在野の強者のモブパイロットはシビアなSF世界を気楽に生きていたい。 作:その辺の束子
『賞金稼ぎ』『バウンティハンター』呼び名は色々だが……総じて、世間に賞金首として張り出された指名手配犯を逮捕することで金を貰う仕事だ。
他にも、傭兵まがいの仕事をさせられることもあったり、太古の遺産の無人兵器の除去を依頼されたり、所謂なんでも屋のような言われ方をすることもある。
それらも含めて賞金を稼ぐから賞金稼ぎ、バウンティハンターと呼ばれるのだ。もちろん本来のニュアンスからは少しズレているのだが、長い歴史の間で誤用され意味が変わった一例だろう。
そう、この男……レイトもまたそのバウンティハンターの一人。頭にVRゴーグルをつけてロボットアクションゲームで遊ぶ彼も、またバウンティハンター。
それも、かつて壊滅したコロニークワイセランで戦っていた男であるとは、誰も思わないであろう。
「よしっ、よしっ!行け!行け!」
ゴーグルをつけた彼は、ひたすらに目の前の敵に没頭する……操縦者として一線級の活躍を誇る彼が、ゲームとは言え今でも歯が立たない。それはとても悔しいことであると同時に、己の限界値を測るよい機会でもあった。
ゴーグルに見えるUIはロボットに乗ったときに画面に映るものとは異なる部分も多いが、それでもその臨場感やリアリティは凄まじく、勘を鈍らせずに済むのにはちょうど良い。
リアルでは味わえないポリゴンによるラグ、普通じゃあり得ないような武器、アイテム、戦術……それら全てを叩き込んで戦うのは、すごく気持ちのよい事だった。
すると、次の瞬間視界の端にビームの光が映る。目では追えたが、体の反応が数コンマ遅れる……実戦なら避けられたかもだが、このゲームのわずかなラグだとそう上手くは行かないらしい。
ゲーム内でのビーム攻撃がレイトの機体に対して命中して『YOU LOSE』の文字があらわになる。これにはさすがに悔しさを隠し通せない。
「っ!?だぁ!クソ!」
レイトは悔しがりながら腕を振るう……こういう面では、まだ子供らしさと言うか、元々ロボットアニメを好んで見る少年だというのが垣間見えた。本来、ゲーム好きなオタクでもあった訳だ。
「次はもっと別の武器試すか……もっかいだ。もっかい。」
それに、彼がこうしてゲームをやめないのは………ゲームでなら何度でも挑める。何度ミッションを失敗しても、また成功して救えるまで何度も何度もやれる。
失敗してもリカバリーできるのは、それだけでプラスになる。陳腐に言えば、失敗から学ぶというのは、何より重要なことなのだから。これだけ理に適った訓練もない……彼から言わせれば、の前提がつくが。
「おぉい、このバカチンがバカチンがバカチンがぁっ!!飯できたぞ!!」
そう言って出てくるのは老け顔の巨漢……レイトの相棒で、彼のネゴシエーター、リドーだ。
彼は戦いくらいしかろくにできないレイトに代わって、2人の所有する母艦『コルベット艦ディング号』内での家事や計器類操作などの色々を担当している。
「あぁ、ごめん。待って。あと1戦だけやらせてくれ。」
「それで飯が冷めて冷や飯食わせんなって文句言い出すのはオメェだろうが!!」
「わあったよ……」
一切反論のしようがなく……レイトはゴーグルを脱いでテーブルへ置いて少しふらつく足で立ち上がり歩き出す。リドーは軽くため息をついて頭を抱えると、レイトに問いかけた。
「そんなにおもろいのか?そのゲーム。」
「実戦の感を覚えとくためにはちょうど良いぞ?」
すると少し怪しげにリドーが問いかける。
「ゲームでかよ?」
「ゲームでだよ。」
レイトはそう言って、持っていたのをすっかり忘れていたVRゲームのコントローラーをコツコツと叩いて笑ってみせた。
レイトがブリッジのテーブルで飯を食おうとする中、リドーのタブレットが視界に滑り込む。いや、レイトにとっては目の前の飯もだいぶ問題だったのだが。
「……なんだ、これ。」
「依頼だよ、依頼。」
「飯の方。なんで乾パンをおかずに白米食わなきゃいけねぇんだ。」
「レトルトの消費期限近いんだよ、味はサバ味噌にしてやったから食え。」
サバ味噌味の乾パンとか誰が食べるのだろうか、味がゲテモノすぎる………そんな事を考えながら、レイトは皿の乾パンを口に含みかみくだく。
乾パンのビスケットのような食感から繰り出されるサバ味噌の風味……不味くはないが、これで白米を口に入れたら吐く自信はある。
そんなことを考えながらも目に入るのは、賞金首相手の依頼内容の確認だ……リドーがネットサーフィンして手に入れたようで、場所は火星圏のスラムコロニー201番。治安の悪さで有名なコロニーだ。
ここに、子供をさらって商品にしてるあくどいブローカーがいるらしい。それだけで胸糞悪い話だが……
それに201コロニーと言えば警察も警備員もたじろぐ治安最悪のコロニー……調査に出向いた保安官が首以外なくなって届いたなんて話もある。
つまり、この案件に乗るのは相当アレか金に困ってるやつだけということである……この二人の場合は………
「いいねぇ、楽しそうだ。子供に手を出す悪党なら、加減の理由もねぇ。」
「なっ、金にもなるし。」
両方である。方や悪党を倒すという相手をボコボコにしてストレス発散する大義名分を得て、方や貴重な金が手に入る。ここまで都合のいい話はない……天秤に乗っているのが、彼らの命だったとしても、だ。
「依頼内容は相手の捕縛と抹殺。それからガキ共の救出か……子供の救出優先って、こりゃ随分。」
「何処の世界にも慈善家は居るもんなんだよ。金持ちに。」
そう言ったリドーに対して、レイトはさらに出されたサバ味噌風味の乾パンをもう一度噛み締めてご飯をかっこむのだった。
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舞台は移り、火星圏コロニー201。退廃し治安悪化の一途を突き進むコロニー。この世界の宇宙に浮かぶドーム状の様々なコロニーを初めに『カメ』と見立てたのは誰だったか。
中ではあいも変わらず喧騒が響いていた……町中に出ても輩とドラッグ中毒が殴り合い、郊外に出ればとても表沙汰にできない違法な取引が進められている。
そう、これはそんな郊外のとりとめのない一場面だ…………。
狭い倉庫に押し込められた子供達。必死に空腹に耐えるものや、恐怖に耐えるもの、耳を塞ぐもの、目を瞑るもの、口を噤むもの……それぞれだ。
少女はそんな中目を開いて扉を見つめていた……耳にうっすら届くのは自分と同じくらいの少女の叫び声と……ほんのかすかに聞こえる焼印の音。
「いやぁぁぁっっっ!!やぁめえてぇっ!!!助けて、助けえてぇ……お母さん!ミナァッ!!」
ミナ……というのは少女の名前だ。
2人は仲のよい友人だった。このスラムに等しい環境で肩を寄せ合った、利用し合う関係でもない、背中を預けられる友達だった。そんな友達相手に……今は何もできない。それは、彼女にとって苦痛だった。
やがて少女の絶叫が木霊する……『商品』として扱われるための焼印を押されたのだろう。
商品……彼女らの価値はその程度のものだ。どんなことに使われるのか……そんなのは知らない。
噂では研究機関に売り飛ばされたりとか、洗脳されて兵士にされるとか、体を分解されて生体パーツにされるとか……色々だ。
すると、突然外が騒がしくなる……怒号とわめき声……そして、
『離れてろ。』
次の瞬間、独特のスクリュー音……それが大きく振りかぶり、倉庫の扉が壁ごと抉り削られる。おかげで、虫かごに閉じ込められた同然だった子供達は一気に外の空気を吸い込むことになった。
「おい!こっちだ!」
すると、大柄で老け顔の男が合図をして子供達をその場から逃がす……そこに立っていたのは、まさに亡霊のような白黒の機体だ。
「な、ナニモンだテメェは!?」
答えるのは亡霊のような機体……ではなく、その足元で子供を避難させる男のほうだ。拡声器で自慢気に笑う。
「知らねぇかい?
今考えた二つ名である。
大型の左腕が特徴的なクローになった、鋭い眼光の機体…………すると、少女らをさらった奴らもロボットを出してくる。中でリーダーのような姿の男が叫んだ。
「ちぃっ!?亡霊の賞金稼ぎか!?たった2人で……舐められたモンだ!」
「正義漢気取ってガキ共のお助けヒーローしに来ましたってか!?」
「くだらねぇ!死んだなお前!!」
三下以下の台詞をつらつらと並び立てる……賞金稼ぎからしたら、うだうだと長ったらしい。そんなことよりも早く仕掛けてこいって話だ。話を聴く気も失せたのか、通信を切って目を細める。
「いいから、行くぞ。アルバレイス。」
賞金稼ぎの機体の左腕が回転して威嚇するように音を出す……すると、次々集まる増援。ここは子供を守るためにも加減はしてられない……そう、賞金稼ぎは、レイトは舌なめずりをして腹を決める。
「んじゃぁっ!!」
次の瞬間、ロケットパンチの如く放たれた左腕のクロー……チェーンの備わったその左腕の一撃は、一瞬で内1機とカタをつける。
「なぁっ!?」
一瞬の出来事に驚くが……それでもなお、腕を戻した目の前の亡霊の賞金稼ぎは構える。またいつでも同じようなことができると、言わんばかりに。
『あとがき用語集』
型式番号-PMP-A6-WC
機体名:アルバレイス
本来は型式番号-PMP-A6、機体名:アルバトと呼ばれる地球圏で使われていた戦闘用のロボットだったが、レイト・ナモナによって鹵獲された後は幾多の戦場を渡り歩き改造され続け『亡霊』と揶揄される姿になった。
左腕の3本のクローアームが特徴的で、これを回転させたドリルや一撃は強力無慈悲。
レイトにとっては最初で最後の愛機であり、守れなかった人々の象徴であり、背負うべき十字架である。