在野の強者のモブパイロットはシビアなSF世界を気楽に生きていたい。   作:その辺の束子

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仲が悪いとそもそも相手の話聞く気が起きない

 

 アルバレイスを興奮した様子で眺める子どもたち……そんな子どもたちに少ないながらも保存食のビスケットを分け与えるリドー。

 

「なぁおっさんコレ不味い。」

「文句言うじゃねぇよ。」

 

 そんな光景を見ながら、レイトはディング号に寄りかかりながら懐かしそうに眺めていた。故郷のクワイセランのコロニーにも、こんな光景があったのを覚えている。

 

 もう、見ることはできない光景だが……こんな真反対な治安のコロニーで見られるとは思ってもみなかった。

 

 すると、レイトの近くの扉が開き、中からロングヘアーの少女が一人現れる。ミナだ。どうやら、外の空気を吸いに来たらしい。

 

 すると彼女は側にいたレイトに気がつくと会釈して気まずそうに顔をそらす。レイトは何の気なしに問いかけた。

 

「退こうか?」

「い、いえ!そういうつもりじゃなくて……」

 

 ミナは軽く頭を下げるとレイトへと寄り、そっと深く頭を下げる。

 

「助けてくれて……ありがとうございました……!」

「仕事だからな。」

 

 あくまでもそのスタンスを崩さないためか、あるいはミナに余計な気を遣わせないためか………どこか露悪的にそう呟くレイト。

 

 だが、それでも助けられたことに変わりはない。ミナが再度頭を下げると、レイトは小っ恥ずかしそうに言う。

 

「もう一人の方、身体は平気か?」

「はい、今のところは……すやすやと寝てます。」

「そぉかい。」

 

 ミナは軽く呟いたレイトと、彼の見上げるアルバレイスを交互に眺める。レイトが小さく頷くのを確認してから、ようやくミナは少し肩の力が抜けた。

 

 無理もない。味方とは言えあれほどの力を持った人間がそばで呑気にしているんだ……怖くない方がおかしい。

 

 分かっているから、レイトは特に何も言わずに、外で遊んでいる子供達の方へ視線を戻した……下手に構うより、放っておく方が気が楽になることもある。

 

 それくらいの分別は、一応持っているつもりだ。

 

 しばらく沈黙が続いた。

 

 やがて、ミナがおそるおそる口を開いた。

 

「……あのロボット。」

「ん?」

「あなたのですよね?」

 

 その言葉にレイトはほんの一瞬口を半開きにすると、ギュッと固く結んで………再び笑みを浮かべて答える。

 

「まぁな。カックイイだろ?アルバレイス……特に左腕のクローアームがお気に入りだ。」

「……はい。」

 

 ミナはそう言ってアルバレイスを見上げる……確かに、格好良い。全身がボロボロで幽霊のようで怖いイメージも持てるが、それと同じくらいの格好良さを見いだせる。

 

「俺の自慢の相棒だ。かれこれ5年の付き合いだな。」

「5年……」

「お前らが生まれて毛が生えた位の年だぜ。」

 

 改めてそれだけの年月の経過を実感すると、レイトは軽く頭を掻いて笑ってしまう。

 

 5年前……レイトはあの機体に乗り戦い、その余波で多くの友を失った。その分多くの命も助かったが……そんなのは死んだ命に対する言い訳だ。

 

 だが、そんな事には口を噤んで、ひたすらその鋭い眼光の機体を見つめ上げた…………すると、ミナは不意に問いかけた。

 

「ロボット、お好きですか?」

「そいつは好きだな。大好きだ。」

 

 そう言って思いっきりクシャッと笑ってみせるレイト。初めて見せる年相応と言うか……純粋な笑顔に、ミナは心の奥で何かに突かれたように感じた。

 

 同じようにアルバレイスを見上げるミナ……この機体のコクピットから見える景色はどんなものなのだろうか。彼にはどう映るのだろうか。それが、少し気になっていた。

 

「おい!レイト。」

 

 すると、リドーの重い声が響く。レイトは呼び出しに応じて立ち上がり、近づいてきたリドーの手元の端末を覗き込む。ミナも興味本位でタブレットを覗こうとするが、レイトに頭を撫でるように押さえられて防がれる。

 

「何してんだ?」

「クライアントからの連絡待ちだったんだがな……どうやら、保安局も動き出してるらしい。このままだと鉢合わせるぞ。」

 

 リドーの言葉にレイトが眠い目をこすりながらタブレットを見つめると、201コロニー近辺……いや、すでに内部に星間連盟治安局の機体が入ってきている。

 

 星間連盟……各星やコロニーの間で結ばれている強固な連盟だ。悪党を捕まえたりぶちのめして政府から金をもらう賞金稼ぎとしては、金払いの大元となっている組織でもある。

 

 その保安局と言えば……要するに警察だ。

 

 賞金稼ぎと保安局は水と油……賞金稼ぎにとっては仕事の邪魔をしてくるお邪魔虫だし、警察にとっても同様。勿論個人では仲のよいグループも珍しくはないが、大局的にはあまり関わっていいことのない者同士だ。するとミナが問いかける。

 

「保安官と賞金稼ぎって仲悪いんですか?」

「良くはねぇな。お互いがお互いの仕事敵だからな。」

「仕事敵……?」

 

 ミナが首を傾けると、リドーが端末をポケットに突っ込み、何故かビスケットを頬張りながら口を開く。

 

「簡単に言うとだな……俺らみたいな賞金稼ぎってのは、賞金首の情報を個別や政府から手に入れて自分で捕まえに行く。捕まえたら報告して金をもらう。」

「はい。」

 

 ここまでは、ミナも理解できる。すると、補足するようにリドーがまた語る。

 

「保安局ってのは、いわば同じ賞金首を追いかける政府の人間だ。俺らが民間なら、あいつらは公的機関……要するに、同じ獲物を狙う競合相手だ。」

「じゃあ、どっちが先に捕まえたほうが勝ち……ってことですか?」

「まぁそんなところだな。」

 

 レイトがディング号の外装に背を預けアルバレイスを見上げて呟く。

 

「俺らが先に捕まえたら、保安局としては面子が潰れる。あいつらからしたら、素人に仕事を先にやられた形だからな。」

「逆に保安局が先に捕まえたら……?」

「俺らは金をもらえない。依頼があっても、賞金首がもう捕まってたら依頼自体が消える……まぁ、それで保安局がうまくいってないから賞金稼ぎ(バウンティハンター)なんて職で食ってけてるんだが。」

 

 リドーの言い方はやや保安局を小馬鹿にしたニュアンスを含んでいる……その言い草にさすがのレイトもジト目になるが、ミナは少し考えてから、また口を開く。

 

「でも……同じ悪い人を捕まえるんですよね? 目的は一緒じゃないんですか?」

 

 レイトとリドーが顔を見合わせ、頭を掻く。確かに、その通りだ……目的が一緒なら手を組んだほうがいいに決まってる。しかし、そこには決定的な違いがある。

 

「まぁ……そうなんだが。」

「目的が同じでも、俺ら賞金稼ぎは捕まえて金を貰うのが目的。保安局は捕まえる事自体が目的な場合が多い。その違いが、決定的なまでに相容れなくなる原因なのさ。」

 

 リドーがため息交じりにそう言うと、レイトが補足する。

 

「俺らは金さえもらえりゃ手段は選ばない。生死も問わないことが多い。推定無罪でもぶん殴れる。だが保安局は違う……手続き踏んで、証拠集めて、できれば生きたまま逮捕する。正しいやり方でやる連中だ。」

「それって……保安局の方が正しくないですか?」

 

 レイトは少し間を置いた。否定も肯定もしないまま、ぼんやりとアルバレイスを見上げる。

 

「正しいかどうかは知らん。ただ、正しいやり方じゃ間に合わないことが、この宇宙には山ほどある。お前もそうだったろ?」

 

 ミナはその言葉を噛み砕くように黙った。自分がまさにその、間に合わなかった経験をした者だからだ……

 

 あのままでは、次に焼印を押され売られるのは自分だった。それが分かると、そんな言葉はもう冗談でも口から出なくなる。

 だが、リドーはそんなことをのたまうレイトに対して釘を刺した。

 

「本音は?」

「悪党を合法的にぶちのめせるのは気分がいいぞ。」

「うぇぇっ!?」

 

 いきなりのレイトの暴力性溢れる本音に驚くミナ……リドーはレイトのこういう本性を知っているから、彼の言葉がどれも嘘くさく聞こえてしまうのだ。するとリドーがまた答える。

 

「あと単純に……保安局は俺らのことを快く思ってない連中も多い。法の外で金のために動く人間なんて、どこの世界でも信用されにくいからな。」

「信用されてないんですか……まぁ、何となく分かりますが……」

「されてないな。」

 

 レイトはあっさりそう言って、背筋を伸ばして子供らに声をかけに行った。自らアルバレイスに乗り込むために……きっと、この先何か来ることが彼には直感で分かっているのだろう。それが避けられないことも。

 

「だから今日みたいに鉢合わせると、ろくなことにならない。俺らが何をしてたかより、見た目で判断される。」

「見た目?」

「例えば今なら………」

 

 次の瞬間、怒号のごとく暑苦しい男の声が響き渡る。思わず子供達までも耳を塞ぐほどの轟音だ。

 

 

『児童誘拐犯らに告ぐ!貴様らは完全に包囲されている!!無駄な抵抗はやめて大人しく子供を解放しろ!!』

 

 スピーカーから聞こえる暑苦しい熱血漢のような声……リドーはうるさそうに耳を塞ぎ、アルバレイスに乗り込むレイトは厄介そうにため息をついた。

 

「あんま話聞いてくれなさそ〜なのが来たな。」

 

『頑張れ、レイト。』

 

 アルバレイスに乗り込み機体を起動させる………するとアルバレイスのツインアイが輝き、まるで目の前の景色を睨みつけるように光る。

 

 深い青色と白色が特徴的な保安官用の機体『コルトル』。

 リボルバー型の射撃武器を備えた……リーダー機も合わせて6機。それらがまるでディング号やアルバレイスを取り囲むように動いていた。

 

(はぁてさぁて……どう切り抜けるかね!)

 

 こんな面倒事はごめんだと、もっと気楽に悪党をぶっ飛ばしたいと願うレイトはそんな事を思いながら、しっかりと操縦桿を握りしめるのだった。

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