在野の強者のモブパイロットはシビアなSF世界を気楽に生きていたい。 作:その辺の束子
ビームの直撃を受けて激しい熱を帯びるコクピット内……いや、本来ならばビーム砲なんて食らえば一発でお釈迦だ。高い金払ってつけておいた対ビームコーティング様々だろう。
対ビームコーティングとは……ある程度の出力を機体前面に分散させて熱エネルギーを分けてダメージをある程度防ぐ塗料型のコーティングだ。
実弾系への効果は皆無だが、ことビーム兵器には十分以上に機能する。
だが、それでもなお直撃を受けるとダメージそのものを大幅に半減できるわけではないから、かなりのダメージを受ける……が、そんなことはレイトにとってはさしたる問題ではなかった。
「くっそ!エゲツねぇ真似しやがって!」
レイトは真っ先に通信システムを回復させて地上のリドーと連絡を取る。
「リドー、無事か!?ガキ共は!?」
『無事だ!お前の捨て身のおかげでな!』
レイトはその言葉を聞いて軽く安堵すると、モニターを操作してリドーやミナ、子供達の安否を確認する……どうやら、今回
子供達が「すげぇ!」とか「カッコいい」とか言いながら状況もよく分からずに手を振ってくる。
だが良いことばかりではない。機体に多大な負荷がかかり、半冷却状態に入った。この状態でも動くが一発当たればアウト、こんな状態でコルトルのプラズマサーベルなんてのは食らいたくない………
「んで、どうする?続けるか?」
『……。』
ダメ元の問いかけに無言で返すラディ……そしてその機体はレイトとアルバレイスから背を向けて、遠方にいるであろう狙撃機に向かっていた。手元からはアサルトライフルを引き抜く。
『……全機通達。この船を、いや子供達を保護している船を守れ。』
『ッ!了解!』
他の治安官の目にも何か感じることがあったのだろう。先ほど派手にぶっ飛ばされたにもかかわらず、護衛命令が出るとなんの嫌味もなくその体制に移る。
すると、今度はリドーの方から心配そうな声が響く。
『レイト、お前の方は?』
「動くから無理でもやるさ。それで十分だろ。」
それは強がりでも嘘でもなかった。動く。それだけが今の答えだ。完全ではないし鈍いが……ちゃんと、動いて使える。十分だ。
アルバレイスがゆっくりと立ち上がり、ディング号の前に陣取る。冷却警告は鳴り続けている。左腕のクローアームはビームの熱で表面が溶け、動作が鈍い。
それでも、ここを退く理由がない。
リーダー格らしきラディのコルトルがアルバレイスへと駆け寄り、保安官たちがディング号の周囲を固める。誰も文句を言わない。さっきまで敵だった機体を守るために、黙って動いている。
『……さっきは済まなかったな。』
「気にすんな。後で保安局から慰謝料もらうさ……」
『金の亡者め……!』
「自覚はある。」
軽口を叩く二人……さて、まずは相手だ。遠方にいるようだが姿が見えない、レーダー越しに姿が見えないとなればステルス機だ。
ビームの出力が直撃でもガードのポーズを取ったアルバレイスの対ビームコーティングで耐えられたことでも証明されている。ステルスしている分、エネルギーに余裕がない。だから撃ってこない。
アイデアとしては悪くないが相手はどうやらそのへんのチンピラか傭兵らしい……この作戦で肩をつけたいなら、もっといい品物を持ってくるはずだ。
『……動くのか?』
「ビリビリだがな………だが、十分だ。射線は受けたから覚えてる。追撃頼むぞ!」
『っ!?おい!!』
飛び上がるアルバレイスとそれを追いかけるコルトル……すると、追撃の狙撃ビームが飛んでくる……アルバレイスは左腕を回転させてビームをコーティングで
腕のビームコーティングが残っているからできる神業だ……思わずその姿にラディは舌を巻いて驚く。絡め取る……見たことのない捌き方だ。
『お前……あんなやり方で……!』
(さて、どうかな……!)
アルバレイスは手持ちのトンファー型のビームピストルを取り出して敵位置を予測して狙撃する……数発は外れたが、最後の1発がその体表をわずかに焦がす。
『逃がすか!』
次の瞬間その位置目掛けてアサルトライフルをばら撒くラディのコルトル……弾丸がさらに相手の機体の体表を焦がすが、再び逃げられる。
体表の色素と磁場を操作しての完全なるステルス……なるほど。ビーム兵器に金がかけられなかったわけだと納得する。
「リドー!どうだ?」
『ディング号でできるのはマーカー弾とチャフを撃ち込んでやることくらいだ!』
「リドーのノーコンじゃ当てにならねぇ……」
『誰がノーコンだ!』
ノーコンである。狙撃の下手さには定評があるのだ。すると、会話に割り込むようにミナが声をかける……奥では押しのけられたのかリドーの唸り声が聞こえる。
『レイトさん!私なら狙えます!』
「ミナか!?何を根拠に……」
『こ、これでもスラム出身ですから……!!』
したたかな子だ……一言で済ませていいのか不穏ではあるが、確かに、この201は不健全なコロニーだ。幼子が鉄砲を持って撃つ……そういうこともあるだろう…………が、それはこの際関係ない。
役に立ちたいという思いがあるのだろう、当人がやるというのであれば拒絶もしないのがレイトのやり方だ。当然、ラディには納得してもらえないが。
「んじゃ頼む。操作方法はリドーに聞け!」
『おい白黒機体のパイロット!?』
「アルバレイスだ!名前はレイト!」
『レイト!お前正気か!?あんな女の子に……』
『子供だから手に負えねぇんだよ……どんなに塞ぎ込んでもやり通そうとするからな。なら始めからやれるようにしたほうがいく分かはマシだ。』
その言葉には、レイトの実体験も大きく含まれていた……ラディはその言葉に反論もできない。話に聞くと、彼女が見たクワイセランのアルバトのパイロットもまた、子供だったらしいのだから。
するとまたどこからともなくビームが放たれる……こうなれば逃げに徹すればいいのに、どうしてもここで仕留めたいらしい。だが、その一発が命取りだ。
無線機には、マーカー弾の撃ち方を教わるミナとリドーの声が聞こえる。
『このパネルの赤いカバーを外せ。その下にあるレバーがマーカー弾の射出トリガーだ。』
『……これですか。』
『そう。引っこ抜くなよ、倒すだけでいい。』
ミナが恐る恐るカバーを外す音が聞こえる……中を知っているレイトだから分かるが、赤いトリガーが出てきたところだろう。
『次に画面を見ろ。左上の数字……これが残弾数だ。今は三発。』
『三発……』
『一発でも当たれば御の字だ。照準はここのダイヤルを右に回すと倍率が上がる。だが上げすぎるな、視野が狭くなってかえって見づらくなる。』
リドーがミナの手を取って、ダイヤルをゆっくり回させる独特なハンドル音が聞こえる。
その音を聞きながらレイトは舌なめずりをして、見えない敵からの攻撃をかわし続けた。
やがて、マーカー弾の射出準備完了を告げるアラートが、ディング号の艦内に響き、それが無線越しにアルバレイスのコクピットに響く。
『……準備できました。』
ミナの声は緊張していたが、震えてはいなかった。
ある程度の場所が分かれば……レイトが囮を買って出る……射線に派手に現れて無造作な攻撃。
その隙を狙おうと、見えないながらもステルス機は手持ちのロングレンジライフルを構えチャージする……ほのかなわずかな光、それがミナの瞳に映った。
『見つけました、撃ちます!』
ディング号の砲口からマーカー弾が三発、連続で打ち出された。一発は外れ、二発目も外れた。三発目が静寂の中に消えて……はじける。
ステルス機体に蛍光色の染料がこびりつく。機体の輪郭が、夜に浮かんだ……こうなれば丸見えだ。やりようはいくらでもある。まず動くのはラディのコルトルだ。
『こっ………のぉっ!』
腰部のリング型拘束器具のついたチェーンを伸ばして、ステルス機に絡め取る。そして次に飛び出すのはアルバレイス……
「こっちもだ!」
ロケットパンチの要領でチェーンのついた左腕を飛ばしてしっかりとホールド……完全に捕縛する。レイトは無線を開いて語りかける……脅しだ。
「もう動くなよ。お前さんが動くよりも俺たちでコクピットねじり潰すほうが5倍は速いんだからな。」
そう、これは脅し……だが脅しではない……なぜなら、本当にそれをやってやれるからだ。ラディとしては奥歯を噛み締めるような思いだが、変に乱心して殺すこともないだろうとレイトの芝居には口を出さない。
誰も殺さず確保だけしてやれるほど、保安官が甘くないことくらいはきちんと分かっているからだ。それを賞金稼ぎにやられるとイラッとくるのは………母親の悪口を友人に言われた時と感覚は似ているのかもしれない。
――――――――――――――――
全てを終えると尋問タイムだ。ディング号の前には数機のコルトル、アルバレイス、そして例の鳥人のような見た目をしたステルス機が一機だ。
レイトはまたもやアルバレイスの足元でうなだれている、頭を足のアーマーの縁に預けて今にも眠そうだ。
……ちなみに、ステルス機の方のパイロットはリドーや何人かの保安官がディング号に連れ帰った。
どうやら今回の件について尋問するらしい。
相変わらずレイトはそういうのには向かない仕事だ……駆け引きとかは特に。残されたのは子供と……
「おい、気を抜きすぎじゃないのか?」
武人風な口調と雰囲気を纏わせる保安官……ラディだった。彼女もまた、こと搦め手については役立たず扱い……そもそも尋問に向かないのは、保安局の全員が知っていた。
正直すぎて駆け引きができない。それは長所でもあり、致命的な短所でもあった。そういうところがあるから慕われているわけだが……兎に角、こうして外に置いておいたほうが都合がいいとさえされているということなのだろう。
一日に二度の戦闘で完全に脱力し切っているレイト……すると、ラディは彼に一つ問いかける。気になっていたことだ。
「……レイトとか言ったな、君は……出身は?もしかして、クワイセランじゃないのか?」
……その問いかけに彼は数拍の無言で通すと、次の瞬間怪しまれないように笑って答えた。
「知らねぇわ。そんなコロニー。」
その言葉にラディは「……そうか」と寂しげに呟く。すると、今度はレイトの方から問いかけた。
「なぁ、お巡りさんや。」
「……なんだ。」
ラディが固唾をのんで聞き返すと、レイトは笑って指でマネーマークを作りながら聞く。
「今回って賞金でるの?」
「金か貴様は!?」
ラディの怒号は耳によく響くのであった。