在野の強者のモブパイロットはシビアなSF世界を気楽に生きていたい。   作:その辺の束子

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主人公っぽい奴らの勘違いモノ(?)

 

「っし、これで終わり……そこまで上手くねぇが、これで十分だろ。」

「あ、ありがとうございます……」

「……。」

 

 レイトはリドーに黙ってその二人の少年少女を母艦のディング号まで連れて帰った。頭に軟膏や薬を塗り包帯を巻く……リドー程ではないが、レイトも応急処置程度にはできる。

 

 リドーがやるよりも不格好にはなるが、目に見えて下手というわけでもない。応急処置には十分だろう。

 

 だが、少年……バルトの顔は少し引きつっていた。目の前の気の良さそうな青年……レイトが、自身を狙っていたバウンティハンターだと分かったからだ。

 

 もちろん最初は半信半疑だったが、このディング号の姿を見た時に確信した……この船は、アストロスで逃げた時、あのアルバレイスとかいう機体の後方にいた船だ。

 

 だが、すでにそこから逃げ出ていくわけにもいかず………こうして敵地へと連れ込まれて手当てを受けるという訳のわからない状態になってしまったのだ。

 

 二人が喫茶店で店主相手に聞き込みをしていたころから怪しいとは思ったが………まさか、あの時の賞金稼ぎがこんなにも早く追いつくとは予想外だった。

 

(えらい事になったなぁ………)

 

 しかし船の中はボロボロだが、結構しっかりと綺麗にされている。いわゆるバルトの想像した賞金稼ぎやならず者、アウトローの船とはだいぶ違う。生活感が強く出ていると言うべきか……ゲーム機やロボットのフィギュアも置かれている。

 

 ナディアはそういった『生活感』そのものが珍しいのかいろんなところを歩き回ってゆっくりと見つめていた。ナディアは部屋の隅のフィギュアの前でしゃがんで、順番に眺めていた。

 

「触っていいですか。」

 

 突然の問いかけに、レイトが振り返る。

 

「棚のやつか?」

「はい。」

「落とすなよ。」

 

 それだけ言うと、レイトは救急箱を棚へと戻す。ナディアは許可を得たことで、一体を両手で持ち上げてしげしげと眺めた。古い型のロボットのフィギュアだ。塗装が少し剥げている。

 すると、ナディアはぼそっと声をもらす。

 

「かっこいい……」

「だろ!?そいつはTVアニメ【牙を持つ鳥〜レイヴン〜】の外伝ワールドロードって作品に出てきた機体でな!豪傑な見た目にケレン味が交わってて好きなんだよ。俺ぁスタイリッシュな機体が好きなんだが、こういうのも偶には良いよな!」

「……なるほど。」

 

 突然の目の前の男の豹変ぶりに脳の処理が追いつかないのか、そう言葉にして棚に戻すナディア。さすがのバルトも驚いてジト目になるが、助けてもらった手前何も言えないと黙りこくる。

 

 ナディアはそれでもロボットのフィギュアの山が楽しいのか、若干ウキウキになりながら棚を見る。

 

 正直バルトも少し見たくてそわそわするが、それよりもまずお礼を言わなければと、バルトはひとまず改めて目の前の青年に向き直る。

 

「あの、ありがとうございます。助けてくれ……」

「まぁ気をつけな。ああいう手合いはたまに手に負えないのが出てくるからな。」

 

 そう言ってポットからコップへお湯を注ぎココアを差し出す……よくもまぁこんな物が入ってたものだ。稼ぎ自体はそう悪くはないのだろう。

 

「あ、ども…………あのっ、なんで助けてくれたんですか?」

「?」

 

 ココアを受け取ったバルトは口から出た疑問を押し殺せずにそう問いかけた。レイトはその言葉を聞いてさらに小首をかしげる。

 

「なんでって……お前まさかMか……」

「なわけねぇだろ……でも、ほっといてもよかったんじゃ?こんなガキ……その腕も俺を庇って……」

 

 そう言ってバルトが目線を向けると、レイトの腕は鉄パイプをまともに受けた影響で赤くなっていた……氷嚢で冷やしてはいるが、決して無痛なわけがないだろう。

 

 バルトはそれがどうしても理解できなかった。前のコロニーでは、少なくとも大人は信用ならない生き物だった。

 

 幼い頃に両親を亡くしたバルトは孤児院に育てられたが、同期には優秀な子が多く、落ちこぼれのバルトは歯牙にもかけられなかった。

 

それどころか邪険に扱われることもあった……子供は親代わりの大人に無視されたんじゃたまらない。その内にバルトの心はどんどん荒んでいった。

 

 そんなバルトが王道から外れた道に進むのにはそう時間はかからなかった。

 

 時に学校をサボり、時にスリ、時にケンカ……無抵抗な人間を殴ったことはなく、外道に落ちたような真似はしないが……それでも優等生はおろか、普通の子供とは口が裂けても言えない。

 

 そう……バルトにとって自分より年上な大人はみんな敵と言っても過言ではなかった。

 

 15歳のバルトから見ても目の前の青年は若いとは言え、20は行っているだろう。そんな人間にあんな風に庇われるのは、珍しいことだった。

 

 レイトは自身の腕を軽く撫でて言う。

 

「そんな大層な理由はねぇよ。見てられなかったから手を貸した……それだけだ。」

「同情かよ……」

「同情だよ。同情で怒れるのが数少ない人間の取り柄だろ。」

 

 そう言って笑ってやるレイト……バルトは少なくとも、目の前の男があの時のパイロットと同一人物とは思えない。きっとこっちの方が素なのだろう。バルトはそう信じたかった。

 

「ねぇ。」

 

 すると不意にナディアが問いかけてくる……その手にはロボットのフィギュアが一体……片腕が取れていた。

 

「腕取れちゃった。」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?!?」

 

 バルトはやっちまったと叫ぶが、すぐにレイトが冷静に言い返す。

 

「それロケットパンチギミック。元から取れるの。」

「よかったぁぁぁぁぁぁっ!?!?!?」

「元気だなお前。」

 

 レイトはそう言って呆れるように肩をすぼめた。

――――――――――――――――――

 

 

 

 その頃リドーは諸々の話を店主と終えて喫茶店から出て路地を歩く。あの後リドーはなんとか店主から少しだけ情報を引っ張り出すことに成功した。

 

もちろん、全てではなかろうが……欲は出しても欲張らないのが交渉の鉄則だ。

 

「いやぁ、いい収穫だ。」

 

 まず一つ、例のアストロスはこの金星に間違いなく存在すること……そして二つ、アストロスは現在、星間連盟のレジスタンスの保護下にあることだ。

 

 次なる糸口は……レジスタンスへの接触……だが、それは意外な形ですぐに果たされる。薄暗い路地を歩く中、そっとリドーの背中に固い筒が当たる。おそらくは拳銃だ。

 

 後ろには人影……どうやら見張られていたらしい。リドーはやれやれと思いながらそっと手を挙げる………

 

「……お前、嗅ぎ回ってるな?レジスタンス(我々)の事を。」

「そいつは勘違いだ。俺が狙っているのはあんたらのお仲間の派手な機体の……中身の方……」

「同じ事だ。我らの保護下の同胞を襲うというのならな。」

 

 (あのバルトとかいうやつレジスタンスに入っちゃったのかよ)とリドーは内心呆れる……あのまま宙ぶらりんでいるよりかはレジスタンスへ足を突っ込んだほうがまだ安心なのは分かるが……

 

 よりによってレジスタンスの一味になるのは厄介だ。一気に手が出せなくなった……少し急げばよかったとリドーは内心自分に毒づくが、十分早い。保安局や連盟達がたどり着くよりも早く来られただけもうけものくらいだ。

 

「だが、なぁ……ここで俺を殺したら仲間が報復に行くぜ?」

「安心しろ、ここでは殺さない。まだお前には役割が残っているからな。」

 

 すると、そのレジスタンスの一員が語気を強めてリドーに話す。

 

「それにお前らはすでに奴を捕まえている。人質交換……そのための担保がお前だ。」

「はっ?」

 

 リドーからすればなんのこっちゃという話だ……だが。この裏で知らずとは言えリドーの仲間のレイトがバルトとナディアを母艦へ連れ帰っている様子は、レジスタンスから確認されていたのだ。

 

 ならばと、レジスタンスも同胞のためにリドーを人質にする道を選んだ。だが、そのことをリドーは一切知らない……レイトがディング号に誰かを連れ帰ったこと自体を知らないのだ。

 

「ちょっ、まっ、なんの話……」

「黙れよ。喋るな。殺すぞ。」

 

 当てられた拳銃がより深く抉り込む……こりゃ話す余地はないということを悟り、同時にレイトが何かしでかしたということもリドーは悟った。

 

(あのヴァカ………)

 

 確かにレジスタンスとつながりたいとは思っていたが、こんなつながり方はお断り願いたい。それに何より、レジスタンスという奴らは仲間意識が強い。そう簡単にアストロスを……バルトを売らないのは予想がつく。

 

 もっと厳密に言えば、レイトがバルトを売らなそうということも何となく予想している。

 

 レイトはあれで情に深く甘い、気に入った相手なら見逃すこともあるだろう……一応、誘拐犯で窃盗犯なんだが。まぁ、フルマニューバといい何か事情がありそうなのは事実だが。

 

「なぁ、なんとか助けてくれねぇか?この件からは手を引くからよ。」

「なら人質と交換だな。」

(多分あいつそんな気ねぇよ……)

 

 なにせレイトとの付き合いもそこそこだ。リドーには分かる……どうせ怪我したとかで手当てのために連れ帰ったとかだろう。ひょっとしたら、相手が自分の狙っているバルトだということにすら気がついていないのかもしれない。

 

 アルバレイスの無線も通信機もボロい、声だけでは分からなくても不思議はない。だが、そんなことは相手も知らないし、関係ないのだ。

 

「大人しく、我々に付いてきてもらおうか。人質交換だ。」

「えぇ……」

 

 リドーは肩をすぼめる。

 

 なぜ、こんなことになったのだろうか……レイトと組んでから、そんなことを思う頻度が倍になったような気がするリドーなのであった。

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