探偵士、少年探偵団と出会う。   作:ummt

12 / 49
第十ニ話 探偵士、アウトサイダーになる。

 

「わぁ〜新しくなった『宇宙エキスポ星雲センター』、リゾートみたいにホテルと温水プール、自然公園も併設されてるんですね!!」

 

 光彦くんが目を輝かせながら新設された展示施設やビル群を見てパンフレットを握りしめた。

「歩美、プラネタリウムが見たい!! 新しい方を最後にしたほうがいいかな?」

 この『宇宙エキスポ星雲センター』は大まかに国の資本が入った宇宙航空管制研究開発機構の実運用部署が入った建屋と、それに隣接する形で市民向けの展示施設とプラネタリウム、科学技術の説明が行われる大衆へ建屋を開放している部分に分けられる。

「スゲー!! ロケットがあるぞ!!」

 外の広場には50m以上あるロケットの実機と国際宇宙ステーションの縮小された縮尺模型が展示されている。

「エーエックスアールはつ号機、通称エクサラもあるね。人を乗せる実験は灰色に塗れた過酷な道だっただろうに」

 そして新設された展示施設と既存の展示施設のドームが二つ並び立っている。

「先ずは荷物をホテルに運ばんと」

 阿笠博士がスーツケースをミニバスから取り出すのを手伝った。

「「僕が運びますよ」」

 声が重なり振り向くと安室さんが佇んでいた。

「安室さんは女性陣のエスコートをお願いします」

「ならデイヴィスさんが代わりにどうぞ」

 お互いに譲る気がなかったようなので、毛利さんと阿笠博士に女性陣と子供たちを任せてホテルのフロントに向かった。

「僕と相部屋で本当によかったんですか? デイヴィスさん」

 組分けからして成人男性組が毛利さん、阿笠博士、安室さん、自分ときたら部屋割りは以下になる。

 ① 毛利さん

 ② 阿笠博士、コナンくん

 ③ 光彦くん、元太くん

 ④ 安室さん、自分

 ⑤ 蘭さん、園子さん

 ⑥ 世良さん、梓さん

 ⑦ 哀ちゃん、歩美ちゃん

 七部屋しかないのだから必然的にこうならざる負えない。

「毛利さんに相部屋の人員を交換してもらいましょうか?」

 受付でチェックインを済ませるとホテルマンが荷物を指定の部屋に運び入れるのを後ろから二人で目視確認を行った。

「いえ、デイヴィスさんが僕と一緒の部屋だとやりづらいのかな? ……とね。余計なお世話でしたか」

 恐らくは当日までに何も異常が発見出来ていないことから、自分が当日に爆弾や危険物を持ち運んで設置、若しくは人や機材に対して損傷を負わせると踏んだのだろう。

「あはは……確かに誰かと同じ部屋に泊まるなんてもう何年もありませんでしたから……気恥ずかしいです」

 そう言って頭を掻くと安室さんは手を顎において口元を緩めた。

 

「そうですか。……ここ数年までの記憶が一部でも甦ったのならよかったですね」

 


 

「お兄さん! 見てみて本物の人工衛星だって!!」

 

 ……余計なことを口走ってしまった。

『自分に関する記憶が無い』としているのに思い出話をする馬鹿がいるか……いるな、ここに。

「昔は人工衛星は『二基』セットで作っていたんだよ。失敗した場合に備えてスペアとしてね。だからこうして資料としてスペアが確認できるんだ」

 ホテルから戻って『宇宙エキスポ星雲センター』の3階の天窓まで吹き抜けになったエントランスホールで待っていた少年探偵団のみんなと合流した。

「兄ちゃん、人工衛星って金かかかるんじゃねえのか? スペア作ったら金がもったいないなくねえ?」

 金はインフラには注ぎ込まなくてはならないんだよ。

「もし人工衛星の打ち上げに失敗したらその衛星の役割を果たすものがなくなってしまう。無線通信が無くなれば海外の放送が見られなくなったり、光中継が無くなれば高速通信がままならなくなり、測位を測って位置を把握できなくなったり、温室効果ガスの変化を計測出来なくなったりしてしまうんだよ」

 周囲を見回すが、プレオープンのていもあり他の市民も数人出入りしているようだ。

「デイヴィスさんって、もしかしたら宇宙飛行士だったんじゃないですか!?」

 光彦くんの子供らしい問いに思わず笑ってしまった。

「僕は宇宙飛行士になんてなれないよ。頭と要領が悪いからね」

 コナンくんと灰原さんを見つけて子供たちを預けようとすると両手を引っ張られた。

「お兄さんは馬鹿じゃないもん!」

「探偵団の見習いなんだからな!」

「そうですよ! 自分を卑下するのは辞めてください!」

 思わず涙腺が緩みそうになり、歯を食いしばった。

「……ごめんね、言い方に気をつけるよ。……そうだ、一つ思い出したんだけど、地上から宇宙ステーションに向けて通信をして、返事が返ってきたことがあったな」

 すると子供たちは目を輝かせて顔を見上げた。

「宇宙ステーション!? どういうお話したの!?」

 お話ではなく機械的なレスポンスがあっただけで。

「兄ちゃんはハッカーだったんじゃねえか!?」

 無線従事者なら出来ることだから。

「デイヴィスさん!! 今度少年探偵団の総意としてメッセージを送りましょう!! ね! コナンくん! 灰原さん!!」

 コナンくんと哀ちゃんはどこか沈んだような顔つきで子供たちを引き取った。

 

「そうだな……探偵士さんがいる時に、な」

 


 

「デイヴィスさん! その……プラネタリウムを観ませんか? も、もちろん世良さんと安室さんも一緒にですよ!!」

 

 プラネタリウムの前には梓さんと安室さん、世良さんが立っていた。

「探偵士くん! プラネタリウムには上映時刻があるんだから早くしてくれよ!」

 世良さんに腕を引っ張られ、仕方がなくプラネタリウムに入ると世良さん、自分、梓さん、安室さんという席順で着席することになった。

「プラネタリウムって暗くなるからドキドキしますね……」

 梓さんの囁き声が心臓に悪い。

「手元が暗くなるからってボクの脚を触ったりするなよ」

 世良さんの警告が社会的地位をぐらつかせて心臓に悪い。

「デイヴィスさんに何かされたら僕に言ってください」

 安室さんのダメ押しで心臓が締まる。

『春の星座はライオン座、ヘルクレス座が有名です。ヘルクレスはゼウスの息子としてライオンを捻り倒し、ヒドラというヘビを退治したのです。その倒されたヘビがヘビ座になり、ヘルクレスも星座となりました』

 ……同行し共に退治したイオラオスは省略か。

「探偵士くん、言いたいことはあるかい?」

 ……そうだな。

「ヒドラにも仲間がいて、カニが助っ人に入ったのですがヘルクレスに踏みつぶされて死んでしまいカニ座になりした。近くにあるリュウ座はヘルクレスがヘスペリデスの園にある金のリンゴを守るアトラスという巨人と娘たちと竜を騙して金のリンゴを奪った。リュウ座はその騙された竜なんですよ」

 ……手が当たったな。

「罪を働いた者、被害を被ったもの者が同じ星座という点と点、線に繋がれてしまうんですね」

 また当たった、余計な話をするなということか。

「ずっと一緒にいる運命だった、みたいなお話ですね」

 手が重なった? 

「永遠なんてありませんよ」

 手を引っ込めて真上に広がった夜空を眺めた。

「寂しいことを言うなよ。ズッ友くらいのフットワークの軽さをみせたらどうなんだい?」

 そんな学生のノリを言われても困る。

 

「そうですよ。デイヴィスさんは人と人との繋がりというものの強さを理解したほうがいい」

 


 

「探偵士さん! ……どこに行くの?」

 

 プラネタリウムで解散するとコナンくんと哀ちゃんに捕まってしまった。

「お手洗いに。蘭さんと園子さんがいるあたりで科学実験ショーをやってるから観てきなよ」

 そう言って廊下に進もうとするとコナンくんが前に出て制止した。

「……そっちは一般人立ち入り禁止のエリアだよ」

 ……こうなれば仕方がないか。

 毛利さんを呼びつけて拘束してもら……いや、まて。

 彼が工藤 新一だということを毛利さんも知っているんじゃないのか? 

 しかし、以前の事件で眠らされていた事からすれば情報共有はなく、あれば腹話術のようにすれば名誉が傷くことはないのだから。

「……江戸川君。……彼を信じて」

 予想外にシェリーからの助け舟が出た。

 ……本気で組織に籍を置いている人間を信用しているのか? 

 何処までも『可愛い』を意味するコードネームで呼ばれるに相応しい女性だな。

「灰原、コイツは作業着の両脇に拳銃を忍ばせてるんだ、いくら理由をつけたって……」

 脇にホルスターがなくとも生地の厚い作業着の内側に銃を格納が可能にしている。

 縫製の段階からフィットするように仕立て上げているためストンと落ちるように見え、ゴムとホックで吊り上げてるため拳銃の形は体のラインに馴染み消音と重量感による布地のたるみがなく、音と外観からでは看破出来ない筈。

「一昨日モデルガンを見せたからかな? ……いいから退きなさい」

 しゃがんで目線を合わせると、眼鏡のレンズが反射して視線が分からなくなる。

「……人殺しだけはするんじゃねぇ」

 僕だって人殺しなんかしたくないよ。

「……じゃあね、コナンくん、灰原さん。子供たちを宜しくね」

 バイバイと手を振っても二人は口を固く閉ざしたまま、こちらをまっすぐ見据えていた。

 

「そろそろ、時間だな」

 


 

「星雲センター 開発運用局 棗アンゼリカ……フロア7」

 

 自分に送られてきた送り状の主が今回のターゲットであり『裏切り者』である。

 本来、星雲センターの人工衛星打ち上げの成功率が高かったのにも関わらず、ここ数回失敗が連続している。

 その原因が機器のトラブルや材質の意図しない変形であるとされているが、組織の人間が『宇宙を制する』為に敢えて外部に『技術力が脆弱』と見せている。

『宇宙を制する』事が出来れば交通インフラから通信に航空管制まで掌握出来る事になり、事実上国盗りを成功させたといっても過言ではない。

 そこに潜り込んだ構成員が裏切り者とされ、その構成員が改竄した証拠となる内部データの確実な破壊と裏切り者の始末が主たる任務で、毛利探偵事務所や警視庁への工作物設置は副次的なものだ。

 だが、ジンが絡んだ以上『自分も殺害する』策に変わっているはずだ。

「〜♪」

 監視カメラの死角からジョイント部を撃ち抜いて下を向かせながらサーバールームの前まで行くと警備員に呼び止められた。

「ちょっとあなた、関係者以外立ち入り禁止」

「なら今から関係者ね」

 背後を取り、口にハンカチを入れて手ぬぐいで猿轡させ、ナイロン線で手足を縛り、男子トイレの個室に入れた。

 そして警備員のIDで侵入できるエリアまで入ると監視カメラを撃ち抜いた。

「今どき指紋認証とかやめてほしいね」

 通路には指紋認証システムがあったので、仕方がなく工具でカバーを外してからネットワークケーブルに直接工作物を噛ませ『登録モード』にしてから鍵を空け、再び通常モードに戻して室内に入った。

 データ分配のための架と情報処理のためのスパコンとデータ蓄積があるストレージにルーター類を備えたサーバールームに入ると、静電気を無くすため腕から伸ばしたクリップを地に付け、白い手袋をはめて作業を始めた。

「このスロット……だな」

 空いているスロットに事前に用意していた工作物をカチッと差し込んでランプが点灯したのを確認して外に出た。

「あとは、爆弾と棗アンゼリカ探すだけか。仕掛けるならこの近くのはず……」

 簡易的な二酸化窒素、二酸化硫黄の探査機を見ながら歩くと女子トイレを指し示している。

「仕方がない……」

 女子トイレの扉が閉まっている個室の足元をみるが、人の気配がない。

 面倒だったので、腕に隠した糸鋸で鍵を切断して中に入るとご丁寧に箱爆弾が設置されてあった。

 当日に用意できる爆弾ならば仕組みは単純だ。

 本来ならば液体窒素で凍らせてしまって空き地で爆破させるのが一番確実な手で、または高圧防水で火薬をダメにするか方法があるが、逆に『温度が急激に変化した』事をトリガーにして起爆するものであった場合取り返しがつかなくなる。

 X線放射器も無いからな……。

 

「指定された時間まではまだまだ余裕はある。油断せずに行こうか」

 


 

「……信管のフルコースかよ」

 

 結論から言う、この爆弾はジンが設置したものではない。

 ちまちま用意する事が出来た人間。

 つまり、棗アンゼリカだろう。

 自分が殺害されることを恐れて配置した、では説明がつかない。

 ジンとグルで濡れ衣を着せた自分を爆殺し、その後ジンが裏切り者として棗アンゼリカを殺害するシナリオか。

「……クソ、線香式みたいな古いやり方しやかって……」

 蓋を開ける前から煙が漂い始めたが、明らかに催涙と麻薬成分が練り込まれている。

 ただ、火薬は黒色火薬等の単純なもの。

 この線香を消火してもトリガーになるのは煙の濃度や熱感知式の着火装置だ。

「次は……熱線法で全部調べられるか……」

 振動感知式であったならトイレの蓋という場所に置くはずがないので慎重に金具を外すが、複数のワイヤーとセルロイド、バネが見える。

「セルロイドが溶けてバネが動いたらダメってことか。……そうなると熱源が足りない」

 箱にテグスが無いが確認しながら外すとコンドームの中にみっちり生石灰が詰められており、管と一緒に縛られていた。

「あー……これで……」

 先を見るとアナログ時計が時を刻んでいた。

 この場合、金属の短針長針が接触するのではなく短針が規定の位置に乗ったら起爆するのだろう。

 文字盤を見るときっかり予定時刻の部分に短針が触れそうな鉄の錨が埋め込まれている。

「ブラフだな、通電を止めればいいだけだ」

 最後の部分を見ると緑色の基板が見えた。

 ……PICマイコンだろう、これにアセンブリ言語で命令を……。

 噛ませる時に発火するかもしれない。

 フィクションのように遅延回路が起爆前に働いていれば……。

 信管と発火のための回路はブラックボックスにするのが当たり前のアンチハンドリングデバイスで、遅延はスイッチが入り起爆までの猶予時間を指す。

「クロック発振器か……!」

 この回路に面する銅線は5cmと短い。

 遠隔でクロック周波数を上げれば乱れて発火する。

「磁気濃縮型爆薬発電機まで……本当に電磁パルス攻撃でデータまで完全に吹っ飛ばすつもりらしい」

 なら、電磁誘導式起爆装置も……あったな。

 基本的に火薬は発火するから爆発する。

 それをさせないなら発火に繋がる通電、着火装置を除外していけよく、ワイヤーにある非通電を感知して発火するリレー回路も手順を踏めば迂回させずに済む。

 

「全体構成が分かれば問題ない。……僕にならやれる」

 


 

「どわー……終わった……」

 

 完全に発火装置を切断していき、火薬や爆薬類に洗面台から水をかけてダメにした。

 鼻と思考回路が麻薬成分の煙を吸ったせいでだめになってしまったが。

「キャア!? ここ、女子トイレですよ!? 警備員さん!!」

 声の方向を見ると、金髪に左目がヘーゼルのように薄茶色に緑がかった緑土色、右目が薄茶色に白がかった黄土色のオッドアイのパンツスーツ姿に四芒星型のペンダントトップのチョーカーを身に着けた女性が立っていた。

 ……僕と逆のオッドアイ。

 仕組んだな、ジン。

「貴方が棗アンゼリカですね? ……命は貰い受ける」

 自分と似た特徴を持つ女性を殺害させようとしたのか。

 そして民間人を殺害して作戦を掻き回した裏切り者としたい。

 ならば……組織の構成員は何処だ? 

 一度威嚇射撃をして逃がして

「お前、よく俺の目の前にのこのこと姿を現せたな……エルダー!」

 なぜ、その名を……。

「まさか……ジェロームか? ……生きていたのか?」

 ベルモットは確かに『どちらを生かして欲しい?』かと尋ねたはず……。

 そうか、どちらが死ぬとは言っていない。

「最悪の日々だったぜ……火傷の皮膚移植で元の顔ではなくなって……眼球を損傷したせいで色素が抜けてお前と同じオッドアイになっちまうしよ……」

 色素抜けだけではオッドアイにはならない……人工的に色素を入れられた? 

 何のために……? 

「そうだったのか……生きていてくれてよかっ」

「お前のそういうところが気に食わないんだよ!!」

 劈くような叫び声が女子トイレのタイルに反響した。

「スタントマンのくせして俺から主役の座を奪い……今度は組織に入ってまでも俺が『公衆電話長居男』だの『脱出ゲームの企画者』の裏方に回され、お前は女共と乳繰り合ってやがる……」

「その言い方はやめろ!! 彼女達に失礼だろ!!」

 反射的に大声で怒鳴るとジェロームはニヤリと笑って四芒星型のペンダントトップを押すと先ほどまでの会話が再生され、声が聞き馴染みのある低い声に戻った。

 

「お前が裏切り者の証拠だ。お前は爆弾処理を放棄した挙げ句、俺を逆恨みして任務中に争いになって死ぬんだよ!!」

 


 

「俺がラムの腹心になるんだよ!! キュラソーでもお前でもない……女王の名を冠したシャルトルーズ様がなぁ!!」

 

 そういうことか……。

 同じ場で死亡したとして回収し、一方には相手に対する復讐心を、一方には相手を死亡させた罪悪感を植え付けて組織の構成員として育て上げ、『片眼が義眼』であるラムの影武者候補を作り上げたのか。

 殴りかかるシャルトルーズの右脇を遠心力を使って思い切り殴りつけると重心が崩れて後退りした。

「僕を殺したいならタイマンでやれ!!」

 そのまま左足の爪先を思い切り踏んで右ストレートで殴ろうとすると左腕でガードされた。

「今でもタイマンだろうが!! 整形しても俺のような美形にならなかったな!!」

 シャルトルーズが右ストレートを返そうとするので背面に倒れる形になり、右手をついて足払いをした。

「一騎打ちっていうのは他者を巻き込まないことを言うんだよ!!」

 お互いに体勢が崩れたが、シャルトルーズのピンヒールが左脚の太ももを貫いた。

「ギッ……」

 踏まれたままの体勢で彼の左脚を掴んで思い切り殴打すると鈍い音がして脚が離れた。

「痛ってえ……クソが……」

 肉弾戦を仕掛けているということは飛び道具を持っていないのか? 

「シャルトルーズ、お互いに誤解がある。組織の構成員として」

「誤解だあ? ……少なくともこの『殺害ミッション』を出したのはジンだぜ? ……お前が裏切り者なのは確定してんだよ!!」

 ……確かに現在は副次的な目的になっている『諜報作戦』の指揮はベルモットだったが、主目的の『裏切り者の殺害』はジンが出した指令だ。

「……お前と僕、どちらが生き残っても『裏切り者』としてジンに始末される筋書きだったんだ。分からないか?」

 そう問いかけるとシャルトルーズは顔を真っ赤にして激昂し始めた。

「ジンは俺を助けてくれた恩人なんだよ!! ジンが俺を捨てるはずがないだろうが!!」

 ネックスプリングで飛び起きた瞬間に至近距離でM&Pが向けられ、癖で手首の重心を直前まで下げることを知っていたため耳の上を掠って銃弾は壁にめり込んだ。

「……背中に隠し持っていたのか……二丁あるな?」

 再び背中に手を回したのを確認し、懐に忍ばせていたSIG SAUER P230JPとグロック19で両肩の腱ではない部位を撃ち抜いた。

「クソが……ぶっ殺してやる」

 そのタイミングで館内放送と非常ベルがけたたましく鳴り響いた。

 

『火事です、係員の指示に従って落ち着いて行動してください』

 


 

「あばよ! 負け犬!!」

 

 シャルトルーズは出血し上手く上がらない腕で爆弾を手持つと全速力で廊下を走り出した。

「待てシャルトルーズ!!」

 太ももの出血と麻薬成分による泥酔状態によって距離を離されると正確な射撃が……そもそも火薬が全て水に濡れていない場合、火花をトリガーにして爆発する可能性がある。

「待たないなら……撃つ」

 拳銃を構えようとするとシャルトルーズの向かう方向から避難してくる職員たちが一斉に雪崩のように走ってきた。

 これを見越してサーバールームがある階の女子トイレに設置したのか。

 兎に角見失うわけにはいかない。

「待て……」

 エントランスホールまで走るとシャルトルーズはステージに立っていた。

「避難中の同僚の皆様!! 棗アンゼリカの直々の講義を受けてください!!」

 女性の声で叫ぶと何人かが振り返って立ち止まった。

 それが群衆雪崩のようになり転倒や悲鳴が上がり始める。

「毛利さん!! 安室さん!! 棗アンゼリカの持っているものは爆発物です!!」

 そう叫ぶと悲鳴がさらに大きくなって行動が止まった。

 群衆雪崩は動きを止めないと被害が悪化する。

「そうなんですか〜!? ならあげま〜す!!」

 シャルトルーズが思い切り爆弾を真上に投げ、それに向かって発砲するための予備動作をした瞬間にサッカーボールが何処からともなく現れて、爆弾を3階のガラス窓から蹴り出して空中で爆発させた。

 サッカーボールが現れた方向を見るとコナンくんが大声で叫んだ。

「探偵士さん!! 犯人が逃げるよ!!」

 シャルトルーズはエントランスホールの反対側の廊下に走り去っていくのが見えた。

「少年探偵団のみんな!! 市民や職員の方々を安全な所に避難させてください!! 合図があるまで中には入らないで!!」

 そう叫んで人波をかき分けて進むと世良さんと梓さんの声が聞こえた。

「デイヴィスさんはどうするんですか!?」

「ボク達に出来ることを教えてくれ!!」

 決まってるじゃないか。

 

「僕はスターになりたかったんです。皆さんは何も心配することはありません。……さようなら」

 


 

「シャルトルーズ……火災報知器の誤通報だな? ……スプリンクラーが回っていない」

 

 ガラス張りの廊下を背にして両肩から血を垂らすシャルトルーズに投げかけた。

「ああ、そうさ。火災で人が居ぬ間に火事場泥棒ってやつだ。データの抜き取りだけじゃねぇ、紙媒体でしか残せない機密情報や物理的な物品の抜き取りだ」

 ただ、お前はもう両腕が使えない。

「そんな身体でいったいどうするつもりなんだ」

 すると彼はニヤリと笑って背中に腕を回した。

「バァカ!! 相手が拳銃持ちだってのに防弾チョッキにカバーをしてないわけないだろうが!! 血糊と出血すらわからなくなったか!? スタントマン!!」

 反応が遅れて両手の拳銃を弾き飛ばされてしまった。

「シャルトルーズ、もし裏切り者を消すのに成功してもお前も同じ末路を辿るぞ」

「うるせえって言ってんだよ!!」

 シャルトルーズが両手を上げると後方の窓ガラスから狙撃され、拳銃が弾き飛ばされてた。

「お前もな」

 遮蔽物が無いとは言え、隣立つ建物からは相当な距離がある……スナイパーだとして、組織であれば二人とも射殺して終いのはず。

 一体誰が……。

 咄嗟に拳銃を拾おうとするとシャルトルーズのほうが早くグリップを握り、銃口が向けられた瞬間に再び至近距離から銃弾が撃ち込まれて弾き飛ばされた。

「見苦しいですね。僕が立会人になりますから、ガンファイトで決着をつけたらどうですか?」

 硝煙の立ち込める暗闇から安室さん……バーボンが現れて不敵な笑みを零した。

「バーボン……お前まで裏切り者だったのか?」

 バーボンはフッと鼻で笑った。

「まさか。組織の人間として有能な方に生き残って欲しいだけです」

 シャルトルーズは一瞬顔を顰めたが、蹌踉めきながら立ち上がって宣言をした。

「……決闘だ。生き残るのは一人だけだ」

 安室さんが中間に立ち、「3、2、1、GOでトリガーを引く」とだけ伝えて導線上から引いた。

「では……3、2、1、GO」

 シャルトルーズが背中から銃を抜き取る瞬間に両脇の隙間を狙って2発撃ち、バーボンに向かって伸びた左腕を2発撃って拳銃を飛ばした。

 その勢いで彼は背中から倒れてガラス窓に身を委ねると、先ほどのスナイパーとは別の角度から銃弾が3発撃ち込まれてガラス諸共砕け散って地下駐車場の方へ落下していった。

 

「タイマンは人を巻き込まないって言ったろ……」

 


 

「安室さん!! 探偵士さん!! 大変だ!! 本当に火事になってる!!」

 

 コナンくんと世良さんが走り寄ってきた。

「市民の人たちと施設職員の大半は逃げられたと思うんだけど……」

 ……不味い。

「警備員さんが一人だけ残ってるから連れてくる」

 そう言ってサーバールームの方に走ろうとすると手首を掴まれた。

「……必ず帰ってくるよね」

 ……それは

「ハーデースは言いました。『決して振り返るな』と。……僕は優柔不断なので振り返っちゃうかもしれません。……世良さんは違いますよね」

 彼女の手をゆっくりと剥がした。

「時間がない! デイヴィスさん! サーバールームに急ぎましょう!」

 駆け出す安室さんを追ってサーバールームを目指した。

 

「コナンくん!! 阿笠博士に返すお金はスーツケースに入ってるから!!」

 

 、、、

 

「ふ、ふが……この犯罪者が!!」

 

 警備員に噛ませた猿轡を解いてワイヤーを切った。

「すみません、罰は後で受けますから。……他に施設内に残っていそうな人に心当たりはありますか?」

 尋ねると警備員は唸りながら答えた。

「確か7階にこの時間帯トイレに籠る便秘気味な女性が居て……トイレで飯を食べているのかもしれないが、もしかしたらまだ居るかもしれない」

 不味い、7階で放送をイヤホン等で聞き逃したなら逃げ遅れるぞ。

「安室さん! 警備員さんを頼みます。……僕は逃げ遅れた人が居ないか確認してきます」

 安室さんは真剣な顔をして頷いた。

 

「……わかりました。ただし、必ず帰って来てください。……シフトに穴が空いたら困りますから」

 

 、、、

 

「誰か!! 誰か居ませんか!?」

 

 明けっ放しの室内、男子トイレ、女子トイレを回って7階の奥にある女子トイレの個室を見ると一つだけ閉まっており、蹴破ると催涙スプレーが噴射され身を捩った。

「……7階、フロア7……棗アンゼリカの策にまんまとハメられたわけか」

 人が居ないことを確認し、階段を降りながら叫び続けた。

 

「誰か……誰か居ませんか……」

 


 

「はぁ……人が居なくて良かった……」

 

 エントランスホールに続く廊下までたどり着くと辺り一面が日の海と化していた。

 シャルトルーズの言う通り、ジンだけではなく組織から始末される対象だったとしたら、今逃げてもいずれ暗殺されるだろう。

 それならば、サーバールームに不法侵入した犯人というホシになって被疑者死亡のまま書類送検されたほうが良い。

『この任務が終われば一生地下で暮らすことになる』

 これは言い換えれば『地上には出られない』『人間性と生活の死』を意味している。

 七日間の短い間だったけれど……楽しかったな。

「お兄さん!! 怪我してる!!」

 驚いて振り向くとエントランスホールから少年探偵団のみんなが口を押さえて現れた。

「何で戻って来た!!」

 怒鳴りつけると元太くんが泣きそうな声で叫んだ。

「オレたちは少年探偵団だぞ!! 見習いの兄ちゃんを放っておけるわけないだろ!!」

 どうして……なぜ……

「デイヴィスさん!! 一緒に逃げましょう!!」

 ……子供は純粋すぎるから……。

「ごめんなさい。子供たちを引き留められなかったの」

 シェリー……君は……。

「探偵士さん!! まだ来た道があるから逃げられるよ!!」

 仕方がない。

「……フッフッフ……ハーッハッハ!! 少年探偵団の諸君、悪の組織の罠にまんまとハマったようだね」

 高笑いをして天井のスプリンクラーがある水道管を狙って弾丸を撃ち込むが、水が出ない。

「キャアア!? 怖いよお兄さん!!」

 つまり水の供給を物理的な締めて鎮火させないように準備をしていたらしい。

「僕は少年探偵団に潜入していた悪の組織のスパイ。ナンバー7のイザラ。緑色と黄色の二つの色を持ち、バスク語で『星』を意味するコードネームを持っている。僕の演技に騙されるなんて半人前だね」

 そういっているうちにエントランスホールの出入り口が崩落し始めた。

 こうなれば非常階段に向かうしかない。

「そんな! 僕たちを騙してたんですか!?」

 ……そうだよ。

「今から君たちを追いかける。君たちは身を屈め煙を吸わないように声を出さずして僕から逃げられたら、助けてあげよう……。走れ!!」

 非常階段の方に走っていくと幅2mにもなる日の手がバリケードのように燃え上がっていた。

「少年探偵団、僕を倒してみろ!」

 そう言って火柱の前に仁王立ちした。

 

「今はそんなことをしている場合では……」 

 


 

「分かったわ」

 

 哀ちゃんな腹を押したので背中から倒れた。

「つよいな少年探偵団。僕を乗り越えていけ」

 人は火を見ると駆け抜けられなくなり、足に火傷を負うと歩行が困難になるため、なるべく負傷させたくない。

「でも兄ちゃんが」

「良いから行くぞ」

 コナンくんに背中を押されて五人は肉の橋を渡った。

 それを確認して後転して再び彼らを追った。

 流石に酸素が薄くなるのが早いな。

「ありました!! 非常出口です!!」

 光彦くんがドアノブを触ると手を引っ込めた。

「熱いっ!!」

 ドアノブを触ると熱で触っていられないが、無理やりノブを回すが動かない。

「伏せろ!!」

 銃で取り付け部を破損させても鉄の扉はびくともしない。

 つまり気圧差で扉が閉まっているのだ。

「コナンくん、さっきの伸縮するサッカーボールを来た道を塞ぐように出せるかい? 

 コナンくんは頷いてサッカーボールを出すと廊下を密閉させた。

「良くやった!! 全員僕の前で頭を垂れろ!!」

 子供達に土下座のポーズを取らせると扉の金具を撃ち、思い切り蹴破るとサッカーボールが破裂してバックドラフトが火を吹いた。

 そして子供達に覆いかぶさるようにして火の手からの熱を肩代わりした。

「びっくりした! 火がドラゴンみたいに吹くから。……お兄さん?」

 

「……君たちは……生きるんだよ」






 あとがき

  

【挿絵表示】
シャルトルーズ 黄色と緑のリキュール
棗アンゼリカ 本名ジェローム・デーヴス

【挿絵表示】
イザラ 黄色と緑のリキュール
デイヴィス 本名エルダー・ブルドン

コナンくんの誕生日ですね

なかみについて(期間限定アンケ)

  • ややこしい(かため)
  • 分かり易い(やわらか)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。