探偵士、少年探偵団と出会う。   作:ummt

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番外編
File.01 タクシー運転手、棋士を乗せる。


 

「ハァ……なんで俺がタクシーの運ちゃんになってんだよ……」

 

 紛い物のカスゴミの裏方野郎に不意を突かれてジンの前で大失態を演じてしまった。

 窓から落下した後、ウォッカとキールに闇医者に運ばれたからいいものの、両肩が上がらず左腕も上手く動かない上に左足の甲にヒビが入って以前のような身のこなしができない。

 "お前は諜報員として動き続けろ、シャルトルーズ"

 ジンから下った命令は任務の据え置き。

 勿論『棗アンゼリカ』として星雲センターに戻るわけにはいかないから、こうして戸籍を細かく調べないタクシー運転手の『夏目 安慈』として裏方野郎や警察の出方を伺っている。

『ねぇ夏目 安慈くん!! ボクの話聞いてる!? 毛利小五郎大先生にあってアルマジロくんを救出した話!! あの時はすごかった……毛利小五郎大先生の華麗なる身のこなし……魚市場に出荷されたアルマジロ……そのアルマジロを助けて……』

 信じられねぇことに、何故か同僚に毛利小五郎オタクが居るので態々密偵に出ずとも情報が入ってくる職場であり、タクシー運転手として何処にでもすっ飛ばして行けるのだが……。

「うるせぇぞ!! 石川 元気!!」

 石川の話は突拍子もないから、妄想と現実の区別がついていないオタクの夢妄想を聞かされているだけの可能性がある。

 アルマジロが魚市場に出荷される……? 

 駄目だ、石川の話を聞いていると『why?』が溢れて脳みそがオーバーフローしてしまう。

『だって推理過程の話をできるの夏目くんだけだから……』

 ……話せる友達、あんまり居ないのか。

「あとで話聞いてやるから!! 今客乗せるから黙っとけ!!」

 道路脇で片手を挙げる無精髭を生やした丸眼鏡のボサボサの髪をしたジャージ姿の男を拾った。

「お客さん、何方まで?」

 振り向くと風貌に似合わず鋭い目をしている。

「PPビルまで」

 PPビル……あそこにはコンビニ、電子部品製造会社の支店、サッシ製造会社の支店、将棋センターの支部が入っていた。

 入っているコンビニチェーン店は近くにも店舗があるからタクシーは使わない。

 製造会社だとして、社員なら徒歩と公共交通の定期券や手段があるだろうしタクシーを使わない。

 同じく営業や挨拶回りでジャージ姿は無いからな。

 となると将棋センターか。

「将棋をなされてるんですか? カッコいいですね!! 俺なんて頭悪いから棋譜を見てもチンプンカンプンですよ」

 エンジンをかけてゆっくり加速すると後ろから声が掛かった。

 

「アナタは肩を故障されているようですね」

 


 

「あー……はは、実は元野球部でして……よくある話ですよ。運転に支障はないのでご安心下さい!!」

 

 ……何故バレた? 

 故障とはいえ肩を振り上げたりすることもできる状態で、そもそも上げたりしてねぇぞ……。

「二刀流だったんですか? 左肩と右肩……待機中の両肩の下がり方が痛みを抑えるために両肘を中に入れて筋を伸ばしているように見えましたが」

 ……いや、それは、人それぞれのクセの範囲内だろ。

「……左肩だけですよ」

 バックミラーを見てしまったら、さらに追求が来るな。

『全車両に告ぐ、PP交差点で交通事故があった模様』

 無線が入り、それを取った。

「夏目、了解」

 そのまま交差点を迂回する経路に切り替えてハンドルを握った。

「故障したのは左肩なのに右利きなんですね。まぁ、そういう方も居ますけど」

 ……利き手クイズはアンタの正解だよ。

 放っておこう、考えるのは止めだ止め。

「左利きを矯正されて右利きになったもので……野球では左利きでいたんです」

 ハンドルを強く握りしめると、再び声が掛かった。

「ネイルをされている方なんですか?」

 ……はぁ? 

 今の俺は潜伏の為の女装はしてねぇし、爪は伸ばしてねぇし白手袋を着用してる。

 どこからどう見ても男だろうが。

「えーっと……」

 確かに棗アンゼリカの時にネイルはしていた。

 それだけだ。

「最近では男性でもネイルされてますから。ハンドルを握る仕草、無線機を触る仕草に『長い爪があることを意識した』握り込みの緩さが見えたように思えたので」

 ……コイツ……思い出した。

 羽田 秀吉……プロ棋士であり、NOCとして死んだライの弟……。

 普通、長いつけ爪であっても握り込みに出る差なんてわずかしかないから見破られる筈がないのに。

「い、いやぁ……なかなか人に言えない趣味でして……」

 クソッ、俺にマークリストに対する関与は許可されてねぇ……。

「そうなんですね! あのー……ゆ……じょ、女性が喜ぶネイルチップとかマニュキュアとか……教えてくれませんか? 雑誌で『女性が喜ぶ普段使いのアイテム』がネイル用品だと書いてあったのでお聞きしました。……なかなか相談できる相手がいなくてね……」

 ……予想外のチャンスが到来したか? 

 

「もちろんです!! ……これも何かの縁ですから」

 

 、、、

 

『夏目くん、ネイルチップ作れるの凄いじゃない!!』

 

 羽田をPPビルに降ろしたあと、自作したネイルチップセットを渡したが、肝心の連絡先交換が出来なかった……。

 客と連絡先交換しちゃ不味い……。

 今ここで社則を破ってクビになったら命令に背くことになる。

 俺は役目を果たさねぇといけねぇから。

 

「うるせぇぞ石川 元気……。ハァ……ついてねえなぁ……」

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