「銀さん。この女性とはどういったご関係なんでしょう。」
髪をゆるく結わえた女性が銀さんに詰め寄っている。
まさに白髪の女性が叫ぶ『ああ嗚呼あこれ以上』
「オイイイイ歌詞はJASRACが来るから禁止カード!!『修羅場』って言いなさい!!」
その隣では新八がお茶を啜りながらため息をついた。
「姉上、この人が前に話した神楽ちゃんと同じ夜兎族の
身代金はいったいおいくらになるのでしょう。
一、十、百、千、万、十万、百万、千万……おおっと大台の千万台か?
「勝手に鑑定団開くんじゃねえええ!!どんだけ自己肯定感強いんだよ!!自分の価値高く見積もりすぎ!!」
だって夜兎族の最強格の自負はあるし。
「こら、新ちゃん。勝手に人様に対して値段をつけた挙句、イチャモンをつけるなどはしたないですよ。はじめましてシャガトさん。私はお妙、気軽に麗しいお妙様と呼んでくださいな。」
麗しいお妙様はニコっと笑いかけながら銀さんの耳を引っ張った。
「違うって!!僕が『いい仕事してますねえ』とか始めたわけじゃないから!!」
距離感が近い、銀さんと麗しいお妙様はコレなのかな。
「オイイイイ!!小指を立てるんじゃありません!!」
銀さんが叫ぶと神楽ちゃんが立ち上がった。
「そんな甘っちょろいもんじゃないアル!!毎晩うふんあはんばっか〜んネ!!」
すると銀さんと麗しいお妙様か同時に叫んだ。
「「木久扇師匠じゃないから!!」」
「そうよ!!銀さんの貞操は私が守るもの……!!」
天井から声がして銀さんが木刀で叩くと紫髪の女性が転がり落ちてきた。
「オイ!!ストーカー!!いつから居やがった!?」
私が転がり込んだ日にはもう居たはず。
やっぱり知り合いか、消さなくてよかった。
「ふふ……私は猿飛あやめ……気軽にさっちゃん……女王様とお呼び。」
女王様には心臓を捧げないと。
起立して胸を右拳で叩いて左手を背中側に回した。
「あら!!あなたは調査兵団だったのね!!」
すると麗しいお妙様が微笑みながら紙を差し出した。
「シャガトさん、脊髄液をスーパーで買ってきて頂戴。」
「姉上エエエ!!脊髄液は始祖の巨人が居たら不味いですってええ!!普通に炭酸水を買ってきてって言ってくださいよ!!」
「シャガトはどこまで記憶があるアルか?あるあるを聞いてるわけではないアル。」
そんなこんなで神楽ちゃんとお使いに出ることになった。
存在する記憶としては夜兎族で最も強い男、神晃の元で一時期世話になった事がある掃除屋見習いであること。
その後、孤高で生きてきたはずが何故か鬼兵隊という組織に所属していた可能性があり、神威という同族にターゲットにされている。
神威という男は以前までなら「弱者を駆除」するとして深追いはして来なかったはずが、今は首を取ろうと夜兎の本能を剥き出しにして私を目の敵にしている。
そして、よく分からない知識と記憶がマーブリング液を零したように渦巻いている。
「アイアム夜兎?」
ビシッと肘鉄が脇腹に入った。
「種族の話はしてないアル!!なんでボロ雑巾みたいになってたかを聞いてるネ!!日傘も無しでおかしいアル!!」
確かに、今は真っ黒なコウモリ傘を借りている。
私の武器はどこに置いて来てしまったんだろう。
あるのは髪留めにしている鏢刀だけだ。
「ワタシナンニモワカリマセーン」
喉に手を当てながら震えた声を出すと神楽ちゃんは笑った。
「此処に扇風機はないアル!!ワレワレハウチュウジンダー」
同じように喉に手を当てて戯けた声を出して飛び跳ねた。
良かった。
神楽ちゃんは同族の貴重な雌。
大切に扱わないと。
「あ、クソチャイナ娘。俺が貸した5円玉を」
角を曲がると黒い隊服に身を包んだ二人の男がこちらを認識した。
刀を帯刀している。
アイツラが真選組か。
「……女ァ……動くな。動いたら……斬る。」
金髪の男が姿勢を低くし、刀を抜こうと鞘が動いて刀身が光った。
……不味い、侍に『抜刀』させてしまった。
「何言ってるアル!?ドSは目が悪くなったか?メガネ屋さんに行って瓶底メガネでも買ってかけたほうがいいネ!!」
神楽ちゃんが私の前に出て敵意がないと身振り手振りで説得を試みているが、叶わないだろう。
「……止めとけ総悟。相手は得物をもってねぇ。」
黒髪がタバコをふかしながらも、油断なくこちらを警戒している。
「土方さん……コイツは手練れですぜ……町民に被害が及びかねねぇ……。」
土方と呼ばれた男の腕がピクリと動いた。
抜刀……抜くなら……消す。
「おお!!ネーチャンがお妙さんが言ってた万事屋の居候かあ!!」
後を振り向くと凛々しい侍の顔をしたゴリラがウホウホとドラミングをしていた。
「いや待って待って!!今いいタイミングで出てきたんだから!!」
凛々しい侍は男二人と私と神楽ちゃんの間に割って入った。
「近藤さん……。」
近藤……確か真選組の局長と聞いた名だ。
「このネーチャンは万事屋んとこで居候してるだけのただの町民だ。現に何もして無いだろう、総悟。」
胸を両手で交互に叩いた。
「現にドラミングしてますぜ。」
総悟と呼ばれた男は姿勢を保ったままだ。
「シャガトはちょっと天然のドジっ子属性ヒロインをしてるアル!!記憶喪失もオマケして属性特盛でも勘弁するネ!!」
神楽ちゃんが冷や汗をかきながらバタバタと両手を振った。
「はい。宇宙最強の夜兎族は月の惚れ薬を江戸に置いてきた。探せ、男共を侍らかす逆ハーレムを築く、愛されヒロイン王に私はなる!!世はまさに大溺愛時代!!ありったけの夢妄想〜かき集め〜」
両腕を天に突き上げてジャンプすると総悟は漸く刀から手を離した。
「その逆ハーレムにドS王子枠はありますかい?」
目が笑っていない。
瞳孔が開いたまま、神経が逆だっているから。
「お前の入る枠は無いヨ!!マヨネーズ枠も無いアル!!ゴリラ枠も同じアル!!」
神楽ちゃんは必死に場を取り持とうと見えない着地点を探している。
「初対面の方に対して粗相をしてしまい、大変申し訳ありませんでした。」
深々と頭を下げる。
侍は礼儀を重んじるから、謝罪をすれば殺傷沙汰にはならないはずだ。
「……先に臨戦態勢を取ったのはこっちの落ち度だ。……すまねえ。」
土方は咥えたタバコを指で持ち、軽く頭を下げた。
「よーし!!誤解が解けたところでシャガト!!お妙さんによーくよーくよーく言ってくれ!!」
成る程。
近藤は麗しいお妙様に気があるのか。
「よーくよーくよーく。」
神楽ちゃんはニパッと笑顔になった。
「シャガトは仕方ないアル!!ゴリラ心が分かってないネ!!ほら!!買い物しないと日が暮れるアル!!」
「おー遅かったなー。」
万事屋に戻ると麗しいお妙様と女王様の姿はなかった。
「銀ちゃん聞いて!!ドSがいきなりシャガトに斬りかかろうとしたアル!!アイツなんかのウイルスに感染して人がゾンビに見えるに違いないネ!!」
神楽ちゃんは買ったものを袋から出しながら銀さんに愚痴を聞かせるていで話し始めた。
「……そ。……ジャンプ買ってきた?」
懐からジャンプを取り出した。
「いやそれ戦のときに『ジャンプがあって助かったぜ』するやつですよね。戦地帰りじゃないんだから。」
新八にジャンプを渡し、謎の粉の袋を持って台所に立つ。
「謎の粉じゃなくてチャーハンのもとでしょう!!」
中華鍋に米を入れて思いっきり振った。
「チャーハン作るお!!」
米がバラパラと宙を舞う。
「米が飛び散りそうだから真剣にやってくださいよ!!」
料理には真剣にならないと。
お腹いっぱいご飯を食べるには、料理が必要不可欠。
「そうだ、シャガトさんの好物って何かありますか?」
そう言われてみると、なんだろう。
「月餅?夜兎だけに。」
、、、
「「「「いただきます。」」」」
声が揃うカギ括弧表現なんて純文学では見たことがない。
「オイイイイ!!ほのぼの団欒中ですよ!!」
チャーハンは無惨にもバラバラになっている。
「チャーハンはパラパラでいいの!!」
オウオウイェイェ。
「それはパラパラ!!手首のスナップがなってないアル!」
賑やかな人達だ。
……銀さんの黒い瞳と目が合った。
分かりやすい合図。
「そうだね、なってない。」
、、、
「シャガト。」
新八が帰って神楽ちゃんが寝静まったあと、銀さんは布団からこっそりと抜け出して屋根の上に登った。
「はい。銀さん。」
銀さんは私の隣に座って夜風に当りながら夜の江戸を眺めている。
「お前……漏れてるから。」
……やっぱり銀さんは手練れか。
侍……攘夷志士だったんだろうか。
「恋心?」
深い溜息が落ちた。
「殺意。」
同じ場所に永くは居られないのが夜兎族の性。
ただ、あまりにも早かったな。
「短い間でしたがお世話になりました。」
頭を下げた。
「去れとは言ってねぇ。ただ、引き留めもしねえよ。」
心残りがあるとすれば……。
「神楽ちゃんのこと、幸せにしてくださいね。」
「銀ちゃん、シャガトがまたどっか行ったアル。」
銀ちゃんの机の上にはシャガトの三日月型の髪留めが置いてあった。
「シャガト……本当に行ってしまったアルか?」
三日月型の髪留めを掴むと鏡面のように光が反射した。
「ヒロインなら男共とイチャついてから消えるアル!!勝手に消えるなんて許さないネ!!戻ってくるネ!!戻って……」
銀ちゃんは新聞紙を捲りながらボソッと呟いた。
「アイツは野良兎だ。腹が減ったらそのうち帰ってくるんじゃねぇの。」
銀ちゃん……。
「野良犬みたいな扱いでいいんですかね……。」
新八……。
「そうネ!!シャガトはきっと帰って来るアル!!」
、、、
「確かこの辺りの森だった……。」
神威に襲撃されたエリアを木の枝を伝いながら散策した。
「俺をお探しかな?」
鏢が打ち込まれて握ると、紐の先には神威の張り付いた笑顔があった。
「私の得物……。」
神威の右手から鉄扇と血引き鞭に連なる鏢が渡される。
「これ探すの大変だったんだよ?感謝して欲しいね。」
何故……?
私はコイツと闘って敗れた?
そんな筈はない、記憶喪失になったとはいえ私の方が強者だという事実は変わりない。
「どうも。……仕方ない。礼として一戦まみえてやろう。」
「そうこなくっちゃ。」
振り下ろされる番傘を鉄扇で弾くと思い切り脇腹を蹴り上げられる。
「この程度の蹴りで」
「仕留めらんないよね!!」
番傘が開いた。目眩ましのつもりか。
「傘ごと斬り刻むま」
脇腹に鏢?鞭紐ではなく透明なワイヤーに付け替えたものを一本隠し投げて置いたか。
出血した。
しかし私は夜兎、回復する。
回復……。
「後ろと親切にはご用心って……射干菟?」
痛い、痛い痛い痛い
「えぇん、怖いよ……助けて高杉様……なんで私、樹の上にいるの?」
また神威に命を狙われてるの?
「記憶喪失は爆発によるものではなく創傷の出血による人格交代?……そんなことが……」
何かブツブツ言ってる。
「あ、あの、神威さん……何でもするから命だけは助けてください……。」
神威さんが飛びかかるように枝に飛び乗ってきた。
「俺が射干菟を仕留めるまで、俺がお前を守ってやるよ。」