「俺が
ウソ……私、神威にお姫様抱っこされてる!?
「えっ?どうゆうことですか?」
私を仕留めるまで?射止めるまでの言い間違い?
顔を覗き込むと伏し目がちな長いまつ毛がピクリと動いた。
「お前の身体を俺が預かる。」
え……それって。
「拉致監禁?」
神威はガクッと肩を落として笑った。
「あー……面倒くさ……。射干菟を奪い去る為にお前が必要……だから、俺の嫁になるって認識でいいから。」
よ、嫁!?
私、宇宙海賊春雨の最強部隊『春雨の雷槍』こと第七師団の団長である神威に花嫁として見初められちゃったってこと!?
「な、なんで私なんか……。鈍臭いし……可愛い子なら他にもいるのに……。」
神威は私を抱えながら夜の街をヒュンヒュンと飛んだ。
「……一目惚れ。」
そんな……私には推しの高杉様が居るのに。
でも、神威もイケメンだし強いしカッコいい……。
「あぅ……私には好きな人が……。」
小さく呟くと神威は目を細めて月を見上げた。
「俺にゾッコンになるくらい愛してやるよ。」
え、ええ~!?
神威ってそんなキャラだったっけ?
胸がキュンってなって心臓がバクバクいって苦しい。
「はい……神威様ぁ……。」
神威様の胸板に顔を埋めると安心感で眠くなってきちゃった。
「ドロドロに甘やかして……最後には……って寝たのか。」
、、、
「うーん……むにゃ……あれ、ここは……。」
瞼を擦ると見慣れた戦艦の中だった。
間違いない。この船は高杉様の船。
「お前は鬼兵隊に所属してるだろ?で、俺の女になった。折衷案として俺が通うから。」
……あれ?私、確か……。
「待ってください神威様!!私、岡田似蔵に斬り殺されそうになって……。」
唇に人差し指をムニッと置かれた。
「俺が守ってやるって言ったよな。」
鋭い眼差しにドキドキが止まらない。
「はい……神威ぁ……。」
顔が近づいてくる……もしかしてこのまま……キス?
「団長、お帰りで……その女。」
振り向くと阿伏兎がこちらを睨んで仁王立ちしている。
「ああ……例の夜兎族の女、射干菟だ。俺の番にする。」
番って……その……交尾……。
「きゃあ!!えっち!!」
思わずビンタをすると時が止まったかのような静寂が流れた。
「……団長の言った通り、扱いには骨が折れそうだァ。」
神威様は下を向いたまま何も言ってくれない。
もしかして、怒らせちゃった?
「……あ、あの……神威様……ごめんなさい。」
ぶってしまった頬を撫でようと手を伸ばすと手首をギリっと掴まれた。
「痛いっ……痛いです神威様……。」
あまりの痛さに涙を流すとパッと手首を離される。
「……まあ、これから躾けるから多少のオイタは構わないよ。」
「はい、あーんして。」
ウソみたい。
私、神威様の膝の上でご飯を食べさせてもらってる。
「あーん……おいひいです。」
お粥を飲み込むと頭を何度もなでなでしてくれる。
「お前はいい。いいよ。」
嬉しい……そんなに褒めてくれるなんて……。
「神威様ぁ……嬉しいです……。」
逞しい肩に頭を預けると優しい手つきで背中を撫でられた。
「本当に……どうでも……はぁ……。」
どうでも?
顔を覗き込もうとすると手のひらで瞼を押さえられてしまった。
「神威様の端正なお顔が見たいです……。」
はぁ、とため息が落ちて耳元で囁かれた。
「俺はお前の蕩けた顔が見たい。」
蕩け……それって
「きゃあ!!神威様ってば……えっちなんだから!!」
胸板を軽く叩くと手首を掴まれ、強い力で引っ張られる。
「シャワーを浴びろ。」
シャワー……え、も、もしかして……初めての?
「こ……心の準備が……。」
どうしよう、初めては高杉様としたいのに……。
「入れ。旦那様が命じてるんだけど。」
旦那様って言われたら……。
「はい……。」
、、、
「だっ……旦那様のために夕飯作ります……。」
ええん、恥ずかしいよぉ。
こんなフリフリのエプロンだけなんて……。
「あー……頑張れ花嫁ー……。」
神威様に見られてる……うう、緊張しちゃう。
やっぱりこのあと「旦那様、ご飯にします?お風呂にします?それともワ・タ・シ?」するのかな……。
ワ・タ・シになったらあんなことやそんなこと……。
「きゃあ!!……あっ!!」
思わず手が滑って包丁で手首を切りつけてしまった。
「痛いっ!!痛いよ……」
傷が深い……痛い……血がたくさん出てる……
血が……
痛い……
「なんじゃこりゃぁ!!」
「何がどうしてこうなった!?」
ビックリした。裸にエプロンしてるのかと思った。
「……射干菟……似合ってるよ。」
肩に男の顎が乗せられた。
「神威!?貴様……!!」
振り向きざまに包丁を振り上げたものの、いとも容易く奪い取られ部屋の隅に投げ捨てられた。
「どう?俺との新婚ラブラブ生活は。……俺を憎くなった?」
コイツ……貶めたな。
部屋に視界を移すとご丁寧に鉄扇と血引き鞭に連なる鏢がテーブルに用意されている。
あたかも『武器を取れ』とでも言うように。
「……精神的に屈服させて優位になったつもりか?いかにも弱者のやりそうな事だ。」
何故記憶が飛んだ?
先ほどまで夜の森で交戦していたはず。
「まあまあ、既成事実は作っておいたほうがいいかなって。……肉体関係を無理に結ばなかっただけ誠実だろ?」
馬鹿者が、それはお前のような夜兎の雄が最も忌み嫌う『卑怯な搦手』だろう。
「お前が意識のない私を害する者ではないのは分かる。」
神威の目がカッと開いた。
「そうだよ!俺はさぁ」
「失礼するでござる。」
声のする方を見るとサングラスにヘッドホンをした男がこちらを見てコホンと咳払いをした。
「チョメチョメの最中に申し訳ないが」
「「チョメチョメしてねーよ!!」」
この男……以前どこかで……。
「なんだよ、万斉。」
万斉……河上万斉。
……思い出した。
私は1年前に河上万斉と交戦した。
その後記憶が飛び、三人と交戦し……。
三人……思い出せるぞ。
あの日の夜、神威に人斬り似蔵そして鬼兵隊を束ねる高杉と闘った。
何故、私は河上万斉と交戦した後に仇となる鬼兵隊に入ったんだ?
「晋助が呼んでいるでござる。」
丁度いい、得物は手の届く範囲にある。
後ろに神威、前に万斉でも身軽な私に利が……
「流石にまともな服を着たほうがいいよ。色々と。」
「高杉……何の用だ。」
鬼兵隊などに興味はないが、夜兎の阿伏兎に神威。
そして高杉、岡田似蔵、河上万斉が場にいるとなると。
圧倒的に不利だ。
しかし、私は強者である。
「射干菟よォ、お前、随分と変わったらしいじゃねぇか。あの日観た勇姿、再び観せてもらおうか。」
岡田が抜刀した。
開戦の合図か。
「言われなくとも!!」
岡田、万斉、阿伏兎、神威、高杉の5方向に紐付き鏢を打ち込んだ。
それは一斉に弾き飛ばされて壁や床に突き刺さった。
「鏢か。前に見たでござる。」
万斉が三味線から刀を抜刀し、斬りかかろうとするのを鉄扇で受け止めた。
横から岡田が万斉もろとも薙ぎ払おうとするのをバク宙して足蹴にしつつ鋼鉄の血引き鞭の紐をビンッと張ると岡田と万斉の衣服が破れた。
「後ろががら空きだよ!!」
下がった先に神威が番傘を構えて振りかぶろうとするのを屈んで足払いした。
「おっと、団長の足元がお留守だったか。」
それを見越したように阿伏兎の番傘が目の前に迫る。
仕方なく番傘に沿って側転しつつ肩に乗り、ももで首を締めようとするが筋肉が想像以上に硬い。
「射干菟ちゃん、肩ぐるまされたいのかな?」
岡田の剣先が当たりそうになるのを身体を大きく捻ってかわした。
「すばしっこいでござるな。」
万斉の方を向くと指を広げている。
不味い、アイツも頑強な弦をワイヤーのように使う。
狭い部屋の中でワイヤーを放たれたら身動きが……
「ブラフか……」
指からは弦は放たれず、阿伏兎の肩から飛び上がった身体は中を舞った。
「隙だらけだよ、射干菟。」
後ろから神威の声がする。
空中で体勢を立て直して後を振り向きざま鉄扇で叩き切るまでのこと。
「射干菟。俺を忘れちゃいるめぇな。」
視線を移すと高杉が刀を抜いており、その刀が私の肩に突き刺さっている。
「まるで天女に見まごうよう舞踏だった。」
天女の称号をフライングゲット。
「おもしれぇ女だ……射干菟よ。」
おもしれぇ女の称号もゲットだぜ。
ではなく……出血……し
負けるのか?
私……最強の
夜兎……
「痛い痛い痛い!!助けてぇ……!!」
なんで私、いつの間にか囲まれてるの?
「先輩!!射干菟が戻ってきたって本当ッス!?」
「射干菟は死んだとばかり……」
扉が開いて来島ちゃんと武市さんがギャアギャア言いながら入ってきた。
なんで?私何も悪いことしてないのに。
「助けてください!!高杉様!!神威様ぁ!!」
「うぇぇん……怖かったです……神威様ぁ。」
神威様はあの血なまぐさい場から私を救い出してくれた。
「怖かったか。ま、俺がいるから安心して。」
お姫様抱っこされながら、ぎゅっと抱きついた。
「神威様ぁ……大好きです……。」
神威様は何も言わずに部屋まで私を運んでくれた。
「じゃあ、おやすみ。」
頭を優しく撫でてくれる彼の手を思わず掴んでしまった。
「あっあの……あの……神威様……。」
縋るように手を引いてベッドに寝転んだ。
「何。」
……私、神威様になら……。
「私の全てを捧げます……抱いてください……。」
い、言っちゃった。
恥ずかしくて心臓が飛び出そう。
恐る恐る神威様の顔を見ると眉間に青筋を立てていた。
「……は?……射干菟になって出直してくれない?」
え?なんで?どうゆうこと?
私が射干菟なのに。
何か怒らせるようなことした?
「私……何かやっちゃいました?」
神威様は深くため息をついた。
「俺はさぁ……まあいいや。俺のためを思うならサッサと寝てくれない?」
ぐっすり寝て休んでってこと?
神威様ってツンデレキャラだったんだ……。
「はい、神威様……いえ、旦那様。」