探偵士、少年探偵団と出会う。   作:ummt

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第十話 探偵士、準備をする。

 

「あ、梓さんおかえりなさい。」

 

 蘭さんと園子さんが店を後にしてから暫くして梓さんが店内に戻って来た。

「ただいまです!デイヴィスさん、店番ありがとうございました。」

 梓さんの手にはワサビ菜とからし菜、そしてバナナチップスが入った買い物袋が下げてあり、それを受け取って野菜室に入れた。

「試作品第二号が仮採用されたようでよかったです。」

 バナナチップスを食糧庫にしまおうとすると手首を掴まれた。

「それ!それは私からのほんの気持ちです。ニャロメ?でしたよね、デイヴィスさんもバナナチップスお好き……ですよね?」

 そんな不安げな顔をされたらバナナチップスが繰り上げされ大好物になってしまう。

「はい、大好物です。ありがとうございます。」

 深々と頭を下げて礼を述べた。

「もう!まだまだ固いですよ!肩ひじ張らずにいてください。……あ!そうだ、蘭さん達と話していた日程なら安室さんも『宇宙エキスポ星雲センター』に一緒に行けるそうです!!」

 喫茶ポアロを一時休業にしてでも同行を選んだ……つまり動きがあると踏んだか。

「良かった……。えーと、少年探偵団の5人に阿笠博士、梓さんに安室さん、世良さんと蘭さんと園子さん、毛利さんに自分の13人……ちょうど団体チケットの人数に収まりましたね。」

 部屋数も7部屋で、ピタリと収まるな。

 後は準備をするだけでいい。

「楽しみです!プラネタリウム……星座についてあまり詳しくないけれど……。」

 照れくさそうに頬を掻く梓さんを横目にメモをしたためた。

「星を観測すると色が違って見えますよね、あれをスペクトルタイプと言ってガスでできた恒星に当てはめられるんです。星の表面温度が高い順でO型が青で電離ヘリウム。B型か青白で中性ヘリウムと水素。A型がクリーム色でバルマー系列の水素。F型か薄黄で電離金属。G型が黄色が中性金属とカルシウム。K型がオレンジ色で中性金属とカルシウム。M型が赤で酸化チタン。……肉眼で見えるのは皆恒星なんです。……暗闇に存在する星を捉えることは出来ない。」

 そして隣に付け加える。

「青は40000℃でオリオン座のラムダ、青白は20000℃で乙女座のスピカ、白は10000℃でこと座のベガ、クリーム色は8000℃でわし座のアルタイル、黄色は6000℃でぎょしゃ座のカペラ、オレンジ色は4500℃でうしかい座のアルクトゥールス、赤は3000℃でさそり座のアンタレスが代表的だと覚えておけば問題ないかと。……記憶喪失なので最新の情報ではありませんが。」

 直ぐ隣で梓さんのため息が漏れた。

 

「プラネタリウムに行ったらゆっくり教えてください。……デイヴィスさん。」

 


 

「デイヴィスさん宛に荷物が届いていましたので、代わりに受け取って置きました。」

 

 バイトを終えて工藤邸に走ると沖矢さんが段ボール箱を抱えて立っていた。

 ……中身を開けられたか?

 送り主は『星雲センター 開発運用局 棗アンゼリカ』と記載があり、所属と在籍フロアを確認出来た。

 天地無用の封等からして破られた形跡は見当たらないが、揺すったり重さや音の反応や金属探知機での検査をしたに違いない。

「あ、ありがとうございます……なんだか本当にルームシェアしているみたいですね。」

 そう言って段ボール箱を受け取ると静かに言葉が放たれた。

 

「俺は純粋にルームシェアだと思っているが。……君はそうではないらしい。」

 

、、、

 

「……梱包材のよれ、空気圧の変化が見当たらない……本当に開けなかったのか?」

 

 箱の中身を確認するとマイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、シングルチップマイコン、銅線類、半田、クロック発振器、IOインタフェース、コンデンサ、抵抗器、トランジスタ、既存CPU、キーボード等が静電保護シートに包まれ束になっていた。

 そして手芸道具と工具類、鉄板類とワイヤー、アルミホイルに乾燥剤等細々としたものまで入っていた。

 すべてを検品し終わると底面に公衆電話に割り振られた番号と日時があらかじめ決め置いたランダム配列で記載されているのを確認した。

 

「阿笠博士の家に行くついでに……ってもうそろそろじゃないか!」

 

、、、

 

「……もしもし。」

 

 指定された公衆電話の前まで行くと例の『公衆電話長居男』が居り、自分の姿を確認するとその場から立ち去った。

 そして電話を鳴るのを待って電話に出ると、こちらを蔑む含み笑いが受話口の中から電気信号として聞こえてきた。

『よぉ彦星さんよ……織姫には会えそうか?』

 ジン……こいつとまた会話することになるとは……。

「ベルモットはどうした?指示はベルモットからなされるはずだったろ?……それに『宇宙エキスポ星雲センター』の団体チケットって……足手まといを引き連れて行けと?」

 約束が違う。

 僕が星になって終いになる筋書きだった。

『謎解きアドベンチャーでは随分と楽しそうにしてたように見えたが……流石スター様だ、工藤優作の家を拠点として警視庁にも毛利小五郎の家にも顔パスではいれるようになりやがった。褒めてやろう、お前の演技力をな。』

 ……ジンは偵察作戦をもはや策として見ていない。

 まとめて事故に見せかけて殺害する気だ。

 

「脚本家が余計なテコ入れをしなけりゃ、もっと策は上手くいくだろうよ。……茶々入れをするなら容赦はしない。」

 


 

「みんなもいたのか……。」

 

 阿笠博士の家に向かうと少年探偵団の皆が勢ぞろいしていた。

「はい!ロケットの打ち上げ配信を今日またしていたので!!」

 ……星雲センターが開発する人工衛星を積んだロケットは複数回打ち上げを断念していた。

 今の情勢で国産の人工衛星が無いことは通信インフラだけでなく航空、はたまた軍事的にも脆弱と言わざるおえない。

 人工衛星を使って長距離通信を安定的に確保するのは国にとって最優先の事項であり、莫大な技術リソースが費やされている。

 それもスパコンを複数台演算及び軌道計算処理に充てるくらいに。

「そうなんだ……。」

 ソファにドカッと座るとテレビからCM明けのバライティー番組が流れ込んだ。

『えー今回はギルテセブンIIについて語ってもらいましょう!主演俳優とスタントマンの2名が爆発事故に巻き込まれて亡くなった結果、続編は作られないと思っていましたよね!?』

 すると歩美ちゃんが慌ててリモコンを探しに走った。

「……昨日はごめんね。ちょっとイライラしていて……みんなに当たってしまった。観たいなら消さなくていいよ。僕もこの映画、思い入れがあって好きだから。」

 すると三人は胸を撫で下ろした。

「なんだ、兄ちゃん『ギルテセブン』が嫌いなのかと思ったぜ……。」

 テレビ番組では冒頭で映画を引用して追悼を行った。

「そうだ!!お兄さん、仮面ヤイバーみたいにバシバシって動いたから『ギルテセブン』の役も出来るんじゃない?」

 歩美ちゃんがパアッと顔を明るくすると光彦くんと元太くんも頷いて同調した。

「やってみてくれますか!?お兄さん!!」

「兄ちゃんのアクションみてみてえから!!」

 ……子供は純粋だ。

「仕方がないなぁ……ちょっとだけだよ?……フランスでならしたスパイの俺は、罪を被せられ指名手配をされたが暗闇に紛れ地下に潜った。しかし、ただ真っ黒になる俺じゃない。いつか星になるために報酬次第で何でもやってのける白黒つけないグレーな男。無理を理屈にし、宇宙を統べる。俺はギルテセブン!!」

 決めポーズをして公衆電話で受け取って作業着の脇に忍ばせていたたSIG SAUER P230JPとグロック19を2丁持ちしてトリガーを引く真似をしてみせた。

「すごーい!!お兄さん、本物のギルテセブンみたい!!」

 楽しんでもらえたなら、なによりだ。

「……あ、そうだ!デイヴィスさんってあの人に似てますね!!……えーと……」

 仮面ヤイバーの中の人?知らないけど似てるんなら……

 

「『ギルテセブン』のスタントマンをやっていた人です!!」

 


 

「スタントマン?」

 

 ……嘘だろ、顔がまるっきり違うじゃないか。

「はい!テレビテレビ……そうです!!エルダー・ブルドンさんっていって『ギルテセブン』のスタントマンだった人なんですけど、続編では主演俳優のジェローム・デーヴスさんとのダブル主演になるかもしれないって監督がインタビューで答えていたのを朝の情報番組で観たことがあって覚えてるんです!!」

 ……本当にそんな話を覚えていたのか?

 ……入れ知恵ではないのかか?

 先程からずっと黙りこくっているコナンくんと哀ちゃんの顔を見た。

「ボクもそう思う!!……左目が薄茶色に白がかった黄土色、右目がヘーゼルのように薄茶色に緑がかった緑土色のオッドアイなんてそうそう見かけるもんじゃないからな。」

 ……オッドアイの時点で目星はつけていたと言いたいらしい。

「そうかしら。オッドアイなんて案外人工的に作れるものよ、江戸川君。」

 哀ちゃんが髪を指で弄りながら興味なさそうに呟いた。

 ……全ての情報を共有しているわけではない、と伝えたいのか?

「それよりも兄ちゃん!!その銃モデルガンか!?触らせてくれ!!」

 慌てて拳銃を懐にしまい、彼らに手を振った。

 

「ごめんね、僕は阿笠博士のラボに用事があるからさ。バイバイ。また明日。」

 

、、、

 

「すみません阿笠博士、ラボをお借りしても宜しいでしょうか?」

 

 暗い室内でモニターの光に反射して、阿笠博士の視線がわからない。

「構わんよ。何かわからないことがあれば哀君に聞いてくれ……デイヴィス君。」

 そう言って立ち上がるとリビングの方に歩いていった。

 

 ……これで材料と工具が揃った。

 胡座をかきながら段ボールを開封して、先ず組み立て部品を先に並べ始めるとする。

 中敷きの緩衝材も虚仮威し程度になら麻酔ガスとして使えるだろう。

 そして……

 ふと段ボールに落としていた目線を上げると髪を耳に掛けながら顔を近づけているシェリーと鼻が触れそうになって、背中側によろけた。

「なっ……何」

「ん……」

 口元を見ると歯で折りたたんだペーパーを咥えていた。

 それに手を伸ばすとパシンとはたき落とされる。

「え……え?」

「ん……」

 ……仕方がない。

 素早く歯でペーパーを咥えて紙を抜き取って見ると、以下の記載があった。

 

 『Blf'iv urmv qfhg gsv dzb blf ziv.』

 


 

「アトバシュ暗号よ。……あなたみたいにウェハーペーパーに精巧な模様を印刷……手書きするのは難しいのね。自分で試してみてようやくアナタがどれだけ神経を削ったか分かったわ。」

 

 ……やはり、突然肩を抱いて顔を近づけて唇が触れる寸前になる行動は褒められたものじゃないな。

「ずっと言えなかった……あの時は、アレしか監視カメラや人の目から死角になって安全に情報を伝達する方法が思いつかなくて……若い女性に取るべき行動ではなかった。」

 可食性のあるウェハーペーパーに監視カメラの台数と配置と捉える距離、人員配置とシフト、組織内での序列の変動……そして他愛もない自分が好きなゲームの話、好きな食べ物の話を織り交ぜて一方的に渡した。

 ……ただ、『可愛い』と呼ばれる彼女が『可哀想』という理由で責任を取れやしないのに、蜘蛛の糸を垂らす気まぐれな釈迦を気取って機材整備の際には必ずルーティンのように。

「私、アナタを『ヘマをしてトドメをさせないドジなチャランポランで、エンジニアに降格した』と聞いていたから、肩を抱かれて顔を近づけられたときは『最低』だと思ったわ。」

 ……そりゃそうだ、親しくない男性からセクハラされているのだから。

「けれど。アナタの策しかなかったと今なら分かるわ。顔を近づけるやりとりなら口でペーパーを渡しているとは見えないし、いざとなれば飲めばいい。それに身体チェックも口内までは調べないから。」

 ……わかっていてくれたのか……。

 

「だからお願い。アナタを信じる子供たちを裏切るようなことだけは絶対にしないで。」

 


 

「僕は星になりたい。」

 

 いつもの公園でギルテスターに火をつけた。

 ……六本目。

"……アナタと彼、どちらを生かしてほしい?……"

 無論、彼をと願った。

 ただ、願いは聞き入れられず、影武者として使い道がある『オッドアイ』で『戦闘訓練の手間が省ける』として僕が生かされてしまった。

 彼が『主演の座』を奪われることに彼処まで恐怖し怯え、あのような行動をとってしまったのは、ひとえに僕のせいだ。

 僕のようにしがない陰として存在をしていたスタントマンが主演俳優とダブル主演として抜擢されるなど前代未聞の事態であり、拒絶反応が起きるのも当然の話。

 監督に気に入られた僕を事故に見せかけて殺そうとするのも頷ける。

 だから、あの日クリス・ヴィンヤードに救われた命を、サルベージしてくれたクリス……ベルモットのため、組織のために使わなければならない。

 この皮膚、髪、血肉に『選ばれなかった』彼の皮膚、神経、筋肉、血液、組織が生きているのだから。

 そして完全なる記憶喪失になるため薬剤を服用し『記憶回復のトリガー』の解除キーとして自己暗示を行った『ギルテスター』の一服も、何処までが正確に解除行動になっているのか、ただのプラシーボなのか、それともスターであった彼を間近で見てきた僕自身によるの演技なのかも曖昧になっている。

 

「もう直ぐ、全てが終わる。」






 あとがき


あと2日

なかみについて(期間限定アンケ)

  • ややこしい(かため)
  • 分かり易い(やわらか)
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