探偵士、少年探偵団と出会う。   作:ummt

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第二十一話 探偵士、おかしくなる。

 

「探偵士さんよー、『透明なバッター達が観客席を埋め尽くす過去になった球場が赤く染まる時、お前を見下ろす場所で待っている』を『ダム湖』に断定したのは結論ありきじゃねぇか?『赤』なら赤煉瓦の東都駅、法務省旧本館、東都芸術大学も候補に入るじゃねえか。東都駅ならライトアップで『染まる』に掛かるだろ?」

 

 あまり眠れないまま喫茶ポアロに出勤すると安室さんは急用が入ったとの事で出勤しておらず、休校日らしく二人で来店したコナンくんと哀ちゃんによる反省会が始まった。

「そうね。球場を『Ball Field』として、これをBall=球=円に変えれば東都駅はドーム屋根があるからドーム球場にも言葉が掛かって、それに円なら東都駅は一万円札になっているから。」

 そう言われても出題したのは自分ではなく、毛利さんか安室さんが手助けする形で中年夫婦自身が作った場所を表す問題だろうし……。

 彼らはダム湖を表すために回りくどい事をしただけで、適当な理由をつけて山小屋に連れて行くためのきっかけに過ぎなかった。

「ならさ、透明なバッターはどうなるのかな?」

 流石に東都駅の木材部分にバーチやメイプル部があったとしても、それこそ絞るはずの範囲が広がってしまう。

「あら、探偵士さんにも知らないことがあるのね。今、東都駅のドーム屋根部分は塗装補修工事のために半透明なシートで覆われているの。バッターは打者ではなく『衣』の方ってわけ。」

 いや知らないって……あ、そうか。

 安室さんと毛利さんは『自分の守備範囲』を理解して問題を出題してくれたのか。

 例えば自分がミステリー作家だとする。

 話を考えていけば行くほどに使う暗号やトリック、例えデスゲームのルールだとしても実際の処理タイプが『自分の得意な型』になりがちで、推理推測過程も『自分の守備範囲知識』にばかり偏ってしまう。

 ……今迄がたまたま自分の得意型だっただけで、自分はミステリー作家でも探偵でもない。

「……じゃあさ、『過去になった』と『お前を見下ろす場所』は?……あ、『大正時代のレンガ造りの保存復元工事』のことか。やっぱり『ドーム屋根を指し示し、ライトアップの時間帯に来いとする』方が自然か……成る程。」

 一介の工作員だ。

 影の黒衣で、名も無き役ですらない芥。

 

「ま、何にせよ実際に探偵士さんの推測が当たってたんだ。……容疑が晴れた事だし、気分転換に出掛けたほうがいいんじゃねえか?」

 


 

「いや……はは……」

 

 わざわざ自分を心配して来てくれたのか……。

 哀ちゃん……シェリーは研究者としてもまだ若く、コナンくん……工藤 新一に至ってはまだ高校生だぞ……。

「あ!!いたいた!!コナン!!灰原!!」

 ドアベルが鳴って入り口に目をやると元太くんに歩美ちゃん、光彦くんが満開の花で作られたブーケのように笑顔を咲かせていた。

 ……今すぐこの場から立ち去らないと。

「お兄さん!……この間は大変だったね。あのね?歩美、またお兄さんと一緒に絵を描きたいから遊ぼう?」

 ……駄目だ。

「そうだぜ兄ちゃん!それに博士も心配してたぜ!!」

 ……これ以上。

「デイヴィスさん!もしかして僕達が『容疑者になった』からってデイヴィスさんを嫌いになるとでも思ったんですか!?少しは信頼してくださいよ!!僕達は同じ少年探偵団の仲間じゃないですか!!」

 ……耐えられない。

「探偵士さん……」

 溢れ落ちる涙を左肘で押さえて、身を翻してバックヤードに逃げ込んだ。

 純粋な者の側に立つことが、ここまで地獄のような責め苦の嵐になるとは思いもしなかった。

 苦しい、辛い、嫌だ、辞めたい、終わりにしたい。

 向けられる光が強ければ強いほど、目が眩んでしまう。

 眩しい光の中では、目を開けていられない。

 目を瞑ったら、そこにあるのは漆黒の暗闇だけだ。

 弱すぎる。

 いい歳して、泣いて、泣いて、ひたすら泣いている。

「どうしてこんなに情けないんだ……ゴホッゴホッゲェッ」

 肺が苦しい、呼吸が出来ない。

 このままでは火傷による後遺症を隠しきれない。

「情けないですね。」

 ……そうだ、自分は情けないんだ。

 突っ伏していた机から顔を上げると、梓さんが厳しい顔でそう告げて隣に座った。

「はい……。」

 もう……

「情けない姿になって当たり前です。……デイヴィスさんは大切な人を亡くされたんですよ?……男の人も泣いていい。本当ならお休みを取るべきなんですから。……無理し過ぎですよ、デイヴィスさん。……私や安室さんを頼って下さい。」

 どうして……。

「どうして貴方はいとも簡単に……僕から僕を奪ってしまうの?」

 梓さんの頬に左手を伸ばすとカランとドアベルが鳴り、それに反応するように彼女はすくっと立ち上がった。

 

「あ……熊津さん!いらっしゃいませ!」

 


 

「また来ちゃいました……ご迷惑でしたか?」

 

 涙を拭ってホールに立つと熊津さんが此方を見て走り寄って首を傾げた。

「まさか……来てくださって嬉しいですよ。」

 彼女の腰に手を当てるようにして窓際の席に案内すると、梓さんの眉がピクリと動いた。

 ……なんでまた職場に直接来るんだ、馬鹿じゃないのか。

「お兄さん……あのね?歩美達、東都動物園でお絵描きしようって話してたの!!一緒に行けないかな?」

 不味い、みんなと親しい間柄……つまり『子供たちに関与しなければならない=周辺に関係者がいる』と思われてしまったか。

 今更突き放しても状況が悪化するだけだ。

「うん。誘ってくれてありがとう。一緒に行こうか。」

 コナンくんと哀ちゃんは熊津さんと初対面、且つ彼女は普段銃器や暗器を持ち歩くタイプでは無いから危険人物だとは捉えにくい。

 ……いや、組織の人間と知らせてどうする。

 シェリーは多少なりとも動揺し、工藤 新一は素性に気付けば詮索を始めるかもしれない。

 それだけは避けなければ。

「いいな………デイヴィスさんって、子供達に好かれてるんですね……。」

 窓際席を見ると熊津さんが肘をテーブルにつけ、顎を手の甲に乗せて笑みを浮かべて此方を吟味するように眺め見ている。

「なんたって兄ちゃんは少年探偵団だからな!!お揃いの探偵バッジしてんだぜ!!」

 この場をどうにか切り抜けないと……。

「そう。シャーロック・ホームズに出てくるベイカー・ストレート・イレギュラーズみたいにね。じゃあ動物園で何を見るか旅のしおりを作ろうか。」

 ただの推理小説好きの子供たちによるクラブ活動。

「……凄いですね……活動は具体的に何をしてるんですか?」

 ヴェルヴェーヌ……これ以上立ち入るな。

「事件の捜査です!!これでも僕達は数々の難事件を解決してきたんですよ!!」 

 ここで保持している技術情報が漏れてしまったら、確実に組織のマークリストに入る。

「へぇ……どうやって解決してきたのか知りたいな……。」

 動揺を出さず、場を治めるには……。

「あら、お姉さんも推理小説がお好きなのかしら。……探偵士さんはエプロンの若葉マークのピンバッジの通り、まだ見習いだから詳しく教えられないの。そうよね?江戸川くん。」

 哀ちゃんがコナンくんに話題を振ると無邪気な笑顔を向けた。

「ボクたちの活動はほかの人には秘密なんだ!!ねー?みんな!!」

 そう返すと三人は顔を見合わせて頷いた。

 

「うん!!歩美たちは探偵だから知らない人には教えてあげられないの!!ごめんなさい!!」

 


 

「なら知り合いになろ……?私は熊津 来縁。郵便局で働いてて、クエンさんって言われてるんだ。クエン酸みたいで変だよね。」

 

 ……しつこい、ここまで明確に接触を持とうとしているのは毛利探偵事務所の偵察を指示されているのか?

「全然変じゃないよ!!あの、歩美は」

 歩美ちゃんが名乗ろうとするのを哀ちゃんが人さし指を唇の前に立ててギリギリの所で止めた。

「すみません……熊津さんも玄地さんが亡くなった事をご存知ですよね?……ですから、子供たちには見知らぬ人について行かないように喋りかけられても無視するようにと学校や警察から指導があったんです。」

 そう説明すると急に真顔になった後、溜息をつき始めた。

「はぁ……うう……私も一緒に動物園……行きたいなぁって思って……ごめんなさい……」

 お前を行かせるわけ無いだろうが。

 すかさず窓際席の隣に座って腰を抱いた。

「僕は……熊津さんと二人っきりなら何処でもいいですけどね。」

 目線を遮るようにして熊津さんに微笑んだ。

「うれしいです……こ、この後お時間ありますか?……あの……二人きりになれる場所に……行きたいです……」

 子供たちの前だぞ、場所を弁えろ。

「……はい。シフトが終わる19時に……ね?」

 耳元で密々話をしてその場を離れた。

「……情けない。」

 背中に梓さんの正直な感想が突き刺さる。

 玄地さんが亡くなった途端、熊津さんにチョッカイを掛ける色ボケだからな、仕方が無い。

 子供たちに視線を合わせられなくなり、つい下を向きそうになる。

 平然としなければ、兎に角子供たちが重要人物ではないと証明しなければ、この女は直ぐにでもエスカレーションするだろう。

「お兄さんって……女の人が大好きな人だったの?」

 純粋な疑問を投げかけられて声を失う。

「そ。彼はナンパ人だから吉田さんも気を付けなさい。」

 哀ちゃんが有りの儘の状況を説明して警戒を促した。

「ナンパ人って言うより三枚目じゃないですか?デイヴィスさん、どっちかっていうとヘタレな方ですし。」

 フォローという名の致命傷を受けて引き攣る顔をどうにか表情筋を動かして元に戻した。

 

「兄ちゃん……あんまり無茶しねー方がいいぞ。兄ちゃんは兄ちゃんなんだからな!!」

 


 

「……ねえデイヴィスさん……私のこと好き?」

 

 早く終わらせたい。

「好きだよ。熊津さんは美人だし気が利くし……それにかわいいから。」

 早くしてほしい。

「……彼女にして?……してくれたら……子供たちのこと、店員の榎本 梓っていう女のこと……見逃してあげてもいいよ……」

 お前は何様なんだよ。

「ありがとう……僕なんかを彼氏に選んでくれて……」

 どうしたら……どう処分すれば……利用価値を最大限に使い切ってから消さないと……。

「……ふふ、デイヴィスさんかわいい……かわいいから教えてあげる……コンコンって……そう、そう……リストが……どっか……いっちゃって……」

 NOCリストが紛失した……?

 ……アイリッシュが出向くほどなら暗号化の処置を解き、機密性の甘い状態でコピーしたファイルを誰かが持ち出したのか……。

 もしくは諜報員の愚か者がカメラで撮影した画像ファイルか……。

 

「いっちゃったか……」

 

、、、

 

『……で、何の用だ。』

 

 あまりの苦痛に耐えきれず、ガラケー改で『かんゆん』に通話をしてしまった。

「風間さ〜ん、僕〜……もうやんなっちゃいますよ〜……ニャロメ!!」

 自身のベッドに腰掛けながら天井に現れた優しい星空を見て、無性にやるせなくなる気持ちを抑えられない。

『……報告書は確認した。……それにしても一体なんだ、酔っぱらっているのか?』

 一滴も呑んでいない、シラフだ。

「思っても無いこと言って〜したくないことして〜ああ嗚呼アアア!!ニャロメ!!」

 風間さんは頭のおかしい仮初めの同僚のイカれた通話に付き合ってくれる……良い人だ。

 普通なら直ぐに切るのに。

『一人カラオケにでも行ってこい。……体調が優れないなら休め。』

 なんでそんなにホワイトなんだ。

「……風間さん、いつも色々と書類申請を通して頂き有り難う御座います。……すみません……すみません。」

 ベッドから降りて土下座しながら謝罪を述べると受話口から動揺した様子が伝わってくる。

『君、本官さんにはならないでくれ……。……そうだな、今度呑みに行くか……勿論割り勘だぞ。』

 ……聖人君主か。

 

「風間さんには本当のことを言いますね。僕って実は地下にある沢山ある穴蔵をぶっ壊す為に動いてるんですよ。なんたって僕はギルテセブンですから。……すみません、瓶ビールを1本あけました。……はい、すみません。」

 


 

「二つの事件現場に麻雀パイが置かれていたとして……あなたの知り得る人物で心当たりはありませんか?」

 

 早朝、白鳥警部と本庁で見たことがない屈強な男性が工藤邸を尋ねてきた。

「二つの事件……連続殺人ですか……。」

 男性は白鳥警部より階級が上であり、自分が麻薬取締官を隠れ蓑にした隠れ公安だと知っている……。

「申し遅れたな、私は松本 清長。警視正にあたる。元警察庁刑事部捜査一課管理官であった……時が違えば君の上司だったやもしれん。」

 そう名乗った松本警視正は右手を出し、応えるように右手を出すと強い力で握り締められた。

 ……そうか。

 玄関の扉を閉める際に傘立てを思い切り倒した。

「痛ってえ!!ここの設備は高級ブランドでいちいち重くて困る……軽いコピー品で充分だっての!!」

 一言を室内に投げかけると中庭に出て、話を続けた。

「現在見つかっているのは筒子の1に赤丸、裏に縦線とアルファベットのA。同じく筒子の7の上から3つ目に赤丸、裏に縦線とアルファベットのEです。……あなたは捜査本部に入れることができませんので、もし見立て殺人に心当たりがあればと思いまして立ち寄った次第です。」

 筒子……数牌、金……花……?

 7だけなら位置から丸を点として座標とする地図や気象天気図、星座に分布図に当てはめての見立てが成り立つだろうが……アルファベット単品ならギリシャ文字のαとεで表す星図は関係ないな。

 仮に何かのロゴマークを表すとしても、如何せん手掛かりが少な過ぎる。

「いえ、心当たり無いですね。……お役に立てなくてすみません。」

 頭を掻きながら苦笑いを浮かべると松本警視正は肩を強い力で叩いた。

「これからも調査に協力の程、よろしく頼む。……期待の星よ。」

 まさかこんな大胆な作戦に出るとは……。

 頭を下げて二人を見送り、その場で座り込んでしまった。

 しかしNOCリストがまだ警察の手に渡っていない事が確実になり、一安心といったところか。

 アイリッシュならば余計な殺人や無計画故の事故やトラブルを起こす恐れがなく、確実かつ速やかに作業を終えて時期に塒に戻るだろう。

「……イザラ、何事だ。……何故部屋から出るなと合図を送ったのかを説明してもらえるか。」

 ……今、沖矢さんにアイリッシュの計画を邪魔されるわけにはいかない。

 

「あ、すみません……ただ単に足の小指をぶつけてしまって……痛てて……。」

 


 

「わぁー!!歩美トラさんを先に見たいなー!!」

 

 東都動物園はそこまで混雑している場所では無かったようで、阿笠博士と共に無事に入園することが出来た。

「えー!?僕だって先にライオンがみたいんですから順番に回りましょうよ!!」

 ……平和な会話を耳にしながら、ガラケー改で掘った薬物乱用者と一発で分かるSNSの投稿主を探した。

「オレはゴリラをみにいくからな!!」

 投稿主は直ぐに見つかったので阿笠博士に子供たちを頼んで、一旦別行動を取ることにした。

 

「デイヴィス君、アザラシショー迄には戻って来るんだぞい!!」

 

、、、

 

「本当に臭いんだよな……一ヶ月風呂に入っていない者から生乾き臭の代わりに雑巾の黴臭さを足したような……本人は気づかないのが恐ろしい……」

 

 内偵として駐車場にあった投稿主の車や車内の様子は既に撮影済みで、投稿主の写真も撮影した。

 ……あとは売買を押さえて仲介人を引っ張るだけ。

 そんなこんなで不適切行為をしている輩に声を掛け、絶対に手を出してはいけないことだと理解らせ、売買ルートを白状させて警備室で調書を書いた。

 前もって呼んでいた高木刑事に逮捕した者達と押収品を引き渡し、麻薬取締部の直属上司と風見さんに報告と証拠提出を暗号化した電子と受話口で済ませ、初めての麻取業務は滞り無く終わった。

 本来の麻薬取締官の仕事は過酷な業務であるが、隠れ蓑としての役割なので負担と仕事量が軽く済んでいる。

 本職の皆様にはひたすらに頭が下がる。

 

「どうして罪を冒してしまうんだろう。必ず法を犯すことになり、自他共に侵してしまうのに。」

 

、、、

 

「アザラシショーには間に合った……ん?」

 

 アザラシショーが行われる会場を前に阿笠博士と子供たちが肩を落として立っていた。

「アザラシショー、中止だってさ。」

 コナンくんが指差す看板には『アザラシたちのご機嫌がナナメです、ゴメンナサイ』と書かれていた。

「園側も大変よね。動物の機嫌一つで観覧チケットの売上がパーになるんだから。」

 事前情報を確認したが、アザラシショーの若手飼育員がアザラシを上手く扱えないため、古株のベテランに変わったから安心という趣旨の投稿を目にしたが。

 

「ゴメンね……ボクのせいで……。」

 


 

「は、はあ……飼育員の方ですか?」

 

 振り返ると気の弱そうな若い男性が立っていた。

 見覚えがある……確か東都動物園のPVに映っていた飼育員の裕だったか。

「はい……ボクがアザラシたちに舐められたから……みんな本番前は言うことを聞いてくれるんですけど、いざ本番になったら知らんぷり……弱いんです、ボク。」

 ……イルカや犬、鳥類等に限らず『特定個人や条件下に対してのみ態度を変える』こと自体はよくある事だ。

「ええー!?なら仲直りすればいいよ!!」

 歩美ちゃんの純真な提案に裕は頭を掻いた。

「仲直り……出来るかな。ボク、もう向いてないから飼育員を辞めようかと思ってて……。」

 合わない仕事でも三年続けろとは言うが、この言葉が『忍耐力』のみを指すものだとする性格ならば、一度辞めてしまうのもいいだろう。

「勿体ないですよ!!せっかく飼育員になれたのに!!」

 ただ、期待通りでなかったからだとするならば、期待を満たしてくれる場所を探してもいい。

「アレ?アザラシたちがこっちに泳いで来るぞ!!」

 コナンくんが言った通り、アザラシたちが水槽を通ってステージの前に上がって手を振っている。

 そして裕が指と口笛で合図すると器用に演技をしてみせた。

「オイ裕!!お前は有給だろうが!!勝手なことをするな!!」

 ステージの奥から中年の飼育員が現れるとアザラシたちの動きが一斉に止まった。

「す、すみません……亭さん……。」

 亭と呼ばれた飼育員はアザラシたちに指示を出すが、彼を囲み鳴き声を出すだけで一向に演技をしない。

「なんだあれ。なんつーか、餌をくれって言ってるみてーだな。」

 多分、元太くんが正解を言っている。

「……動物を使ったパワハラなんて、それでよく飼育員が務まるわね。」

 哀ちゃんが投げ捨てるように言葉を投げると、亭はわなわなと震えだした。

「お客様!!言い掛かりは止してください!!」

 その言葉を聞くとコナンくんが袖を引っ張ってきた。

「ねえ探偵士さん、ボク防犯カメラがある監視ルームに入りたい。」

 丁度警備室に立ち寄ったばかりなので話が通しやすいな。

 

「うん。みんなは阿笠博士と裕さんと一緒に待っててね。」

 


 

「やっぱり……。裕さんが上手くコントロールができなかったあと、亭さんが監視カメラの死角で何かしてる。」

 

 これに加えて餌の在庫量の減り方やアザラシたちの体重増加の記録があれば詰められる。

「あとは裕さん本人が動けるかどうかだね。自分にはできないと萎縮してしまったままなら原因が分かってもこのままだ。」

 それでも原因の可能性が分かっただけで、道は開かれたからな。

 

「行こう……探偵士さん。」

 

、、、

 

「ボクたち監視カメラの映像を見たんだけど、裕さんが失敗した時にだけ隠れて餌付けをしてたんじゃない?アザラシたちが裕さんを嫌って反抗していたんじゃなくて、そう見えるようにさせたんだ。現に亭さんがいない時には演技をしてる。」

 

 コナンくんが客観的な憶測を述べると、亭さんはその喧嘩を買って出た。

「いいだろう!!裕!!お前一人で上がってみろ!!俺がいなきゃお前は何にも出来ないってことを思い知らせてやる!!」

 そう吐き捨ててステージから降り、アザラシたちから見えない場所まで移動して代わりに上がる裕さんを睨みつけた。

「え、えーっと……これからアザラシショーの練習を始めます。ではみんな、お客さんにご挨拶しようか。」

 アザラシたちは横一列に並んで頭を下げて手を振った。

「すごーい!!ちゃんと挨拶してくれた!!」

 これ観覧チケット払わないままでいいのかな……。

「なっ!!偶然だ偶然!!裕には何も出来ない!!」

 再び亭が姿を現すとアザラシ達は困ったように裕を見上げた。

「みんな……ボクがみんなを信じなかったから……ゴメン。ボクについてきて!!」

 自信を取り戻したのか、裕によるアザラシショーは見事なものだった。

 ボール投げ、フラフープくぐり、ダンス、あらゆるパフォーマンスを魅せてくれた。

「……たまには純粋にショーを楽しむも悪くねーだろ?」

 コナンくんがフッと笑いつつ、アザラシショーから視線を離さなかった。

「うん。……そうだね。」

 亭は逆上して客であるコナンくんに怒鳴り声を上げたのを他の飼育員に見つかって施設内に連れて行かれたから、いずれ事のあらましは公のものになるだろう。

「ま、まさか……デイヴィスさん、アザラシを美味しそうとか思っていませんよね!?」

 光彦くんのピュアな心配に思わず笑みが溢れる。

 ……コナンくん、哀ちゃん、少年探偵団のみんな、阿笠博士。

 どうにかして、彼らを捜査本部から遠ざけねばならない。

 

「思ってないよ。……どうやら、みんなを信じてよかったみたいだ。」

 






 あとがき



 向いてない

なかみについて(期間限定アンケ)

  • ややこしい(かため)
  • 分かり易い(やわらか)
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