在野の強者のモブパイロットはシビアなSF世界を気楽に生きていたい。   作:その辺の束子

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そうは言ってロボットは格好良い。

 

 ディング号の中は静かだった。誰も騒ぎ立てる奴がいない……と言ったほうが正しいか。レイトは明らかにこういう場だと邪魔になるから本人から外に出ている。

 

 ちなみに、先ほど投降した敵のパイロットも手足を縛られてアルバレイスの足にくくりつけられて動けなくなっていた。

 

 今頃はレイトと共に隠れて様子を見ている子供たちに怖がられているところだろう。そんな状況でもリドーは躊躇なく動く、こっからは彼の仕事だからだ。

 

 救急箱を棚から引っ張り出して、ゆぅちゃん――ミナから聞くと『ユウコ』という名前らしい――そう呼ばれる少女を簡易ベッドに寝かせた。

 

 まず呼吸を確認する。浅いが、安定している。次に焼印の痕……腕の内側に、赤黒く焼けた跡があった。

 

 外傷はやはりなし……あれだけのドンパチが近くで行われてケガがないというのは、運が良いのかレイトの技量のおかげか……恐らくは両方だろう。

 

 隣でミナが息を呑む音が聞こえた。リドーは普段より少し声のトーンを上げて言葉にする。

 

「あぁ、大丈夫だ。跡は残るかもだが……悪化はしないだろう。」

 

 そう言ってリドーは手を動かし続ける。消毒、軟膏、ガーゼ。慣れた手つきだった。

 

 戦場でもないのに怪我の処置に慣れているのはあまり褒められた話ではないのだろうが……こういう時には役に立つ。

 

「すごい……」

「凄くはねぇよ。教えてやろうか?」

「……薬なんて、そもそも手に入りませんから……」

「……そぉかい。」

 

 リドーは静かにそう呟く。胸糞悪い話だが……これが、この201コロニーの現実だ。同情も憐れみもただの侮辱へと成り下がる。

 

 リドーやレイトはバウンティハンターなんて仕事のせいで時たますかんぴんな時もあるが、最低限かすり傷くらいの応急処置はできるくらいには薬もあるし金もある。だが、この町の子供や人間はそうはいかない。それが、現実だ。

 

「……この船、さっきディング号って……」

「あぁ、レイトの奴が勝手に名付けた。台形でプディングみたいだからってな。」

「ぷでぃ……?」

「つっても分かんねぇか。菓子の名前だよ。」

 

 プディング……要するにプリンの事だ。

 リドーにとっては馴染み深い……プッチンして皿に落とすタイプのプリンなんか子供の頃は絶品に思えたもんだ。

 

 お菓子なんてミナからすれば縁遠い物だ……こんな形で知るとは思わなかった。すると、好奇心からかまたミナが問いかける。

 

「あのっ……レイトさんとリドーさんって……」

「ん?あぁ、コンビっつーか商売仲間?俺もアイツもバウンティハンターで、俺は荒事や銃の腕はからっきしだが依頼を掠め取ったり船の操舵が上手くてな。レイトはその分あらゆる事に全ツッパしたロボットフェチの暴力装置……2人で組めば最強じゃねって思って組んだのさ。」

 

 お互いがお互いを支え合う……理想的と言えるかは別として、よくできた関係だ。確かに、賞金稼ぎ、バウンティハンターとして活躍するのには武器だけではなく『足』も重要だ。いろんな現場へと素早く向かえる足が。

 

「なるほど。」

 

 ミナは納得したように船内をぐるりと見回した。

 決して広くはないが、生活感があちこちに滲み出ていて、棚には整備道具と食料と……一部区画には何故かロボットのフィギュアが並んでいた。

 

「あのロボットの人形……あのパイロットさんのですか?」

「あぁ、あんまり触るなよ、アイツ怒るから。」

 

 レイトはあんなのでもロボットオタク……こういった機械のフィギュアを集めたりする。

 

 これでもバウンティハンターを始める時に色々と売ったらしいが……それでも十分リドーにはスペースを取っているように見える。まぁ、趣味の一環だ。

 

 頭の中でロボットのフィギュアを愛でる姿とさっきの機体のパイロットとが結びつかないのか、小首をかしげるミナ。すると、ユウコの唸り声が聞こえる。

 

「ん……んん……」

「っ!?ゆぅちゃん!?」

 

 ミナはまたユウコの方を向いた。規則正しい寝息が聞こえる。さっきより少し、顔の強張りが取れているように見えた。さっきのようなひどい顔色ではなくなっている。むしろ少し安らかだ……その表情に、ミナは少し安堵する。

 

「……良かった……」

「起きたら存分に慰めてやれ。それが必要な奴も居る。」

「……はい。」

 

 ミナは静かに答えて、ユウコの手をそっと握った。リドーはそれ以上何も言わずに救急箱を片付ける。

 

 処置は終わったようだ……リドーは部屋から出て子供たちから離れると、胸元からタバコを一本取り出しくわえる。なにか、どっと疲れた気分である。

 

――――――――――――

 

 

 

 そんなやりとりが行われているさなか、レイトはアルバレイスの足元であいも変わらずまずいビスケットを口にしていた。

 

 さっきまであれだけの騒音と爆音が響いていたのに、今は風の音しかしない。コロニーの郊外というのは、戦いが終わるとこうも急に静かになる。まるで何もなかったみたいに。

 

 レイトはアルバレイスの足元に腰を下ろした。

 見上げると、機体がある。全高およそ12メートル……標準的な量産機と比べると一回り小さい。これは元の機体となった『アルバト』も同様だ。むしろ、アルバトの方が10mと小型なのを改装続きで大型化してしまった。

 

 頭部は元々カメラが剥き出しになっていたのを、増加装甲で覆っている。見た目は悪いが、精密機器を守るためには仕方ない……正直な話、ここまで使い続けるつもりもなかった。

 

(もうこいつを拾ってから5年、か。)

 

 左腕のクローが、夕暮れの光を反射してぼんやり光っている。3本爪のアイアンクロー……5年前、好きだったアニメの主人公のようにロボットに乗り込み、クワイセランのコロニーを守ろうと立ち上がった。

 

 結局、友達や家族や故郷は守れなかった……多くの同郷の人間が逃げ切れたと聞くが……言い方を悪くすれば、ほとんどが知らない赤の他人だった。

 

 レイトは主人公ぶって戦った挙句、結果何も守れなかった。それだけの男だ。

 

 クワイセランの動乱の後、この機体の正式な所属は宙に浮いた。軍のものでもなく、誰かのものでもなく。

 

 レイトが乗り続けていたから、半ば自然にレイトのものになった……もっと正確に言えば、誰も取り返しに来なかった、というだけの話だが。彼らからすれば壊れかけの量産機が1機、死んだかもしれない男に渡っただけなのだから。

 

 そんなアルバトも、改造を重ねた結果今やどこにも同じ機体はない。同じ型式の量産機は各地にあるが、こいつと同じ個体はない。それだけは確かだ。

 

 亡霊(レイス)なんて名をつけたのはレイト自身ではなかったが……いつの間にかそう呼ばれるようになっていた。

 

 理由の想像はつく……ボロボロのくせに何度も戦場に現れる、正体不明の機体……亡霊や生霊、ゾンビの類に……そう見えるのだろう。

 

 故にアルバレイス……夜明けの亡霊の名がつけられたのだ。

 レイトは機体の足縁に背中を預けて、空を見上げた。

 

 コロニーのドームの天井が見える。人工の空だ。本物の空を見たのはいつ以来だろう……昔に地球圏のコロニーにいた頃、地球へ旅行に出たとき以来かな?

 

 すると、視界の端で何かが動いた。

 廃墟の影から、小さな頭がひとつ、こちらを覗いている。さっき救出した子供のうちの一人だろう。

 

 ディング号には乗らずに、外に残った子達だ……リドーが無理強いはしなかったから、そのままにしてある。レイトも特に干渉はしていない。

 

 子供はアルバレイスをじっと見ていた。怖いのか、近づいてこない。だが、目が離せないらしい。

 

 レイトはしばらくそのまま放っておいた。

 来たければ来るだろう。来なければ、それでもいい。

 

 ……だが、アルバレイスを輝く目で見つめるその少年と語り合いたい。そんな気持ちがレイトのなかに芽生えていた。子供を思う心なんかじゃなく……単純な、ロボットオタクの心として。

 

「よぉ、そこの坊主!……こいつのコクピット、座ってみたくねぇか?」

 

 声をかけられて体をはねさせる少年……だが、レイトはそんな少年を気にすることなく、まるで子供が遊具に誘うようにニッコリと笑顔で、アルバレイスを指さした。

 

 

 

 

 

 

 

 それから暫くして……ひとまず様子を見にディング号から出てきたリドーとミナ。

 

「レイト、大丈夫だよなぁ……アイツお馬鹿だから変なことしてないと……」

「お馬鹿……ですか……」

「もはやヴァァァァカだな。呆れてものも言えねぇ事もあらぁ。」

 

 そんな相手となぜ組んでいるのか聞きたくなるのをミナはぐっと飲み込み外に出る……すると最初に目にした光景は………

 

『どぉだ!クソかっけぇだろ!俺のアルバレイスは!!』

「すっげぇ!すげぇ!」

「なぁ!コレデカいキャノン砲とか羽とか付けようぜ!」

『それはアリだ!!』

 

 子供達を手のひらに乗せながらまるでアトラクションのように喜ばれているアルバレイスに、コクピットから子供達と話してまるで子供のようにその遊びに混ざっているいい大人をしたレイトの姿であった。

 

 アルバレイスの足元にだけ、縛られた大人二人がバツが悪そうにしていたが、みな楽しそうな子供に戻っていた。

 

 スラムで見知った顔も多いが……こんな表情を見せられたのはいつぶりか。

 

「えっ……えぇ……?」

「言ったろ?ヴァァァカなんだって。」

 

 リドーは呆れ気味にそう言う。そこでようやくミナは、あの棚に飾ってあったロボットフィギュアと、目の前のアルバレイスのパイロットの人物像が一致するのであった。





『あとがき用語集』
コルベット艦ディング号

レイトとリドーの母艦。

本来はその形からプディング号となる予定だったが、名前があまりにも可愛すぎたのでディング号へと変更された。台形な特徴的な船で、中にロボットのドッグやらある程度の生活基盤の整ったスペースがそろっている。

元々は宇宙海賊の賞金首からかっぱらったものである……ちなみに、リドーは酸っぱいヨーグルト派、レイトはケーキ派でどちらもプリンが好物なわけではない。
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