探偵士、少年探偵団と出会う。   作:ummt

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第三話 探偵士、新生活の準備をする。

 

「お待たせしてすみません。何と言えばいいか……」

 

 すっかり昼も過ぎると、いつの間にか午後になってしまった。

「気にせんでいいんじゃよ」

 しかし、阿笠博士という方は心が広いというか寛大過ぎるというか。

 まるでヘンリー・ブル博士のような余裕を醸し出している。

 なんたって買物した備品や食料の整理作業が済むまでコナンくんと哀ちゃんと三人でテーブル席に座って時間を潰してくれていたんだから。

「ここまで来たら最後まで付き合うわ」

 哀ちゃんの大人びた一言に苦笑いをしつつ、安室さんと梓さんに一礼して喫茶ポアロを後にした。

 

「バイト、受かるといいね! ……探偵士のデイヴィスさん」

 

 、、、 

 

「そうじゃ、免許証が無いんじゃから証明写真を撮っておかんと」

 

 ビートルはドラッグストアの駐車場に停車して、阿笠博士はエンジンを切るともそもそとカバンからガマ口を取り出した。

「バイトが決まるまで困るじゃろうから3万円と少しを渡しておく。食事はワシの家が隣じゃから食べに来るといい」

 ……なんて待遇が良いんだ。

「もちろん、アルバイトを始めたら領収書代わりのレシートに記載がある通りの金額を返してもらうわ。……そのほうが借用が無い分、心理的負担が減るでしょう?」

 ……それはそうだ。

「探偵士さん、レシートの裏に住所を書いておいたから。ボク達は先に阿笠博士の家に戻ってるよ!」

 あ、置いていかれたな。

 まあ散々付き合わせてしまったし、身元引受人にまでなってもらった恩があるからな。

 

「分かったよ、ありがとう。また後でね」

 

 、、、

 

「すみません、ギッターを一箱ください」

 

 証明写真を撮り終えた後、ドラッグストアで最低限の日用品を買物をして……タバコを買ってしまう僕を許してくれ。

「ギッター?」

 ……おいおい、まさかタバコすらないのか? 

 店員の背にある陳列棚には見慣れたパッケージではなかったが、同じ銘柄を掲げた箱が見えている。

「ギルテスター……そう、それです」

 買い物かごを渡して会計を待ちながら商品のラインナップを確認するが、やはり馴染みのものが減っている。

「2,605円でーす」

 ガマ口で小銭を探すと嫌な顔をされたが、先程の客がカード決済で済ませていたからだろう。

 時間が掛かる事が好まれないのか……。

 じっくりと手間暇かけることは贅沢品なのかもしれない。

 

「どうも……」

 


 

「米花町2町目22番地……」

 

 レシートを頼りに歩道を歩いているとマンションに備え付けられた郵便ポストの前に通りかかった。

 その瞬間に郵便物を回収に来た局員の乗ったバイクの頭上にテラコッタの植木鉢が落ちて、バイクが倒れた。

「「大丈夫ですか!?」」

 不意に声が揃い、前方を見るときっちりとした黒シャツに濃いグレーのスーツ姿に眼鏡をした茶髪の男性が局員に駆け寄っていた。

 局員は若い男性らしかったが、幸いにしてヘルメットを着用していたため意識はあるようだ。

「すみません眼鏡のお兄さん! 自分は連絡手段を持っていないので救急と警察に連絡をお願いします! 犯人に隠蔽工作されないよう部屋に向かいます!!」

 眼鏡の男性がコクリと頷いたのを見て慌ててマンションの階段を駆け上がる。

 あの落下速度と破裂した勢いならば5階だろう。

 そして郵便ポストに面する部屋に辿り着くとチャイムを鳴らした。

「開けてください! 僕はマスターオブディテェクティブ、探偵士です!! 現場保存のために現場を隠匿しないでください!!」

 ハァハァと息を切らせながらチャイムを連打するとガチャリとドアが少しだけ開いて防犯チェーン越しに軽装の女性が現れた。

「なによ、うるさいわね……。あたしの睡眠を邪魔しないでくれる?」

 確かに就寝時間が異なる人には申し訳ないけれど。

「貴方、ベランダに鉢を置いていますね?」

 女性は深い溜息をついて切り返した。

「だから? ちゃんとベランダの手すりの中に置いてるわよ。他の人と同じ。スポンジラックを引っ掛けるものを使ってね」

 だからテラコッタ鉢が外に出るわけが無いと。

「先程、貴方のベランダから鉢が落ちて人が怪我をしたんですよ」

 女性はイライラし始めて口調が荒くなっている。

「知らないわよ!! 私は寝てた!! 事故でしょ!! 手すりの上に置いたり投げたわけじゃないんだから! しょうがないじゃない!」

 しょうがないで済めば過失は問われないんだよな。

「ベランダの角ハンガーの洗濯バサミとその下に落ちているゴミを見せてください」

 すると女性はみるみるうちに真っ赤になった。

「ただ覗きたいだけでしょ!? 違う!?」

 ……仕方がない。ハッキリ言おう。

 

「貴方はカラスを使って故意に植木鉢を落としましたね?」

 


 

「は、はあ? カラス? あたし調教師でも何でもないわよ? 餌付けだってしてないし、してたらバレるから無理でしょ!!」

 

 餌付けはしなくとも行動は予見できる。

「貴方は角ハンガーの端に『キラキラと照り返すカラーワイヤーの束』を下げ、手すりの前に配置された植木鉢の真上に来るように配置した」

 女性は胸ぐらを掴んで怒鳴りだした。

「だから何が言いたいのよ!!」

 近い近い。

 そのままの姿勢のまま話を続ける。

「カラスは光るものを好み、特に巣作りの時期にはワイヤーのような硬質なものを住宅地から盗み取る。その習性を利用して足場になる植木鉢を置いた。カラスは飛び立つときに強靭な爪で陶器やガラス鉢くらい容易に持ち上げようとする。この持ち上げ行為はカラスがここを『遊び場』と認識していれば行うでしょう。カラスのイタズラではよくある現象です。……貴方はバイクの排気音を聞いてベランダの窓を開けるだけでいい」

 話をしていると背後に気配を感じて振り返ると先程会った眼鏡の男性が沈痛な面持ちで立っていた。

 いつの間にか救急車と警察車両のサイレンが鳴っている。

「も、もしかして、彼……打ちどころが悪かったんですか?」

 男性は何も言わずに下を向いた。

 場に重たく居た堪れない空気が流れ始めると女性は打って変わって青ざめていく。

「う、嘘よ!! さ、流石に死んだりしないでしょ? ……そんな……殺すつもりじゃなかったのに!! イヤァァ……騒音がうるさいからお仕置きのつもりで……捕まりたくないぃ……」

 あ・ほ・く・さ

 男性の後から警察官達が現れて状況を伝えた。

「ありがとう御座いました。先程の沈黙が無ければ自白はしなかったかもしれません」

 頭を掻いて苦笑いをすると男性は表情一つ変えずに言い放った。

「探偵士とはこの程度のものなのか」

 ……彼の機転が無かったら『偶然』と押しきられたかもしれない。

 それでも不法行為の責任は問われただろうが。

「すみません……」

 頭を下げて再び上げると男性の姿は無かった。

 

「あれ? 探偵士って彼に名乗ったか?」

 


 

「今日一日で三件も事件に出くわすとは……厄日か?」

 

 電信柱の電柱管理番号を辿って来たが見えてきたのは大豪邸の住宅地。

 阿笠博士は博士というだけあって特許富豪なのか? 

 古い車種のビートルを好んでいる、つまり整備に金がかかること自体は生活苦に繋がらないのだろう。

「一本……」

 近くの公園に入ってようやく一服をする。

 箱からタバコを一本取り出し、咥えて使い捨てライターで火をつけた。

 いつにもまして甘く感じる……。

 こうやってタバコをふかしていると、誰かから言われた言葉が脳裏に浮かんでくる。

 "……お前はホシになる……"

 ホシ……犯人、いずれ罪を犯すことを予見されたのだろうか。

 ……僕自身、優柔不断で自信があんまりない方だけど……犯罪者にはなりたくないな。

「あー!! いたいた!! 探偵士さん遅いよー!!」

 声がする方を見るとコナンくんが手を振って駆けてくる。

 慌てて灰皿にタバコを擦り付けて紫煙を全て吐き出した。

「ごめんごめん。道に迷っちゃてさ……」

 辺りはすっかり夕日に赤く染まりかけている。

 回り道をし過ぎたかもしれない。

「迷ったなんて嘘ばっかり。自力で此処まで来たじゃない」

 それはそうなんだけど……。

「踏み込むか迷った。阿笠博士っていう保護下に行くことが良いことなのか……」

 でも、このままだったら警察……いや、国の保護下になるだけで……最悪はホームレスとなって刑務所送りだ。

「お兄さんさ……何処かのスパイだったりしない?」

 いつもツッコミをしてくるコナンくんによる突然のボケにズッコケてしまった。

 スパイって、映画の観すぎだよ。

「スパイがそうそう日本にいるわけないじゃないか。どうしたんだいコナンくん? 僕がスパイだったら諜報機関が無能すぎやしないかい?」

 コナンくんの胴体を掴んで高い高いをするとムキになったのか怒鳴り声を上げた。

「もう!! やめてったら!!」

 嫌がる子供を無理に持ち上げたらいけないな。

 彼を降ろして謝らないと。

 子供だからといって敬意を払わないのは失礼だ。

「てめぇ!! コナンくんから離れろ!!」

 背後から女性の声がしたので身を屈めて地に伏せると蹴り上げる左脚が見え、そのまま太ももの内側を撫でるように抱えて顔を唇が触れる距離まで近づけると拒否反応により背が反った。

 その隙に左脚の太ももに左手をかけたまま右手で女性の首を腕で絞めた。

「実践経験がないな……土壇場では性差を利用して隙をつかれるからね、お嬢さん」

 このままだと落ちるが、落ちたら後遺症が残ってしまうからな。

 ……せっかく社会復帰の道を得たのに……犯罪者になってしまうのだけはごめんだ。

 

「二人ともやめて!! その人は悪い人じゃないから!!」

 


 

「あ、すみません……。暴力を振るうつもりはなくて……」

 

 女性の首と太ももから手を放して頭を下げた。

 ……蹴られそうになったから、正当防衛にな……ならないか。

 過剰防衛、更には婦女暴行で刑が……。

 なんで僕は取り返しのつかないことを……。

「ボクの方こそ悪かったよ……」

 女性は太ももを払いながら首を擦った。

 申し訳ない……か弱い女性に対して……。

「はぁ……この人は探偵士のデイヴィスさん。……お兄さん、この人は世良の姉ちゃんで……よく背後に回れたな」

 回れるも何も蹴り上げには下に潜り込んで体勢を崩すのが普通だしな……。

「探偵士? ああ……ミステリー小説のあれか。ボク、一応ジークンドーやってるんだよねー。……デイヴィスさんは何を?」

 截拳道か、最短距離を詰めて速度で相手を上回ることに長けている。

「僕は峨眉派とグレイシー柔術とエスクリマにクラヴマガ……え?」

 ……え? 

 そんなに格闘技なんか習ってたっけ? 

「え? ってなにさ。……ふーん、言うだけあって実践経験がありそうなラインナップだな」

 世良さんは顎に指を添えてこちらを見定めるようにこちらを見ている。

 実践経験なんてあるわけないじゃないか。

 ……あったら五体満足でいられるはずがない。

「というのは記憶喪失ジョークで……すみません、多分昔見た映画俳優の真似をしただけだと思います……」

 頭を何度も下げると二人は深い溜息をついた。

「コナン君は彼をどう見てる?」

「様子見かな……。高木刑事達に身元を洗ってもらっているし、何よりこんなに目立つ人間が反社会的なものに関わっていたとは考えられない」

 急に真面目なトーンになって会話に置いてきぼりにされてしまった。

「あのー……」

 流石に我慢の限界で会話に割って入ってしまった。

「「何?」」

 二人の凍てつくような視線が痛い。

 

「お腹が空いてしまって……」

 


 

「デイヴィス!! 待ってたぞい!!」

 

 信じられないことに、阿笠博士の邸宅は大豪邸だった。

「あ……はい。遅れて申し訳ありません」

 世良さんと別れてコナンくんと敷地に入ると阿笠博士と少年探偵団の面々がいた。

「探偵士のお兄さん!!」

「デイヴィスさん!!」

「探偵士の兄ちゃん!!」

 どうやら歩美ちゃんに光彦くん、元太くんは夕日が沈むのをバックに水鉄砲で遊んでいたようだ。

 夕陽のガンマンごっこかな? 

「みんなずっと待ってたのよ?」

 な、てっきりあの時に解散したのだとばかり……。

「待たせてごめんね。ここが秘密基地なのかな?」

 こんなに広い庭を子供たちに開放してるのか……。

 阿笠博士は太っ腹だな。

 チラリと見ると玄関の中に入ってしまった。

「ボク達は少年探偵団ですからね!! 秘密基地は少し語弊があるかもしれません!!」

 胸を張って誇らしげにしている光彦くんに手に持った水鉄砲を指さして尋ねた。

「ピストル型だね。ファストドロウをしていたのかな?」

 最近の水鉄砲はディテールが凝っていて引き金を引くと水が出る仕組みになっているらしい。

「ファストドロウ? ……ってなんだ?」

 元太くんに尋ねられて答えようとするとコナンくんの口が開いた。

「ガスガン……実銃以外を使って早撃ち対決をすることだ」

 そう言って水鉄砲を一丁渡してくれた。

「コナンくん、もう一丁貸してくれるかい?」

 哀ちゃんが持っていた水鉄砲を渡してくれたので、上着の裏にある左右のスリットにしまい入れた。

「立会人は少年探偵団のみんな。歩美ちゃん、合図を言ってくれる?」

 少年探偵団が見守る中、大の大人が大見得を切った。

「ゴー! 撃って!!」

 その言葉を合図にはだけた作業服の両脇に手を突っ込んで両手で二丁拳……水鉄砲を撃った。

「……デイヴィスさん、二丁拳銃はダメですよ」

 光彦くんにやれやれといったポーズをされて苦言を呈されると元太くんにまで愛想を尽かされた。

「兄ちゃん、西部劇でも見ねーぞ。ソレ」

 うう、二丁拳銃はロマンじゃないか。

「お兄さんがカッコいいって思うならいいと思う!」

 歩美ちゃんにトドメを刺されてしまった。

「えっと、これで僕がスパイみたいな裏稼業じゃないことを信じてもらえたかな?」

 そうコナンくんに言うと渋い顔をしていた。

「探偵士さんが現実的でない二丁拳銃を使ったから?」

 それに

「きっと太ももや腰、ヒップで格納する『ガンベルト』ではなく、使用例が少ない『ショルダーホルスター』の位置。それも上着の裏から直接取り出す形を選択したから『訓練されていない』と言いたかったんじゃないかしら」

 哀ちゃんが主張したいことを殆ど言ってしまった。

 

「おーいデイヴィス!! 君に渡したいものがある!」

 


 

「渡したいもの?」

 

 玄関から出てきた阿笠博士はキラリと輝くバッチを手にしていた。

 あれは光彦くんが通信に使っていたバッチじゃないか? 

「探偵バッジじゃ。使い方は哀君に聞いてくれ」

 手渡されたバッジをマジマジと見たが、ここまで小型かつ高性能な無線機にはお目にかかったことがない。

「あー! それ、少年探偵団だけの探偵バッジじゃないですかー!!」

 光彦くんが声を上げると阿笠博士はコホンと咳払いをした。

「ワシも持っとるし、臨時の少年探偵団見習いとしてデイヴィスを入団させてやってくれないだろうか」

 つまり、携帯電話を借りることができない自分に対して通信手段を与えてくれたのか……。

「……どうか少しの間だけ少年探偵団の見習いとして籍を置かせてください」

 頭を下げると元太くんの大声が響いた。

「オレは探偵士の兄ちゃんが入るの……賛成だぜ!! どうする? コナン!!」

 やはり、コナンくんが実質的なリーダーか。

「そうだな……灰原はどう思う?」

 そして哀ちゃんが副リーダー。

「危険人物なら目の届くところに置いたほうがいいから。賛成よ。言っておくけど記憶喪失である以上、警戒するしかないわ」

 不審者を通り越して危険人物の可能性ありだと思われていたのか……。

「歩美もいいと思う! ね? 光彦くん!!」

 歩美ちゃんが飛び跳ねると光彦くんはガックリと肩を落とした。

 

「いいと思います……」

 

 、、、

 

「少年探偵団見習いか……」

 

 バッチを手にしてお世話になる家を目指したが、米花町2丁目21番地……お隣さん!? 

 阿笠博士は随分と太いパイプを持っているんだな。

 しかしここまで精密で高性能の機器を開発できるのなら当然か。

 ……量産体制になっていないのは金持ちの道楽か? 

 とりあえず玄関のチャイムを鳴らして表札を見る。

 工藤……。

 ならこの住まいにいたのは工藤 新一……。

 東の高校生探偵の工藤 新一なのだとしたら……。

『どちら様でしょうか』

 インターホンから男性の声が聞こえて慌てて返事をする。

「デイヴィスです。……阿笠博士の紹介で来ました」

 すると玄関の戸が開いた。

 

「探偵士とはどうやら暇な職業のようだ」

 


 

「あ、あ!! 貴方あの時の!!」

 

 玄関から顔を出したのはマンションで出くわした眼鏡の男性だった。

「……入ってください。家のルールを説明します」

 柔らかい言い方のようでぶっきら棒なニュアンスで歓迎されていないことがわかる。

 彼が東都大学の大学院生か……。

「はい……。昴さんとお呼びすればいいでしょうか?」

 玄関で靴を脱いで広い廊下を歩くとピタリと止まった。

「沖矢 昴。……ラストネームの方で読んで頂ければ」

 威圧感にただただ頷いた。

「……沖矢さん、家事は僕がしましょうか?」

 再び歩き出して階段を上る沖矢さんに恭しく伺うとキッパリと断りの言葉が放たれた。

「後々揉めます。気がついたほうがすればいい。ただしランドリールーム、風呂場と洗面所の使用時間は指定させてもらいます。もちろん使用後の湯船の栓は抜いてください」

 湯船の共用もNGなのか……。

 もしかして潔癖症? 

「あのー……しょ、食事は? 2人分作った方が食費が浮きませんかね?」

 歩みが止まって空き部屋の扉が開かれた。

「ここがデイヴィスさんの部屋です。……食費というのは一方から見ればそうでしょうが」

 折半するから……炊飯器まで共用NGなのか? 

 流石に阿笠博士の家で毎日食事をご馳走になるのは無遠慮にもほどがあるし……。

「ダメですかね?」

 部屋に買ったコンビニ袋を置いて階段を下りる沖矢さんを追いかけた。

 沖矢さんは此方を振り返ることなくダイニングルームに入るとタリアータと小エビのサラダ、サフランライスにビシソワーズが2人分用意されていた。

「時間が合う時にはご一緒できるかと。それ以外はご自分で調理してください」

 う、嬉しい……。

 冷たい対応からの『実はディナーを用意してました』というギャップで胃袋を掴まれてしまう。

「あ、ありがとう御座います!! では、手を洗って来ます」

 一礼して洗面所に向かった。

 鏡には、僕という男が映っている。

 僕はデイヴィス、探偵士だ。

 ……僕は誰だ? 

 なぜあのアパートに居て、意識を失っていた? 

 どうして記憶がない? 

 ダメだ……鏡の実験になってしまう。

「デイヴィスさん、料理が傷んでしまいます」

 ダイニングルームから声が掛かってハッと我に返る。

 先ずは生活を立て直さねば……。

 

「はい! ……今行きます」

 

 

 






 あとがき



【挿絵表示】

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