探偵士、少年探偵団と出会う。   作:ummt

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第十六話 探偵士、芽生える。

 

「沖矢さん、ペットを飼ってもいいですかね?」

 

 工藤邸の玄関先でヤマカガシの近松を入れたケージを突き出して見せた。

「君は俺の許諾を得る前から敷地内に持ち込んでいるだろう。例え『ルームシェアしているが、互いに相容れない物がある場合は話し合いをする』としても『殺処分される』として泣き落としをしたのでは?」

 図星を突かれて頭を掻いた。

「はは……はい。このヤマカガシは人からの預かりペットで……あ!ちゃんと頸部皮下にある毒腺からの強心配糖体の分泌が無いことを鑑定課の成分分析で行いましたから安心して下さい!」

 沖矢さんは玄関先で立ち尽くしたまま、近松に目を落としている。

「要するにデュベルノア腺毒はある儘なのだろう?またヒキガエルを与え始めれば二つの毒が復活してしまう。」

 重たい空気が立ち込め、雲行きが怪しくなってきた。

「そ、それはそういう生き物なので……もし仮に毒になる餌を与えればそうなりますが……。」

 ぎこち無い会話の後、暫く沈黙があった。

 

「イザラ、君もルームメイト以上に干渉し合う間柄には成りたくないだろう。」

 

、、、

 

「……良かったなぁ近松、OK貰えて……。」

 

 近松のケージをキャビネットの上に置き、その脇にあるタンスに元太くんから貰った『仮面ヤイバー』の可動フィギュアを置いた。

 これで可動フィギュアが大きく動いていれば侵入者が歩き回ったと分かる。

 そして借り受けた脚立に乗って歩美ちゃんから貰った星型のモビールを天井に括りつけ、光彦くんから貰った星型の蓄光シールをカーテンに面した壁に等間隔で貼り付けた。

 これならカーテンをどの時間間隔で開け続けたか、いつ頃開けられたが大まかにではあるが分かるからな。

 ヤマカガシが食する餌も共用の冷蔵庫に入れるわけにはいかないので、小型冷蔵庫を中古で買っておきタンスの隣に設置した。

「幼蛇のころから育てられていたんだな……。」

 沖矢さんが言うように二つの毒、血液凝固系と眼球機能影響系を使えば人に対して致命傷を与えることができる。

 その毒物を組織に籍を置く人間が持てば、もし警察組織を裏切った場合に大惨事になりかねない。

 飼育に対する懸念を示し、釘を差すのは賢明な判断だ。

「近松……部屋に知らない人が入ってきたら威嚇してくれよ。」

 蛇は高度な知能を持つものの、人の言葉を正確に理解しているわけでも人に懐くわけでもない。

 ただ、神経質な生物であるから侵入者がいた場合には必ず仕草に現れる。

 

「番犬ならぬ番蛇だな。」

 


 

「はぁ……沖矢さんのチキンソテー美味しかったな……。」

 

 広いバスタブの湯船に浸かり、天井を見上げた。

 沖矢さんは退院祝いと就職祝いを兼ねて豪勢な夜食を用意してくれていた。

「明日の退院祝い……どこでやるんだろう……。」

 喫茶アポロは臨時休業になるから、そこでするとなると貸切と表示しないと不味い。

 毛利探偵事務所であれば、未だ接点が少ない毛利さんと接触が増えるからその方が都合がいい。

 全く別の会場なら……それはそれで……安室さんの普段と違う仕草を観察できるからな……。

 

「ありがたい話だ……。」

 

、、、

 

「はーい!デイヴィスさん!!目隠しを解いていいわよ!!」

 

 何故か目隠しをさせられて安室さんの車で梓さん、蘭さんに園子さんと共に送ってもらったが、音の反響からマンションというよりはアパートの一室の目の前か?

 鍵を指す音と共にガチャリと解錠され、扉が開いた瞬間に目隠しを解いた。

「え……え?」

 瞼を開いて目に映ったのはピンク色のカーテンにピンク色の敷布団カバーが目につく部屋だった。

「にゃ〜」

 目線を下にやると三毛猫が尻尾を揺らして鳴いていた。

「じゃーん!!どうよ!梓さんの部屋は!?」

 あ……

「梓さんの部屋!?」

 固まっていると背中をグイッと押された。

「後ろが詰まってますから、早く靴を脱いで上がってください!」

 状況を飲み込めないまま玄関先で靴を揃えて室内に入ると、梓さんがキッチンから調理器具を持ってニコッと笑った。

「皆さん手を洗って下さいね!それが終わればたこ焼きパーティーです!!」

 たこ焼きパーティー……た、退院祝いでは……

 ガックリと肩を落として手を洗った。

「あれ?デイヴィスさん、もしかして世良さんが居ないからガッカリしてます?」

 蘭さんに肘をつつかれて苦笑いした。

 本当に年頃の娘は何でも恋愛に結びつけようとするから……。

「違いますよ。まさか梓さんの部屋だとは……」

 安室さんの方を見ると梓さんに連れ添ってキャベツを刻んでいる。

 自分一人だけが目隠しされたということは、安室さんは何度か訪問していて『自分に住所を知られたくない』ための措置とみるのが妥当だ。

 

「なによ、梓さんの部屋だと不都合な事でもあるの?このこの〜本当はスケコマシなくせに!私たちには全部お見通しなんだから!!」

 


 

「というわけで、退院タコパを始めましょ〜!!カンパーイ!!」

 

 園子さんが音頭を取って、ジンジャエールで乾杯をした。

「安室さんも来てくださるとは思っていませんでした。……やっぱり梓さんが心配だったんですか?」

 蘭さんが生温かい目線を二人に送った。

「はい。」

 安室さんが即答すると園子さんと蘭さんの冷たい目線が此方に向けられる

「もう!安室さんってば誤解を生むような事言わないで下さいよ!!」

 照れくさそうにグラスを持って梓さんは目を伏せた。

 ……帰りたい。

「心配もそうですが、純粋に同僚である彼の快方を祝いたくてね。」

 たこ焼きをピックでひっくり返しながら当たり障りのない回答を付け加えた。

 組織の人間は民間人を害することに何の躊躇いもない。

 であるから、目の届かぬ所で民間人である従業員と自分を従業員の住居で密室にはさせたくない。

 ……それ以前に恋仲である者を危険に晒せないからか。

「それでデイヴィスさん?世良さんとはその後どうなったのよ!聞かせなさい!!」

 園子さんに肩に腕を置かれたが、その後もその前も何も無いが。

 ため息をついて適当な回答を考えていると、唐突に安室さんのスマホが鳴った。

「失礼、急用が入ってしまいました。今日はこの辺で失礼します。お菓子類はご自由に食べて下さいね。」

 安室さんはニコリと微笑むとスタスタと玄関の戸を開けて出ていってしまった。

 最悪だ……女性陣三人と取り残されてしまった……。

「あーあ、イケメンが帰っちゃった。ま、しょーがない!たこ焼き食べちゃおう!」

 今度は園子さんがたこ焼き奉行になってピックを回し始める。

「世良さん、デイヴィスさんのことずっと気にかけていたんですよ?」

 そう言われても、何と答えていいやら。

 取り分けられた皿からたこ焼きをつついた。

 梓さんの方を見ると無心でたこ焼きを食べている。

「そうでしたか……皆さんには心配をおかけして……」

 言葉を探していると、誰かの着信音が鳴った。

「あ!ヤダ蘭!パティスリーに予約した時間よ!」

 園子さんがスマホの画面を見せると、蘭さんもすくっと立ち上がってこちらを向いた。

 

「パティスリーにケーキを予約していたので、園子と二人で取りに行ってきますね。」

 


 

「にゃーん……」

 

 意図せず梓さんと二人きりになってしまい、気不味い空気か流れた。

「デイヴィスさんって、猫語を話すタイプなんですね。」

 ……ね、猫語……。

 すると反応したのか三毛猫が胡座をかく脚に擦り寄って背中を掻き始めた。

「にゃぁ〜」

 顎を撫でるとゴロゴロと喉を鳴らしている。

「この猫が大尉ですか……。」

 何故、大佐や大将でなく大尉なのか名付けについて考えを巡らせた。

 喫茶ポアロに住み着いて居た猫、エルキュール・ポアロに近い人間……レイス大佐、ミス・レモン、ジャップ主任警部……あ、相棒のアーサー・ヘイスティング大尉から取ったのか?

 ならアーサーでいい気もするが……。

 ネーミングについてあれこれ言うのはよそう。

「はい!ふわふわで可愛いでしょう?ね、大尉?」

 梓さんが手を伸ばすと、大尉はピョンと跳ねて尾を揺らしながら部屋をマイペースに徘徊し始めた。

 猫は自由気ままだから、と言った感じだな。

 ……大尉が間に入らなくなった事で、何を話していいかが分からない。

 売上の話、新メニューの評判、勤務態度に不適切な部分はないか……これらは業務上の話で不適切だ。

 天気の話は屋内なので不適切……いや、いける。

「そういえば猫が顔を洗うと雨が降るって話、湿度による細かな水滴を拭う仕草という意味では本当だと言えるじゃないですか……。」

 ……何を言ってるんだ……。

「へぇ……デイヴィスさんは物知り博士ですね。」

 めちゃくちゃディスられている……あの天使のような梓さんに……。

 なんとか話題を変えないと……。

「あ、そうだ僕はアニマルビデオが好きで……。オススメのビデオはニャンニャン動画のペ……」

 梓さんの顔がみるみるうちに真っ赤になっていく。

 ……馬鹿なのか、動物の動画でオススメの動画サイトって言えよ……。

 アダルトビデオサイトの隠語みたいな言い方をしてどうする……。

「あっ……えっと……デイヴィスさんはその……男性ですし……」

 完全に女性に対して卑猥なことを話す変質者になってしまった。

 しかもその女性の部屋で……駄目だ、ツーアウト確定だ。

 目を逸らすと、壁に立てかけてあった姿見に映った自分と目があった。

"君は私に忠実に、そして自らにも忠実になりなさい。"

 はい。RAM。

 

「梓。」

 


 

「へ?……デイヴィスさん?」

 

 顎に手の甲を置いて顔を覗き込んだ。

 震えているのが振動として手から伝わってくる。

「恐れないで。」

 瞼が下がり、呼吸が浅くなるのを掛かる吐息から肌で直に感じられる。

 自分の

「シャアアアア!!」

 耳障りな金切り声で我に返ると、大尉が此方を見て威嚇していた。

「わ!大尉どうしたの?」

 梓さんが声をかけると、大尉は何事も無かったかのように二人の間に八の字を書くようにして歩き始めた。

「あー……ですね……はい。」

 鏡から目を逸らして宙に向けて呟いた。

「あ、あはは……何だか変な空気になっちゃいましたね。」

 梓さんが大尉を抱き上げたタイミングでピンポンとチャイムが鳴った。

 立ち上がって玄関まで向かい、ドアスコープを覗き込むと世良さんの大きな瞳と目が合った。

 

「退院祝いなのに遅刻しちゃって悪いね探偵士くん!!」

 

、、、

 

「助かりました……世良さん……」

 

 世良さんに間に入ってもらい、たこ焼き奉行として役目を任せた。

「いいって!たこ焼きのタイミングと取り分けは任せてくれ!」

 チラリと梓さんの方を向くと俯いたままだ。

 すると再びチャイムが鳴って、出ると蘭さんと園子さんが両手に紙箱を両手に抱えて立っていた。

「はいはーい!!私のチョイスした絶品スイーツを召し上がりなさいな!!」

 たこ焼きもたべ終わらぬうちに紙箱が開封され、きらびやかなタルトやショートケーキ、シュークリームといったスイーツが顔を見せた。

「ここのショートケーキ、すっごく美味しいから梓さんに食べてほしくって園子と一緒に奮発しちゃいました。」

 た、退院祝い……

「何だか悪いです……代金をお支払いしますよ!」

 梓さんが困惑した顔で大尉の手を持ち上げ、挙手のポーズをさせた。

「いいのいいの!代金は主賓である探偵士くんが支払うから!!」

 腕まくりをした世良さんがピックを持ちながらグーサインをして笑った。

 主賓は幹事でもあったのか……。

「デイヴィスさんはどのケーキにしますか?」

 蘭さんが箱を指さすが、どれもこれも生クリームにまみれている。

「あはは……実は僕、生クリームが苦手でして……。皆さんで食べてください。」

 苦笑いして頭を掻くと女性陣から驚愕の声が上がった。

 

「ええ!?それでよくパフェ作りができるわね!?向いてないんじゃないの!?」

 


 

「デイヴィスさん、苦手ならそう言ってくれれば良かったのに……生クリームを使うメニューの時は交代しましょうか?」

 

 はぁ……こうなるのが嫌で黙っていたんだ。

 仕事に個人の好みを持ち込んではならない。

 しかし失敗したな、善意の差し入れを個人の好みで無礼にも断った罰か。

「いえ、大丈夫ですよ。苦手だというだけですから。お気遣いありがとうございます。」

 結局、退院祝いという名のタコパ兼スイパは女性陣の女子会と化したので、代金だけを払って一足先にお暇することにした。

 そして、わざわざ見送りに梓さんが信号がある道までついてきてくれている。

「あの……えっと……あ!そうだ!英知さんを覚えてますか?火事から助けたあの女性です!!」

 英知さん……『警察協力章』のキッカケになった事件の被害者か……。

「はい。彼女がどうかされましたか?」

 まさか火傷の合併症を起こしたのか?

「英知さんが是非デイヴィスさんにお礼がしたいって言っていて……そうだ!!この後時間ありますよね!?」

 腕を引かれたが、今さら『暇じゃないんで』は通じないな。

 

「はい……でも英知さんの都合を聞いてみないと……」

 

、、、

 

「あらぁ!アナタが私を救い出した王子様ね!」

 

 何故か、十字架が建屋の上に設置されている小さな教会のような場所に案内された。

「えーっと……はは……。ご無事なようで何よりです。」

 頭を掻くと背中を思い切り叩かれた。

「もーっ!!王子様なんだからシャキッとしなさいよ!!……それで、梓ちゃんとはいつからお付き合いをされているのかしら?」

「「付き合ってません!!」」

 声が重なると英知さんはニヤニヤと笑って腹をつついた。

「あらあら〜声がハモる程仲良しさんなのね〜」

 まいったな、こういうタイプか……。

「英知さん!!からかわないでくださいよ!!」

 梓さんが耳まで真っ赤にしてプルプル震えている。

 あまり彼女に屈辱を与えないであげてほしい。

 

「ふふ、ごめんなさいね〜。今日は手芸サークルの集まりで個人教会に場所を借りているの。それに見学者の方々も来てるからあまり緊張しないで欲しくてお節介焼いちゃったわ〜。」

 


 

「は〜い!では『手作りドリームキャッチャー』を作っていくわね〜!配信はしてないから安心して頂戴〜」

 

 そういえば英知さんは配信者だと聞いていたな。

「よろしくお願いします。」

 場には英知さん、梓さん、自分の他に個人教会の持ち主の江洲さん、見学の玄地さん、熊塚さんという女性達が参加している。

「まず、『タッセル』を作ります。飾り糸を幅10cm高さ20cmの厚紙に巻いていくの。巻いたものが1cm幅になったら厚紙を外して真ん中をギュッと糸で締める。そうしたら二つ折りにして頂点から1cm下げた所に糸を通した針で周囲をぐるぐる巻きにして下と上から針を通して固結びした後に糸を切り揃えれば完成よ。」

 これがタッセル……。

「デイヴィスさん、てるてる坊主みたいになってます!!」

 手元にあるのは、自ら作り出した頭でっかちのタッセルモドキ……。

「これをいくつか作ったら垂らす用の飾り紐に括りつけて頂戴。その飾り紐はビーズを通してもいいし、1本のリボンを交差させるようにしてもいいわよ。」

 飾り紐……。

「デイヴィスさん……意外と不器用なんですね。」

 梓さんの憐憫の眼差しが痛い。

「準備が整ったら本番ね!蔓藤のリングを1本の糸で巻いていくの。先ずは円の接点から接点に等間隔で移動する。出来た弛みに糸を通していって中央を目指すの。」

 まるで蜘蛛の巣だ。

「デイヴィスさんでしたっけ?七芒星にしたのは何か理由があるんですか?」

 そう問いかけてきたのは玄地さんだった。

「いえ……別に。偶然ですよ。」

 目を逸らすと玄地さんと自分を交互に見ながら気まずそうにし始めた梓さんと目が合った。

「自分がいいと思うまで糸を這わせたら天辺に引っ掛け用の紐をつけて、下にタッセル付きの紐を好きなだけ括りつけて完成!」

 出来たドリームキャッチャーは、ヘプタグラムの下に首を括られた6つの人形が首を吊られて揺れている。

「なんだかデイヴィスさんらしいドリームキャッチャーですね!」

 何も答えられずにいると窓の外を見ていた熊津さんから悲鳴が上がった。

「きゃあああ!!猫ちゃんが泡を吹いてる!!」

 その声に反応して真っ先に英知さんが飛び出していき、後を追った。

「いやぁ……ボンちゃん……。」

 猫の方を見ると涎を垂らして痙攣している。

「失礼します。」

 猫の口から見えていた葉の破片を取り出して声を上げた。

 周囲を見回すと特定のエリアから燕麦が猫草のように切り揃えてあり、その間にはパイナップルの葉を柔らかく細くした鋭い葉先が見えた。

「誰か!!近くの動物病院を調べてください!!」

 そう言ってガラケー改を熊津さんに渡すと素早くキーパッドに入力を済ませて画面を見せた。

「この道の向かいに動物病院があります!!」

 ガラケー改を受け取ると代わりにガマ口を渡した。

「治療費は僕が支払いますから動物病院に向かってください!!」

 猫を抱こうとすると、玄地さんの手が伸びた。

「アタシたちが病院に連れていきます!!」

 宣言通り、玄地さんと熊津さんは動物病院に走っていった。

 

「では、なぜ猫を殺傷しようとしたか理由をお聞かせください。……江洲さん。」

 


 

「何を仰ってるの?これは天罰よ……飼い主が犯した罪を猫が肩代わりした……可哀想に。」

 

 掌を組んであっけらかんと語る江洲の襟首を英知さんが掴み上げようとするのを手で制止した。

「私が何をしたって言うのよ!?ボンちゃんは唯一の家族なのに……。」

 まさか、糞害や庭荒らしをされたからではないよな。

 燕麦で餌付けをしていたのは江洲の方に見える。

「貴女は私の教会に生えてきた奇跡のユリを盗んだでしょう!!」

 ……頭がおかしくなりそうだ。

「は、はあ?確かに私の庭にも咲くようになったけど嫌だから抜いたわよ!!盗んでなんかないわ!!」

 ため息をついて頭を抱えていると、梓さんが写真を見せてくれた。

「多分、お二人が話しているのはこのユリです。」

 葉が細く、テッポウユリよりも長細い花姿をしている。

「ならなぜ貴女の家で花が咲くようになった年から私の教会で花が咲かないのよ!!盗んだからでしょう!?あのユリはイースターリリー!!それが教会に咲いて出たの!!奇跡のユリよ!!」

 ギルテスターをポケットから探し出し、咥えて使い捨てライターで火をつけた。

「で、デイヴィスさん……喫煙者だったんですか?それより今は一服している場合では……」

 紫煙を宙に向けて吐き出した。

「どうして罪を冒してしまうんだろう。馬鹿だからかな。」

 火消しで火を消して吸殻をしまい足で燕麦を掻き分けると、それを蹴飛ばした。

「はあ!?ちょっ!!止めなさいよ!!私の奇跡のユリを蹴るなんて!!」

 自白をどうも。

 

「貴方は猫にとって猛毒であり無臭に近いタカサゴユリの周りを囲むように燕麦、いわゆる猫草を植えて誤食させて害そうとした。器物破損罪は確定、動物の愛護及び管理に関する法律によっても裁かれるでしょう。」

 


 

「タカサゴユリは連作障害を起こすため決まった場所で咲くわけではありません。現にこうして生えてきている。そして外来種かつ繁殖力が高いため種が飛び散り近隣に新たに生えるようになる。……勝手にね。奇跡でも窃盗でも何でもない。」

 

「なっ……。……あっそう。なら私の勘違いね。間違って猫草を植えちゃっただけ。ごめんなさい。これでいい?」

 無意識的に右手を振りかざすと梓さんが前に出た。

「猫の命が掛かってるんですよ!!ふざけないでください!!」

 拳を握りしめ、肩を震わせながら声を上擦らせている。

「皆さん!!ボンちゃん助かりますよ!!」

 玄地さんが手を大きく振って駆けてきた。

 その瞬間、英知さんは膝から崩れ落ちて嗚咽し始める。

「よかった……よかった……」

 顔面をぐちゃぐちゃにして流れた涙は地面を濡らした。

「あ、もしもし警察ですか?知人のペットが危害を加えられまして……」

 梓さんがスマホで通報し始めると、受話口の先からは乗り気でない声が聴こえてくる。

「貸して?アタシが代わる!……もしもし、器物破損事件です。はい……はい、はい?アンタゴンゾウ?もしかして女の通報だからと舐めていない?いいから来て!!」

 玄地さんが詰めると受話口から『場所を教えてください』との返答があった。

「英知さん、ボンちゃんの所に行きましょう。」

 泣きじゃくる英知さんの肩を抱いて立たせると、梓さんはアイコンタクトをして連れ添いながら動物病院に向かった。

「信じられない!!貴女たち、私を罪人として濡れ衣を着せるつもり!?勘違いだったし、たまたま猫草がユリの周りに生えただけですから!!それを猫が食べただけ!!」

 その言葉を聞くと怒号が響いた。

「テメエ!!毒性が分かってたな!?この燕麦、生えている土壌が円形なんだよ!!人為的にじゃなきゃこんな生え方しねぇんだよ!!」

 玄地さんが猫草を掻き分けて見せつけた。

「……あっそう、偶然サークル状になることくらいあるし、毒餌を混ぜたわけじゃないんだから立証は不可能だと思いますけど。」

 全く反省する気のない江洲はサイレンの音が聴こえてきても虚勢を張り続けていた。

 

「……恥辱より死を望む。傲慢な彼女に幸あらん事を。」

 


 

「猫のボンちゃん、数日の入院で済むそうです。」

 

 飼い主の英知さんは冷静さを取り戻したらしく、後を任せて熊津さんと梓さんが家人が不在になった教会に戻ってきた。

「嫌な事件でしたね……そうだ!その……一緒にドリームキャッチャーを作ったことですし、連絡先を交換しませんか?」

 口火を切ったのは熊津さんだった。

「はい。構いません。」

 ポケットからメモを取り出して連絡先等を書いて二人に渡した。

「私は熊津 来縁(くまつ くえん)と言います。珍しい名前だとよく言われます。由来は『縁が来る』ようにと親が名付けてくれて……。仕事は郵便局員をしていまして、英知さんの手芸配信を見て見学会に参加しました。」

 黒く長い髪を一つ縛りにして縦縞のシャツブラウスを身に着けたフレンチスタイルのスラリとした背丈の熊津さんが名乗ると、赤毛でショートヘアのガーリーな服装を身に着けた背の低い玄地さんがピョンと跳ねて頭を下げた。

「アタシは玄地(げんち)シュザンヌ!!パパがフランス人なんです!!米花町で絵画教室をしてるから遊びに来てください!!」

 二人は梓さんと連絡先を交換すると、こちらにもスマホをかざそうとするので断った。

「僕はデイヴィス阿笠。彼女と同じ喫茶店で働いています。……すみません、スマホではなくガラケーなのでメールアドレスか電話番号を教えてください。」

 そう虚偽の申告をすると連絡先を画面に表示した状態で提示された。

「今どき珍しいですね!ガラケーなんて!」

 此方を覗き込む玄地さんから目を逸らすと、不安そうにしている梓さんと目が合った。

「そうですかね……ああ、でもBluetoothは好きです。鉛筆みたいだから。」

 ポツリと零すと熊津さんが笑い声を上げた。

「確かに。どちらも中間、間に入って文字も同じですからね。」

 つられて自分も笑った。

 

「ははっ、分かりやすく馴染みやすいですからね。」

 

、、、

 

「デイヴィスさん……なんだか……すみません。」

 

 気が滅入っている梓さんを部屋まで送ると、まだ女子会は続いていた。

「二人きりで何処をほっつき歩いていたのさ!!」

 世良さんの勢いに押されつつも何とか事情を説明した。

「散々だったわね……デイヴィスさん!アナタ死の淵から不幸を背負ってきたわけじゃないでしょうね!?」

 園子さんに背中をどつかれたが、何も言うことはない。

「へぇー……でもドリームキャッチャーって悪夢を取ってくれるっていうインディアンの飾りですよね?これからは良くなりますよ。」

 場を和ませようとする蘭さんを尻目に疑問をあえて口にした。

 

「そうらしいですが……取った悪夢は一体何処に行くんでしょうね。」

 


 

『次のニュースです。都内に住む女性が杏の種をアーモンドと誤食して死亡しました。女性の家には手作りの杏の種入りパンがバケットに残されており、体内に残るものと一致。杏の種には青酸配糖体であるアミグダリンが多量に含まれているため自家製生する場合は取り扱いに───』

 

 ラジオから流れるニュースを聞きながらガマ口とガラケー改、メモに付着した指紋を採取した後に『asabikeshiinh』という偽装アドレスから届いたメールを適当に解析し始めた。

 流石にReceivedの改竄は出来なかったらしく、経由したサーバーを辿れた。

 そして、メールの差出人の『親愛なる妹』からのメッセージは以下の通り。

 

 U km bc av hu nw to zu gs vb fe yn jk pk dj

 S md cc bc fp nw op pa xd fj mn jp uo ae

 E ab uh pn rl vd bw tk me op iw nq ec fz co

 Z ga nr ce hy mo ip tl wn dg pt aw qf zs fu dh vi pt

 

 gnc hmf itgwwd pm pfnw advpc?

 vq zm, t amd'p qmgdvc hmf.

 

「マリー・アントワネットの暗号か……。ご丁寧にコードネームまで書いてくれちゃって……。」

 グッと背伸びをしながらベット脇に吊り下げたドリームキャッチャーのタッセルに向かって尖らせた鉛筆を投げ刺した。

 

「計画に支障はないから、どうでもいいか。」

 

 

 






 あとがき


 (念のため)今回以降、頻繁に間が空く可能性があります

 Bluetoothのロゴの意味と鉛筆の中間
 →二国を取り持った青歯王のイニシャルHB、鉛筆の中間HB

なかみについて(期間限定アンケ)

  • ややこしい(かため)
  • 分かり易い(やわらか)
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