在野の強者のモブパイロットはシビアなSF世界を気楽に生きていたい。   作:その辺の束子

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主人公っぽい奴になりかった奴

 

 ディング号の通信機に突然ランプが点く……通知の知らせだ。ナディアと共にロボットフィギュアを眺めるバルトをそっとしておいて、レイトは通話に出る。

 

 すると、響き渡るのは変声機で声色を変えた声だ。

 

『賞金稼ぎ、バウンティハンター、亡霊、レイト・ナモナに告げる。今すぐ貴艦にいる2人の子供を連れて既定の座標まで来い。』

「っ?誰だ?」

 

 レイトは声を低くして返す。だが、男は声色を変えずに言葉を続ける。

 

『時間はこの通信を聞いてから1時間後………もし来なければ、お前の仲間の命はない。』

 

 その言葉と共にリドーの声が通信機の奥から響く。

 

『レイト、お前来なかったら呪い殺すからな!?』

(何やってんだこいつ……)

 

 レイトは内心で盛大にため息をついた。何をしでかしたのかは知らないが、またろくでもないことに巻き込まれたのは想像がついた。

 

『……さっきからこの恨み節だ。いいか、これは取引だ。逃げるなよ。』

「待てっての……その子供ってのは……一人は銀髪の女の子と男女二人組?」

『そうだ。バルト・スミシーとナディア。2人を返してもらおう……貴様のような賞金稼ぎに同胞は渡せん。』

 

 名前が出た瞬間、レイトはちらりと後ろを振り返った。

 バルトとナディアが固まっていた。二人とも目を丸くして、レイトと通信機を交互に見ている。

 

 なんとか誤魔化して名前を隠していたが、あっさりとバラされた形だ。

 

 バルトが青い顔で口を開きかけた……が、レイトは片手を軽く上げてそれを制した。

 

 それからレイトは通信機に向き直って、ひとこと呟く。

 

「ほぉん。」

 

 驚く真似もしない。怒る様子もない。ただ、少し考えるような間を置いてから続けた。

 

「……わかった。座標確認する。」

『ふむ、バウンティハンターは皆エゴイストと思っていたが……貴様はきちんと仲間を迎えに行くのだな。』

「一応な。そっちも妙な真似したら地球圏まで高飛びするからな。」

『分かっている。色良い返事を。』

 

 そう言われ通信は切れると、座標が送られる……艦での邂逅が前提のコロニー外の上空だ。こちらに金星用宇宙服があるのが前提だ……まぁあるにはあるが。

 

 すると、バルトはナディアを庇うように立ちながら壁を背にしている……その目は獰猛に光る。まるで何かしたら蹴り殺すと言わんばかりの野獣の目だ。

 

 レイトはそんな獣の目を軽く笑うと、手を挙げて振る。

 

「手を出す気はねぇよ……こっちも一応仲間の命かかってるんだ。一応な。」

「一応なのかよ……」

 

 念押しで2度も言うところに何とも言えない関係性を感じる……確かに、下手なことはされなさそうだが、それでもバルトはナディアを庇うように動き続ける。

 

 レイトはそれならそれでいいというようにその行為には触れずに、ロボットのフィギュアに触れていたナディアの手元からそっとフィギュアを手に取る。

 

「あっ。」

「……お前さん、アニメとか漫画は読むか?」

「……えっ?まぁ、その、人並みには……」

 

 バルトの答えにレイトは軽く笑みを浮かべると、手にしたフィギュアを動かしてポーズをつけさせ、そのまま語る。

 

「俺はな、昔自分を物語の主人公だと思ってた。何の根拠もない子供ゆえの全能感。何でもできるって思ってた……ずっとな。」

 

 突然の意味不明な語りに首を傾げる二人……だが、それでもレイトは言葉を途切れさせない。まるで子供に絵本の物語を語り聞かせるように。

 

「だが、それは俺の思い上がりだった。俺はしくじった。ただのしくじったモブ男だ。」

 

 脳裏に浮かぶのはいつかの遠い……遠くしたい記憶。炎が広がるコロニーの中、必死にロボットに乗り込み戦ったあの瞬間。レーザーの焼ける音、実体剣が装甲を穿つ音。すべてがレコードみたいに鮮明に思い出せる。

 

 操縦桿を握る手が汗で滑る。モニターに映る敵機の数……最初は十数機いたはずだが、気がつけば残り三機になっていた。

 

 自分が倒したのか、撤退したのか、もう覚えていない。考えるより先に手が動いていた。思い出せるが、覚えてはいなかった。

 

 ……あの頃、レイトはアニメのヒーローになれると本気で思っていた。自分がこのロボットに乗れば、誰かを守れる、そう信じていた。

 

 それができると信じていたから操縦学を学んでいた。だから、誰よりも早くあの量産機に乗り込んだ。だから彼だけは生き残ることができた。

 

 残り二機になった時、確信した。勝てる、と。一機の腕を剣で引き千切った……相手はバランスを崩し、地面に膝をついた。そこに剣先を叩き込む。沈黙する機体。

 

 残り一機。

 

 そいつは逃げなかった。

 

 逃げるどころか、ゆっくりとこちらを向いた。

 剣を手にして、そのまま向かい合い駆け出してきた……俺もそれに乗り、互いにぶつかり合い切り結び、やがてその胴体を一閃してやった。

 

 そしてその最期………その機体から直接通信で聞こえた最後の言葉は今でも頭にこびりつく。

 

『お前の負けだ。』

 

 肩部に搭載されたビームキャノンが、高らかな充填音を鳴らしながら……レイトではなく、彼の背後に照準を合わせた。

 

(あ。)

 

 その一瞬レイトの頭は不思議なくらい静かだった。

 背後にはシェルターがあった。逃げ遅れたコロニーの民間人が逃げ込んだ、分厚い壁の避難施設。

 

 レイトの家族が、友人が、皆が逃げ込んだと聞いていたシェルターが。

 

 動こうとしていた。

 

 盾になろうとした。

 

 だがそれよりも速く放たれたビームは、静かに鉄筋の防壁に着弾……代わりに爆発の方がよっぽど大きく怒号を鳴らす。まるでレイトを嘲笑うように。

 

 シェルターの壁が内側から弾け、鉄骨が歪み、崩落する轟音が、コロニー全体に響いた。

 

 その後のことは、あまり覚えていない。

 気づいたら、焼け跡の中に立っていた。

 

 コクピットを開けて、外に出た。足が動いた。崩れた瓦礫の前で、立ち止まった。

 

 声を上げた気がする。何を叫んだのかは分からない。ただ、声が枯れるまで叫んだのだけは覚えている。

 

 確かにレイトは勝った。彼の行動は他のコロニーの住民を救った……彼らが逃げるまでの時間を稼いだのだから。敵機を全て沈黙させ、コロニーを守るために戦い、戦い抜いた。

 

 だがレイトが勝った瞬間、一番守りたかったものが消えた。

 レイトは確かに勝ったが、奴の言う通り確実に負けたのだ。

 

「……お前はなれると良いな。」

「はっ?」

 

 そんな昔話を思い出して笑うとバルトの素っ頓狂な声が響く……この目の前のバルトという男は、一体どこまで主人公らしくやれるのか……と意地の悪い自己投影だと内心自虐する。

 

 

「……しかし、お前がレジスタンスとはな……」

「ナディアを守るためだ……!俺があの機体でレジスタンスとして戦えば、ナディアを普通の人間みたいに扱ってくれるって言うから……」

 

 その発言そのものがすでにそのナディアという少女を普通の人間ではなく体のよい首輪扱いをしているということに気がつかないのだろうか?

 

 いや、きっと気がついている。だからこそすがるようにしているのだ……奪わせないために。自分がどれだけ犠牲になろうとも。それだけをする価値がそのナディアという少女にはあるのか。

 

 どんな能力や生まれか、なんて話じゃなく。もっと、別の意味で……だが、レイトが語れることはあるまい。

 

「愛の力は偉大だな。」

 

 レイトは気がつかれないようにそう呟く……それほどまでに何とかしたい、ということだろう。すると、バルトは笑いながら言う。

 

「それに……ナディアをこんな風にした奴らに牙を立てられるなら、レジスタンスも悪くないしな。」

「っ!はははっ!言えてるのかもな!」

 

 もはや面白くなって、レイトはそう高笑いする……どれだけナディアのことを考えているのか、これが純愛ってやつだろうか?

 

 詳しいことは興味もないが、ただの惚れた腫れたでここまでやれるやつは、相当な奴だ。そういう主人公っぽい奴が、レイトは好きだ。

 

「なら、さっさと元の鞘に戻してやるか。」

 

 レイトはそう言うと操舵席へと向かう……リドーほどじゃないが、同じ星の目的地に行くくらいならレイトでもできる。オートパイロットもあることだし、問題はない。

 

「んじゃ、行くぞ。」

「あ、あぁ。」

 

 突然語られた自分語りに何も言えなくなるバルト……だがニュアンスだけは読み取ることはできる。

 

『お前のやろうとしていることはきっと難しいことだ。』

『絶対に俺のようになるな、守り抜け。』

 

 きっと、このレイトという男はそういうことが言いたいのだろう……バルトは勝手にそう咀嚼した。きっと、そうやって勝手に考えて自分の頭の中で組み立てる方が、この男好みなのだろうから。

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 一時間後……指定された座標にはレジスタンスのコルベット艦に、その先端に取り付けられた棒に括り付けられたリドーの姿があった。当然、金星に対応した宇宙服を着けて身を守った状態で。

 

(あーあ……これで遅れたらレイトの奴マジでしばいたろ。)

 

 レジスタンスと敵対するリスクを背負ってまでしてバルト・スミシーの賞金を狙うつもりはリドーにはない。

 

 レイトにとってはただ気に入った相手にちょっかいを出したいくらいの感情で動いているから余計始末が悪い。

 

 レジスタンスの奴らは真面目だが……リドーにとってはここまでの流れ全てが茶番に思えてしまう。

 

 すると少し先の方にようやく見えた……台形のコルベット艦、ディング号だ。オートパイロットでこちらに向かっているようで、レイトとアルバレイスが艦橋に立っている。すると、そのアルバレイスから声が響く。

 

『こちらバウンティハンター、レイト。お前らのお望みの人間を連れてきた。』

 

 そう言ってアルバレイスの掌から現れるのは、防護服を着たバルトとナディアだ。すると、今度はレジスタンスの方から声がする。

 

『こちら金星レジスタンス、先にそちらからだ。バルトとナディアを渡せ……』

 

 その言葉を受け入れて、アルバレイスが武装解除してバルトとナディアを返すために飛び上がり、相手の船に近づいた瞬間………

 

『っ!?敵性反応……図っ!!』

 

 次の瞬間、レジスタンスのコルベット艦の艦橋が撃ち抜かれる………リドーと人質交換するはずだったレジスタンスは、あっという間にレーザーに焼かれる。

 

 爆風で吹き飛びそうなリドーを咄嗟にアルバレイスが片腕で回収して、爆風を背にしながら掌の上でリドーとバルト、そしてナディアを守る。

 

「だぁっ!最悪だ!!」

「あ、喫茶店の!?」

「よぉ坊主……レイト!詳しい話は後だ、まずはディング号に降ろせ!!」

『あぁい……よっ!』

 

 リドーの言葉を聞き入れてディング号へと向かうアルバレイス。咄嗟に睨むようにその方向を振り返ると……そこには独特のカプセル状のロゴマーク。白く塗装された清潔感のある機体だ。

 

 戦場に似つかわしくない、研究所の機材のような見た目が、逆に不気味だった。

 

『……ようやく追いついた。盗み物で取引をするな、通らんよ、それはな。』

 

 そのロゴに描かれたのは……HMの文字。そして、後から現れるいくつかの改造されたアルバト……恐らくは研究所傘下の武力制圧隊だろう。

 

 レイトはその様子を見て静かに言葉を漏らした。

 

「またこういう展開か……飽きたわ。」

 

 それは賞金稼ぎとして色んな荒事場を見てきたレイトの、正直な感想だった。またこういう乱入パターンか……と。

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