私は自称この店の常連客。扉を開けて中を見渡す意味もなく、当たり前のように店内にはマスターしかいない。
定位置であるカウンターに座り、いつもの世間話を始めるが、気になるのは先日の戦車道の試合。空回りながらもあの少女が勇気を出して(おそらく)、マスターを招待したあの試合である。
期待を胸に話を聞くも、返ってくる話は至って普通で、特別な進展があったわけでも無さそうで。
まぁあの(残念な)少女と、このマスターがそんな簡単に進展することもないか、と思い直す。
ただ、マスターの隣の席には今テレビによく出ている時の人が居たらしい。当人はお忍びで来てるわけでもないようで、試合中、相手側の隊長車と副隊長車に手を振ったところ、なぜかガクっと揺れて白旗が上がったそう。
ならあの少女が勝ったのか?と聞くと、どうやら違うようで、マスターもあの少女が乗る戦車へ手を振ったところ何故かガクっと揺れて白旗が上がり、無効試合になったらしい。
──意味がわからない。
当日のマスターも今の私と同じ気持ちだったのか、隣にいる人とポカンと顔も見合わせたらしい。
帰り際、その人の隣には相手方の隊長と副隊長、マスターの隣にはあの少女とオレンジ色の少女。
楽しみにされていただろうにうちのがすみませんと、相手方から言われ、思わずこちらもすみませんと返したが、やらかした当人達は何故か少し嬉しそうで、オレンジの少女だけがため息をついていたそうだ。
なんだ、ちゃんと進展してるじゃないか。
うんうんと小さく頷く私に、マスターは首を傾げる。
そんな折、からんからんとドアベルの揺れる音が来訪者を告げる。
「いらっしゃい」
店主の声にチラリと視線を向けると件の少女...ではなく、見えるのは小ぶりなオレンジ色の少女。
「先日はお忙しい中お越しいただき、ありがとうございました」
「いや、こちらこそ。まぁ、あんな結果になるとは思いませんでしたが」
そう溢すマスターにオレンジ色の少女も、あはは...と苦笑い。
理由は単純。お互いの車内でコーヒーを撒き散らして、それが操縦手と装填手にかかり...あとはもうなるようになった結末で無効試合となったらしい。
戦車道...。コーヒーが最大の敵ではないか?と思ってしまった私は悪く無いと思う。
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「まほさん。今度コーヒーの淹れ方をお教えいただきたいのですが」
「なんだ。珍しいな──...あぁ、なるほど。そういうことか」
「そ、そそそういうこととは!?」
「いや。見ていればわかる。まぁ、本気で思ってるならミカに教えてもらう事だ」
「ミカさん...?コーヒーは継続高校よりも黒森峰女学園の方が詳しいのでは?」
「コーヒーは色々あってな。私もミカに教えてもらっている身だ。まぁ、聖グロとミカとの相性はよくないようだし、私から知りたいと言うならそれでもいいが、教えられるコーヒーの味はひとつしかないぞ」
「と、いいますと?」
「兄さんの好きな味だけということだ」
(この人に聞いた私がバカだった!)
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