在野の強者のモブパイロットはシビアなSF世界を気楽に生きていたい。   作:その辺の束子

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強化人間とマトモにやりあえる純人間は主人公っぽい

 

 コロニーカリオストロ、HM研究所所属部隊……白鼠(ホワイトラッツ)部隊。

 

 コロニーカリオストロと近い関係にあり、様々なバイオコントロールやテラフォーミング技術の開発を発展させたHM研究所だからこそ持てる武力装置だ。

 

 それは技術力が、ではなく……功績と私兵という意味での話だ。

 

 彼らは皆、研究所によって特別な調()()をされた兵器である……倫理観は、彼らにとっては無用の長物なわけだ。

 

 そう彼……白鼠隊のNO4、ライフも同じだ。皆が同じように考え同じように行動する備品……そうあることを、なによりも願っている。

 

 そういう男だ。故に……こうしてわざわざ申請まで足を運び研究所の物を取り戻しに来たのだ。

 

 ともあれ……このタイミングで来たのは偶然だが……。

 

『ふむっ、だが。良いタイミングだ。目障りなレジスタンスとやらの船も沈めた。後はナディアの回収だけだな……機体は……まぁ、データはあるから新しく作らせればよいか。』

「うだうだと喋り腐って……!!」

 

 アルバレイスは三人をディング号へとそっと降ろすと、すぐさま目の前の白い機体へと飛び上がる。

 

 その純白の機体は、軽量機のようで華奢な印象を持たせる……鳥よりももっと速く細い。

 

 そう、まるでトンボの羽を思わせるような薄い翼状のスラスター、針のように尖った四肢。型式番号はHM-D-16……ドレックス。

 

『来るか……このドレックスに……なら!』

 

 次の瞬間、ドレックスが刹那に消えた。

 いや、消えたわけじゃない。ただ、目で追えなかった。レイトが反応する前に、すでにドレックスはアルバレイスの至近距離まで迫っていた。

 

 コクピットモニターにヤツの顔が目一杯広がる。パイロットスーツの奥の目が、こちらを品定めするように細くなった。

 

「速っ!?」

 

 レイトが叫ぶより先にドレックスのビームライフルが放たれる。アルバレイスは咄嗟に左腕を回転させてビームを弾き防ぐ……が、それが一発で終わらない。二発、三発、四発。

 

 断続的に繰り出される砲撃を、回転するクローで相殺し続ける。弾く、弾く、弾く、そのたびに腕の感触がじんじんと痺れてくる。これだけの連射を捌き続けるのは、正直かなりきつい。

 

「くそ……速いし気が抜けねぇ。」

 

 恐ろしいのは速さだけじゃなかった。攻撃の精度が異常に高い。まともに動けばほぼ直撃コースの射線を、毎回正確に引いてくる。機体に無理を言わせて動き、クローで弾く……この二つが同時にできなければ、とっくに落とされていただろう。

 

 そして、もう一つ気になることがあった。

 

(……こいつ、俺の動きを読んでる?)

 

 いや、読んでいるというより……先回りしている。レイトが次にどこへ動くかを、一手先で把握しているような射線の引き方だ。経験則の話じゃない。何か、別の何かが働いている。

 

 ……これは、レイトも噂でしか聞いたことがないが、世の中には兵士に特定の調整を施してより強い兵士にする技術もあるらしい。

 

 大抵の人間には手の届かない代物らしいが……そういう調()()()と呼ばれる奴らがいるというのは聞いたことがある。

 

(まさか、こいつがそう……なのか?)

 

 レイトはそんな事を考えながらドレックスの攻撃をいなす……ドレックスのパイロットの白鼠隊員としても、こんな人間は初めてだった。

 

 調整体となった自分とここまで張り合える相手なんてのは……今までの人生でも中々出会ったことがない。

 

(……こいつ人間か?)

 

 思わずそんな感想を持ってしまうほどだ………この男をこのまま殺すのは惜しいと考えてしまうほどに。故に少し頼み事をしてみる。

 

()()()()()……今すぐナディアとバルト・スミシーをこちらに引き渡せ。そうすれば、貴様の命は奪わない。』

「お前は何と交換してくれるんだ?」

『交換ではない。強いて言えば、命を奪わないでおいてやる……それだけだ。』

「んじゃタカリ野郎はそれじゃ動かねぇな!!」

 

 会話しながら動き続ける。口と手は別物だ……賞金稼ぎとしての長年の習慣で、レイトは戦闘中の会話を止めない。賞金首派おしゃべりな奴が多いのだ。

 

 ドレックスのパイロットも、それなら仕方がないとビームライフルを連続で放つ。

 

 じりじりと距離を詰める。ドレックスは速いが、その分小回りが利かない場面もある。針のように細い機体は、懐に入られると大型の武装が使いにくくなるはずだ。

 

 引き寄せつつ動き、ついに射程内……トンファー型のビームピストルを取り出して連打する。

 

 だが全身にビームコーティングが施されているのか、体表にぶつかるのと同時にビームが拡散する。しかも、こちらのビームコーティングとは明らかに違う。質が違う。コーティングの剥げ方が、まるで違った。

 

「……ビームピストルじゃ削れねぇか。」

 

 つまり、遠距離では詰め切れない。かといって近づけば向こうの速さが活きる。ビームを弾けるのはクローだけで、右腕は素のアームだ。

 

(詰んでるか?……いや、まだだ。)

 

 レイトは諦めず、心のなかでそうあがいていた。

 

 

 

 

 ぶつかり合う2機の戦いを続けるアルバレイスとドレックス。

 その戦闘を見上げながら息を呑むナディアとバルト……リドーはひとまず船内に入ろうと外部ハッチを開く。

 

「おい!お前ら!早く入れ!」

「クソっ…………機体さえあれば戦えるのに!」

 

 だがバルトはふがいなさに歯ぎしりして、リドーの言葉は耳に入らなかった。

 

 上空では、アルバレイスがドレックスの速さに押されながらも食らいついている。クローがビームを弾く音が、宇宙服越しでも微かに振動として伝わってくる。どちらも一歩も引かない戦い……

 

 だが、このままでは時間の問題だ。

 遠方に目をやると、レジスタンスのコルベット艦がゆっくりと傾いていた。

 

 艦橋を撃ち抜かれた穴から、内部の明かりがちかちかと明滅している。沈む、というより、ただ静かに力を失っていくような死に方だった。

 

 日は浅くとも、仲間の船だ……ほんの少し感傷に浸り………また思考を切り替える。

 

(アストロスさえあれば……あれに乗れさえすれば。)

 

 その思考が何度も頭を巡る。だがアストロスはレジスタンスに預けたままだ。どこにあるかは彼にも分からない。

 すると、バルトの隣にナディアがそっと立った。

 

「……アストロスを、呼べばいいのですか?」

 

 言葉の意味が一瞬分からなかった。バルトは小首を傾けてナディアを見る。ナディアはいつもと変わらない無表情で、ただまっすぐにあの沈みかけた艦を見ていた。

 

 次の瞬間、ナディアの目が変わった。

 

 瞳の中に、青い幾何学模様が浮かぶ。輪郭が、脈打つように広がって収縮する。それは人間の目ではなかった。何か別の、機械と生き物の境界線にある何かの目だった。

 

 そしてナディアの声が、わずかに機械的なノイズを帯びた。

 

『……型式番号アストロス224番、アクセス可能内に探知、コード047による誘導パイロットシステムに切り替え……』

 

 バルトは息を呑んだ。

 

 ナディアが目を閉じる……何かに接続するように、あるいは何かを聞くように。その数秒が、妙に長く感じた。

 

 やがて目が開く。幾何学模様は消え、いつものナディアの目に戻っていた。ただ、その目が今は少しだけ遠くを見ている。

 

「どうやら、アストロスはあのレジスタンスのコルベット艦に格納されていたようです。バルトを迎えに行く際の戦闘を考慮したのでしょう。」

 

 静かな声で、ナディアは続ける。

 

「この距離ならば私が接続して遠隔操作で持ってこれます……時間は、おおよそ120秒かかりますが。」

「2分か……!」

 

 バルトは反射的に上空を見た。アルバレイスとドレックスの戦いは続いている。押されている。明らかに押されている。2分……その2分が、どれだけ長いかはバルトにも分かった。

 

「それに。」

 

 リドーが腕を組みながら、眉をひそめて割り込んだ。

 

「そんな近づいてくる機影を、あのやり手そうなパイロットが見逃すか?」

 

 ナディアの沈黙が場を凍てつかせる。

 

「……否定できません。」

 

 ナディアが静かに認めた。

 バルトは歯を食いしばる。アストロスを呼んでも、移動中にドレックスに気づかれれば終わりだ。あの速さで、あの精度で狙われたら……沈みかけの艦から出た瞬間に撃ち落とされる。

 

 このままではアストロスもあのコルベット艦と運命を共にする。どうする。どうすれば。

 

 リドーが一つため息をついた。それから、ぼそりと言った。

 

「……しゃあねぇな。」

 

 バルトとナディアが振り返る。リドーは腕を解いて、ディング号の艦内に視線を向けた。

 

「ここは休戦だ。俺がこのディング号で煙幕を張る。目隠しくらいにはなるだろう。その一瞬で乗り込め。」

「……いいのか?お前らにとっても俺らは賞金首だろ。」

 

 バルトが問うと、リドーは面倒くさそうにため息をつく。

 

「あの機体をレイトが一人で抑えてる間にお前らが逃げたら、奴がお前らを追ってくれたら、それはそれでこっちとしちゃ解決だ。今ここで揉めてる場合じゃねぇ……それに。」

 

 リドーはちらりと上空を見た。アルバレイスがまたドレックスの射撃を弾く。火花が散る。

 

「あの能無しの馬鹿が珍しく頑張ってる間に何もしねぇのも、俺の性に合わねぇしな。」

 

 それだけ言って、リドーはハッチの方へ歩き出した。

 

「ナディア、アストロスの誘導は準備しておけ。煙幕が出たら即座に動け。タイミングは俺が合わせる。」

「……分かりました。」

 

 バルトはリドーの背中を見た。さっきまで人質として宙吊りにされていた男が、今は自分たちのために動こうとしている。

 

 理解が追いつかなかった。だが、考えている時間はなかった。

 

「……頼む。」

 

 バルトはそう言って、上空のアルバレイスに目を向けた。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 沈みゆくレジスタンスのコルベット艦。

 

 艦橋を撃ち抜かれたその船は、もはや誰も操舵する者がいない。非常灯だけが明滅を繰り返し、内部の通路は傾きながら軋み続けている。

 

 

 どこかで火が上がっているのか、格納庫の壁が熱を持ち始めていた。

 そんな艦の奥深く、格納庫の中に一機の白い機体が静かに佇んでいた。

 

 炎が迫っていても、動かない。

 

 天井の鉄骨が軋んでも、動かない。

 

 ただ、待っている。

 

 機体の双眸が、薄暗い格納庫の中でひっそりと輝いていた。

 赤く染まる炎の反射を受けながら、それでも揺らがない青白い光。

 

 まるで、これしきのことでは消えないと言わんばかりに。

 自らを必要とする声を、待っていた。

 

 生体ユニットとの回線が繋がり、彼女が自身を呼び出すその瞬間を。

 あの声が、あの信号が届く、その瞬間だけを。

 それ以外の何も、この機体には関係がなかった。沈もうと、燃えようと、崩れようと……ただ、待ち続ける覚悟を持っていた。

 

 

 型式番号:HM-224……アストロス。

 

 

 HM研究所が作り上げた、生きた演算装置と共に在ることを前提とした機体。

 

 パイロットとその子を乗せるために設計された機体が、今は静かに彼女の……いや、彼女と彼女のために全てを捨てた()()の声を待ち続けていた。

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