探偵士、少年探偵団と出会う。   作:ummt

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第四話 探偵士、初仕事をする。

「おはようございます沖矢さん!!」

 

 朝の6時に起床してダイニングルームに向かうと彼の姿はなく、鮭と漬物、味噌汁に白米というメニューが一人分用意されご丁寧にフードカバーが被せてあった。

 一日目だからサービスしてくれたのか、ありがたい。

「しかし出かける時間、早いな……」

 昨晩は食事中特に会話が弾むことも自己紹介し合うこともなく、沖矢さんは自分が部屋に戻った後に入浴や洗濯を済ませたらしかった。

「まあ得体のしれない男に深入りしたくはないか……。いただきます」

 沖矢さんは料理が上手いけれど、彼女とかいるのかな……。

 ……あ、そうか。

 自分がルームシェアすることで恋人との逢瀬が出来なくなって苛つかせたのかもしれない……。

 だとしたら申し訳ないことをした。

 悄気ながら食事を取っていると探偵バッチからコナンくんの局番号と ー・・ ・ が流れてきた。 

 ……この方法だと確実にバレたら問題になるが致し方ない。

 その後に ・ー ー・・ ーーー ・ーー・ ー

 ・ ー・・ と続いて……。

「やったあ!!」

 年甲斐もなく飛び上がってしまった。

 そしてFM音声通信に切り替わると『今日からだって』との一言に慌てて身支度を始めた。

 しかしこの探偵バッチ、まだ全容を聞かされていないがD-STARも使えるんじゃないか? 

 ならAPにしてしまって外部出力でも噛ませればセンサー駆動やらパケット通信が出来、……サイバー攻撃、盗用も可能になるな。

 ……いけないな、悪いことを考えては。

 食器を洗って洗濯物を干し終わるともう一度洗面所に立ってヒゲを剃って眉を整え髪を梳いた。

 

「……僕なら出来る」

 

 、、、

 

「おはようございますデイヴィスさん!」

 

 初出勤もそうそうに、眩しい笑顔に骨抜きにされてしまいそうだ。

「おはようございます梓さん」

 辺りを見廻したが安室さんの姿がない。

「あれ? 安室さんは?」

 エプロンを渡されてもそもそと着用しながら尋ねるとニコッと微笑まれた。

「シフト制ですからね。いつもいるわけじゃありません!」

 それもそうか。

 店長ではなく代理であると面接の時に説明されたな。

「それではよろしくお願いします」

 頭を下げて顔を上げると腰に手を当てて胸を張った梓さんにA4の冊子を渡された。

 

「これがマニュアルです!! ビシバシ厳しく教えますからね!!」

 


 

「うう……僕は社会不適合者だ……」

 

 まさか自分がここまで注文を取って調理をすることが出来ない無能だったとは……。

「初日なんですからクヨクヨしない!! メモした失敗を復習して次にしないようにすればいいんです!!」

 梓さんに背中を叩かれた。

「すみません……」

 良いところを見せようとしたのに、お客様には苦笑されてしまった。

 お客様に気をつかせる接客業などあってはならないのに。

「はいこれ、どうぞ」

 肩を落とす自分の胸に彼女の手が触れて、エプロンの肩紐が動いた。

 ……若葉マークのバッチ? 

「これって、初心者マークですか?」

 顔を上げると梓さんはニコッと笑った。

「『研修中』の代わりです! これが取れたら一人前ですよ!」

 ……新人だからと要求される提供サービスの質を担保できない可能性があることを表して良いことなのか? 

「すみません……」

 再び背中を叩かれた。

 

「すみませんではなくて、ありがとうございますというポジティブな方がいいですよ!」

 

 、、、

 

「あら! 新人店員さんかしら?」

 

 客の入りが落ち着いてきた頃、女子高生3人組が来店した。

「はい……よろしくお願いします。席はお好きな席をどうぞ。ご注文がお決まりになりましたらベルにてお呼び下さい。お伺いします」

 そう言って頭を下げるとカチューシャをした女子高生がズイッと近寄ってきて顔を覗いた。

 ……不遜な態度を取ったと捉えられてしまったか? 

「目の色とバッチの色が同じ緑と黄色……ハーフ? よく見るとイケメンじゃない?」

 それは髪色が明るいから記号的にそう見えるだけなのでは……。

 ……自分の国籍、日本なのかな。

「ちょっと園子! 店員さんが困ってるじゃない!」

 園子と呼ばれた女子高生はその間もずっと値踏みするように穴が空くくらい視線を送った。

「だってイケメンは幾らでも見ていられるじゃない! 蘭だってたまには息抜きしないと!」

 そういうものかな? 

 ……蘭、コナンくんの家にいる女性も蘭だったな。

 すると二人の間に割り入って、もう一人の女子高生が現れて二人の肩に手を回した。

「たしかに、見ている分ならいいかもしれないな」

 不敵な笑みを漏らす顔には見覚えがあった。

 昨日に交戦……出会ったばっかりだぞ。

 

「せ、世良さん?」

 


 

「世良さん、この人と知り合いだったの?」

 

 世良さん二人を引き連れて窓際のテーブル席に座った。

「さあねー。そんなことより注文しよう」

 そう言ってメニューを広げると園子さんと蘭と呼ばれた女性に確認を促した。

 ……ということは、彼女がコナンくんと近しい蘭さんか。

「メニューねぇ……あ、そうだ! 例の公衆電話長居男……また違う公衆電話にいたのよ!」

 話の矛先から逃れられたようなので、とりあえず注文が入るまでカウンターでマニュアルを読んでおこう。

「ああ、公衆電話を回ってるっていう青い作業服の人?」

 いやそれ、でんで……。

 マニュアルに集中しよう。

「きっと別れた元カノに嫌がらせ電話をしてるのよ! 絶対そう!! だから場所を変えて……小細工ね」

「そうかなぁ……」

 メニュー、種類が多いわけではないのに調理方法と注文情報がごっちゃになってしまうんだよな……。

 頭の中がぐちゃぐちゃになってしまう。

「電話の内容を聞いたらハッキリするのに! たしか通信を不意に聞いてしまうのはセーフだったわよね? こう……盗聴して……公益通報ってやつ」

 足が勝手にテーブル席に向かっていた。

「なんだい? 探偵士くん。彼女の話に興味があるのか?」

 世良さんがこちらが口を開くのを待っているようだった。

「はい。よくある誤解です。園子さんが仰っているのは無線通信の『窃用』に当たる解釈です。PSTNはメタル回線で音声を信号に変えますから盗聴をするには物理的に接続しないと。それか受信機側に機器を付ける。例えば家庭内のアナログコードレス電話は盗聴がしやすいとされていた理由は通信方式にあります。まあ今は違いますが。例えば種によりワイヤーシャークでRTPやSIPを……しかしこれは通信事業者でなければ違法行為にあたります」

 ……場が凍った。

「ちょ、ちょっとデイヴィスさん!!」

 ハッと我に返って頭を下げた。

「申し訳ありませんでした」

 何をやってるんだ……客の雑談に口を挟むなど言語道断……。

 初日にしてクビか……。

「……あなた何者? ……もしかして……」

 お客様にまで言われてしまうのか、あの不名誉な職の名を……。

「「電話マニア!?」」

 ズルッとズッコケそうになりながら頭を掻いた。

 

「はは……そうかもしれません」

 


 

「彼は『探偵士』を自称してる、探偵もどきさ」

 

 世良さんに厳しい指摘をされて頭を下げた。

 チラリと梓さんの方を見ると呆れた顔をしている。

 そりゃそうなる。

「探偵さんなの? 蘭の彼氏も探偵なのよ? ねー!」

 園子さんに指摘されると蘭さんは頬を赤らめた。

「ち、違うってば。幼なじみで…………」

 ……探偵、幼なじみ、コナンくん、阿笠博士、工藤家……。

「……もしかして、その彼は工藤 新一ですか?」

 場が再び固まった。

「どうして分かったんですか!?」

 蘭さんが驚くと世良さんが急にピリついたのが分かった。

 ……正直に言おう。

「実は僕、記憶喪失でして。それを助けてくれたのがコナンくんたち少年探偵団で、阿笠博士にお世話になっているのですがツテでお隣の工藤家に住まわせてもらっています。コナンくんが以前蘭さんのお名前を出していたのとコナンくん達からこの店を斡旋してもらって、『幼なじみの彼が探偵』とのお話から、探偵で工藤なら工藤 新一が浮かんだ……という次第です。……当てずっぽうに近いですね」

 そう語るとベルがチーンと鳴らされた。

「ピンポン! アタリ!! 探偵士のお兄さんの奢りで季節限定パフェ3人分ください!!」

 無礼を働いたにしては軽いペナルティで済んだ……。

「なーに本気にしてんだよ。梓さん、ハムサンドを3つください」

 梓さんは「はい!」と元気に返事をして厨房に小走りで駆けていった。

「ということで、残念だったね探偵士君。彼女達にはボーイフレンドがいるから」

 世良さんが口角を上げて敵意を向けてくる。

「……つまり、世良さんはフリーということですか?」

 3回目の膠着が訪れた。

「世良さん! 探偵士さんが世良さんを」

「あーあーあー!! 聞こえないー!! 口は災いの元だぞ探偵士君!!」

 頭を深く下げて厨房に向かった。

 慣れないことをすると頭がショートしてしまうようだ。

 ……ん? つまり僕は接客業をしていない以前にろくに働いた試しがない無職だった可能性もあるのか。

 はぁ……過去を嘆いてもしかたがない。

 今はハムサンドと季節限定パフェを作ることを考えよう……。

 厨房に入ると梓さんが季節限定パフェを作っていたので、自動的にハムサンドを担当することになった。

 パンに……ハムを……の前にレタスを……。

「デイヴィスさん、暗い顔をしていたらお客様まで暗くなりますよ」

 ハムサンドを作り終えた段階で安室さんが颯爽と現れてトレイに乗せた。

「安室さん! よかった〜。デイヴィスさんは少し休憩したほうがいいですよ」

 早々に戦力外通告されてしまった。

 

「はい……」

 


 

「落ち込まない!!」

 

 結局、店番を安室さんに任せて梓さんと共に個人商店街に買い出しに行くという名の反省期間を与えられてしまった。

「はい……す、ありがとうございます」

 対人関係が駄目なタイプだったのか……。

 新しい人生を生きていくなら直さないと……。

 この歳で今更直るのかな。

 ……自分が何歳なのかもわからないけれど。

「ちゃんと改善できてるじゃないですか」

 心の清い梓さんの隣に立つ資格がない。

 自省を連ねながら古い家屋が立ち並ぶ住宅地に差し掛かると梓さんが声を上げた。

「見てくださいあのお家、猫よけの丸いワイヤーがぐるぐるしているものが塀に一つだけある。どういう意味なんでしょうね?」

 チラリと見て、何と答えていいか。

「そのお隣さんが英知さんという女性でお一人で住まわれていて、なんと手芸配信者をやっているんですよ! 前にタッセル作りを教えてもらったんです。今日はお誕生日配信をするみたいなので明日、安室さんと一緒に見ませんか?」

 それに答えようとしたとき、突然爆音と爆風が吹き荒れた。

「きゃあ!!」

「梓さん身を屈めて!!」

 咄嗟に梓さんを包むようにして爆心地に背を向けた。

 そして落下物が無いことを確認してからその地に向かった。

「デイヴィスさん!?」

「梓さんは安全な場所にいてください!! 救急と消防に連絡をお願いします!」

 兎に角、火の手が上がる英知さん宅まで走り、屋根の一部が炎上しているのを見て玄関の戸を叩いた。

「英知さん!? 居ますか!?」

 反応が無いが室内にいたら不味い。

 玄関の戸を蹴破って腕で口と鼻を塞ぎながら部屋を回ると、トイレの屋根が崩れており隣接する壁が破壊されていた。

 そこを通ると作業場になっておりコンピューターミシンや高周波ミシン等の高価なミシン類とビニールや革、布や糸の棚に囲まれたテーブルの周りに透明で破れたフィルムと紙吹雪が散らばっており、その先には中年女性が倒れていた。

「英知さん!! しっかり!! 意識はありますか!?」

 呼吸が止まっている。

 しかしまだ引火する可能性があるなら、安全な場所へ運ぶしかない。

 

「英知さん!! 貴方は生きるんです!!」

 


 

「梓さん!! 今から心肺蘇生法をするために彼女の着衣を乱します!! 野次馬からのカバーとして僕の上着を持っていてください!!」

 

 住宅地から離れた歩道に英知さんを降ろすと作業着を脱いで梓さんに渡した。

「なんだあ!? 汲み取り便所が爆発したかあ!?」

 住宅地の住民達がわらわらと逃げ出てくるのを無視して左手の甲を上から右手で鷲掴みする形で胸骨圧迫を繰り返した。

「……お隣の方ですか」

 一定の速度で心臓マッサージを繰り返しながら犯人を捜した。

「あー、はい。隣の阿井です。この地域はまだ汲み取り式便所だからいつかこうなると思ってたんですよ」

 怒るな、今は人命救助が先だ。

「結論から言います。あなたがナイロンフィルムのバルーンを誕生日だからといって渡しましたね? 指紋でバレますから」

 まだ呼吸がない。

「贈りましたけど?」

 何度も何度も同じ動きを繰り返すと呼吸が微かに再開した。

 そのタイミングで救急車と消防車のサイレンが響いた。

「犯行理由はお手製の八木アンテナでの受信が高周波ミシンによって不良になるのが気に食わなかったからですか? 作りをあえてラフにしたのは貴方なのに。あほくさ」

 救急隊員が担架を運び入れ、場所を譲ると阿井が胸ぐらを掴んで怒鳴り声を上げた。

「な!? アホだと!? 俺の工作物は作品なんだ!! なのにあのババア家庭用じゃないミシンで邪魔しやがって!! アンタが気づかなきゃ水素ガスで膨らましたもんだと看破されたりしなかった!!」

 水素ガスは簡単に発生させられ、かつナイロンフィルムも容易に手に入り、そして法で禁じられていても容易く冒す者がいる。

 そのせいで誕生日プレゼントを貰ったと喜んで開封して並べたバルーンが静電気により爆発し連鎖的に汲み取り便所まで爆発して火事になった。

「……あとは警察にでも話せ」

 警察官が走り寄って来たのを確認すると梓さんの手を引いて目的の店に足を進めた。

「あ、あの……デイヴィスさん」

 今は何も聞きたくない。

「デイヴィスさん」

 話したくない。

「デイヴィスさん!!」

 見たくない。

「デイヴィスさん、手が痛いです……」

 我に返って手を離すと、梓さんの手首が赤らんでいる。

「……すみません」

 何をやってるんだ……。

 

「デイヴィスさん……」

 


 

「このお店はドライフルーツが大量に安くパッケージ売りしているんです。バナナチップスとか」

 

 ぎこちないまま乾物屋に入って言われたことにただ頷いた。

 自分の機嫌を人様に気を使わせるなんて……。

 情けない。

「ニャロメが好きなやつですね……バナナチップス……」

 梓さんは首を傾げた。

「ニャロメ?」

 世代が違うか……ジェネレーションギャップが……。

「ああああ!!」

 すっかり忘れていた、自分は先端機器を知らないのだからさっき話した内容もズレていた可能性が高い……。

「……やっぱりちゃんと言いますね」

 梓さんがバナナチップスを抱えて此方を見据えた。

 ……解雇。

「はい……」

「さっきのデイヴィスさん、すっごくカッコよかったです」

 ……は? 

「英知さんをお姫様抱っこして現れた時、王子様みたいだって……そう思いました」

 それはお姫様抱っこするような人間が王子様ポジションだからだろうに。

「そうですか……白馬には乗れませんよ」

 しょうもないことを言ってしまった。

「そうですね。デイヴィスさんは白馬の王子様ではないかもしれない」

 梓さんから商品を受け取って会計を済ませると腕を引かれた。

「ロバの王子様みたいです」

 ガクッと肩を下げた。

 

「あはは、王子様というだけでもありがたい」

 

 、、、

 

 乾物屋で買い物を済ませて帰り路に着こうとすると路地裏から悲鳴が上がった。

「誰か!! 引ったくりよ!! 捕まえて!!」

 その瞬間、梓さんに荷物を預けると全速力で走った。

 もう耐えられない。

「ゲェ!? 足早っ!! なんなんだよテメェ!!」

 叫ぶ引ったくり犯を人けが無く防犯カメラが見当たらない袋小路に追い詰めると、ただ立ちつくした。

「なんだよ、逃がしてくれるのか」

 そう言って引ったくり犯が引き返そうとする前に幾度も立った。

「おい邪魔だ!! 退け!!」

 肩を強く押された直後、つま先を踏んで相手が蹲った所に思い切りヒザ蹴りをすると引ったくり犯は勢いよく背中から倒れた。

「痛っ……テメ」

 そして喉を軽く踏んだ。

「組……後ろ盾の名前、出せるか? 出せないか?」

 引ったくり犯は抵抗しようとしたらしく足を掴まれたが、強く踏み込むと抵抗は止まった。

「出せません……し、知りませんから……」

 ズボンのポケットに忍ばせておいたタバコを一本取り出して使い捨てライターで火をつけた。

 ……二本目。

 "……選択肢は二つ……"

「どうして罪を冒してしまうんだろう」

 煙を吐き出して灰を顔に落とした。

「アチッアチ……もうしませんから……どうか」

 引ったくり犯の右の手のひらに根性焼きをつける。

「熱いって!! ごめんなさいぃ…………」

「次は手の甲に印をつける。3回目はそれが繋がり穴となる」

 吸い殻をそのまま灰皿になった手において紫煙を吐ききった。

 

「ふう……。犯罪者にはなりたくないよな」

 






 あとがき


この前段階で二つの選択肢のうち
名称があれば一つに絞ることができる

なかみについて(期間限定アンケ)

  • ややこしい(かため)
  • 分かり易い(やわらか)
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