亜人の佐藤さんinプレデターズ   作:ビタミンK

3 / 9
連日投稿!!
投稿するとUAが凄い増えることに今更気づきました。
人の目に触れるって大事なんだなって。


新入り

沈黙が落ちた。

 

説明は終わっている。

この星の構造。

狩る者。

狩られる者。

そして、生き残る方法。

 

廃棄された採掘施設の居住空間に、機械の唸りにも似た静けさが満ちる。

 

ノーランドが壁にもたれたまま、佐藤を見る。

 

値踏みするように。

 

 

 

「……で」

 

 

 

短く言う。

 

 

 

「行く前に一つ聞く」

 

 

 

佐藤は返事をしない。

 

ただ視線だけを向ける。

 

 

 

「武器はいるか?」

 

 

 

その問いと同時に、ノーランドは足元の装備を軽く蹴る。

 

プレデターのブレード。

鹵獲した銃器。

即席の爆薬。

ここには、生き延びるために集められた“手段”がある。

 

佐藤は無言のまま立っている。

 

黒ずんだ戦闘服。

泥と血で汚れたジャケット。

肩には、使い込まれたAK-47。

 

銃床には無数の擦り傷。

金属部には細かな錆。

だが、整備は行き届いている。

 

腰にはホルスター。

 

収まっているのは大型のピストル。

予備弾倉が数本、ベルトに等間隔で差されている。

 

ナイフ。

簡易ポーチ。

最低限の携行品。

 

余計なものはない。

 

必要になれば奪い、失えば補えばいい——

そう語るような、実戦本位の装備だった。

 

 

 

佐藤は答えず、自分の肩からAK-47を下ろした。

 

無駄のない動作。

 

まず、弾倉を抜く。

 

重さを確認。

 

指先で装弾数を読むように撫でる。

 

差し込む。

 

金属音。

 

次に、ボルトを引く。

 

薬室確認。

 

排莢口を一瞥し、戻す。

 

乾いた作動音が、空間に響く。

 

続いて、腰のピストル。

 

引き抜く。

 

スライドを引く。

 

戻す。

 

安全装置。

トリガーの遊び。

照準。

 

一連の確認を、呼吸のように終える。

 

そして、言った。

 

 

 

「不要だ」

 

 

 

短い。

 

ノーランドの眉がわずかに上がる。

 

 

 

「それで足りるってか」

 

 

 

佐藤はAKを肩に戻す。

 

 

 

「足りなければ、奪う」

 

 

 

平坦。

 

事実を述べただけの声。

 

ノーランドは数秒、黙る。

 

それから——笑った。

 

乾いた、擦れた笑い。

 

 

 

「はは……いい」

 

 

 

首を振る。

 

 

 

「そういう答え方、嫌いじゃねぇ」

 

 

 

そのとき、誰もいない横手へ視線が跳ぶ。

 

まるで今、誰かに肩を叩かれたように。

 

 

 

「……あぁ、そうだな」

 

 

 

小さく頷く。

 

 

 

「だよな。最初からそういう目してやがる」

 

 

 

佐藤は興味を示さない。

 

再びピストルを収め、弾倉の位置を整える。

 

それで会話は終わった、という態度だった。

 

ノーランドは立ち上がる。

 

 

 

「なら決まりだ」

 

 

 

銃を拾い上げる。

 

迷彩装置の発振音が低く鳴る。

 

 

 

「新入りを見に行くぞ」

 

 

 

その声には、先ほどまでの気だるさが消えていた。

 

身体の重心も変わる。

 

疲れた生存者ではなく、獲物の動きを読む者の姿勢だった。

 

佐藤は無言で頷く。

 

二人は再び、配線まみれの狭い通路へ身を滑り込ませる。

 

鉄と油の臭い。

這い進む身体。

低い天井。

 

その先には、またジャングルが待っている。

 

そして——

 

新たに投下された獲物たちも。

 

 

 

 

 

 

 

 

配線の迷路を抜ける。

 

鉄の腹を這い、油にまみれた狭路を進み、二人は再びジャングルへ出た。

 

湿気が肌に貼りつく。

腐葉土の臭い。

見えない生物の気配。

 

ローランドは即座に姿勢を低くする。

 

迷彩装置が微かに揺らぎ、輪郭が森へ溶けた。

 

 

 

「ついてこい」

 

 

 

短い。

 

佐藤は何も言わず従う。

 

木々の根を跨ぎ、ぬかるみを避け、視界の悪い茂みを最短で抜けていく。

 

道ではない。

 

生き延びた者だけが知る“通路”だった。

 

やがて、斜面を登る。

 

露出した岩肌。

上には巨木の枝が張り出し、天然の天蓋を作っている。

 

その陰に身を伏せると、眼下に開けた平地が見えた。

 

投下地点。

 

佐藤は目を細める。

 

そこには、数人の人間がいた。

 

武装した男。

軍人らしい姿勢の者。

怯えを隠せない者。

苛立ちを露わにする者。

 

互いを牽制し、距離を取り、状況を測っている。

 

ローランドが低く笑う。

 

 

 

「いつ見ても同じ面だ」

 

 

 

擦れた声。

 

 

 

「“何が何だか分からねぇ”って顔だ」

 

 

 

佐藤は答えない。

 

視線は人間たちから外れていた。

 

平地の端。

 

倒木のそば。

 

そこに——いた。

 

人型。

 

だが、人ではない。

 

大きさは人間より、わずかに上。

肩幅は狭く、四肢は長い。

 

体表は乾ききり、樹皮のようにひび割れている。

所々に穴が穿たれ、空洞の奥に闇が見えた。

 

顔面には、眼窩のような窪み。

 

だが——眼球はない。

 

それでも、周囲を“見ている”としか思えない角度で首が動く。

 

背には二つの突起。

 

左右に並んで生えたそれは、艶を失った黒色。

金属にも角質にも見える、硬質な質感を帯びている。

丸みを帯びた基部から背へ食い込むように固定され、装備品ではなく身体の一部だと分かる。

 

光を吸うような黒さだった。

 

そして何より——

 

静止している姿勢からは想像できぬほど、脚部の筋肉配置だけが異様だった。

 

走るためだけに組まれた構造。

 

佐藤の眉が、わずかに動いた。

 

 

 

「……人間だけではないな」

 

 

 

ローランドが横目で見る。

 

 

 

「気づいたか」

 

 

 

当然だろう、という顔で鼻を鳴らす。

 

 

 

「連中はコレクターだ」

 

 

 

一拍。

 

 

 

「強いもん、珍しいもん、よく殺すもん——なんでも拾ってくる」

 

 

 

佐藤は平地を見下ろしたまま問う。

 

 

 

「別の星からか」

 

「たぶんな」

 

 

 

ローランドは肩をすくめる。

 

 

 

「聞いた話じゃ、虫みてぇな奴もいた。岩みてぇに硬い奴もな」

 

 

 

視線を遠くへやる。

 

 

 

「人間同士で潰し合わせる時もある。ああいう異星の獲物と混ぜる時もある」

 

 

 

その異形は、不意に身を沈めた。

 

次の瞬間——消えたように見えた。

 

違う。

 

速すぎたのだ。

 

倒木の横から、十数歩先の岩陰へ。

 

地面を裂くような加速。

 

葉が遅れて舞う。

 

佐藤の口元が、わずかに上がる。

 

それはまるで、次に遊ぶおもちゃを見つけた子供のようで。

 

 

 

「脚力特化か」

 

「走り出したら厄介だ」

 

 

 

ローランドは吐き捨てる。

 

 

 

「見失えば、次は背後だ」

 

 

 

佐藤は静かに言った。

 

 

 

「試験場だな」

 

 

 

ローランドは即答した。

 

 

 

「ああ。連中は獲物を色々放り込んで、何が生き残るか見てやがる」

 

 

 

声に滲むのは嫌悪だった。

 

 

 

「強さも、知恵も、運も込みでな」

 

 

 

平地では、一人の男がその異形へ銃口を向けている。

 

異形は、顔らしき部分をゆっくり傾けるだけで動じない。

 

別の人間が怒鳴り、銃口を下げさせる。

 

混乱。

 

不信。

 

恐怖。

 

まだ何も始まっていないのに、すでに崩れかけている。

 

佐藤は静かに言った。

 

「統率がない」

 

「だから減る」

 

ローランドは笑う。

 

「だが今回は面白ぇぞ」

 

顎で示す。

 

平地の中央。

 

人間たちの中に、一人だけ異様に落ち着いた男がいた。

 

無駄のない体勢。

周囲への視線。

呼吸の乱れすらない。

 

武器を持っていても、それに頼っていない者の立ち方だった。

 

その眼だけが、狩られる者の眼ではない。

 

佐藤もそれを見る。

 

 

 

「……なるほど」

 

 

 

ローランドが小さく笑う。

 

 

 

「そうだ。中には混じるんだよ」

 

 

 

声が低くなる。

 

 

 

「最初から、狩る側の顔した奴がな」

 

 

 

そのとき。

 

ローランドの表情が変わる。

 

 

 

「始まるぞ」

 

 

 

平地の人間たちはまだ気づいていない。

 

異星の獲物たちも、ざわめくだけだ。

 

だが佐藤には分かった。

 

この惑星で、“静かな時間”は終わったのだと。

 

平地の空気が変わる。

 

人間たちはまだ、それを理解していない。

 

 

 

だが、理解している者が三人いた。

 

佐藤。

光学迷彩の中で息を潜めるローランド。

そして——平地の端に立つ、あの異形。

 

樹皮めいた体表の生物が、ゆっくりと首を巡らせる。

 

眼球なき窪みが、森を向く。

 

次の瞬間——

 

消えた。

 

否。

 

走った。

 

地面を蹴る音すら置き去りにして、一直線に森へ突っ込む。

 

人間たちがざわめく。

 

銃口が揺れる。

 

だが追えない。

 

速すぎる。

 

迷彩の揺らぎがわずかに震えた。

ローランドが緊張したのだ。

 

佐藤は短く言う。

 

 

 

「来る」

 

 

 

その直後だった。

 

右。

 

木々の隙間から、灰色の影が弾丸のように飛び出す。

 

狙いは——佐藤。

 

最も静かな存在を、先に潰しに来た。

 

 

 

「ほう」

 

 

 

佐藤の口元がわずかに歪む。

 

初撃。

 

異形の脚が閃く。

 

横薙ぎの蹴り。

 

丸太で殴られたような衝撃。

 

佐藤の身体が樹木へ叩きつけられる。

 

幹が震え、葉が落ちる。

 

常人なら、肋骨が砕けて終わりだった。

 

だが佐藤は立っていた。

 

首を鳴らす。

 

 

 

「速いな」

 

 

 

――速さとは、それ単体では勝利にならない。

だが“先に当てる権利”を一方的に奪い取るという意味で、戦闘における最上級の才能である。

技術差も体格差も、相手が反応する前に攻撃を通せば意味を失う。

 

異形は答えない。

 

答える口が、そもそも人間の形ではない。

 

再び沈む姿勢。

 

背の黒い突起が震える。

 

地を裂く加速。

 

 

 

二撃目。

 

今度は佐藤が前へ出た。

 

真正面から。

 

AK-47を横薙ぎに振るう。

 

銃床が異形の頭部へ叩き込まれる——寸前。

 

異形が身を低くし、掻い潜る。

 

そのまま通過しざま、爪が脚を裂く。

 

肉が裂ける。

 

血が散る。

 

佐藤の左脚が千切れ飛んだ。

 

光学迷彩の輪郭が大きく揺れた。

ローランドですら息を呑んだのだ。

 

普通なら終わり。

 

脚を失うとは、機動力・姿勢制御・回避能力の喪失を意味する。

立つこと、踏み込むこと、逃げること、その全てが著しく損なわれる。

戦場でそれは、死の宣告に等しい。

 

 

 

だが——

 

佐藤は倒れない。

 

片脚のまま体を回転させ、空振り覚悟の肘打ちを放つ。

 

衝撃波のような一撃が背を掠め、

 

黒い突起の片方に亀裂が走る。

 

異形が初めて後退した。

 

距離を取る。

 

首を傾ける。

 

理解できないのだ。

 

脚を失った獲物が、なぜ攻撃してくるのか。

 

佐藤は落ちた自分の脚を一瞥した。

 

次の瞬間には腰のピストルを抜き、ためらいなく銃口をこめかみに押し当て、そのまま引き金を引いていた。

 

 

 

乾いた銃声。

 

頭部が弾け、身体が崩れ落ちる。

 

あまりに淀みのない一連動作だった。

迷彩の揺らぎが硬直し、ローランドでさえ反応を失った。

 

自死を“回復行動”として選択できる者など存在しない。

死を恐れる本能が、人類共通の安全装置だからだ。

だが佐藤には、その装置が戦術的に無意味だった。

死が終点でない者にとって、死はただの手段へと堕ちる。

 

異形は数歩後退した。

 

理解不能の光景だった。

 

だが——次の瞬間。

 

黒い粒子が死体から噴き出す。

 

渦を巻く。

 

頭蓋。

脳。

皮膚。

失われた左脚。

 

すべてが再構築される。

 

倒れたはずの男が、ゆっくりと立ち上がった。

 

無傷で。

 

 

 

迷彩の中で、ローランドの姿勢がわずかに崩れた。

思わず声を漏らしかけ、飲み込んだ反応だった。

 

異形は静止した。

 

初めて明確な警戒を見せる。

 

佐藤はAK-47を構え直す。

 

 

 

「続けようか」

 

 

 

この瞬間、勝負は半ば決していた。

未知の敵にとって最も恐ろしいのは、倒しても終わらぬ相手だからだ。

攻撃の成果が積み上がらず、消耗だけが自分に蓄積する。

 

異形が消える。

 

 

 

三撃目。

 

背後。

 

だが、佐藤は振り向かない。

 

来る位置を読んでいた。

 

引き金を後ろに向け、AK-47の引き金を引く。

 

連射。

 

銃口炎。

 

弾丸が一直線に森を裂く。

 

数発が体表を砕き、

 

一発が背の黒い突起を吹き飛ばす。

 

異形の身体が大きくよろめく。

 

それでも即座に走る。

 

速い。

 

 

 

だが今度は逃走だった。

 

佐藤は踏み込む。

 

片膝立ちの姿勢から、さらに連射。

 

二連、三連、四連。

 

脚部へ。

 

樹皮めいた外皮が弾ける。

 

片脚が砕け、異形が地面へ転倒した。

 

なおも這う。

 

まだ速い。

 

まだ生きている。

 

ならば——止める。

 

佐藤は予備弾倉を叩き込み、至近距離まで歩み寄る。

 

異形が跳ね起きる寸前。

 

頭部へフルオート。

 

銃声が森を裂く。

 

顔面が砕け、背の残った突起も粉砕される。

 

身体が痙攣し、止まる。

 

 

 

静寂。

 

葉が落ちる音だけが残った。

 

銃とは、平等の装置である。

筋力も体格も速度も、引き金一つで帳消しにする。

長年鍛えた肉体も、生まれ持った才能も、鉛の一粒で沈む。

 

次の瞬間。

 

死骸の穴という穴から、黒い粒が溢れ出した。

 

最初は土が零れたように見えた。

 

だが違う。

 

虫だ。

 

甲殻に覆われた細長い虫が、無数に。

 

裂けた脚部から。

砕けた頭部から。

背の突起があった窪みから。

樹皮めいた体表の穴という穴から。

 

わらわらと湧き出る。

 

地面を埋めるほどの数。

 

互いに絡み合い、擦れ合い、音を立てながら四方へ散っていく。

 

佐藤は一歩だけ下がった。

 

AK-47の銃口を自然に下げる。

 

 

 

迷彩の揺らぎは動かない。

ローランドにとっては見慣れた現象だった。

 

虫たちは死骸の周囲を奔り、土へ潜り、また這い出し、やがて森の暗がりへ散っていく。

 

だが、異形の本体そのものは、その場に残っていた。

 

崩れない。

 

砕けた頭部。

撃ち抜かれた脚部。

穴だらけの樹皮じみた胴体。

 

ただ中身だけを吐き出した抜け殻のように、なお巨体を横たえている。

 

佐藤は死骸を見下ろした。

 

 

 

「寄生か」

 

 

 

迷彩の揺らぎが、ごく小さく左右に振れた。

否定でも肯定でもない、ローランドなりの反応だった。

 

佐藤はさらに観察する。

 

背の黒い突起の破片。

空洞化した胴体。

虫が抜けたあとの無数の孔。

 

 

 

「それとも共生体か」

 

 

 

今度は迷彩の輪郭がわずかに傾いた。

ローランドは、その見立てのほうが近いと感じたのだ。

 

虫たちはやがて一匹残らず消えた。

 

残された巨体は、森の土に半ば沈みながらも、不気味な存在感を放っている。

 

遠く平地では、人間たちの悲鳴と銃声が上がり始めていた。

 

狩りが、本格的に始まったのだ。

 

佐藤はAK-47を肩に戻す。

 

そして、平然と言った。

 

 

 

「次へ行こう」

 

 

 




ちなみに、この話を思いついたのは佐藤さんの軍人時代と初代プレデターって似てね? と思ったのが始まりです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。