探偵士、少年探偵団と出会う。   作:ummt

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第二十四話 探偵士、打ち明ける。

 

「あっ……はい、ニャロメ……どうぞ。」

 

 じりじりと近づいてくる梓さんと世良さんから後退りしてニャロメからニャロメを取って渡した。

「わぁ……大きいぬいぐるみ……ありがとうございます!!」

 眩しい笑顔を向けられる資格がない。

 先程まで、拘置所という地下の穴蔵に居たのだから。

「結構お金使ったんじゃないか?こんなに沢山……なんだかせがんだみたいで悪いね。」

 悪いのは自分であって、彼女ではない。

「デイヴィス君の知り合いですか……今日の所は失礼する。」

 ニャロメはニャロメを抱えて歩き去ってしまった。

「探偵士くん、少し時間あるかい?」

 ないよ、帰るよ。

「蘭さんが東都タワーでの勇士を称え、無事だったお祝いにカラオケに行く話をしていて、お祝い用のメニューがある店舗の下見に今から行くんです!!」

 まさか蘭さんが東都タワーでアイリッシュと競り合ったのか……?

 あのアイリッシュを単身で止めた……。

「僕は……その……。」

 言葉に詰まって身を翻そうとすると、左手首と右手首を掴まれた。 

「一緒にカラオケ行きましょう?デイヴィスさん!!」

「行こうよ探偵士くん!!」

 二人に手を引かれて思わず大声を出してしまった。

 

「助けてニャロメ!!」

 

、、、

 

「……風見と申します。」

 

 風見さんと、偶然通りがかったらしい安室さんと沖矢さん、梓さんと世良さんとカラオケルームに入ってしまった。

 拘置所から出て直ぐ二人からの監視、しかも近距離で観察されていたのか……。

 まだ組織側に寝返る危険性があるとされている。

「デイヴィスさんのお友達ですか?」

 梓さんの無邪気な問い掛けに風見さんは頷いた。

「友達なら紹介してくれよ探偵士くん!!君は自分のことを隠してばっかりじゃないか。……あ!!そうだ……そうだね……突然だけど君は好きな人、いるのかい?」

 ……何を藪から棒に……。

「そういう世良さんはいるんですか?」

 訪ね返すと彼女は顔を真っ赤にして拳を握った。

 自分に返ってくる問いに狼狽えるくらいなら質問しなければいいのに。

「質問を質問で返しちゃ駄目ですよ!!ちゃんと答えてあげてください!!」

 それもそうだ……。

「強いて言うなら……人間的に……風見さんですかね……。」

 風見さんは呆れた顔をして、世良さんと沖矢さんは腕を組んで眉を顰めた。

「自分を切り売りしてまで対象外化……目眩ましが必要なのか……。」

 梓さんは眉をハの字に曲げるとニコリと笑みを零して、隣に座る安室さんは目を見開いた。

 

「なっ……そういう……だから女性に……ああ……多様性の時代ですから……人を好きになるのは個人の自由……いいと思います……。」

 


 

「デイヴィスさん……うれし……うれしい……」

 

 カラオケから帰ったあと、直ぐに熊津を呼び出した。

 ヴェルヴェーヌが梓さんや世良さん達の情報をどれだけ把握していて、横の繋がりがあるかを聞き出さなくてはならない。

「熊津さん……好きだよ……他の誰よりも……」

 研究施設にいた三人、コカレロにガリアーノ、アブサン。

 それにビルから転落したシャルトルーズ、銃殺され死んだスーズ、熊津……ヴェルヴェーヌを入れれば……計画の7人だ。

「もっと……いって……」

 コカレロは刑務官、二人のうちの誰かが警察病院に勤める脳外科医なのは確実になった。

「あのさ……僕の他にも男がいるでしょ……正直に言ってほしい……嫉妬でおかしくなりそうだよ……」

 安室さんが言っていた『国家公務員のノック』が『複数』なのか『特定の一名』を流石が断定されていない。

「もう……かわいいんだから……ふふ、今生きてるのは三人だけ……コカ、ガリア、アブ……びっくりした?」

 流石に馬鹿すぎて驚いた。

 狭い組織内で関係を持つなど自殺行為にも程がある。

「……僕は四番目なの……?」

 ヴェルヴェーヌに本気で入れ込んでいる男がいる可能性に賭けるか……。

「パワーのコカ、スタミナのガリア、テクニックのアブ……優しさのイザラかな……ふふ、拗ねてるの?」

 丁度いい、三人に賭けよう。

「写真撮ろ……?記念写真……僕が一番になれないなら……練習するから……」

 そう言って手を差し伸ばすとヴェルヴェーヌはスマホのパスワードを解除して渡した。

 ショルダーハッキングは完了した。

「ねぇ……もっとくっつこ?」

 適当に済ませてスマホのフォルダから写真を選択してメーラーを起動してデイヴィスと名前があるアドレスを探した。

「彼氏彼女って感じだ……」

 くだらない事を言って添付ファイルとして操作して、コカレロの岸良、コードネーム不明の塞本のアドレスを探そうとタップを続けると、ヴェルヴェーヌが腕を振りながら声を掛けてきた。

「……どうしてメールアプリで不審な動きをしたの?私のスマートウォッチに通知が来たよ……ねえ、どうして?」

 確かにヴェルヴェーヌの腕にはゴムバンドが巻かれているが、アドレス帳を探っているだけで通知をしたりはしない……よな?

 物理的なメカトロニクス設計技術に秀でたヴェルヴェーヌの技術力でもアプリケーション側の改造は出来ないだろう。

 

「……何の話?」

 


 

「知識があるのはイザラだけじゃないんだよ……?他の諜報員を舐めてると痛い目見るから……」

 

 ヴェルヴェーヌはゴムバンドを叩いて勝ち誇った顔をした。

 コードネームと諜報員である事実をホテルの一室で口にする馬鹿がいるか。

「……誤解だよ……君はすごい女性だって分かってるから。」

 技術力はあるにも関わらず、抜けているからポンコツを意味するレモン……レモンバーベナで作られたリキュールであるヴェルヴェーヌの名を付けられた女。

「そっか……なら『写真』を『イザラのスマホのアドレス帳にいる全員』に送ったこと、褒めてくれる?」

 ……何を言ってるんだこの女。

「……どうやってやったの?」

 アドレス帳をハックして自動送信するとしても、まず侵入経路が無いことには……。

「イザラが私のスマホから自分のスマホに宛てて写真を添付して送った時、その写真を拡散するプログラムも入ってたんだ……。イザラが裏切って私達の写真データを送ろうとしたら全員に遺体の画像や拷問の記録が一般人に送られちゃうの……。」

 ……控えめに言って……。

「じゃ、じゃあ彼には送っ……あ」

 慌てて口を手で押さえる動作をした。

「……彼?……ねえ、何?彼って……」

 ベッドに四つん這いになり迫りくるヴェルヴェーヌから顔を逸らして下を向いた。

「な……なんでもない……」

 するとヴェルヴェーヌは馬乗りになって首を絞めながら絶叫し始めた。

「言ってよ!!誰なの彼って!!イザラがゲイなら私が一番じゃないじゃない!!殺してやる!!誰なの!!言いなさいよ!!」

 手の力は存外弱く、呼吸は出来た。

「絶対にヴェルヴェーヌには言えない……言ったら彼……」

 その時点で何かに気づいたのか、ヴェルヴェーヌは服を乱雑に着て部屋から出ていってしまった。

 そして、自分のスマホのメーラーアプリの受信トレイに一件未読があることと、送信済みトレイに何もないことと『不正送信』に未送信のものがある事を確認して胸を撫で下ろした。

「SMTPサーバーに行く前に命令文が無いと弾くようにしておいてよかったな……。転ばぬ先の杖だ。」

 ヴェルヴェーヌが慌てて出ていったため私物の忘れ物がないか、髪や体液に指紋なんかも取れるだけ取ってギルテスターに火をつけた。

 

「突撃、お宅の検証室の時間か……。」

 


 

「ちょっと入りますよ。」

 

 家主の居ない熊津の部屋に入って監視カメラ等があることを踏まえた上でスリッパを履いて室内に入った。

 熊津の部屋は散らかっており、デスクトップパソコンとメカトロニクス用の配線資材や3Dプリンタ、ハンダゴテに鉄板類が無造作に置いてある。

 白い手袋をしてパソコンのキーのこすれ具合とショルダーハッキングした番号を踏まえて推測したパスワードを入れるとUSB差し込みをするまでもなく侵入できた。

 そしてブラウザからメーラーを起動するとスマホと連動していたので、スマホからBccで送られた熊津のアドレスに添付された写真を熊津と密なやり取りをしている三つのアドレスに『パワーのコカレロ、スタミナのガリアーノ、テクニックのアブサン、トリックスターのイザラ』という一文と共に送信した。

 その後、認証外USBを差し込むとセーフティにより自損する恐れがあったため、使用頻度が高いアプリケーションを探し出して撮影し、アドレス帳やデータベースも同じくカメラで撮影した後にUSBを差し込んで遠隔操作を可能にした。

 流石にガラケー改に直接接続はせず、代理媒体での運用になるが。

 ヴェルヴェーヌに組織から下った指示はメカトロニクス製造と諜報活動だけ。

 やはり独断で動いている者たちがいる。

 暫くの間データや室内の物品を物色していると玄関の扉がゆっくりと開かれた。

 ヒップホルダーにある拳銃に手を伸ばしながら様子を窺うと、顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしたヴェルヴェーヌが立ち竦んでいた。

「だずげでぇ……私っ……私……殺ざれる……うぇっ……うゔ……死にだぐない……」

 そう言って握りしめたスマホを投げ出して床に蹲って泣き始めた。

 事後写真を撮った時点で逆に組織側に流れる可能性があると何故想像しなかったのか理解に苦しむ。

「可哀想に。……どうして殺されちゃうの?」

 床に上半身を押しつけている彼女に問いかけた。

「いっイザラがぁっ……イザラが嵌めたからぁ……私があの人達に勝てるわけないよぉ……助けてくださいぃ……」

 自分で誰かに問いただしにいった帰りなのか、直前なのかが分からないが。

「助けて欲しいの?」

 最低でも接触がある岸良、塞本に会いに行ったとして……岸良は刑務官でおいそれと機会は設けられない。

「助けてください……何でもしますから……。」

 そうか。

 

「分かった。助けてあげる。取り消しは認めないよ。」

 


 

「風見さん、サシ飲みありがたいです。」

 

 多忙な風見さんを再び呼び出して居酒屋のカウンター席に座った。

「場所……此処でいいのか?普通、個室に行くだろう。」

 人混みの雑音がある方が盗聴にノイズが乗り、スナイパーによる狙撃も人波と居抜きをしなければならず、ショルダーハッキングも監視カメラの位置を把握すれば情報の重要度によってはほぼ無視していい。

「ヴェルヴェーヌを手中に収めました。現在は今まで通りの密偵の動きをさせています。いつでも動かせますよ。」

 すると風見さんは口を大きく開けて絶句した。

「な……君のストーカーだった者だろう……どうやって……。」

 話せば長くなるし、話したくない。

「少し昔話をしますね。僕、デイヴィス阿笠は本名エルダー・ブルドンとしてスタントマンをしていました。現在はイザラという星の名を冠した黄色と緑のリキュールの名で呼ばれています。……僕が星にしなければいけないのは、最低でも7人。映画『ギルテセブン』に関与した者。」

 1. シャルトルーズ

  女王の名を冠した黄色と緑のリキュール

  元アクション俳優

 2.スーズ

  妹の愛称で呼ばれる黄色のリキュール

  元特殊メイク技師

 3.ガリアーノ

  英雄の名を冠した黄色のリキュール

  元舞台セット建築家

 4.アブサン

  ヨモギの名を冠した緑色のリキュール

  元VFX演出家

 5.コカレロ

  生産者の名を冠した緑色のリキュール

  火薬危険物取扱者

 6.ヴェルヴェーヌ

  レモンバーベナの名を冠した緑色のリキュール

  メカトロニクス技術者

「7……?まず人数は置いておくが、確かに職務的に諜報員として扱いやすいだろうが……君は彼らと組まされていたのか?ならば公安になった時点で情報を渡すべきだったろう。」

 そう言われても、あの時点で全員の情報を流したら組織から泳がされずに暗殺されていた。

「今情報を出したのは、今しかタイミングが無いからです。この情報は7人全員が星になったら使ってください。それ以外で深掘りしないでください。必ず守ってください。彼らが僕を見くびっている今しかない。」

 風見さんは無言になり、暫く考え込んだ。

「……君は、我々を裏切るプランがあるからこそ、今言ったんだな。」

 静かに放たれた重い言葉が、賑やかな喧騒にかき消された。

 

「僕が悪者になったら……風見さんが殺してください。」

 


 

「安室さん……あのー……刑務官の岸良と警察病院の塞本って居ますよね……。」

 

 翌朝、梓さんが出勤する前に様子を伺った。

「ああ、もう二人とは接触されましたね。二人とも隠れ公安として表向きは国家公務員を務めている人間です。」

 ……つまり、そういう事か。

 此処で組織の名が出無いということは、二人とも安室さんが提示した『ハニーポット』用の『NOC』ではない。

 岸良と塞本の二人は『隠れ公安』という共有認識から『認識のズレ』を呼び起こして『自分こそがNOC』とする手段を取った。

 拘置所と警察病院では『本名、職務、隠れ公安か否か、コードネームは何か、NOCかどうか』を当人が居るその場で確認しないからな。

「隠れ公安って結構居るんですね……。」

 岸良がNOCのフリをして自分に接触したとして『何故今、自分は生きている』のかと言う疑問が残る。

 あの檻の中で殺害は可能性で、アイリッシュからのしおりを渡したのには理由があるはず。

 ……いや、アイリッシュからの、とは直接言っていない。

 自分を泳がせて別のターゲットを釣ろうとしている?

 ……公安の安室さん、FBIの沖矢さん、警察上層部……。

「アナタが二名の名前を出したということは……そういう事だとして警戒しておきます。勿論、表立っては動きませんから。」

 少なくとも二名は無関係な人間を害する者ではない。

 ただし、ジンや他の者の命令ならば話は違ってくる。

 そもそも何故、自分が彼らを狙うように彼らも自分を狙うのか。

 記憶喪失として薬剤を投与され実地に投入されたのが自分だったから、という職務的な嫉妬心と役の強奪?

 自分が7人を追うのは……。

"君の私に関する記憶はRAMとして揮発する"

 はい。RAM。

 

「いえ……仲間が何人居るのかなって……思いまして……。」

 


 

「ねえねえデイヴィスさん!?アンタ風見さんが好きなの!?」

 

 人の出入りがまばらになる時間帯に蘭さんと園子さんに世良さんがアポロを訪れた。

「良い人だなっていう話で……」

 苦笑いして頭を掻いて下を向くと腕を引かれた。

「見てよ!!君から貰ったフェネックのぬいぐるみ、どうにかスマホにつけてみたんだ!!大きいから中々付けられなくてね!!」

 世良さんが腕を伸ばしてフェネックのぬいぐるみが付いたスマホをかざし、文字を見せつけてきた。

 inwo'etclpaighvlan koyursitylynteili.

 柵型暗号か……。

「……買い被り過ぎですよ。」

 頭を下げてキッチンに向かうと梓さんが此方を見て涙を溜めていた。

「なっ……梓さん?大丈夫ですか?」

 顔を覗き込みながら近づくと、梓さんは安室さんの背に隠れてしまった。

「……何でもありません。」

 安室さんの方に目をやるが、顎に手を置いて知らぬ存ぜぬといった態度を取っている。

「……流石に、女泣かせは伊達ではない……梓さん。悪いことは言いません。デイヴィスさんはこういう人ですから……別の恋愛を初めることをお勧めします。」

 こういう人というより、梓さんと交際しているのに従業員や客に対してはぐらかしているのは安室さんのほうだろう。

「ひっどーい……世良さんにはプレゼントをあげて梓さんには渡さないなんて……。」

 蘭さんの呆れ声にようやく状況を理解した。

 世良さんにしかぬいぐるみを買ってないのは、梓さんが好きなのは三毛猫で……家猫である三毛猫のぬいぐるみが動物園になかったからであって……。

「すみません……財布が寂しくて……。」

 苦笑いも消え失せて、ただテーブルの木目を見ていた。

 財布が寂しかろうが、一人だけを特別扱いした事実には変わらないからな……。

「違うよ梓さん!!ボクが事前に代理購入をお願いしてたんだ!!」

 世良さんが戯けてみたのはいいものの、場の空気は氷点下まで冷え切った。

「デイヴィスさーん!?ちゃんと説明しなさいよ!!」

 園子さんと蘭さんの圧が強くなる。

 ……この居た堪れない空気も、自分が女好きというレッテルを貼られておちょくられることも、全て彼女達をターゲットから外すために必要ならば甘んじて受け止めよう。

 自分がどんな評価になってもいい。

 彼女達が平和に過ごせるのなら何だってしよう。

 

「あはは……何も言うことは……無いですね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 第三章 ヴェルヴェーヌ - オランジュ 完

 

 







 あとがき


 地獄のカラオケボックス
 一時間で解散して欲しい

 ヴェルヴェーヌの写真はまだ

なかみについて(期間限定アンケ)

  • ややこしい(かため)
  • 分かり易い(やわらか)
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