在野の強者のモブパイロットはシビアなSF世界を気楽に生きていたい。   作:その辺の束子

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正義感の保安官

 

 保安官……名は『ラディ・ルイン』

 彼、いや()()は人一倍正義感の強い人だった。……保安局局長の父を持ち、ひたすらに正義を追い求めた。だから保安官になったのだ。

 

 5年前……コロニー、クワイセランで自分たちを守るために戦ってくれた、あの量産機のパイロットのように………誰かのために自分の命を張って守りたいと、そう思えるようになっていた。

 

 だが、保安官としての生活は彼女にとっては耐えきれないものだった。

 

 父の背中を追ってこの道を選んだ頃の自分には、想像もできなかった光景がそこにはあった。

 

 帳簿の数字が書き換えられ、証拠品が倉庫の奥で埃を被り、顔の利く連中の案件だけが静かに揉み潰される。

 

 そこへ来て賞金稼ぎどもだ。法の手続きなど歯牙にもかけず、金になると踏んだ標的へ真っ直ぐ飛びかかる連中。ラディや真っ当に生きる保安官にとってこれだけ鬱陶しい者もなかった。

 

 信念も何もなく金を稼ぐことしか頭にない連中………そんな連中が、バウンティハンターなどと言われいい気になっているのを考えると反吐が出る。

 

 何度その道に落ちそうになったかはわからない、時に非道な手段に手を染めようとしたこともある……それでも耐えてきたのは、5年前のことを、ラディは今でも鮮明に覚えているからだ。

 

 あの時、故郷であるクワイセランが戦火に焼かれ崩壊したあの日、あの量産機のパイロットは何も言わずに戦っていた。

 

 ただ自分たちの前に立って、傷だらけになりながら戦い続けた。守るべき人間がそこにいる、それだけで十分だというように。

 

 あの背中と父の背中。二つの背中がラディをここまで引っ張ってきた……総じて、クソ真面目が服を着て歩いていると保安局で揶揄され陰口を叩かれてしまうような女性であることに変わりないのだが。

 

 そんな日々の中、彼女に舞い込んだ仕事は……『火星の201コロニー』における児童売買の阻止。

 

 なんでもタレコミがあったらしく、珍しく至急現場に急行せよとのことで…………ラディは保安官用の機体『コルトル』を用いてはるばる火星までやってきたわけだ。

 

「各自散開し目標ポイントを取り囲め。」

『了解。』

 

 共に来た保安官たちの声が響くと、ほかのコルトルが散開して大回りで回り込み始める。いわゆる包囲網だ。

 

「子供に手を挙げるなんて……許せん。」

 

 ラディの中の正義感は今燃え上がっていた。確かに、スラムの子供が人身売買の道具にされているとされているのはとても許しがたいことだ。

 

 彼女のような正義感に燃える人間が怒るのも無理はない……いささか直情的すぎるようではあるが。

 

 するとやがて目標ポイントに見えるのは小規模のコルベット艦と、1機のロボット……そしてたくさんの子供。おそらくこれから船に詰め込む作業なのだろう。

 

 間に合ってよかったと少し安堵し、そしてラディはスピーカー越しに声を荒げた。

 

『児童誘拐犯らに告ぐ!貴様らは完全に包囲されている!!無駄な抵抗はやめて大人しく子供を解放しろ!!』

 

 その言葉を聞いたレイトはコンソール操作で珍しく無線を開き、問いかける。

 

「なぁ、別に俺等誘拐犯じゃないんだけど?……現に縛ったりとかしてないだろ?誘拐犯はこっちな。」

 

 そう言って、いつの間に用意していたのか縛り上げられた人身売買のブローカー仲間のパイロットがアルバレイスの掌に乗っていた。

 

 ラディとしては理解はできるが納得はできない………タレコミのあった場所に向かえば、いかにも怪しいコルベット艦とロボット。

 

 そしてその周りにいる子供たち。どうにも状況がチグハグだ……確かに、捕まえて無理やり船に詰め込んでいるようには思えない。ラディはほんの少し話を聞いてやろうと、声をかける。

 

『……オイ、詳しい話を……』

 

 まずは一番厄介な正面衝突を避けられたと安心するレイト……すると次の瞬間、個別回線からリドーの切羽詰まった声が聞こえた。

 

『レイト!すぐに避けろ!熱源反応……こりゃビームだ!!』

「何ッ!?」

 

 レイトが顔を上げると、天から降り注ぐ光の熱源の柱……レイトはアルバレイスでなんとか避けようとするが、その掌に乗っていたブローカーの仲間は迫ったビームの熱に耐えきれずに文字通り蒸発してしまった。

 

 するとまた断続的にビームの雨が降る………今度は、保安官の機体に向かって。多くの保安官はベテランでよく動けるが、2人ほど避けきれずにビームの直撃を受けて爆散する。

 

 その光景を目にして、ラディは怒り心頭でレイトへと詰め寄る。レイトもまた、好き勝手に人が死ぬ現状に嫌気が差して声を荒げて舌打ちをする。

 

「ッ!?クソ!!」

『貴様ぁ……やはり罠か!?陥れたな……!!貴様ぁっ!!』

「俺もやられかけたろうが!」

 

 すると、ビームの砲撃が一旦止む………どうやら、レイトとラディの同士討ちを狙っているようだ。狡いことをする……だが、こういった正義感の強い人間には効果てきめんだ。

 

 ラディのプラズマを纏った実体サーベル……形状的には長い警棒が近いが、触れると電流が流れ相手の機体をショートさせたり負荷をかけて動きを鈍らせる武器だ。他にも盾やアサルトライフルと手堅くまとまっている。

 

 だが、アルバレイスは訓練されたラディの初撃を、その巨躯に似合わない機敏さで躱していた。

 

 ラディのサーベルが空を切り、お返しにアルバレイスの巨大な左腕が相手のコクピットに突っ込んでくるが、ラディは咄嗟に盾を差し込んだ。

 

 鈍い衝撃がコクピットを揺らす。腕が痺れるような感覚……盾越しでも、この力か。

 

『包囲を維持しろ!一対一にさせるな!』

 

 ラディの指示に応じ、他のコルトルたちが三方からサーベルを構えて踏み込んでくる。数で押す。教科書通りの対単機戦術だ。

 

「いいねぇ、有象無象じゃ味わえねぇやり方だ!」

 

 だが、それを越えてこそのバウンティハンター。

 まずは左の一機を蹴り飛ばし、右の一機の剣を手首で弾いて軌道を逸らす。そのまま腕をクローで掴んで盾にしながら三機目の攻撃を受け流す。もちろん、致命傷は避けて……だが。

 

 鍔迫り合いのまま、二機が拮抗する。サーベルとサーベルが噛み合い、火花が散る。コクピットの中でラディとレイトは互いに押し込もうとするが、どちらも一歩も引かない。

 

 そして均衡のなかで、ラディはもうひとつ気づいていた。

 戦闘が始まってから、この機体は一度も子供たちの方へ向いていない。

 

 どれだけ追い詰めても、どれだけ包囲を狭めても……アルバレイスは常に、子供たちを背にする位置を保ち続けていた。その事が、ラディの心にしこりを残す。

 

(想像よりも話し合いの余地はあるが……さて、こりゃ、はめられたよな?)

 

 反対にレイトが戦闘の中で頭の中で考えるのはそのことばかりだ。正直、目の前の相手とは性格的にも実力的にも戦いたくない。

 

 はめられたとしたならば、賞金稼ぎなんて恨みしか買わない職業だ………その気になればいくらでも心当たりはある。

 

 そんなレイトや保安官を一網打尽にしてやろうと画策した時、こんなふうに子供を餌にしたやり方もあるだろう。

 

 こういう裏社会の子供の売買に詳しいやつならなおさら……。

 おそらくはこれを賞金稼ぎや保安局に連絡した奴らがそうだ……だからといって、今できることはない。目の前のこの怒れるお巡りさんをどうすればいいのか……そこをどうにかしなければ。

 

 だが、話して通じるだろうか?……すると、通信機から声が聞こえる。あの保安官の声だ。

 

『グッ……何故だ……何故こんな腕前を持っていて、こんな卑劣な真似を!』

「言ってるだろ!?俺じゃねぇって!」

『なら他に誰が!大方邪魔な保安官を一網打尽とかそんなところだろう!』

「お前ら木っ端をやっても向こう怒らせるだけでメリットなんかねぇだろーが!!!」

 

 話は平行線だ……だが、それでもラディは悔しそうに言葉を紡いだ。

 

『何故………こんな、子供を餌にするような真似!』

「あんま舐めんなよお巡り……!!こっちだって苛ついていないわけじゃねぇんだよ……!!」

 

 続く拮抗状態にしびれを切らして語気の荒くなるレイト。すると、そんなレイトに軽く驚く保安官達…………

 

「俺等だって元は助けるつもりでいたさ。それがはめられてこの有様だ。」

 

 鍔迫り合いのまま、場が一瞬静まった。ラディは歯を食いしばる。信じたいわけじゃない。だが……この男の言葉には、どこか嘘くさいところがない。

 

 それが余計に、腹立たしかった。こんなにも歪んでいるのにもかかわらず、そのまっすぐな言葉に、余計に苛立つ。それを表立ってぶつけるような真似はしないが。

 

 代わりに、意地悪く彼女は問いかけた。

 

『……証明できるのか。』

 

 絞り出すような声だった。

 その声に、レイトは苦笑いとともに応える。

 

「できるかよ、この状況で…………でも、ガキは人質にしてねぇだろ?」

 

 それが唯一示せる答え……そう言わんばかりの言い草だ。確かに、子供を人質にするなりやりようはあるはずだ。それどころか…………

 

「おい!早くディング号に逃げ込め!」

「早く!」

 

 レイトの仲間……リドーや、子供たちのなかの一人のミナの合図のもと停泊しているコルベット艦に逃げ込んでいた。これが、答えだとでも言うのだろうか?

 

 だが、次の瞬間……レイトの視界の端に天に灯る光を見つけた。レイトは咄嗟にアルバレイスを駆動させてディング号へと向かう。突然の行動にラディは一瞬困惑した。

 

「なっ!?オイっ!?」

 

 その行為の意味に気がつくのは数拍後………子供の逃げ込むディング号に、ビームが降ってくる。激しい熱と黒煙が舞った…………

 

「馬鹿……な……まさか、これを庇うために出たのか……?」

 

 ラディが息を呑む。あれほどのビーム圧の攻撃……直で食らえばひとたまりもない。

 煙の向こうに何が残っているのか……ラディは、自分が祈っていることに気がついていなかった。すでに、彼女は若干信じかけていたのかもしれない。

 

 やがて黒煙が晴れると、そこには1機が何も変わらず……その巨大な左腕のクローアームを盾にするように佇んでいた。全身から火花が散っている。

 

 だが、それでもまだ終わらない。終わらせられない。膝をつきそうになりながら、また立ち上がる。何度も、何度も、立ち上がろうとする。

 

「まだ……だ、まだだなぁ!」

 

 熱にやられて熱くなるコクピットに、狂いかけた計器。ビーム兵器の直撃というのは多少の対ビームコーティングをしていてもきつい。だからこそ一部では必殺のような扱いをされるのだろうが。

 

 諦めずに黒煙の中立ち上がるその姿…………その姿に、ラディは見覚えを持っていた。5年前のクワイセランの動乱……あの日戦ってくれた機体(アルバト)の姿を重ねてしまった。

 

 誰かを守るために咄嗟に立ち上がった、あの機体のように………

 

 ……心は決まった。

 

 ならばやることは変わらない。ラディのコルトルは立ち上がり、ゆっくりとレイトのアルバレイスと並び立つのであった。

 




『あとがき用語説明』
型式番号:PMP-10
機体名:コルトル

保安官用の対ロボット用鎮圧兵器。主に機体をショートさせて動きを留鹵獲する事に長けている。

馬力や拡張性も高いが、全体的にスペックが押さえられており、消して強力とは言えない……だが、どんなパイロットが使っても鹵獲の目的を果たせる操縦性能の良さも持ち合わせまさに保安官用の機体である。
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