在野の強者のモブパイロットはシビアなSF世界を気楽に生きていたい。 作:その辺の束子
1機に対して囲むのは5機……いや、1機倒したから残り四機か。どのみち純粋な数のパワーバランスが無効のほうがはるかに上だ……だが怖気づくには早すぎる。まだ、戦い始まってすらいない。
「左からだ……!!」
その言葉通り、レイトは機体のバーニアを吹かせて足元の建物をすり抜けて左側から攻撃する。先ほどの攻撃を見ていれば当然だが、クロー攻撃を真正面から受けるのを嫌がり、目の前の機体はシールドでガードしながらステップで避ける。
確かにレイトのアルバレイスは左側のクローで突き上げるような攻撃を仕掛けるが、まだだ。腰元で実体剣のサーベルを取り出して機体の腕をシールドごと斬り払う。
すると後ろから殺気……アルバレイスは大きく上に飛び上がると、腕をきり落とされた取り巻きの機体がガトリングの弾丸で穴だらけになる………機体群のなかでもひときわ目立つ機体、両腕にガトリングを備えた明らかなリーダー機だ。
「味方ごとか、こりゃ、下手なことはやれねぇな。」
賞金首で味方も気遣うお優しい奴ならレイトにも考えはあったが……それがないなら構いやしない。
だが下手に暴れられて被害が広がっても困る……クライアントの要望は子供達の救出なのだから。
「っと!」
すると、相手の機体のガトリング二門がこちらへと向いた……アルバレイスは身軽だが装甲は脆い。飛び跳ねるように避け続けてなんとか直撃を避け、弾幕でスタンされるのだけは防ぐように立ち回る。
本当はもっと大火力で遠方からバズーカでも放ちたいのだが、そんな真似はできないからこそ今日はあまり遠距離武器を持ってこずに揃えてきたのだ。
そんな戦いが起こる最中……少女は、ミナは彼らの戦う足元へ飛び込んでいた。
もちろん自殺願望などではない。彼女の友達が……2人の間に挟まれ弾幕の雨にさらされそうなあの倉庫のなかにいるからだ。勿論、地上で誘導を取っていたリドーはそれを止めようとする。
「おい!お前何やってんの!?死にたいのか!?」
「だって……だって、あの中に……ゆぅちゃんが、友達がぁっ!」
するとハッとした表情でリドーはもう一つの倉庫を見る。今にも戦いに巻き込まれて潰れそうだ……リドーは咄嗟に耳元の端末に指を当ててレイトに連絡をかけようとする。
「レイト!俺だ!その倉庫にはまだ子供が………!?ったくアイツ、無線切ってやがる!?」
舌打ちして倉庫を見るリドー。すぐに自分が動かなければ……
だが、あんな今にも崩落して生き埋めになりそうな所にどうやっても踏み込めない。理性が働くってのは難儀だと、リドーは内心で自分を嘲笑してやる。
普段の賞金稼ぎとしての活躍ならそれでもいいが……こういう場合は厄介だ。
無理やりハックしてアルバレイスの無線を開かせようにも手持ちの道具では無理だ。もう少し道具があればハックして無線をつなげられるが……時間が足りない……
すると少女は少し気の緩んだリドーから手を振り払い、駆け出す……友達を見捨てたくない。
「ゆぅちゃん!ゆぅちゃん!!」
ただ、友達を助けたいという、あまりにも当たり前な………その一心で。
その様子は、アルバレイスのカメラでレイトも確認できた。思わず胃から酸っぱいものが込み上げる……いつかの嫌な思い出を思い出させるように。だが、それを飲み込んで、レイトは叫ぶ。
「あぁっ!?何やって……うおっ!?」
上から飛びかかる二機、手持ちのアックスで斬りかかるが、流石に鈍らだ。左腕の重装甲でも十分に耐えられる。どうやら、リーダー機のガトリングの弾倉装填までの時間稼ぎらしい。
なら、良い。それまであいつは何もしてこないなら………速攻で取り巻き二機を叩き潰す。アルバレイスは左腕のクローで取り巻きのうちの1機を掴み、そのままもう1機に叩きつける。
そしてその二機を取り押さえたまま、トンファー型の銃であるサブ武器のビームピストルを用意した。装弾数4発の欠陥品だが、こんなゴロツキの機体ならビームコーティングはされていない。確実に当てればいける。
「届けっ……!」
放たれたビーム一発はまずコクピット周囲に命中……これは威嚇だ。何もするなという意思表示。………だが、それはむしろ相手の神経を逆なでする羽目になったらしい。
「ッ!?」
次の瞬間、もう片腕のガトリングを見せつけ問答無用で放つ……まだ装弾も冷却も済んでないだろうによくそんな無茶をする。
「ちぃっ!!」
あのまま弾幕なんてばら撒かれたら正気の沙汰じゃない……レイトは機体のレバーを進めて加速をつけて一気にトドメを刺しに行く。
……だが向こうのガトリングのほうが掃射が速い。高速の弾幕が飛び出てアルバレイスの体表を傷つけ、激しい空薬莢と砂埃がミナやリドーを包む。
「うおっ!」
「きゃっ!?」
だが手ならまだ残ってる……この左腕が。
「持ってけ!」
レイトがロケットパンチの要領で放ったアルバレイスの左腕は一発で目の前の両腕ガトリング機体を内側から貫き沈黙させる……あと1手ほしい時のこのチェーンロケットパンチ、これはなかなかに便利だ。
そして次に武器を向けるのは、先ほど地面に伏した2人だ……クローを向けて大人しくしろと暗に伝える。
「っと、無線開かなきゃな。」
レイトはコンソールを操作して無線を開き、敵に問いかける。
「さて、今のがリーダーか?今すぐ機体から降りて武器を捨てれば……普通に賞金首として差し出すぜ?」
『わ、わかった!』
『し、従うからよしてくれ!!』
その言葉を聞いたレイトは、武器は収めないが満足そうに頷く……すると、リドーとの通信も切っていたことに気が付き、咄嗟につなげる。
「あっ、リドー?悪い、クセでまた切りっぱなしだった〜」
『切りっぱなしだったじゃねぇっ!?死ぬところだったぞお前!?』
「あぁ、わりい……で、今何処だ。」
怒るリドーに対して、レイトはそう謝罪して所在を問いかける。すると、リドーは少し苛ついた様子で答えた。
『もう一軒の倉庫だ。まだ中に人が居るからここでやり合うのは止せって連絡入れようとしたのに……お前は……!!』
そこまで聞いた後にレイトは「あぁ」と軽く声を出すと、またなんてことないように答える。
「だからソッコーで終わらせた。」
『お前気がついてたのか!?』
「当たり前だろ。そうみすみすと間違いで人殺しなんかしてたまるか。」
『ったく……ならやりようあったんじゃねぇのか?』
「煽ってもっと外れの方まで誘い出すつもりでもあったんだが、まだ機体が残って見張ってたら子供達守りきれなかったからな。」
『はぁ……次からはひとこと頼むぜ?』
「あいさ。」
もしもまだ監視の機体が残っていて子供を攫い返されて人質にされたら終わりだ。ならこの場で一瞬でケリをつけたほうがよい……それが、レイトの結論だ。
勿論多大なリスクがつきまとうし、レイトの腕もあって倉庫にほぼ傷がつかずに済んだおかげでもあるが。
「ゆぅちゃん!!」
倉庫の扉を開きミナが辺りを見回すと……倉庫の奥、薄暗い隅に小さな塊があった。
息をしている……してはいる。そして服には昔あげた兎のピンバッジ……それだけ確認してから、ミナの足が一気に動いた。
近くには冷めたばかりの焼印を押すための棒が転がり、その地面には浅い呼吸の少女が横たわっていた。
「ゆぅちゃん!?」
「少し待ってろ!!」
リドーがとっさに『ゆぅちゃん』と呼ばれた人物に近づく……ある程度なら医療の真似事ができるのだ。リドーは……少なくとも、外傷によって命に別状はないことくらいは分かる。
だが、周囲の様子から察するに『商品』として扱うための焼印をされた後にこんな荒事に巻き込まれたのだ。その恐怖は並ではなかったろう。特に子どもにとっては。
「兎に角、このまま散り散りにさせとくわけにもいかねぇ……か。嬢ちゃん!」
「ミナ……ミナです!私は……」
ミナはそう名乗ると、リドーはかるく頷いて彼女へと視線を合わせ、ある頼み事をする。
「言い方悪いんだが……君たちにお家ってあるのかな?」
「いえ……家族がいる子も中にはいますけど、ほとんどが捨てられた子です。」
「あ、あぁそう……そうはっきりと言えるのね。」
少し気を使って遠回し気味な言い方にしたのだが、どうやらこの少女は相当心が強いらしい。下手に言い方を変えて心を落ち着かせようとする方が逆効果だ。
「……兎に角この子……ゆうちゃん?を安静な場所に置きたい。他の子達もそうしたいんだけど……」
「多分……みんな行かないと思います。みんな、一人で生きてきた子がほとんどだから。」
要するに保護したいから連れて帰りたいが、それに応じる子はほぼいない……という話だ。まぁ、何の口実でここまで連れてこられたのか知らないが、こんな目にあったのなら当然だ。
『リドー、ディング号を降ろすか?』
「……頼む!」
リドーはこのままにしておくのも考えたが、クライアントは子供達の解放、できるなら保護も望んでいる。
それに何よりこのままほうっておくのも後味が悪い。リドーはレイトに頼んで、上空で待機させていた母艦であるディング号を降ろすことに決めるのだった。
上から、台形のコルベット艦……オンボロなディング号が降りてくるのだった。