いちゃうから。」
他人に夜兎の話をしてはいけない。
ブワッと舞い上がった髪の毛をブラシで梳くと沈黙が重く伸し掛かる。
「シャガトは……寂しくないアルか?」
寂しい?なんで?
「ううん、ちっとも寂しくないよ。だって孤高の生き方こそが……」
あ、危ない。
「神楽ちゃんが居るから寂しくないよ。そうでしょ?」
「じゃあ私は壁で寝るね。」
そう言って腕を組んで壁に寄りかかった。
「オイイイイ!!何『俳優の宣材写真』みたいなポーズで寝ようとしてんだよ!!」
寝床がないから仕方ない。
銀さんの隣で寝るわけにも、神楽ちゃんの隣で寝るわけにもいかないし。
「姉上に寝る場所を確保してもらいますよ。」
新八が外に出ようとしたので窓を開けた。
「なら寝る場所探してきます。私は寝る場所、どこでもいいから。」
サッシを足場にして飛ぶように瓦屋根を走った。
「ちょ!!シャガトさん!!待って!!」
新八の声が聞こえなくなるまで屋根伝いを歩いた。
「賑やかな街。」
江戸の街は夜でも明るく、明るいからこそ直ぐに暗闇を見つけることができた。
「森がある……大樹の枝を寝床にしよう。」
恐らくは神社仏閣がありそうなエリアに差し掛かった時だった。
……殺気。
不味い、今は鉄扇も鏢も持っていない。
髪飾りとしている鏢刀だけだ。
思い切り黒い物体に弾き飛ばされて鏢刀が当たるカチィという金属音が静寂に響いた。
「やっぱり生きてたか。探したよ、射干菟。」
目を細めて笑う三つ編みの男。
見たことがある気がする。
「……誰?」
杉の木の枝に着地すると男も松の木の枝に着地した。
「え?ええ?まさか記憶喪失とか?ふぅん。」
何処で見た顔だ?鬼なんたら隊か?
「私は寝床を探している!!その邪魔をするなら……お前を消す。」
男は目を開けて声を張り上げた。
「なら戻りなよ。鬼兵隊が『闘える夜兎』なら喉から手が出るほど欲しいみたいだから。」
戻る?やはり私は何処かに所属していた?
この夜兎族最強格の私が?
馬鹿も休み休み言え。
「私は属さない。」
頭に見たことのない映像と聞き覚えのない会話がこだました。
「シャガトの大好きな『高杉様』がご執心だよ?よかったね。」
誰の話だ。
「人違いだ!!これ以上付き纏うなら」
「なんだって言うのさ」
……間合いを詰められた。
鏢刀と番傘が力の押し比べになっている。
「消すと言った。」
この男、夜兎か?
「記憶がないならさ、俺と番にならない?どう?色恋だよ色恋。」
ぬかせ。
お前の瞳には闘争心しか燃えていない。
「同族か。ならば話が早い。私の隣に弱者は要らない。お前も同じだろう。」
男はニイッと笑って蹴り上げ、それを腕でガードして隙ができた脇腹を蹴り上げた。
「現状で同族かつ強い女がシャガトだけだから、とりあえず子孫残した後にどっちが強いか決めない?」
口と目が全く別の意見を言っている。
瞳は雄弁に『目の前の獲物を狩る』と語っているが。
「私より弱いお前には叶わない望みだ。」
話をしているとサイレンが鳴り始めた。
「そこの二人!!迷惑行為は止めなさい!!」
目を離した隙に男は飛び去っていった。
「俺は神威。いずれまた会えるよ。」