ジャングルが途切れる。
その先にあったのは——
自然ではあり得ない“形”だった。
地面から突き出す、巨大な構造物。
岩か、金属か。
判別がつかない。
だが確かなのは——
トゲだ。
絶壁から、長く、鋭く、無数に突き出している。
まるでこの星そのものが、侵入者を串刺しにしようとしているかのように。
その根元。
影が濃く落ちる場所に、異物があった。
「……あそこだ」
ノーランドが顎で示す。
そこには——
配管。
無理やり這わせたようなパイプ群。
むき出しのケーブル。
絡み合い、垂れ下がり、地面に沈み込んでいる。
廃棄された採掘施設の“残骸”。
「正面からは入れねぇ」
ノーランドは迷いなく進む。
足元は不安定。
配線が絡み、踏み間違えれば足を取られる。
だが——
彼の動きに迷いはない。
「ついてこい」
短い命令。
佐藤は一拍だけ観察し——
同じルートをなぞる。
配管の隙間へ、身体を滑り込ませる。
狭い。
低い。
立てない。
「……這え」
ノーランドの声。
すでに彼は地面に伏せている。
迷いなく、前へ。
佐藤も続く。
鉄の冷たさが、衣服越しに伝わる。
油の匂い。
錆の味。
湿気と腐敗の混ざった空気。
だが、佐藤の表情は変わらない。
ただ進む。
ケーブルが腕に絡む。
パイプが背中を押し潰す。
空間は徐々に細くなり——
やがて、さらに低くなる。
「……分かってる」
ノーランドが、誰もいない横に小さく言う。
そして、ルートをわずかにずらす。
一見、同じに見える隙間。
だが——違う。
“安全な通路”。
見えない罠を避けている。
佐藤はそれを見て、無言で追従する。
やがて——
空間が変わる。
圧迫が、消える。
ノーランドが先に身体を起こす。
「着いた」
短い。
佐藤も立ち上がる。
そこは——
広がっていた。
配管の迷路の奥に、ぽっかりと空いた空間。
天井は高く、壁には古い機材が並ぶ。
そして中央には——
“生活の痕跡”。
簡易ベッド。
積まれた物資。
解体された装備。
プレデターのマスク。
刃。
用途不明の装置。
「……よく作ったな」
佐藤が言う。
評価。
ノーランドは肩をすくめる。
「作ったんじゃねぇ。残ったとこを使ってるだけだ」
一歩、奥へ進む。
その動きが、わずかに緩む。
ここが——
“戻れる場所”だからだ。
ノーランドは荷物を投げ、座る。
金属音が響く。
「で」
佐藤を見る。
「ここが俺の拠点だ」
その言葉は短い。
だが——
重い。
この場所が、何シーズンもの“生存”の積み重ねであることを示している。
ノーランドは一瞬、横を見る。
「……来れたな」
誰もいない空間へ。
小さく笑う。
そして、佐藤に視線を戻す。
「さて」
銃を手元に引き寄せる。
「説明が欲しいんだろ?」
佐藤は頷く。
「必要だ」
その返答に、ノーランドはわずかに口元を歪めた。
——この場所で。
——この条件で。
——この男は、まだ“理解”を求めている。
「……いいぜ」
短く言う。
「全部じゃねぇが、教えてやる」
そして——
廃棄された採掘施設の奥、
配線と鉄の迷路を抜けたその場所で、
“狩り場”の本質が語られようとしていた。
ノーランドは一瞬だけ横を見る。
「……話すぞ」
誰もいない方向へ。
「分かってる。全部は言わねぇ」
そして前へ戻る。
「ここは“狩り場”だ」
低く。
「俺たちは連れてこられた」
指で床を叩く。
「この星にな」
佐藤は黙って聞く。
「集められるのは、“殺しに慣れた人間”だ」
一拍。
「兵士、傭兵、犯罪者……まともな奴はいねぇ」
ノーランドは近くの装備を拾い上げる。
プレデターのマスク。
「そして、あいつらが来る」
軽く放る。
金属音が響く。
「狩るために」
佐藤の視線が、そのマスクに落ちる。
「高度な技術だな」
「武器もな」
ノーランドは腕のブレードを指差す。
「一対一なら、まず勝てねぇ」
断言。
経験に裏打ちされた言葉。
「だから逃げる。隠れる。利用する」
そして、佐藤を見る。
「それで生き残る」
沈黙。
佐藤はゆっくりと口を開く。
「なるほど」
短い。
だが——理解は終わっている。
ノーランドは眉をひそめる。
「……それだけか?」
「十分だ」
即答。
ノーランドの顔がわずかに歪む。
「お前、本当に分かってんのか」
「分かっている」
間。
そして、佐藤は付け加える。
「敵の構造も、行動原理も単純だ」
ノーランドの目が細くなる。
「……ほう」
「狩りだ」
佐藤は言う。
「ならば、逆も成立する」
一拍。
「狩られる側が、狩る側に回ることも」
沈黙。
ノーランドは、ゆっくりと横を見る。
「……聞いたか?」
誰もいない空間へ。
「逆に狩るつもりらしいぜ」
沈黙。
そして、小さく笑う。
「はは……いいな、それ」
顔を戻す。
その目に、わずかな熱が宿っている。
「気に入った」
短く言う。
「しばらく組んでやる」
承認。
佐藤は頷く。
「合理的だ」
その瞬間。
この廃墟の奥で——
“狩られる者たち”の関係は、
確かに変質した。
洞窟の奥。
人工の広間に、沈んだ空気が満ちている。
外のジャングルとは違う。
ここは“死をやり過ごしてきた場所”の空気だ。
ノーランドは箱に腰を下ろし、しばらく黙っていた。
視線は、どこでもない場所へ。
「……何シーズン生き延びたと思う」
唐突に言う。
佐藤は即答しない。
「シーズンとは?」
佐藤が問う。
「周期だ」
ノーランドは指で空をなぞる。
「連中が来て、狩って、去る」
一拍。
「それで一区切りだ」
佐藤は黙って聞く。
ノーランドは小さく笑う。
「7か……いや、10かもしれねぇな」
曖昧。
だが、それが意味するものは明確だ。
——長すぎる。
普通なら、あり得ない。
ノーランドは続ける。
「最初はな——」
少しだけ、視線が遠くなる。
「チームだった」
短い言葉。
だが、重い。
「兵士、ヤクザ、ナイフ使い……まあ色々いた」
一拍。
「全員、死んだ」
感情はない。
事実だけ。
だが、その“削ぎ落とし方”が逆に重い。
「一人、また一人と減っていく」
指を一本ずつ折る。
「逃げ遅れた奴。慢心した奴。運が悪かった奴」
最後に、手を開く。
「理由なんてどうでもいい」
沈黙。
佐藤は表情を変えない。
ノーランドは続ける。
「で——学んだ」
声が変わる。
過去ではなく、“技術”の話になる。
「奴らは無敵じゃねぇ」
その言葉に、わずかな確信が宿る。
ノーランドは足元の装備を軽く蹴る。
プレデターのマスクが転がる。
「一体目は、運だった」
短く言う。
「地形を使った」
手で床を叩く。
「落としたんだよ。あいつを」
一拍。
「落下で手足がひしゃげた」
その瞬間。
「そこを撃った」
指でこめかみを指す。
「頭だ」
沈黙。
「二体目は、運じゃねぇ」
今度は、はっきりしている。
「動きを読んだ」
ノーランドの目が鋭くなる。
「奴らは“狩り”を楽しむ」
一歩ずつ、近づいてくる。
焦らない。
追い詰める。
「だから——誘導できる」
罠。
時間差。
死角。
「ブレードが届く距離まで引きつけて」
手を振る。
「爆破した」
短い。
だが、その距離感が異常だ。
普通の人間なら——死ぬ距離。
「三体目は……」
ノーランドは少し黙る。
そして、鼻で笑う。
「これはカウントしていいか分かんねぇ」
肩をすくめる。
「半分だけだ」
佐藤はわずかに首を傾ける。
「半分?」
「ほとんど死にかけのやつがいてな。他の奴と取り合いになった」
一拍。
「人間同士でな」
短い沈黙。
「そいつは死んだ」
誰が、とは言わない。
「で、俺が弱ったやつを仕留めた」
それだけ。
結果だけを言う。
ノーランドはゆっくりと息を吐く。
「つまり——」
視線が、佐藤に戻る。
「2か、3ほど殺してる」
曖昧な数字。
だが、その裏にあるのは——
確実な“殺しの経験”。
沈黙。
その重さを、佐藤はそのまま受け取る。
「……理想的だ」
一言。
評価。
ノーランドの眉がわずかに動く。
「それだけか?」
「それで十分だろう」
即答。
「生存戦略として完成している」
ノーランドは、しばらく佐藤を見つめる。
やがて、小さく笑う。
「はは……やっぱり気に入らねぇな」
だが、その声に敵意はない。
むしろ——
「だが、悪くねぇ」
視線を横へ向ける。
「……聞いたか?」
誰もいない空間へ。
「完成してる、だとよ」
沈黙。
「だよな、まだ甘いよな」
自分で答える。
そして、再び佐藤を見る。
「だから組む価値がある」
短く言う。
「お前は“見える”。俺は“知ってる”」
一拍。
「悪くねぇ組み合わせだ」
佐藤は頷く。
「同意する」
その瞬間——
この廃棄された採掘施設の奥で、
二つの異質な存在が、
明確に“狩る側”へと傾いた。
プ ロ ッ ト だ っ て ね ぇ よ