在野の強者のモブパイロットはシビアなSF世界を気楽に生きていたい。   作:その辺の束子

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Chapter2『主人公っぽい奴ら』
主人公っぽい奴との出会い


 

 レイト・ナモナの今の座右の銘は『気楽に生きること』である。生まれや生き方に価値を見出さず、ただ己の気の赴くままに生きる。それが彼の望む生き方だ。

 

 ともすれば無責任で非常識にも成り得る生き方……それでも、彼はその生き方をやめない。

 

 彼は既に『自分が主人公の器』ではないと知っているからだ。ヒーローじみたことはできない。それは別の誰かの役目だ………だから、いつまでも何も背負わずに生きよう。そう思っていた。

 

 さて、人の頭の中を覗くのはこのくらいにして今の話をしよう……ここは地球圏のコロニー『カリオストロ』……そこで行われているのは、いつものごとく賞金稼ぎとしての仕事だ。

 

『っ!やる……!』

「掠め取んのは得意技でね!」

 

 そう叫びながら賞金首であるこそ泥の機体を追いかけるレイトとアルバレイス。スクリューの如く回転する刃と、こそ泥の大型の大剣がぶつかり合う。

 

「ちっ……」

 

 弾き合い飛び下がるアルバレイス……そのコクピットの中で、レイトはしきりに時間を確認していた。すると、その隙を突かれて、こそ泥の機体が大剣を振り下ろす。

 

「うおっと!?」

『くそっ!まただ!』

 

 どうやらお相手は武器との兼ね合いが悪いらしい……まぁ、ロボット専門店から盗んだロボットを武装専門店から盗んだ実体剣で使えばそうなる。

 

 機体の名は【PMP-カーペント】エネルギー循環効率に優れた、要はビーム兵器使用用の機体である。

 そんな機体に実体剣を組ませたら、兼ね合いが悪いに決まってる。

 

「盗んだ機体で盗んだ武器使うからだ!そりゃ規格合うめぇよ!」

 

 レイトの煽りのような一言……次の瞬間、遠方から3発の弾幕が飛んでくる。内2発はあらぬ方向へ逸れて誘爆するが、一発は爆煙を引き起こす榴弾となる。

 

『うおおおっ!?』

「何2発外してらぁ!ノーコンすぎんだろ、ミナの方が腕良かったぜ!」

『だぁってろ!?』

 

 レイトが文句タラタラ言うとリドーが返す。レイトは息を継ぎながらスラスター全開で燃え上がる機体へと近づくと、そのクローを展開させて腹に差し込ませる……そしてそのままコクピットのある胴体だけを抉るように引き抜いた。

 

『ひっひぃぃぃ!?』

 

 でたらめ出力による無理やりな鎮圧……腹を抜かれた機体はそっと地面へと翼の折れた鳥のように落ちる。すると、無線越しにリドーの怒号が聞こえる。

 

『何やってんだ馬鹿!?店から盗まれたその機体取り戻すところまで含めて依頼だろーが!?』

「あっ……わりぃ、つい。」

 

 ついで自前の機体を破壊されては依頼主の店主も可哀想である。一応大剣の方は無事なのでこちらの料金は何とかなるだろう……

 

「悪かったって急いでて……」

『急ぐ必要ねぇだろ!?』

「見たいテレビがあったんだよ!こいつ捕まえたから、俺はもう戻るぞ!」

『だぁ!バカチンがバカチンがバカチンがぁっ!!』

 

 相当こたえたのかリドーがらしくもなく頭を抱えて声を荒げる。だが、いまさら何を言っても無駄なのも事実……伊達にレイトとコンビを組んでバウンティハンターしていないのだ。

 

 そんな二人の出会い……は、また今度語るとしよう。

 

 

 

 

 ディング号レイト室内にて…………

 

【『それでも!!それでもォォォォォッ!!!』】

【『〜♪』】

【『決着を……つけよう。(レイヴン)!!』】

 

 ディング号のレイトの部屋のテレビから聞こえるのはアニメの音声……ちょうどクライマックスの戦闘に入るタイミングでエンディングが流れ始める。

 

 この瞬間は、いつもどこか満足感が生まれ、同時に虚しさと期待が生まれる。

 

 アニメのタイトルは【牙を持つ鳥〜レイヴン〜】……ある理由で戦闘に巻き込まれた友人を助けるために、惚れた敵国の女の子を助けるために、乗り捨てられたとある試作機に少年が乗り込んで戦火のなかに身を投じる王道のロボット物。

 

 ……割とレイトの地雷を踏んでる感もあるが、それでも彼が子供の頃から見ていた作品、好きなのには変わらない。

 

 ちなみに初放送はレイトが子供の頃だが……再放送やネットで何度も見返した記憶がある。

 

 作中何度叩きのめされても理想を諦めない主人公に心打たれ、こんなふうになりたいと思った少年時代もあったが……今やその姿もまぶしくて直視できない。

 

 それでも、なぜだかこの作品は何度再放送していても見直してしまうのだ。このエンディングの余韻がたまらない…………

 

「うぉい!!レイト!!」

 

 余韻を粉々にぶち壊す奴が来た。

 

「んだよリドー。んな慌てて、賠償金ヤバかった?」

「分かってんならもっと自重しろであほう!!……しかもお前またアニメ見て……まぁいいや!次の仕事が決まった!」

「早いな。」

 

 まだあのこそ泥を突き出して金の入りを確認してから直ぐだ……普段はもう少しスパンを開けて依頼や情報が来るもんだが……

 

「俺らが近いんだとよ、カリオストロのコロニーだ!!」

「なるほど。」

 

 確かにそこなら今は目と鼻の先だ。だが、こうも急ぐ理由は何だ?レイトには見当がつかない。

 

「何かあるのか?」

「金払いが良いんだ……ガキが女の子とロボットを盗み出したらしい。」

「どこのローマの休日だそれ?まぁいいや。支度する。」

 

 レイトの言葉に頷いて部屋の扉を閉めるリドー……しかし、また子供絡みのこそ泥な事件かと若干レイトは辟易する。

 まぁ賞金稼ぎが相手するのなんて大抵そういう奴らばかりなのだが……

 

(しかしまたガキ絡みか……それに……)

 

 しかし、子供が女の子を連れてロボットに乗っての逃亡劇。追って追わせる賞金稼ぎ……どんな理由があって、どんな意味があるのかは知らないが、ずいぶんとメルヘンではないか。

 

(乙女座の俺にはセンチメンタルな運命を感じずにはいられない……てか?)

 

 レイトは停めていたテレビを軽く叩いてつぶやく。

「まるで、主人公と敵対する悪役だな。」

 そんな事を呟いて、レイトは格好をつけてニヒルに笑ってみせるのであった。

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 逃げろ。とにかく逃げろ。それだけが今のバルト・スミシーの頭の中にあった。バルト・スミシー……年の割に熱血漢な茶髪の少年である。

 

「ナディア!?大丈夫かナディア!?」

「活動に支障なし。」

 

 コクピットの中は狭い。二人で乗り込むには狭すぎる。

 

 銀髪の少女、ナディアは助手席代わりに押し込んだ『生体CPU用』の簡易シートに座っていて、バルトは操縦桿を両手で握りしめながら額に汗をかいていた。

 

「バルト、後ろから追ってきています。」

「分かってる!」

 

 ナディアの声は平坦だった。怖がっているのか怖がっていないのか、全然分からない。バルトは何度もそれに戸惑ったが、今更だ。それよりも怖いことが迫っている。

 

 モニターに映るのは追手の機体……カリオストロの警備用機体、アルバトが3機。等間隔で追ってくる。

 

 バルトの乗る機体……その名は『アストロス』。

 

 その機体は確かに高性能だが、バルトは乗り込んでまだ二時間しか経っていない。操縦の練習なんてしている暇はなかった。勘で覚えて動かす……それができるのは、天才である証なのだが。

 

「ここから脱出を試みる場合は、このままゲートへと向かってください。……このまま逃げ切れる可能性は……。」

「可能性にしなくていいから!!」

 

 ナディアは相変わらず感情のない声で現実を突きつける。バルトは歯を食いしばった。

 

 そもそも、なんでこんなことになったのか。

 

 

 

 バルトは思い返す……いつものように学校に通うと、見知らぬ人がいた。

 

 3ヶ月前にこの学校に転校してきたナディアの父親のようにも見えたが……彼の口から聞こえたのは、おおよそ父親の言葉とは思えないセリフだった。

 

『どうですか?ナディアの様子は……最低限、パイロットとの意思疎通が取れなければ困りますからな。』

 

 その違和感だらけの言葉に……バルトは驚愕した。

 

 ろくな環境で育たなかったせいでスリのテクニックがあった彼は、そんな言葉を宣う男から何かを探ろうと懐から書類の入った小封筒をくすねてみせた。

 

 ……そこに書いてあったものを読んだ時、頭が真っ白になった。

 

『生体CPU移植予定被験体:ナディア・コード=047』

 

 生体CPU。人間の脳を機械に組み込んで演算装置にする……そんな技術が実在するとは知らなかった。知りたくもなかった。

 そして、その生きた演算装置へと変えられる……それがナディアに予定されていた未来だった。

 

 ナディアとバルトは友達ではない。少なくとも、ナディアはそう思っている。だが、バルトは初めて同じクラスメイトになったナディアを、見た瞬間……綺麗だな、とそう思った。

 

 それから連れ去られたナディアを追って施設に忍び込み、ナディアが取り付けられる予定だったアストロスという機体を盗み出して今に至る……というわけだ。

 

「ナディア。」

「なに。」

「怖くないか?」

「……怖いって、どういう意味?」

 

 バルトは操縦桿を握ったまま、ナディアの顔をちらりと見た。窓の外の景色が流れていく。ナディアはモニターを見ながら、本当に分からなそうな顔をしていた。

 

「心臓がばくばくして、足が震えて、逃げたくなる感じだ。」

「……それなら、少しある。」

「それなら、安心したよ。」

 

 ナディアは小首を傾げた。

 バルトは何も答えずにまた正面に向き直る。追手はまだ来ている。カリオストロのコロニーのゲートまであと少しだ。そこまで出れば……宇宙に出れば、どうにかなる。どうにかする。どうにかしなきゃならない。

 

 根拠はなかった。でも、そう思わないとやってられない。

 

「バルト。」

「なに。」

「なんで、助けてくれたのですか?」

 

 唐突な問いかけだった。バルトは少し考えてから答えた。

 

「友達だから。」

「しかし、私たち、三ヶ月しか一緒にいないでしょう?」

「それじゃあ……どうしても、見ないふりができなかったから。」

 

 そう言ってまっすぐ前を見る……すると、コロニーをぶち破られるよりかはマシかと、職員ら側からゲートを開けてくれる。

 

 だがそれを追うようにアルバトも迫っていた……しかし、直線の推進力ならアルバトにアストロスが負ける要因はない。馬力が違うのだ。あっという間にアストロスは宇宙の彼方へと飛び立っていった。

 

 星空が360°に広がる……その光景にバルトは思わず息を呑むと、ナディアはしばらく黙りながら、窓の外の宇宙を見た。

 

「……綺麗。」

「え?」

 

 バルトはナディアの顔を見た。感情に乏しいはずの顔が、窓の外を見てほんの少しだけ、柔らかくなっていた。美しいものは、どんな無機質にも感情を生み出す。そういうものだ。

 

「……そうだな。」

 

 バルトは静かにそう呟く………すると次の瞬間、機体に接近警報が流れる。赤いランプが危険を知らせる。

 

「っ!?何ッ!?」

 

 次の瞬間、榴弾がアストロスの周囲で爆発……体表の熱が上がり、コクピットの温度が上昇する。

 

「く、くそっ……誰ッ!?」

 

 バルトが声を荒げる前に、1機の白黒機体の蹴りがアストロスの胴体を狙い吹っ飛ばす。コクピットに伝わる衝撃……すると、目の前の機体と回線が繋がる。

 

『よぉ小僧。子供と関わってばっかりでいたぶりたくはないが……これも仕事なんでな。やらせてもらう。』

 

 改めて見ると、その機体は歪な形をしていた……左腕には3本爪のクローアーム、全身がズタボロの貼り付けでありながらも、確かな力と恐怖を感じさせる……そう、まさに………

 

「亡霊……」

「!!」

 

 ナディアは静かにつぶやいた。その言葉にバルトも驚く……噂には聞いたことがあるからだ。亡霊……その異名を持つ賞金稼ぎ、バウンティハンターの名を。

 

 機体名は……アルバレイス。パイロットの名前は……

 

『レイト!鹵獲だからな!?』

『そうだったな、リドー。』

 

 無線越しに、リドーというレイトの相方の声がこだまするのであった。アルバレイスの鋭い眼光が、上下のない宇宙空間で、じっとアストロスを見下ろしてくるのだった。

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