探偵士、少年探偵団と出会う。   作:ummt

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第三十二話 探偵士、カウンセリングを受ける。

 

「探偵士!! 今日は事件解決の褒美としてオレが寿司を奢ってやるよ!!」

 

 牧場からの帰り道、軽トラの助手席で揺られながら豪快に笑った。

 事件解決にしたって、予告文から内容を推察して犯人の犯行を止めることが出来たのに自分は怠った。

 それに被害者が一命を取り留められたのも毛利さんが救護措置を取ったからだ。

「そんな……悪いですよ……」

 彼の功績を讃えるのなら、自分が最後に会計を支払うべきだ。

「お前なあ……なんでそうウジウジしてんだよ!! 麻薬取締官で隠れ公安なんだろう!? エリート様じゃねえか!!」

 間違っている。

 僕は組織の人間で、記憶喪失と称して毛利さんと警察内部に接触を図り、運よく隠れ公安として麻薬取締官に任命されただけ。

 ただ、計画がトントン拍子に坂を転がるが如く終焉に向かって進んでいる。

 エリート云々も職務の級や立場が珍しいという話だ。

「いえ……不相応な身の振る舞いは出来ませんから」

 苦笑いを零すと毛利さんはぶすっとした顔をして窓枠に肘を置いて頬杖をついた。

 

「つくづく生き辛そうな思考回路してるなあ、お前……」

 

 、、、

 

「おう!! 板前探偵、居るか!?」

 

 毛利さんに連れてこられたのは『米花いろは寿司』という喫茶ポアロと毛利探偵事務所の隣に建つビルに入居している寿司屋だった。

「い、板前探偵?」

 聞き慣れないワードに拍子抜けした声を上げると背中を叩かれた。

「ああ!! 脇田兼則っつう眼帯をつけた気のいい板前のオッサンだよ!! オレの弟子の二人目だ!!」

 弟子の二人目? 

「弟子を取られていたんですね……一人目は一体誰なんですか?」

 事前に調べた情報では弟子の雇用に関するものは無かったが。

「はあー? ポアロで勤めてる安室の兄ちゃんだよ!! 喫茶探偵!! お前ら雑談くらいしねーのかよ!!」

 眠りの小五郎という名探偵、東西の高校生探偵、女子高生探偵、板前探偵に喫茶探偵、少年探偵団……それにしても探偵が多いな。

「あはは……あんまり業務以外の事は話しませんね……」

 頭を掻くとドカッと座席についた。

「ったく、コミュニケーションは大事だって学校で習わなかったのかねえ!!」

 毛利さんは溜め息をつくとメニュー表を指でトントンと叩いた。

 特上寿司を示されているが、懐のがま口事情は淋しいものだ。

 

「はあ……コミュニケーション……報連相は大事……ですね」

 


 

「それで……なんでポアロをクビになったんだ? 聞かせろよ!!」

 

 結局、特上寿司を二つ頼むことになり有り難く箸を伸ばすことにした。

 板前探偵とされる脇田兼則という男はシフトが合わなかったのか店には居なかった。

 脇田兼則……なんだか語感が金運が上がりそうな名付けに感じるな……。

 "Time is mommy."

 ラムが口酸っぱく言っていた格言が思い出されるからか……。

 ……まてよ、脇田兼則……WAKITAKANENORI……TOKIWAKANENARI……一文字も余らせないアナグラム……。

 考え過ぎか『時は金なり』という格言をあのラムが偽名の名乗りに使うわけがない。

 ラムは左目が義眼であるが、眼帯にしたって分かり易いモチーフを定常的に扮装する姿に選んだりしないだろう。

 彼ならば特殊メイクをするだろうし、ラムという組織の上層部が現場に定期的に赴く事は考えづらい。

「えっとですね……僕の勤務態度が悪すぎたので……クビです」

 特上寿司に手を付けるのが勿体なく感じて、何から食べていいのか分からず迷い箸になりそうになるのを止めて玉子を口に運んだ。

「勤務態度!? お前が!? 別の理由があるんじゃねえのか!?」

 ……毛利さんの前で披露するのは気が引けるが。

「……彼と勤務後の待ち合わせ。場所はあの公衆電話……。雨が降る中彼を待つと公衆電話が鳴った。受話器を取って聞こえてきたのは『I Love You』の言葉。雨音とは違う水跳ねの音に振り向くと扉が開いて抱き締められた。……私も、愛してる。『I Love You』……この時間が永遠でありますように」

 恐る恐る顔を上げると特に顔色が変わらない毛利さんと目が合った。

「で、そのポエム語りが何なんだよ」

 いや……え……あむあず過激派ラブロマンス小説語りなんだが……。

「その……ですね……な、何というか……これがその……インスピレーション元が安室さんと梓さんで……職場では不適切なセクハラに値しますから……」

 自分で語っているのに意図の説明をさせられると羞恥で顔が熱くなるのを感じた。

「セクハラねえ……嫌がっている人間がいるなら駄目だ!! ただし、インスピレーションがあって創作するのは悪いこととは一概に言えねえからな!! 創作熱は別の媒体に吐き出せよ!!」

 毛利さんはニカッと笑って恥の塊であるポエムを酒の肴にしながらビールを喰らった。

 

「はい……」

 


 

「わっ……コナンくんに哀ちゃん……阿笠博士……一体何があったんだい? もう夜だよ?」

 

 毛利さんに特上寿司を奢ってもらってしまい、申し訳なさで一杯の自分を待ち伏せていたかのようにビートルから三人が現れた。

「探偵士さん!! 車に乗って!!」

 仕方無く路肩に停車したビートルの助手席に乗り込むと三人も運転席と後部座席に座った。

「アナタ……ポアロをクビになったんですって?」

 もう情報が流れているのか……。

 ガラケー改を黒画面から変えると着信と未読メールが数十件履歴に残っていたが……見なかったことにした。

「うん……勤務態度が悪くてね……」

 苦笑いをして頭を掻くと哀ちゃんは助手席から手を伸ばして僕の腕を抓った。

「勤務態度? どうしてポアロをクビになったのか本当の理由を教えなさいよ。まさか……梓さんを害したんじゃないでしょうね」

 鋭い眼光を向けられて振り返った。

「そんな事するわけないだろ!! ただ、彼女を無視してしまったり、仕事が雑になったりして……挙句の果てにあむあず過激派ラブロマンス小説語りをしたんだ……はは……最低最悪なクズだね……」

 事実を述べるとコナンくんも身を乗り出して睨みを利かせた。

「……それで? ……無理やり何かしたりしたの?」

 な、何故そうなる。

「彼女を直接傷つけてしまったら意味ないだろ!!」

 如何に自分一点にのみ非難を受ける事ができるかを追求した策なのに……。

「……なら精神的に追い詰めるよう侮辱したり貶したりしたということかの?」

 阿笠博士も此方を曇りなき眼で見据えている。

「するわけないじゃないですか!!」

 必死に身ぶり手ぶりで誤解を解こうとすると安堵と呆れが混ざった声が車内に流れた。

「……えっと、探偵士さんは仕事の手を抜いて梓さんを無視して、あむあず過激派ラブロマンス小説語りをした……と」

 必死に頭を振って頷いた。

「そうだよ……取り返しのつかない事をしたんだ……」

 涙目になりながら弁明を述べると哀ちゃんは手を叩いた。

「……そう。解散。……阿笠博士、帰るわよ。おやすみなさい江戸川君。……さようなら、愚かな道化の探偵士さん」

 助手席の扉が開くとガックリと肩を落とし、俯いて車外に降りた。

 

「デイヴィス君からすると頼りないじゃろうが、わしを頼ってくれ。助手として君を待っているからの!!」

 


 

「デイヴィスさん……君が解雇されたのは、俺がポアロで彼に口出しをしたからだ。……申し訳ない」

 

 工藤邸に戻ると沖矢さんが玄関先で立っていた。

「え……いえ、僕の勤務態度のせいですから」

 頭を下げて玄関に上がり靴を揃えると沖矢さんは普段よりも険しい顔をして此方を見た。

「夕食を共にしないか?」

 ……夕食や朝食は度々共にしている。

 踏み込んだ内容をするということか。

 

「はい、喜んで」

 

 、、、

 

「俺と彼との間には誤解を起点とした深い隔たりがあってだな……要するに根深い確執がある。……だから俺の意見に聞く耳を持たんのだ」

 

 バーボンとライの確執……バーボンは公安、ライはFBIだから……というのは職業間の問題であるから除外する。

 バーボンとライの共通点といえば組織に入り込んだ潜入捜査官である事……凄腕のスパイであって……。

 鬼籍に入った潜入捜査官との接点がある。

 彼は身分が露呈して自殺をした。

「スコッチ……」

 一言呟くと沖矢さんの耳がピクリと動いた。

 スコッチに関する誤解で確執がある……? 

「それについて説明をする気はないが、君がその因縁によって怒りの矛先になり割を食う形になるのは些か心が傷むからな」

 いや、安室さんの怒りは正当なもので自分に向けられたものだ。

「誤解をされているようですが、安室さんは社会人として当然の措置を取っただけですから」

 事実を述べると沖矢さんは溜め息をついた。

「……そうか。では本題に移ろう。……君は梓という女性店員を愛しているのか?」

 ……な、何を藪から棒に。

「はあ? ……梓さんは安室さんと幸せに暮らしていますから、僕がどうとかは関係ありませんから」

 箸を持つ手が滑りそうになる。

 

「君も幸せになれ」

 


 

「組織に身を置いたとしても、君が不幸になるべき理由にはならない」

 

 沖矢さんは自分に何を言わせたいんだ? 

「……顔を見た瞬間、パァッと心が晴れ渡る。期待を膨らませる私の視界に現れたのは」

「君ではないのか? 彼女の目には君が映っていた」

 ダイニングテーブルを両手で叩いて立ち上がってしまった。

「……それは、安室さんが居ないときはそうだったかもしれません。愛した人が居なければ今居る人をただ目にしますから」

 怒りを表現してしまった、これでは肯定しているようなものだ。

「ならば、君が彼女の瞳に映っていたのは事実という事になるな」

 屁理屈で、見え透いた挑発だ。

「……いえ、視点によってはそうですが、それは他の客にも言えることですから」

 椅子に座り直して、箸をすすめた。

「事実だ」

「やめてください」

 無心になれ、煽られてはいけない。

「何故だ? ただの恋愛話じゃないか」

「不快です」

 コップの麦茶を飲み干すとテーブルに叩きつけるように置いた。

「君も彼女に不快感を与えて逃げたんだろう? 『自分に近づかないで』という子供じみた理由で」

 ……これ以上は耐えられない。

「……すみません、気分が優れないので自室に戻ります」

 食事をトレイに乗せてラップに包むと冷蔵庫の空きスペースに無理やり捩じ込んだ。

「逃げるのか? 君は彼女を傷つけて保身に走った。……愛した者を標的にしないため」

「買い被り過ぎです。……僕は人間的に駄目でクズなので。処分は相当です」

 冷蔵庫の扉を閉めると右肩に手が置かれた。

「誰が決めた」

 ……何故此処まで責められる? 

「……僕です」

 頭を下げて肩の手を振り払うと再び肩を引かれた。

「そうか、なら俺が決める。イザラは傷つきやすいただの青年だ。君は悪役ではない」

 どうしてそこまで高みの見物のように人に助言を進言できるんだ。

「貴方に役名を指図される覚えはありません」

 肩に乗った指の力が強まった。

「……君の兄弟は、もう少し物分かりが良かったが」

 ……何で。

「今は兄弟の話をしていないでしょう!?」

 肩の手を思い切り振り払って怒鳴ると沖矢さんの瞳が開いた。

「……エルダー・ブルドン。君はATF……アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局に勤めるヤン・ブルドンと常に比較され劣等感を抱き評価の目に苛まれながら生きてきた。だからこそ自分という個を求められないスタントマンの道を選び、主役を喰ったニャロメというキャラクターを愛し、ダブル主演になる筈だったギルテセブンという役柄に異常に固執している。……違うか?」

 ……何も何も何も何も何も違う違う違う。

 

「はい、違います。間違いです。残念でした。おやすみなさい」

 


 。。。

 

「ね〜安室さん……あたし、事件のトリック分かっちゃいました〜!」

 

 おさげの三つ編みに千鳥柄のハンチング帽と同じ柄のケープとサロペットワンピースを身につけた女性が指を顎につけてふらふら揺れた。

「流石だね!! 君の推理を聞いてもいいかな? 僕には全然思いつかないからさ!!」

 安室さんがニコニコと眩しい笑顔で意見を求めた。

「え〜私がパーフェクトプランを考えてるからって驚かないでくださいね〜?」

 女性の腕には参考書が抱えられていた。

「君はまだ高校生なのに研究者が使う技術書を読んでいるとは、ぜひ私にも聞かせてもらいたい」

 沖矢さんも普段の冷静沈着な面持ちからは考えられないほど笑みを浮かべている。

「なら教えてあげま〜す! これは数学と理科の知識を組み合わせた高度なトリックなんです!!」

 ……まってくれ、なら具体的に何の計算式を何に使ったのか、何に対して理科的な要素を見いだしたのか教えてくれ。

「凄いじゃないか! 確かに高度なトリックで君くらいじゃないと解けないね」

 安室さん……? 

「君はトリックを見抜く才能がある……私の部下にならないか?」

 沖矢さん……? 

「ごめんなさい! あたしはパーフェクトプランを組み立て解体する『看破探偵 希望峰ラセンちゃん』だから、公安やFBIにはなれないの!」

 希望峰……ラセン? 

『ワープターミナル東都』のイメージキャラクター『看破探偵 希望峰ラセンちゃん』のこと? 

「あ! 頭が悪くて可哀想なデイヴィスさんがこっちを見てるよ!?」

 希望峰が此方を人差し指で指差すと、二人も此方にくるりと身体を向けた。

「本当ですね、弱くて醜いデイヴィスさんだ」

「彼とは付き合いきれない。放っておこう」

 安室さんと沖矢さんが此方を蔑んだ目で此方を見下した。

「安室さん! 沖矢さん! デイヴィスさんは敢えて悪役に徹しているのっ!! わかってあげてっ!! 可哀想な人なのっ!!」

 希望峰が二人の腕に縋り付くと猫撫で声を出した。

「ラセンちゃんがそこまで言うなら、一考する価値はありますね」

「ラセンちゃんはデイヴィスさんと違って間違いませんから」

 誰なんだ……? 安室さん? 沖矢さん? 

「やった〜事件解決ね!!」

 三人は此方を見てケタケタと歯を見せて笑った。

「どうして……? 貴方たちは誰?」

 恐る恐る尋ねると希望峰の顔が真っ黒になり、黄色い目に赤い口、白いギザ歯を見せる『キャット・ザ・リパー』の姿になった。

「なら、あなたは誰なのよ」

 僕は……。

「デイヴィス阿笠」

 すると猫は歯を剥き出しにして威嚇して飛び掛ってきた。

 

「お前はイザラ!! 星座を作るギルテセブンだろうが!!」

 

 。。。

 


 

「僕は違う!!」

 

 ベッドから飛び起きると、全身が汗でぐっしょりと濡れて心臓の脈拍が速くなっていた。

 ドリームキャッチャーの方を見ると、6つのタッセルのうち2つに鉛筆が刺さっている。

「悪夢を蜘蛛が食べてくれるんじゃないのか……」

 額の汗を拭うとアナログの電波時計が1時22分で止まっていた。

 正確に時を刻むものが止まるとは……電池切れか。

 0122……16進数で……。

「……計画を実行しろというお告げか……」

 手元のガラケー改を見ると朝の6時を回っていた。

「シャワーを浴びて……着替えて……」

 朝食を取っても、出勤する勤務先はもう無い。

 着信履歴とメールボックスの蓄積物の数は3桁を超えたが、忘れることにした。

 ふらつく足で階段を降りると、ダイニングに沖矢さんが見えたので気づかれないように足音を忍ばせて風呂場に入った。

「僕は誰……」

 そう鏡の前で自問自答を始めようとすると洗面台にバスボムと一緒にメッセージカードが置かれていた。

『UUAODEOESLVNEIULYHDEFNNRFOOHCICYS』

 ……どうしてそこまで気にかけるんだか。

 有り難くバスボムを頂戴して湯船を張って投げ入れると大量の泡が吹き出した。

「あぶくのように全てが終われば水の泡のように弾けて消える……」

 波が浜辺に到達しては消えるように、雪が積もっては溶けて消えるように、誰もが確実に存在したものの確かな存在証明を明示的に示したり在り処を確認しようとはしない。

 彼らにとって、ただの通り雨のように消えていくだけの記憶のノイズに他ならない。

 風呂場から出て着替えを済ますと、沖矢さんに声をかけられた。

「昨日は言い過ぎた」

 ……それは自分の非に起因するから、沖矢さんが謝ることではない。

「いえ……こちらこそ。心配させて申し訳ありませんでした」

 頭を下げてダイニングテーブルの椅子に座ると珍しくテレビモニターがつけられ、朝の情報バラエティが映し出された。

 

『ギルテセブンIIの撮影のロケ地に東都パークを使用すると正式に発表されました!! ニルズ・ファージング監督は二週間後に来日が予定されています!! 楽しみですね!!』






 あとがき


 暗号文はミシュコフスキ転置法です
 鍵はSTAR

なかみについて(期間限定アンケ)

  • ややこしい(かため)
  • 分かり易い(やわらか)
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