探偵士、少年探偵団と出会う。   作:ummt

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第三十話 探偵士、詰む。

 

「僕はギルテセブン……」

 

 キーボードのエンターキーに触れた手が震えている。

 もし仮にキーに入力判定が入っていれば、今の時点で爆発する。

 ……いや、爆発物……信管には制御のために起爆まで一定の遅延装置……フールプルーフの思想の下でフェールセーフ機能を設けているものもある。

 爆発物を配置した者が誤って操作を行い死亡するリスクを減らすために危険物こそ安全設計が成されていなければならない。

 今、入力してしまったものはデリートキーを押して取り消し操作を行えば起爆スイッチに直結するだろう。

 ならば右手の人差し指がエンターキーに軽く触れている状態のままで……左手で信管をバラして構造から火薬に着火する前に解体をするしかない。

 右手を固定しながら左手で作業着から出しておいた工具類からドライバーでむき出しになったキーボードにつながれた基盤から銅線を追っていく。

 ……最悪なことに火薬が入っているのは恐らくキーボードの下に配置された入力台に当たる箱の内部。

 キーボードを動かせないならば、基盤から止めるしか無い。

 この場合、キーボードからの入力をさせるということはマイコンでの電子機械的処理か、または特定キーを打ったことをアナログのギア等による押下確認処理して起爆させるかの何れかだ。

 わざわざ剥き出しの基盤の電気回路とスイッチの間にマイクロチップグラフィティを施しているのは『これが電子機械的なもの』であると印象づけるためと考えられる。

 電線を切断して電力の供給を止めれば爆発する……。

 おかしい、もし電力を消費するものであれば蓄電池が備えられていなければ不自然だ。

 時計式、電話式、電子機械的、いずれにせよ電池による電力の供給がないことには動かない。

 現にあるのはキーボードと入力台、基盤のみで何を入力したかを通知するモニターやタイムリミットを知らせるセブンセグメントもない。

 しかも箱から取り出したのなら入力台とキーボードは分離できる。

 一か八かキーボードを左手で押さえながらずらすが起爆しない。

 そのままキーボードを平行に掴みながらゆっくりと地面に置き、現れた入力台のネジ部を左手で回して開封すると、木製のピアノ鍵盤のような構造が現れ、最下部に下敷きサイズのC-4が見えた。

 これを爆破するには相当な衝撃を発する雷管が必要になる。

 そしてピアノ鍵盤はピアノ線ではなくキーボード入力による電気信号をアナログの圧力に変化して段階的に沈む仕組みになっているようで、この圧力を掛けて起爆させるのだろう。

 ……そもそもマイクロチップグラフィティのキーワードを入力すれば『起爆が止まる』とも『起爆する』とも書いていないからな。

 爆発物を置いた犯人による明確な……イザラ、自分を狙った罠だ。

 

「接続部を外せば問題は無い……どわー……終わった……後は爆発物処理班に物を渡せばいいか……」

 


 

「デイヴィスさん!! 大丈夫っすか!?」

 

 地面に胡座をかいて脱力していると、アブサンが駆け寄ってきた。

「何しに来た……」

 アブサンは爆発物を覗き込んでボソッと呟いた。

「……失敗したのか」

 ……成る程。

「ああ、大失態をやらかした……」

 大きな溜息をついてみせるとアブサンは分離した爆発物を両手に抱えて金属の箱に入れた。

「デイヴィスさんを手伝えと通達があって……観覧車のホイール部分に爆発物が設置されているみたいで、今安室さんが解除しているところっす」

 安室さんは爆発物処理も出来るのか……。

「次は何だ? 警察車両が集まっているんだ、爆発物処理班が待機しているから爆発物の回収ではないだろう」

 アブサンは金属の箱を駐車場の脇に設置すると観覧車の乗り場まで走り去りながら答えた。

「キュラソーが観覧車の上でジン達に回収される……その前にキュラソーを押さえないとバーボン含めNOCの命はない……」

 そう話終える瞬間にすっかり暗くなった空から轟音と共に銃撃音が鳴り響いた。

「なっ……空中から!? ヘリの音はしなかったぞ!?」

 空を見上げるとオレンジ色の火花が観覧車のホイール部分に向けて何度も散っていた。

「あれは組織の保有するオスプレイの暫定防御兵器システムによる爆撃……まさかこんな形で公の目に晒すとは……」

 組織は軍事用の航空機も抑えていたのか……。

 一体何処まで勢力を伸ばし続けるつもりなんだ……。

「観覧車を銃撃したということはキュラソーを回収出来なかったのか!?」

 ホイールを爆撃しているというのなら、安室さんが解除した爆発物とは別の基軸部分に同じ種類の爆薬が用いられているはず。

 このまま熱と衝撃が加わり続ければ車軸が外れ、海側……最悪は水族館側にホイールが回転して激突する。

 肉眼では事前に整備中とでもしておいたのか人が観覧車に乗っている様子はなく、新館施設のみが停電している事から、キュラソーは回収の予定で観覧車付近までは大人しく従い、その後離反を起こしたのか。

 その時、打ち上げ花火のような閃光が炸裂し、黒い飛行物体の影を捉えた。

 

「不味い!! ホイールが外れた!! 水族館側に落ちたて回り始めたっす!!」

 


 

「ホイールを止めないと水族館が崩壊する!!」

 

 両輪ではないにしろ本体の一つ辺り車軸だけで2,000トンはあるだろう。

 この巨大な鉄の輪を止めるには相当の力を加えなければならない。

 先ほどの尺玉のような球体が星雲センターで見せたコナンくんの巨大化サッカーボールだとして、あのサッカーボールをクッションに出来ないか? 

 ……いや、質量でどのみちガラスや壁は押しつぶされるだろう。

 この状況で、どうすれば最小限の被害で抑えられる? 

「デイヴィスさん!! サッカーボールが!? なんだあれは!!」

 水族館に迫りゆく観覧車のホイールとの間にゆっくりとサッカーボールが巨大化していく。

「あの拡大スピードでは膨張が追いつかず、逆に水族館を圧迫して破壊してしまう!!」

 このままでは施設ごと来場客が潰れる。

「何だ何だ!? 次から次へ……高所作業クレーン車が下に回り込んだ!? あのままじゃ、あのクレーン車は支え棒どころか下敷きになるだけだ!!」 

 下敷き……まさか、車止めになるつもりで? 

 一体誰が……。

 

「ホイールが止まった!! アブサンは爆発物処理班と連携して基軸に付けられた残りの爆発物を処理してくれ!! 僕はキュラソーを捜査する!!」

 

 、、、

 

「風見さん!! キュラソーは!?」

 

 けたたましいサイレンの音が鳴る救急車に囲まれた担架の上で灰色のビニール袋……遺体袋が置かれ、回収される寸前だった。

「遺体がキュラソーかどうか、未だ分からん。……ただこれを……坊やが『記憶ではなく思い出』だと言ったんだ。これが何だか分かるか?」

 全身に怪我を負い満身創痍で部下に肩を借りながらも風見さんがその手から差し出したものは、黒焦げになり炭化した……イルカのストラップだった。

「あ……ああ……ああああ……」

 炭化したプラスチックは異臭を放ち、両手で包み込むと形が崩れてただの黒い墨の欠片になった。

 キュラソーは白になり、星になって……芥となり消えた。

 悲しくはなかった。

 悲哀の情や憐憫の情もなく、組織の上下関係によるやっかみの感情ですらなく……只々、涙と嗚咽が溢れた。

「デイヴィス……君は……」

 留め処なく涙が溢れた。

 声が枯れるほど泣き叫んだ。

 周囲の警察関係者の好奇の目があっても、事情を知らぬ人々の嘲笑を受けながらも、只管鬱憤を晴らすように枯れるまで喚き散らした。

 

「あああ……ああ……」

 


 

「探偵士!! おい!! 大丈夫か!!」

 

 背中を叩かれて顔を上げると心配そうな顔をして此方を覗き込む毛利さんの顔があった。

「あ……はい。晩ごはん楽しみです……」

 あの後は風見さんと共に遺体の身元特定のため科捜研に赴いた。

 彼女が組織の構成員であるが故キュラソーなのか判別出来るものが指紋しかなく、その指紋さえも残っていない状態で、個人特定には時間がかかる様子だった。

 その後、アブサンに爆発物について問う気力はなく、軽トラに乗り込もうとした時に毛利さんから呼び出されて今に至る。

「何言ってんだよ!! 飯はさっき食ったろうが!!」

 そうだった……夕飯は食べたんだ……。

「デイヴィスさん、今晩はシャワーを浴びてもう寝たほうがいいと思います」

 蘭さんも不安そうな顔をしてタオル類を渡してくれた。

「シャワー……」

 シャワーを浴びて寝よう。

 先ずは、シャワーを浴びる。

 シャワーを浴びて、寝る。

「探偵士さん……今日は小五郎のおじさんと一緒に川の字で寝よう? 雑魚寝したほうがいいよ」

 コナンくんに腕を引かれて脱衣場に向かった。

「シャワーを浴びて寝るね……シャワーを浴びる……」

 一人で脱衣場に入ると、鏡に映る弱々しい男と目が合った。

 僕は誰だ……? 

 鏡には、僕という醜い男が映っている。

 僕はデイヴィス、探偵士で少年探偵団見習いは謹慎中だ。

 ……僕は誰だ? 

 僕はデイヴィス阿笠、麻薬取締官で隠れ公安だ。

 鏡には、僕という愚かな男が映っている。

 僕はイザラ、星を意味するコードネームを持っている。

 僕は誰だ。

 僕はギルテセブン。

 鏡には、映画のヒーローが映っている。

 星にして、その星と星を繋いで星座を作らねばならない。

 

「ああああ……ああ……」

 


 

「おはようございます……デイヴィスさん」

 

 沖矢さんや風間さんから休養を進言されたが、特に必要がなかったのでポアロに出勤した。

「おはようございます……梓さん」

 梓さんとは一昨日の下見から解散した後から禄に会話も目も合わせていない。

「梓さん、今夜は待ちに待った怪盗キッドが金座鈴木ビルに現れる日ですね」

 怪盗キッド……? 

 つい昨日、水族館で大事故が起きたばかりだと言うのに……。

 キュラソーは最後、少年探偵団に救われた。

 僕は誰かに救われる事があるんだろうか……。

「デイヴィスさん、一緒にデリバリーに行きませんか?」

 司法解剖の結果を待つことになるが、キュラソーを埋葬してやりたい。

 秘密を守り死んでいったアイリッシュを埋葬したあの星の見える供養塔へ。 

 子供達にキュラソーが亡くなったことを知らせるべきか……。

 そもそも、何故キュラソーはクレーン車に乗り込んだんだ……単に市民を守るため義勇心から? 

 水族館と車軸との接触を止めるだけならホイールに大木をなぎ倒して突き刺すだとか、外輪を外側に向かって力を加え釣り合うように抵抗させスピードを落とすだとか、他にも方法があった筈だ。

 まさか、観覧車に乗客がいて少しでも回転すると潰れる可能性があったからか? 

「あの、デイヴィスさん?」

 キュラソーが死を覚悟して止めたのなら、乗客は……子供達か? 

 子供達を庇って彼女は命を賭したのか。

 自分が簡単な爆発物の処理なんかに気を取られていた間、キュラソーは人命を救うために暗躍していたというのに。

「デイヴィスさん!! 無視しないで下さい!!」

 腕を揺すられて、ようやく我に返った。

「……え? ああ……すみません」

 梓さんの目には薄っすらと目に涙を溜めていた。

「この間のことで私を疎ましく思ったからですか? ……いくら何でもあんまりですよ……」

 この間のこと……一昨日のことなのか、それ以前のことか分からない。

「いえ……別に……」

 下を向いてカウンターの拭き掃除を始めた。

「デイヴィスさん、梓さんはデリバリーに行かないか? と尋ねているんですよ」

 顔を上げると安室さんが眉間に青筋を立てながら引き攣った作り笑いを浮かべていた。

「あー……行かないです」

 適当に相づちを打つと、安室さんは溜息をついて梓さんとデリバリー用に拵えるメニューと数量のの打ち合わせを始めた。

 

「そうですか……なら僕と梓さんで夜のデリバリーに向かいますので」

 


 

「それでは留守の間、宜しくお願いします」

 

 夕方になり梓さんと安室さんがデリバリーのリュックを背負って店を後にすると、客も居なくなった頃合いだったので何となくテレビモニターの電源を点けた。

『本日、トルマリンが埋め込まれた王冠、セイレーンスプラッシュを金座鈴木ビルの展示室から盗むと予告しています。現場には多くのキッドファンが詰めかけており……』

 怪盗キッドか……義賊だか劇場型犯罪だか知らないが……女性ファンが多いらしい。

 梓さんもファンだったのか……案外ミーハーなんだな。

 ……彼女のこと、何も知りやしないのに。

 太陽のように光り輝いて、陽だまりのような暖かい人。

 清らかな心が眩しくて、直視できない程に澄んだ人。

 真綿のような純粋さで、柔らかい温さで心を締め付ける人。

「只今戻りました、デイヴィスさん」

 ボーッとモニターを見つめていると安室さんが先に戻ってきた。

「おかえりなさい……安室さん……」

 安室さんはリュックを降ろすと片付けながらカウンター席に座った。

「アナタ、大失態を演じたとお聞きしましたが……理由を説明して頂きたい」

 ……アブサンからの報告が上がったか。

「……ROT3をROT13だと空目しました」

 有りの儘の事実を話すと、彼の眉間のシワと青筋が雷のように現れた。

「……はあ? 本気で言っているんですか?」

 本気も何も……事実だからな。

「はい……」

 それから暫く静寂が場を包みこんだ。

「初歩的でプロとしてあり得ないミス……爆発物処理を行う人間としてあるまじき杜撰な行動としか言いようがない」

 その通りだ。

「はい……」

 また暫く間があったが、その冷たい空気を掻き消すように梓さんが戻ってきた。

「聞いてください安室さん!! キッド様が本当に現れたんです!! ……あ」

 梓さんは自分がまだポアロに残っているとは思っていなかったようで氷のように固まった。

「……返りが遅かったですね、梓さん」

 その二人の仲睦まじいアイコンタクトに、長居は無用とスタッフルームに戻って帰り支度を始めた。

「ケチャップが勢いよく飛び出して……」

「サムチップに重曹を入れ、それをケチャップに入れたんでしょう……」

 ロッカーにエプロンを仕舞うと、ドアベルが鳴って梓さんが店から飛び出していった。

 

「私、警察に今聞いた情報を伝えにいきます!!」

 


 

「デイヴィスさん、アナタのミスで多くの人命が奪われたかもしれないことを強く念頭に入れてください」

 

 安室さんの当然の叱咤に頭を下げて店の外に出ようとすると彼のスマホが鳴った。

「梓さん? 何が発生……二酸化炭素ですよ。梓さんは怪盗キッドのファンなのでは?」

 ……人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られて何とやら。

 退散しよう。

「物音がしましたが……梓さん?」

 受話口から漏れる音がただ事ではなく、思わず足が引き止められる。

「……コナン君かい? ……梓さんが二人……見分ける方法?」

 今直ぐ立ち去らなければ。

 駆け出さなければ……。

「方法は有ります」

 扉を開けて、この場から離れないと。

「コホン……好きです!! 梓さん!!」

 思い切り扉を乱暴に開けると従業員駐車場まで走った。

 何も考えてはいけない。

 元々梓さんと安室さんは交際をしていた。

 それを勘違いして浮かれていただけ。

 梓さんが優しいからと一方的に片恋慕していた道化。

 いや、そもそも恋だとか愛だとかいう情ではない。

 先輩従業員としての敬愛であって、親しみであって……。

 元より彼女に好意は抱いていなかった。

 それが正解、他は誤りだ。

 

「馬鹿だなぁ……本当に僕は……救いようのない馬鹿だ」

 

 、、、

「……デイヴィスさん、此処にいらしたんですか」

 

 夜も更けて日付が変わった頃、いつもの公園のベンチに座り項垂れていると沖矢さんが歩み寄ってきた。

「あ……はい」

 ギルテスターに火をつける気力もなく、何をするでもなく、只々風の音を聞く自分の隣に立って淡々と語りかけた。

「君は薬剤の後遺症だけでなく心理的プレッシャーとストレスで心身共に極限状態にある」

 何を言っているのだろうか。

 沖矢 昴は赤井 秀一でありライだ。

 組織のネームドとFBI潜入捜査官としての緊張感と極限状態はこの立場になった者には必ず背負わなければいけない宿命だと誰よりも理解しているはず。

「……それは僕には『この仕事は荷が重い』という同情と能力がそぐわないという無能宣告でしょうか」

 自分が誰よりも理解している。

 ライ、バーボン、スコッチ、アイリッシュ、キュラソーのような才覚溢れる技能に優れた強者ではないことを。

 イザラ……星を意味するコードネームが名折れであって、小さな星や星屑と侮蔑に値する実績しか残せていない事実を。

 

「……イザラ、死にゆく二つの星が渦巻き状に引き合い融合する時、何が起こるか分かるか? 今、君の置かれている状態はそれに近い。……立ち止まれ、イザラ」

 

 






 あとがき


 あれ?
 ……どうしてわかったんだ?


AIに考察させるといいらしい
→なら直近3話をClaudeで試してみるか!

イザラに爆発物を仕掛けたのは誰か
Claude「ガリアーノ」←ガリアーノは埠頭の倉庫でヴェルヴェーヌに撃たれて死んでいる
Claude「ヴェルヴェーヌ」←埠頭の倉庫でピンガとガリアーノの処理をしている
Claude「シャルトルーズ」←イザラはシャルトルーズにGPSをつけている
答え
モニターや時刻の表示機がないものをアブサン「失敗した」と判断した=「なぜ断定できたか=設置者だから」=ピアノ鍵盤の沈み込みを判断できた
Claude「論理の飛躍」←!?!?!?

安全分類器とやらでいのちの電話と
メンタルのページを大量に渡されて
考察にAIの類は使えないと理解した
暗号やトリックも理解していないし……
安全の為に内容を読まないのかもしれないが

なんで死んだやつをカウントしてんだよ

なかみについて(期間限定アンケ)

  • ややこしい(かため)
  • 分かり易い(やわらか)
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