在野の強者のモブパイロットはシビアなSF世界を気楽に生きていたい。 作:その辺の束子
主人公が『名無しのスタークジェガンのパイロット』のつもりが『
いきなりロボに乗って護れるのは主人公の特権
「誰か!誰か助けてくれ!」
「子供が未だいるんです!脱出ポッドに乗せて!乗せてあげて!」
「どけ!退け!退けぇぇぇ!!」
街中に響く慌てふためいた叫び声。それはそうだ……自分の街の頭上で、直ぐ側で大変な戦闘が行われているんだからな。みんな自分が、あるいは大切な誰かを生き残したくて当然だ。
彼も、きっと同じ気持ちだった。
「おい!早く行こうぜ!?」
「こんな酷い事……許せるか……!!」
「おっ、おいっ!?」
「俺が……俺が助ける!!」
「ちょっ!?おい!?」
意気揚々と落ちていたロボットに乗り込んでいたのも、彼だったか?
人類が宇宙にあがり幾年……各地にドーム型のコロニーと呼ばれる宇宙居住地が生まれ、それぞれが国のような立ち位置を取りながら暮らしていた。
そんな中、地球圏のとあるコロニーに、何処とも分からない軍隊が突然一般市民のいるのにもかかわらず攻撃を仕掛けた……狙いは軍の施設だが、その流れ弾は、容易にただ暮らしていただけの人々の命を奪い去っていった。
それを許せなくて、どうにかしたくて、彼は落ちていたロボットに乗った。勿論、彼らのコロニーの軍も応戦したが、圧倒的に対応が遅れ後手後手に回っていた。そのままでは被害が広がるばかりだ。
……アルバトと呼ばれるよく見る量産機で、特別な機体じゃなくても、何かを漁るように襲ってくる奴らにとっては良い牽制になると思った。
なぜこんな所にそんな機体があったのか、きっと、出撃前にパイロットが死んで、そのままだったんだろうか?あるいは、整備が完璧じゃなかったんだろうか?そんなことはどうでもいい、奴らに一矢報いさえすれば。
……余談だが、このアルバトに乗った少年は所謂アニメオタクであった。特にロボットアニメが大好きで、いつの日か、本当にロボットに乗ってやろうと信じていた。
誰かがピンチの時、颯爽とロボットに乗り込み敵を倒す……そんなスーパーロボットに乗るヒーローに憧れていた。だから彼は操縦学を専攻して、ロボットに乗れるようになろうとしていた。
だから、いきなりの実戦でもある程度戦えたと言える。
多くの人を助けられたと思う。そう信じたい。
多くの人を守れたと思う。そう思いたい。
だけど、大事な友達も家族も、彼は守れなかった。
焼ける街の中……一人の少年の声にならない叫びが木霊する。
その周囲には、助けられなかった友の亡骸が……焼けた鉄筋につぶされたのか、生々しい火傷を残しながらもなお安らかな顔で眠る少年少女らの姿があった。
彼らは皆、少年が護れなかった者達だ。何の因果か……皆、この狭いコロニーで見知った顔ばかりで………
「アアァァァァァ!!!クッソォッ!!」
己の無力感に叫ぶ。叫ぶ。叫ぶ。
そんな彼を見下ろすように、一機の人型ロボットが佇んでいた……黒く染まったその体色を、炎に焼き付かせながら。
地球圏のとあるドーム型コロニー『クワイセラン』で起きた大規模戦闘事件。クワイセランの動乱。
理由は……クワイセランで開発された新型兵器を敵対関係にあった月の裏側のコロニー『トライセレン』が鹵獲、排除を狙ったからである。
多くの民間人がコロニーにいたにもかかわらず行われたその戦闘行為は、人間が宇宙にあがり生活するようになってから起こった戦闘行為のなかで頭一つ抜けた惨事として記憶されるようになった。
2つのコロニーの戦争もやがて沈静化し、そこから始まった地球圏と月の冷戦は、各地に膠着状態をもたらし、ある種の退廃的な空気を作り出した。
そんな中、クワイセランの動乱の際に戦った1機の民間人の子供が乗っていた量産機が中のパイロット共々公から姿を消したという事は、あまり知られていない。
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暗い、暗いコクピットの中……目の前に映るのは液晶越しに広がるカタパルトと、その先に広がる宇宙。星の光が瞬いては消え、消えては瞬く神秘の世界。
堅牢な作りをした台形の宇宙船の上に立つのは、一機のオンボロ機体。名は……『アルバレイス』。夜明けの幽霊の名を持つ機体だ。
頭部、カメラが露出しているのを隠すような露骨な増加装甲。胴体もボロボロで一部を強化装甲で覆うが、予算の都合で身体の一部はフレームが露出している。
左腕は3本爪が特徴なアイアンクローの武器腕。スクリューのように回転してドリルのような攻撃を可能にしている。右腕は普通に多重規格の人腕だ。
全体的にボロボロ……あらゆる意味でマトモな機体ではなかった。まるで幾千の戦場を渡り歩いた落ち武者……幽霊のような姿だ、実際このアルバトこと、アルバレイスでどのくらいの戦場を回ったか……。
だから『亡霊』なんて名を加えたのだが……。
不意にコンソールを眺めると、今日の日付はあのクワイセランの動乱の起こった日と同じ……あの日から5年も経っているのか。
どうりで、あの頃から使い続けたこの機体もボロが出始めているわけだ。
すると、通信機から宇宙船――ディング号からの渋いおっさん声の無線が入る。
『よぉ、調子は?』
「良くはない。だが良いようには振る舞えんだろ。」
『ははっ!そいつぁ良い!』
「リドー。今回のターゲットは?」
通信の相手……ディング号から通信してくる相手の名は『リドー・リムズ』24歳。俺と手を組んでるネゴシエーターで老け顔巨漢なのが特徴だ。その割に得意なのは整備やデジタル操作や情報制御みたいな代物なんだが。
『賞金首は岩礁帯を移動中の金借り野郎のリビーバ。134件から8700万くらいだまくらかして借りてる。キチッと金を取り立てるか殺すかしてほしいんだとよ。』
どこの借金王かな?何をどうしたらそんな状態になるんだ……つか貸す方も貸す方だろそれ……しかし、そんな相手に対して俺みたいな
「ったく……また安く買い叩かれたな。」
『ま、金がもらえるだけマシさ。ちゃあんと暴れてやんな……レイト!!』
レイト・ナモナ……それが俺の今の名前だ。首に金のかかった賞金首をこのロボを使ってブチ倒す。それが俺の仕事……バウンティハンターだ。
各星系にいる過去の遺物の無人兵器、宇宙船を襲う海賊、環境の整わない過酷な宇宙旅、碌が整った都市のない星々……
退廃的な空気溢れるこんな世界で生きていくためには、俺は強くなくちゃいけない。
……幸いにも、戦闘機や戦艦は兎も角、この世界で主武装となり得るロボットの操縦は俺には向いていたらしい。それでも、護りたいものが護れるとは限らないが。
もっとも、このアルバレイスもボロボロだからな。内部をいじくり回したり装甲を切った張ったでごまかしてはいるが、飛び抜けたスペックはない。まぁ、今個人でロボットを持っている奴らはみんなそんなもんだろうが。
『さて、そろそろ行くぞ!』
「捉えた……!!」
センサーにはジャミングを張っていたのか岩礁帯を影にしていたのか不明だが、隠れていたその賞金首の機体を見つける。機体一つでこんなところを渡り歩くとは、まさに夜逃げだな。
「コード切離し!レイト・ナモナ!アルバレイスで出るぞ!」
『岩に弾かれんなよ!』
俺の合図とパネル操作により、機体とディング号を繋いでいたコードが切離され俺の機体がカタパルトから射出……本来ならこんな岩礁帯にレイダーをカタパルトでぶっ飛ばすなんてのは自殺行為も華々しい。だが、やってやれない事はない。
バーニアを吹かせて、なるべく岩を避ける……それでも避けきれないなら……
「さて、改造して回転数を上げた特注品の『クローアーム』……その威力、如何に!!」
俺の言葉通りに左側の操縦桿レバーをいじると、腕全体が回転……クローがスクリューのようになり、同時にドリルのような粉砕力を獲得する。
俺はレイスの左腕を使い岩石を破壊する。破壊音で気がついたのか、やつの機体は遠ざかるだろうが……問題ない、このまま断続的に岩を壊して目眩ましながら接近すれば……
『ッ!?ちぃっ!?追ってきたか!?』
賞金首の無線越しの驚愕の声に、俺は喉の奥から笑いながら応えてやる。相変わらず、自分でも腑抜けた笑いが出るようなでかい声だ。昔は怒りながら声を荒げて、今は笑いながら声を荒げてた。どっちが良いかな?
「ちわーっす!!金取り立てに来ましたァッ!!!」
多分は後者だ!!
俺の機体は岩石を影に一瞬でやつの懐に入り込める……!!!そうすれば、あとはこちらで戦況を作れる!
俺のアルバレイスの左腕がスクリューやドリルのように回転して、次の瞬間……目の前の機体の頭をえぐり飛ばすのだった。
『お前……その左腕、オンボロな亡霊の機体!?………
「そう言う事……だぁ……よ!!!」
次の瞬間、頭部を失ったその機体に対して右手で実体剣のサーベルを抜き取り斬りかかる。
相手はそれでもなおサブセンサーのカメラを使って察知して腕のシールドでガードする……あぁ!ガラ空きだ!
「んじゃ、悪いね!」
『なっ!?』
次の瞬間、左腕のクローが相手の胴体……すなわち、コクピットを掴み……チェーンでつながったロケットパンチの要領で吹っ飛ぶ。今日は、どうやらきちんと生きて捕獲できそうだ。
クローに鷲掴みにされたまま吹っ飛ぶ機体……それはやがて岩石に打ち付けられ完全に沈黙する。最後に、通信機越しから奴の声が聞こえる。
『くそっ……なんで……こんな……身体が、痛ぇ……』
「……いや、金返せよ。普通に。」
そんななんてことない会話で、あっという間に戦闘は終わりを迎えたのだった。
これは、一人の亡霊の物語。
何も守れず、何も救えず、何も出来ずに彷徨っていた