探偵士、少年探偵団と出会う。   作:ummt

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第一章 ヴェール
第一話 探偵士、少年探偵団と出会う。


 

「お兄さん大丈夫ー?」

 

 頭が割れるように痛い。

「う……頭が痛い……頭痛が痛い……誤用するくらい痛い」

 どうやら鉄筋コンクリートの床の上に転がっているらしい身体を無理やり起こすと、上半身が持ち上がった途端激しい目眩と吐き気に襲われた。

「だ、大丈夫ですか!? 歩美ちゃん!! 救急車を呼びましょう!!」

 重いまぶたをゆっくりと上げると小学生くらいの子供が此方を見ながらあたふたと慌てふためいていた。

「大丈夫……多分、転んだんじゃないかな……」

 頭を抑える腕は男性然としており、上下に分かれたグレーの作業着を着用しているようだ。

 左胸には普遍的な水道の蛇口マークのワッペンだけがあり、所属を示す刺繍はない。

 複数あるポケットを弄っても作業用の白い手袋しか持ち合わせていない。

 身分証も通信手段になる機器も一欠片のクッキーすら所持していない。

 つまり、僕は自分が何者かを思い出している。

「オイ、頭を打ったなら救急車を呼んだほうがいいってコナンも言ってたろ」

 振り向くと関節痛がして、目線の先には体格のいい男子が不安げに駆け寄ってきた。

「元太くん!! お水をお兄さんにあげて!! 光彦くんは救急車を呼んで!!」

 歩美ちゃんと呼ばれた女子は男子たちにテキパキと指示をした。

「はい!!」

 光彦くんと呼ばれた男子は黒い板を何やら操作し始めた。

「大丈夫だってば……君が操作しているそれは何?」

 黒い板を指さすと光彦くんは驚いた顔をして板を此方に向け、板の裏面にはプッシュボタンのような数字マークのイラストが描いてあった。

「兄ちゃん……大丈夫じゃねーじゃねぇか。ただのスマホだぞ?」

 スマホ……スマートホルン、ストレートマホニアコンフューサ……何だ? 

「お兄さん、これはスマートフォンですよ? もしかして記憶喪失なんじゃないですか? ……お名前は?」

 スマートフォン……スマート出身のvon、ラウドネス値のphonではなく、あの裏面からしてテレフォンのphoneで間違いないな。

 おそらくあれで通話をするおままごとをしている最中か。

 そうそう子供に携帯電話は持たせられないからな。

「ええと名前はね……」

 困ったな、名前が靄がかかったように思い出せない。

「オイ!! あんたら通路で寝転んで遊んでんじゃねーぞ!」

 仕方なく軋む身体をゆっくりと起こして土埃を手で払うとカンカンカンと鉄骨造の階段を上る音が計3名分鳴り響いた。

 どうやらコンクリの共用廊下の壁で遮られていたが、ここは最高でも4階建ての階数であるらしい。

 

「あはは……すみません」

 


 

「全く、昼間っから作業員がガキと油売ってんじゃねーよ!!」

 

 階段から上がってきたのは男性2名と女性1名で、顔見知り同士のようだった。

「どいてくれない? 人の家の玄関先で遊ばないで!!」

 女性に怒鳴られるとえっちらおっちら脚を動かして踊り場に移動した。

「お兄さん、お名前もわからないの?」

 うーん……頭に浮かぶ名前はあるんだけど自分の名前ではない気がするな。

「そもそも君たち、知らない大人に話しかけたりしたら危ないよ」

 まずはゆっくりと状況を整理したい。

「お兄さん、兎に角救急車を呼びますからね!!」

 そう光彦くんがスマホとやらをいじり始めると同時に部屋の中から女性達の悲鳴が聞こえた。

「キャアアアアアア!! し……死んでる!!」

 すると元太くん達は真っしぐらに他人の部屋に入っていってしまった。

「光彦くん、やっぱり救急車を呼んだほうがいいかもしれない」

 そう言って元太くんと歩美ちゃんの後を追って部屋の中を覗き込むと、玄関と直接繋がるダイニングキッチン越しにその先の部屋、恐らく寝室のドアから女性が仰向けで倒れているのが見えた。

「皆さん!! 僕はマスターオブディテェクティブ、探偵士です!! 現場保存のために遺留品に触れたり遺体に触れたりしないでください!!」

 遺体を覗き込み絶句している男女3人と子供達に向かって叫んだ。

「ま、マスターオブ? お兄さんは何かの達人なの?」

 歩美ちゃんが目をキラキラさせてこちらを見上げた。

「探偵士は探偵士だよ。そうだ……僕はデイヴィス、終身貴族さ。エドワード法により検察及び警察より72時間優先して捜査ができる」

 ポケットから白い手袋を取り出して手にはめると遺体に近づいた。

「え、エドワード法? ……エドワード・コークの法の支配ですか?」

 光彦くんが苦笑を浮かべてピンバッチに何かブツブツと話し始めた。

「コナンくん!! 事件です……場所は……はい……一緒にいる人が探偵士だとか言って……はい……はい……待ってますね!」

 驚いた。

 独り言かと聞き耳を立てたら周波数変調、FM帯でノイズもなくクリアに双方向的な通信を行なっている。

 

「兎に角、皆さんは勝手に帰ったりしないように。まず名前をお聞かせ願いたい」

 


 

「アタシたちはこの部屋の住人の英子の知り合いで……」

 

 彼らの話をまとめるとこうなる。

 

 部屋の住人はインド料理店で働く英子(23)。

 ゆったりとした肌が露出した部屋着を着ている事から、出かけの間際ではなかった可能性がある。

 既に亡くなっており、死後硬直がピーク時に近いことから死後24時間は経過していないだろう。

 眼の乾燥斑と瞼が閉じていないことから死後12時間程度だと推測する。 

 口元に涎や泡が流れたりはしておらず、代わりに唇を噛み締めて出血している。

 首筋の頚椎を貫くように2mm程度の穴が空いている。

 全体は蒼白化というよりも下半身が特に紫斑が濃くなっている。

 腹部には褥瘡が認められ、爪先は青紫色に変色している。

 長い髪をゆるく伸ばしており、特に乱れてはいない。

 

 彼らについて。

 彼らは英子の友人たちで、出勤してこない英子を心配して安否確認に来た。

 女性は美衣(26)、英子のヨガインストラクターで親友だった。

 男性の一人は椎(26)、英子の元彼で同僚だった。

 もう一人の男性は出井(24)、英子の今彼でアクセサリー作家。

 ベランダ向かいのマンションに住んでいる。

 

 現場について。

 彼らが寝室の外開きの扉を開けると英子が扉を背にするように倒れていた。

 現場には争った形跡はなく、ベランダのカーテンが少し開いている。

 ただし、ベランダの掃き出し窓は施錠されたまま。

 

「俺たちが部屋を開けるまで誰も中に居なかった……」

 確かに、彼ら以外の人影は見かけておらず足音も聞いていない。

 室内に潜伏しているとしたら話は変わるが、クローゼットやバスルーム、トイレを確認したが居なかった。

「あ!! バランスボールが……!! だから危ないから辞めろと……事故で死ぬとか……英子……」

 確かに70cm大の白いバランスボールはあるが。

 妙だな、バランスボールで転倒するとしても

「あれれ〜? バランスボールって部屋の中央で使わない? どうして扉に頭をぶつくらい隅っこでやってたのかなあ?」

 下を向くと眼鏡を掛けた男子と冷めた目の女子が立っていた。

「そもそも、扉を背にしてバランスボールをしていたのなら思い切り頭を殴打する体勢にならないわ」

 言いたいこと全て言われてしまったな。

 

「お兄さん、探偵士なんでしょ〜? 見解を聞かせてよ」

 


 

「待ってくださいコナンくん!! 僕たち少年探偵団ですよね!? 丁度エドワード法やらなんやらで警察が来るまでに捜査していいなら僕達で解決しましょう!!」

 

 光彦くんが宣言すると元太くんと歩美ちゃんは元気よく手を挙げた。

「少年探偵団だもん!!」

 おっと、止めたほうがいいのかな。

「あれ? なんだか光がチカチカしてる?」

 歩美ちゃんが天井を見上げると日光とは別の光がチラチラと見え隠れしている。

「光か、確認しよう」

 自分の体を使って光源を探すとデスクの上にあるボール状の装置から光線が発射されていた。

「光彦くん、スマホとやらの黒い面を近づけてみてくれないか?」

 光彦くんがスマホを光源ギリギリに近づけると月面のような模様になった。

「あー! これお部屋に星座を出すやつだ!! お月様が見える!! ね? 哀ちゃん!!」

 歩美ちゃんがもう一人の女子の腕を引いた。

「プロジェクターライトね。ルームライトが影絵のようにシルエットを映し出すの」 

 そうか、なら事件当時は夜だった可能性が出てくるな。

「そんなもの使わなくても昨晩は満月だったのに」

 美衣はハァとため息をついた。

「月が好きな人だったんですかね?」

 光彦くんが質問をすると美衣は続けて話した。

「月というより、月の白い花を見たがっていたわ。ちょうど昨日咲いたのにね」

 月の白い花……ねえ。

「なあ、なんでカーテンが少しだけ空いてるんだ?」

 元太くんがカーテンに近づいてベランダの扉に手をかけると美衣は慌てて止めた。

「危ないから花には手を触れちゃだめ!!」

 成る程。

「ちょっと見るだけだって!! うおーキラキラがいっぱい下がってる!!」

 ベランダが開けられるとキラキラと輝くサンキャッチャーが無数に吊り下げられていた。

「わぁー綺麗……キラキラしてる……虹みたいな影が出てるね!!」

 いや、これは市販のサンキャッチャーではない。

 何故なら、カット加工がされていない球体の15cm以上のガラス玉が複数パーツに使われている。

「すみません、このサンキャッチャーは出井さんが贈られたものですか?」

 出井は頭を抱えて泣き崩れた。

「そうです……英子は蛇や爬虫類が嫌いだから俺が守ってやるって……」

 蛇が光を苦手だと勘違いしている人がいると聞いていたが。

 

「そうですか……」

 


 

「部屋のカーテンが白で薄手ですが、カーテンを厚くしたりしようと提案したりはしませんでしたか? 防犯的に……」

 

 女性の一人暮らしで2階にしては薄手だ。

 ただし、ベランダの向かいは7階建てマンションの壁面、トイレの窓部や排気口に当たるから……まあいいか。

 すると椎がぽつりぽつりと話し始めた。

「オレと付き合ってたときはカーテンは濃紺だったよ。……ただ、ヨガにハマるようになってから『ソーラーライトで室内を照らして気分を盛り上げる』ってわざと薄いカーテンにしたんだ」

 確かにベランダには室内に向け一方向に発光するソーラーライトが複数台設置してある。

「お花がいっぱい!! 大きいサボテン? 針がない。あとは大きい葉っぱの」

「触らないでってば!!」

 歩美ちゃんが笹の葉を大きくしたような葉蘭型の植物に触れようとすると美衣が飛んできて手を引っ張った。

「ご、ごめんなさい……」

 あまりの形相に歩美ちゃんは今にも泣き出しそうだ。

「あら、ベッドの下にこんな物が落ちていたわ」

 哀ちゃんと呼ばれた女子がベッド下に手を伸ばして拾い上げたのは金属板で出来た蝶型のヘアクリップだった。

「ちょっと見せてくれるかな」

 手袋をした手で確認するが、バックリと開ききっていてバネが馬鹿になっており、ねじり部がストレートに張っている。

「それも俺がプレゼントしたんだ……」

 アクセサリー作家の出井が作ったのなら、市販品とは異なる開閉部にすることも難しくはないか。

 そして、先端には血痕がある。

 これが頚椎を貫いた凶器で間違いない。

「おい兄ちゃん!! この草なんか焦げて……うおっ!!」

 元太くんが走り寄ろうとして円形のシャギーラグマットに滑って転んだ。

 円形のラグマットならズレていたかどうかわからないな。

 ……毛足80mmロングシャギー、摩擦抵抗が無い。

 買ったばかりか? 

 ……滑り止めが無いと滑るのは当たり前だ。

「ねえ探偵士さん、ヒントを教えてくれない? ……まさか、密室殺人ではなく事故だと思ってるのかな?」

 コナンくんと呼ばれた男子はこちらの能力を確認するように見据えている。

 

「よし、探偵士としての見立てを話そう」

 


 

 見立てについて。

 英子は扉に頭を強打したこと、更に蝶型のヘアクリップの突起が突き刺さったことで死亡した。

 死後の状態からして壁にもたれ掛かり座るようにして死後硬直が進んだ。

 死亡した時刻は少なくとも夜間である。

 部屋は暗く、淡いルームライトが点灯していた。

 そしてカーテンからソーラーライトの光が差し込んでいた。

 ラグは滑りやすいものであった。

 

 そして、歩美ちゃんが触れようとしたのは……

 マムシグサだ。

 

「そうですよね? 美衣さん」

 美衣さんに尋ねると目を丸くした。

「ま、マムシグサ? なんですかそれ……」

 椎さんは首を傾げている。

「マムシグサがなんなんだよ!! 英子は頭を打って死んでたんだぞ!!」

 確かにそうだ。

 しかし、頭を打って死ぬには背面から転倒する必要があった。

「これでしょ、探偵士さん」

 哀ちゃんがスマホの画面を見せると『コブラ』のように見える花姿があった。

「スゲー!! でっかい蛇にしか見えねーぞ!!」

 元太くんが目を丸くしてスマホの写真を見せて回った。

「そう。花が咲くときは仏炎苞、つまり蛇の舌に見えるものが見える。これがソーラーライトに照らされたらシルエットはどうなるかな?」

 そう尋ねると光彦くんが大声を出した。

「大きな蛇、または人影に見えます!!」

 その通り。

「それでカーテンが少しだけ開いていたんだ!!」

 歩美ちゃんが飛び跳ねて興奮している。

「そうだね。そして開いたら本当にコブラみたいな花を見たんだ。蛇嫌いなら驚いてそのまま後退りししても何らおかしくない」

 そこにシャギーラグマットに足を取られれば頭から転倒する。

 そして明らかに『衝撃を受けて開き切るとバネ部が突起になり突出する作りになっている』蝶型のヘアクリップが首の神経または血管を損傷するようになっていたため、扉に当たっても例え床でも転倒した時点で彼女は無事ではなかった。

「ですよね? 出井さん」

 すると出井は明らかに動揺し始めた。

「な、なんでだよ!! 確かに下手くそなアクセサリーで危ない作りにしてしまったかもしれないが……それが殺人にはならないだろ!!」

 そうとも言い切れない。

「あなたがマムシグサを現場に来る前に向かいのマンションのトイレの窓から光線をサンキャッチャーを使って収れん現象からマムシグサの花をピンポイントで燃やさなければ言い訳はできた。……サンキャッチャーで完全な球体は使ってはならないとアクセサリー作家ならご存知のはず」

 出井は後退りした。

「美衣さんはあの草がマムシグサ……葉や球根が猛毒であることを知っていた。あの花はあなたが贈ったんですね?」

 美衣も後退りした。

「ち、違うわよ!! 花なんか詳しくないわ!!」 

 

「いいえ、あなたは花に詳しい」

 


 

「これは月下美人。一夜にだけ花を咲かす白い花」 

 

 光彦くんに花の写真を出してもらった。

「あー!! ベランダにあるトゲのないサボテンだ!!」

 歩美ちゃんは目を輝かせて月下美人の白い花を見た。

「『月の白い花』、つまり月下美人を知っていた。そして事件当時に咲いていたことも知っていた。つまり、美衣さんは英子さんのベランダをのぞき込んでいた。……おそらくは出井さんのトイレの窓からね」

 そこまで話すと椎が顔を青ざめさせて二人に詰め寄ったり

「お前ら……付き合ってたのか? 美衣まで浮気してたのかよ!!」

 それは……ご愁傷さま。

「美衣さんは、おそらくスパイスのターメリック、日本名でウコン……いや、クルクマ・ロンガだとでも言って花を贈ったんでしょう。クルクマも背が高くなるから『決まった場所において』と指示ができる。……誤食して死亡するまで待てずに出井さんを頼ってしまった。一般人はニラと水仙の違いすら分かりませんからね」

 そこまで話し終わると美衣さんと出井さんは膝から崩れ落ちて泣き始めた。

「英子が浮気を責めたてるから……」

 あ・ほ・く・さ。

「コナンくん!! 被害者は!?」

 いつの間にかサイレンの音がしていて、スーツ姿の男性がズカズカと入ってきた。

「あ!! 高木刑事!! 事件は解決しちゃったみたい!!」

 コナンくんがニコニコ顔で状況を説明しだした。

 

 、、、

 

「で、お兄さん。本当の正体はだあれ?」

 

 事件現場から少し離れた所で休憩しているとコナンくんが様子を伺うように話しかけてきた。

「デイヴィス……下の名前はない」

 そう呟くと哀ちゃんがハァとため息をついた。

「あなた、エドワード法と探偵士という話はミステリ作家の山口雅也氏の『キッド・ピストルズ』シリーズからね? そして名前はP・G・ウッドハウスの『ジーヴス』シリーズからの引用」

 なんだ、知ってたのか。

 

「そうだよ。僕は探偵士でも何でもない。……記憶喪失は本当だけどね」

 







 あとがき




【挿絵表示】

これは同じテンナンショウのウラシマソウ

【挿絵表示】

マムシグサは150cmくらいになり、球根が大きくなると葉は下がり花が立つような花姿になります
林で出くわすとビビる

水平線(罫線、──)の有無

  • ない方がいい
  • どっちでもいい
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