『夏目くん!! どうして僕の結婚したいくらい大大大大好きな名探偵、毛利小五郎大先生のご指名を受けてるの!? 許せない!! ジェラシー感じちゃう!!』
無線から聞こえてくる腑抜けた声に、ただ冷静に答えた。
「知らねえよ。『ワープターミナル東都』で会ったからじゃねえの」
石川 元気はいいヤツだが、正直鬱陶しいからな……。
『僕以外の男の座席に乗るなんて……キィィッ!! 毛利小五郎大先生の座る後部座席は僕のタクシーだけなんだからっ!!』
わりとマジで五月蝿えな……。
「あのなぁ、『好意』っつうのは押し付けがましくするもんじゃねえ……。相手を慮って自分の身を引く覚悟で抱けよ。影響を与えんなら『悪』じゃなく『良』を与えるよう意識しろ」
車のエンジンをかけると、毛利探偵事務所までの道を走り始めた。
『……夏目くん、なんだか最近様子がヘンだよ? 何か悩みでもあるの? 恋とか愛とか? 僕で良かったら相談に乗るよ』
こんな調子でも察しが良い。
石川は友人としては100点満点の男だ。
「別に……。石川、お前のアパート猫飼えるか?」
、、、
「お!! 来たな夏目……えーと、下の名前は何だった?」
毛利小五郎は後部座席に乗り込むと首を捻った。
「安慈です。安寧と慈愛の安慈です」
バックミラー越しに表情を見るが、俺の事を特段意識しているわけでは無さそうだ。
「ああ、アンジな! 確か暗示だとかアンジー、アンジェラっつう女みたいな名前だった!! 思い出した!!」
本名はジェローム・デーヴスだが、今ではアイツが似た語音の『デイヴィス』を名乗ってやがる。
組織からコードネームのシャルトルーズを与えられてから、偽名では女に扮してい時の『棗 アンゼリカ』を使っていた。
棗はナツメグから、アンゼリカはそのままハーブの名称だ。
そして今もナツメグから夏目、安慈もアンゼリカから取っている。
この俺の偽名を含めて、俺達は酒の原料の名をもじって名乗っている。
スーズの玄地 シュザンヌはゲンチアナと開発者の身内の姉妹の名から。
ヴェルヴェーヌの熊津 来縁はクマツヅラとレモンバーベナから。
蓬原は本名から蓬を取ってニガヨモギのアブサン。
塞本は本名から塞を取ってパッケージが要塞であったからガリアーノ。
コカレロの岸良は……何だったか、忘れちまったな。
いずれにせよ……組織の構成員同士が潜伏していても、お互いにある程度所属を察することが可能なように。
「よく女性と間違われるんですよ。自分で言うのもなんですが、美形は美男にも美女にも間違われますからね!」
「しっかし、探偵士の奴には夏目の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいだ」
……エルダー……デイヴィスが何だって?
「探偵士? ああ、あのデイヴィスさんですか。『ワープターミナル東都』でご一緒しましたね」
アイツはあの時点からアブサンと因縁があったのか、あの日以降で因縁が生まれたのか、接点が分からない。
少なくとも、スーズ、ガリアーノ、ヴェルヴェーヌ、アブサンの四人はアイツと接触を接触を図ってから時間を置かずに他者により殺害されている。
「探偵士の奴、ポアロで働く同僚の梓ちゃんにベタ惚れなんだ」
……は?
アイツが? 一般人の女に?
スタントマン時代、女優やスタッフを食いまくって捨てていたあのカスが?
「へぇ……そんなに可愛いんですか?」
一般人に惚れた演技をして、アイツに何の得がある?
同じ職場にいるバーボンの隙を突いて出し抜こうとしている?
一体何故だ、アイツはベルモットの下に付く実質的なラム直下の兵隊……ベルモットとバーボンに何か諍いがあるのか?
「ああ! 可愛くて気立てのいいお嬢さんだ。明るくて素直な良い子だよ」
顔が好みだったら手を出してる筈……。
……バーボンの手前、手が出せないのか?
なら、バーボンの女……バーボンが好意を持っている?
だとしたら、バーボンのウィークポイントはその『梓』という女という事になる。
「あー、告白出来なくてウジウジしている感じですか?」
バーボンは優秀な構成員だが、弱味の一つや二つを握れないのも癪だったからな……。
「それが違うんだ。探偵士の奴、自分からポエム語りをするクセに告白を断ったっつうんだ!! 梓ちゃんから聞いた時には胸ぐらをつかんでやりたかったぜ、まったく……」
……は、はあ?
告白されて、断った?
昔のアイツならワンナイトして捨て……。
……おかしい。
前にタクシーで呼びつけられた時、その前に星雲センターで戦った時もそうだった。
性格が、思考パターンが、行動が……俺の知る『エルダー』と異なっている。
……まるで
「……優男、気弱で自信がないみたいですね。……毛利さんからガツンと言ってやってあげたほうがいいですよ」