在野の強者のモブパイロットはシビアなSF世界を気楽に生きていたい。   作:その辺の束子

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主人公っぽい奴らと後の兄貴分っぽい奴

 

「もうそろそろ金星だ。着陸するぞ。」

「降りる場所はどうする?」

「ひとまず地上コロニーに降りる。確かブラックマーケットがあったはずだ、そこで情報集めるぞ。」

 

 リドーが船を操舵しながら呟く。するとレイトは目を細めながら言葉を紡ぐ。

 

「それより俺は飯が食いたい。お前のゲテモノ機内食にはうんざりだ……」

「なんでだよ、サバ味噌美味いだろ。」

「この間なんかお前、刺身味のビスケット持ってきたじゃん。あれマジで吐きかけたんだからな!?保存食ならもっとあるだろ!バニラとかチョコとか!」

 

 レイトの言葉にリドーは眉をひそめると、鋭い口調で言い返す。

 

「俺は甘いものが嫌いだ。あんなの食ってたら脳が腐ってヨーグルトになっちまう。」

「ならもう手遅れだな。脳腐ってヨーグルトになったからそんな味覚なんだろ?」

 

 酷い物言いだが、冷凍の白米のおかずにサバ味噌とはいえビスケットをお出ししてくるようなやつにはこんな言葉が出ても仕方がないだろう。なにせ3年の付き合いだ。飯にも不満が出る頃合いだろう。

 

「文句あるなら自分で作れよ。」

「俺が作る前にお前がビスケット出してくるから食ってんだよ。お前も忙しいんだから飯くらいサボれ。」

「へぇい。」

 

 生返事なのでおそらく分かっていない……すると、段々とディング号の防護シャッターが外れていくと、下方に見えるのはコロニーと似たような大型のドーム状の幕に覆われた街だ。

 

 金星は過酷な環境だ。地上コロニーといっても直接地上に建つわけでもなく、高度約30kmほどにコロニーと同じようなドーム状の街が展開されている。これも、何千年のテラフォーミングの甲斐あってこうして生活できているのだ。

 

 それでも外に出るにはロボットや専用のパワードスーツ類がなければ自殺行為に等しい。深海に生身で飛び込むようなものだ。

 

 故にこうして金星の上ではドーム状の街が展開されている……そしてそこから移動用の管を通って様々なセクションや街へと移動ができるのだ。

 

 金星へと降りた後、二人が行うべきは情報収集……レジスタンスの巣窟といっても、総玉砕態勢で常に継戦バリバリってわけでもない、普通の生活が行われている所も十分にある。

 

 街中の感覚も普通のコロニーと変わりない。ただ他のコロニーなどで見るスポンサーマークは一切見ない。代わりに土着企業のマークはよく見るが。きっと、そういう街なのだろう。それだけだ、さしたる問題はない。

 

「……この前の201コロニー思い出すな。」

「あそこはもう少し酷かったろ。こっちはまだ街としてちゃんとしてらあ。」

 

 適当に軽口を叩き合う2人。当然目的は忘れていない……今回の目的はバルトの情報収集だ。

 

 噂に聞くブラックマーケットや人から話を聞けば、アストロスの目撃情報くらいは出てくるだろう。あれだけ目立つ機体なら誰かが見ているはずだ。

 

 ただ、そのブラックマーケットやそういった情報の集まりそうな場所がどこにあるかを二人とも把握していなかった。当然だ、そんな情報は土地に出て直接稼ぐほうがいいし、早いし、情報屋から買うよりも安く済む。

 

 しかし、そういう時の交渉人……ネゴシエーターの出番である。そんな情報稼ぎは、リドーの得意分野だ。彼らが向かうのは市場の方向。

 

 そこには露店が並んでいた。売っているものは雑多で、食料から機械部品から正体不明の薬品まで、種類に統一性がない。こういった場所はたいていきな臭いのがリドーの直感だ。

 

「そういうのは街の噂になってるもんだ……そこの喫茶店に入ろう。この辺はきな臭いし、どのみち地道にやるしかねぇからな。」

「なんか久々に頼もしいなお前。」

 

 元はこういった交渉関係を得意としていたからか、半ば本職に戻った気分で近くのいかにも雰囲気のある喫茶店へと入る。

 

 こんなフィーリング100パーセントの選び方で良いのだろうか?そんな事を思いながらも、レイトはリドーを信じてあとに続く。

 

 喫茶店の室内はある種のバーに近いカウンター形式になっており、既に数人の客がいる。なかには少し若めの男女の客も居た。2人はそっと席に着くと、リドーは店主に声をかける。

 

「なぁ、店主さん。俺はちょっと探し物をね?」

「お客さん、ここは喫茶店だ。何か頼んで貰わねぇと。」

「おっとこいつぁ失敬!俺はアイスコーヒーね!」

「……俺は……アイスティー。」

 

 金星は熱い……飲み物の定番はアイスだ。

 

 隣の若い客もアイスコーヒー……いや、あれはコーラのようだ。レイトはそれに気がつくが、またリドーが脳がヨーグルト云々言い出すのを嫌がって口をつぐんだ。

 

「いやいやマジだって。仕事で探してんのよ!ちょっとした曲者!」

「だからここは喫茶店ですぜ?そういった話はよそに……」

「いやぁ、保安局みたいな穀潰し当てにならないっしょ?」

「……ふぅむ。」

 

 リドーはリドーで店主に取り入るのに必死らしい……そして、その会話を聞き耳立てているのか知らないが、隣の客が妙によそよそしくなった。

 

「ごちそうさま。」

「……ごちそうさま。」

 

 二人の男女はその声とともに飲み終えたコーラの横に小銭を置いてその場から立ち去る。机の上に、布でできた財布を忘れて……

 

「あっ、おいアンタ!」

 

 レイトが気がついて呼び止めるよりも早くその若者は喫茶店から出てしまっていた。このまま金をくすねる選択肢もあるが……そんな狡いことは流石にしない。

 

 軽く息を吐きながら立ち上がり、机の上に置かれた財布を手にして話し中のリドーの肩に手を置き、店主に告げる。

 

「わり、俺出ますわ。お代はコイツが払うんで。」

「はぁっ!?おまっ……レイトぉ!?」

 

 リドーの嘆きも無視して、レイトはそのまま扉から飛び出した二人組を追いかけた。幸いすぐに出たおかげで先ほど見た人影が見え、咄嗟に駆け寄る。

 

 が、人影が細い路地裏に入り少しして鈍くぶつかる音が響いた……その後聞こえるのは、声色の低い男の怒声だ。

 

「てめぇ!何しやがる!」

「あぁ、すんません!」

「すんませんじゃねぇ!こりゃ明らかに骨折もんだぞてめぇ!」

 

 レイトがそっと顔を出して覗いてみると、そこにはいかにもなチンピラ風の小太りな男がぶつかってきたであろう男女二人組に怒号を振りまいていた。

 

 明らかな厄介者だ。それも、無駄に力ばかり強そうなタイプの……すると、そのチンピラ風な男は銀髪の少女のか細い腕をつかみ引き寄せていく。

 

「慰謝料代わりだ。この女借りてくぜ。」

「っ!?てめっ!離せ!」

 

 女の子が無理矢理掴み取られて不服なのか掴みかかる少年……だが、圧倒的体格差だ。あっという間に弾き飛ばされ、近くのゴミ箱に全身を打ち付けた。

 

「いてて……てめぇっ!」

 

 まだ怒り心頭に喧嘩を売りに行く少年……だが、チンピラ風な男の方がはるかに喧嘩慣れしているのか、少年の拳を軽く避けて逆にその腹にボディブローを叩き込む。

 

「へへっ……寝てろボケがっ!」

「っ!離し、て……!」

 

 そう言って振りほどこうとする少女……だが、そんな少女を抱えたまま路地裏の奥へ消えようとする男……そんな男にも少年はまだ掴みかかる。

 

「はな……せ……!」

「っ!このっ!死に損ないがよぉっ!」

 

 あまりのしつこさについにキレたのか、近くの鉄パイプを拾い上げてその少年の頭に叩きつけようとするチンピラの男……流石に見て見ぬふりはできないと、レイトは飛び出してしまった。

 

 とっさに少年の盾になるように立ちはだかり、その鉄パイプを素手で受ける……素手だ……骨に響き痛みがじんわり広がる。そしてそのままレイトは男の握っていた鉄パイプを掴み、一言呟く。

 

「……痛ぇよ。」

「っ!?テメェ何者だ!?」

「ただの旅行者だよ……ロボ好きのな……!」

 

 派手に格好をつけてそう名乗るレイト……そして次の瞬間、レイトの回し蹴りが男の頬をかすめる。男の方もガキ相手ならまだしも……なんてことを考えていたのか、掴んでいた少女を突き放して向かい合う。

 

「っ!?」

「うおっと!」

 

 そっと少年が突き飛ばされた少女を支える……割と痛手を受けているのによくやる。頭を軽く切ったのか血が出ているではないか。

 

「ちっ……カスがよ……」

 

 するとチンピラは気まずそうにツバを地面に吐いて路地裏に消えていく……少年は怒り心頭で「待て!」と叫びそうになっていたが、レイトはそっと手で制した。

 

「行かせてやれよ。そっちのほうがいい……それよりも、坊主。これ。」

 

 そう言ってレイトが取り出すのは一つの財布だ……少年は少し目を見開いて驚いたように体を確認する……するとやはりなかったのか唖然とレイトの持つ財布を見た。

 

「まじ……かぁ…よ。」

「喫茶店に忘れてったろ。届けに来た。」

 

 差し出すと、少年は少し間を置いてから受け取った。中身を確認して、また顔を上げる。

 

「……中身減ってねぇや。」

「迷ったが、くすねる趣味はないんでね。」

 

 少年はしばらくレイトを見た。疑っているのか、値踏みしているのか。それから少し眉を下げて、素直に言葉にした。

 

「……ありがとう。」

「どういたしまして。」

 

 銀髪の少女がレイトを見ていた。感情の読めない目だが、じっと観察している。すると、少年はレイトに対して問いかけた。

 

「あなた、ここの人ですか?」

「いや、観光客みたいなもんだ。言ったろ?」

 

 それだけ言うと、少女は少年の袖を引いた。行きましょう、という意思表示らしい。だが………どうにも頭の傷が心配だ。またこんなパターンかとレイトは若干苦笑しながらも、少年の肩に手を乗せる。

 

「その血まみれの頭じゃ目立つ。俺らの母艦で手当てしてやるから来いよ。」

 

 平静に考えれば下心やらロリコンショタコンとは思われても仕方がないようなセリフを吐くレイト……だが、少年はあまり余裕がないのか少し言葉に詰まらせてから……そっと呟いた。

 

「……お願い、します。」

「おう。」

 

 これが、追って追われてをするはずの賞金稼ぎと賞金首が、お互いの素性を知らずに出会ってしまった瞬間だ。改めて紹介しよう、少年の名前はバルト・スミシー、銀髪の少女の名前はナディア。

 

 現在進行系でレイトとリドーが追いかけている賞金首である。船内でろくに顔も確認しなかったのと、アルバレイスの無線がボロボロで詳しい声色が聞き取れなかったがゆえの、偶然の邂逅なのであった。

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